問題社員54 精神的疾患が疑われる社員が働き続けている。
1 医師の診察を受けてもらう
(1) 自発的に受診するよう促す
精神疾患の場合、身体的な疾患とは異なり、病気の自覚がなかったり、精神的疾患を理由に職場で不利な扱いを受けるのではないかと考えたりして、医師の診療を受けないことがあります。
医師の診療を拒む労働者には、まずは、上司が当該社員と面談して医師の診察を受けるよう助言したり、上司が当該社員の家族から受診を勧めてもらったりすることが考えられます。
(2) 医師の診察を受けるよう業務命令ができるか
精神疾患の診療を問題とした裁判例ではありませんが、顎肩腕症候群の精密検査の受診を業務命令として命ずることができるか否かが争われ、結論として、業務命令が肯定された電電公社帯広局事件(最高裁昭和61年3月13日判決)があります。この裁判例から考えると、業務命令すること自体は可能であると考えられますが、精神疾患の場合は特に労働者の人格権やプライバシー権に関わる問題といえますので、医師の診療を業務命令することには慎重になるべきであると考えます。
2 精神的疾患を理由に直ちに解雇できるか
就業規則の解雇事由に「心身の障害により業務に耐え得ないとき」と定めている場合であっても、「心身の障害」には様々なものがありますので、医師の診断が下されたとしても、それだけを理由に直ちに解雇することはできません。休職制度がある会社の場合、身体の疾患であれば休職をさせて回復し職場復帰をするという流れになるのに対して、精神的疾患であれば直ちに解雇というのでは適切な処理ではないと考えられるからです。したがって、精神的疾患であるために治療が必要である旨の医師の診断がある場合には、他の身体的疾患と同様に欠勤・休職として扱うべきであると考えます。
3 諭旨退職処分を無効とした裁判例
日本ヒューレット・パッカード事件(最高裁平成24年4月27日判決)は、社員が被害妄想等によって監視・嫌がらせ行為を受けていると主張して欠勤し続けたことに対し、会社が正当な理由のない欠勤を理由に諭旨退職処分をした事案について、裁判所は「使用者は、精神科医の健康診断を実施するなどした上で、その診断結果に応じて休職等の処分を検討」するべきであったとして、諭旨退職処分を無効と判断しました。精神疾患の場合には慎重に対応を考える必要があります。
4 休職命令
就業規則に休職制度の定めがある場合には、「業務外の傷病により、欠勤が連続して1カ月(欠勤中の休日も含む)に達したとき。ただし、復職の見込みのない場合を除く。」といった定めがあることが一般的で、この規則に基づいて休職命令をすることになります。
休職命令は、休職期間の起算点にもなりますので、日時を記載した休職命令書を当該社員に交付すべきです。会社によっては、当該社員が出社しなくなった日を休職期間の起算日とするのみで、休職命令をしていない結果、同日に休職命令をしたかを立証できないという問題が生じることがありますので、手続上注意が必要です。
5 休職期間満了時に考慮すべきこと
(1) 当該社員が復職できるか(治癒したかどうか)
復職の要件は当該疾病が治癒したかどうかで判断します。
治癒したかどうかの判断は、労働者の主治医の所見や産業医の所見を基に検討していくことになりますが、各医師が会社における労働者の担当業務の内容と心身に対する負荷、必要とされる業務遂行能力をどの程度理解しているかに留意する必要があります。
また、当該社員の職務が限定されているかどうかも確認する必要があります。
(2) 休職期間満了による退職
治癒していないと判断した場合には、就業規則上、自然退職と定めている会社であれば自然退職となります。解雇と定めている場合には解雇となります。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
(勤務弁護士作成)