問題社員58 定年後の再雇用を求める。
1 再雇用を拒否できる場合
高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(高年法)は、平成24年の高年法改正により、65歳未満の定年の定めをしている事業主は、①定年の引き上げ、②継続雇用制度の導入(再雇用制度を含む)、③定年の定めの廃止のいずれかの雇用確保措置を講じるよう義務付けました(高年法9条)。
継続雇用(再雇用)の拒否は、解雇事由と同様の事情がある場合にできると考えられます(高年齢者雇用確保措置の実施及び運用に関する指針第2第2項)。
2 雇用確保措置を導入していない場合
使用者が高年法9条に違反して継続雇用確保措置を怠って60歳定年により労働者を退職させた場合、労働者が高年法9条に基づき雇用継続を求めることができるか否かが問題となりますが、高年法には私法上の効力はありませんので、労働者は同法を根拠として、使用者に対し、高年齢者雇用確保措置の導入や、継続雇用を求めることはできません。また、高年法9条違反となったとしても、直ちに事業主の債務不履行責任や不法行為責任を生じさせるものではなく、別途不法行為等の要件が認められる必要があります。
3 雇用確保措置を導入している場合
雇用確保措置を導入している会社において、定年者の継続雇用を拒否した場合、労働者から、継続雇用契約が成立していると主張され、雇用契約上の地位確認請求、賃金請求や不法行為に基づく損害賠償請求がなされることが想定されます。
平成24年改正法の前の裁判例ですが、労働者の成績が使用者の継続雇用基準を満たしていたにもかかわらず、合理的な理由なく定年後の再雇用を拒否した事案について、裁判所が、使用者の定めた継続雇用制度の労働条件で再雇用されたと認めたものがあります(津田電気計器事件最高裁平成24年11月29日判決、日本郵便事件東京高裁平成27年11月5日判決)。
これらの裁判例は、雇止め法理や解雇権濫用法理を類推適用しつつ、継続雇用契約の内容については事案に即した契約の補充的解釈を行ったものと位置付けることができます。この考え方は、平成24年改正法施行後の継続雇用を許否したケースも同様に妥当するものと考えますので、再雇用を拒否する場合の基準、手続を整えておく必要があります。
4 経営の事情で再雇用が困難になったときのための就業規則規定例
経営の事情で再雇用が困難になったときに備えて、就業規則に「ただし、人員整理の必要性が生じたとき、企業の生産、販売の減少で再雇用が困難になったとき、事業の縮小、業務の閉鎖等雇用の減少の必要性が生じたときは、定年退職者の再雇用はせず、また、再雇用者について契約の更新はしない。」という規定を定めることが考えられます。
会社によっては、経済事情による不況時のことや企業リスクを考慮せず、行政が指導するまま経営者に裁量の余地のないような厳しい行政指導基準を、経営者自らが取り入れて制度化しているケースがよくあります。しかし、高年法は、経営上の事情によって再雇用できない経営状況にある場合にまで、定年退職者の再雇用を義務付けてはいませんし、国も各会社の採算や経営状況を無視してまで、高年齢者の継続雇用を求めてはいません。
したがって、経営の事情で再雇用が困難になったときのために、例外的規定を定めておくことをお勧めします。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
(勤務弁護士作成)