問題社員66 多重債務を抱えている。

1 金融業者から会社に電話がかかってきた場合の対応
 金融業者から当該社員宛に電話がかかってくることで、多重債務の事実が判明することがあります。
 原則として、当該社員が借金をしていることは私的事項であり、会社の業務とは関係ありませんので、事情を聞く場合であっても、プライバシーの侵害にならないよう常識的な範囲内で聞くようにしましょう。
 当該社員が経理担当の場合は、会社の金銭を扱うことはふさわしくありませんので、配置転換を検討しましょう。

2 会社に債権差押命令が届いた場合の対応
 裁判所から会社に債権差押命令が届いた場合、第三債務者である会社は、当該社員が差し押さえられた範囲で債権の弁済(給与の支払)が禁止されます。
 債権差押命令が会社に届いたにも関わらず、会社が当該社員に給与を全額支払ってしまった場合、会社が差押債権者から取立を受けた場合には、これに応じなければなりません。
 債権差押命令が会社に届いたら、給与の支払に注意しましょう。

3 差し押さえられる給与の範囲
 給与に対する差押えの効力は、差押債権者の債権と執行費用の額を限度として、差押えの後に発生する給与に対しても及びます(民事執行法151条)ので、差押債権額に充つるまで毎月の給与に差押えの効力が及ぶことになります。
 もっとも、給与全額を差し押さえることは禁止されており、(民事執行法152条1項2号)、月々給与を支払っている社員の場合、手取り額の4分の3が差押対象外とされています。ただし、4分の3に相当する部分が33万円を超えるときは、33万円が差押対象外となります。
 つまり、手取り額が30万円の社員の場合、差押対象外の額は22万5000円(30万円×4分の3)です。手取り額が45万円の社員の場合は4分の3の金額が33万7500円と33万円より大きくなるため、差押対象外の額は33万円になります。
 退職金は、金額に関係なく4分の3に相当する部分が差押の対象外となります。

4 差し押さえられた給与の取扱い
 会社は、給与のうち差し押さえられた部分を金融業者に支払うか、または供託することになります(民事執行法156条1項)。
 差押えが競合する場合には供託をしなければなりません(同条2項)。

5 差し押さえられたことを理由に懲戒処分や解雇ができるか
 給与が差し押さえられたとしても、私生活上のトラブルに過ぎず、ただちに企業秩序を乱したり業務遂行を妨げたりするものではありませんので、多重債務を抱えていることを理由に懲戒処分や解雇することはできません。
 もっとも、当該社員が多重債務を理由に仕事に身が入っていなかったり、同僚から金を借りてトラブルになったりしている場合は、単なる私生活上のトラブルとはいえません。このような場合は、企業秩序維持の観点から、まずは口頭で注意をし、繰り返し注意しても改善されない場合は、懲戒処分を検討することが考えられます。 

弁護士法人四谷麹町法律事務所
(勤務弁護士作成)


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