問題社員49 ミスの理由が分からない。

動画解説

1. ミスの理由が分からない社員が会社に与える影響

 ミスが発生した際、その理由が分からない社員がいると、会社の業務運営には継続的な支障が生じます。なぜミスが起きたのかが分からなければ、改善策を講じることができず、同じようなミスが繰り返される可能性が高くなるからです。

 ミスが減らない状況が続けば、業務のやり直しや確認作業が増え、周囲の社員の負担は確実に重くなります。本来であれば前向きな業務に使われるはずの時間や労力が、フォローや尻拭いに費やされることになり、組織全体の生産性は低下していきます。

 また、ミスを繰り返す社員本人にとっても、この状況は決して軽いものではありません。原因が分からないまま注意や指導を受け続けることで、自信を失い、仕事へのモチベーションが下がっていくことも少なくありません。その結果、さらにミスが増えるという悪循環に陥るケースもあります。

 会社経営者として見落としてはならないのは、この問題が単なる個人の失敗にとどまらず、職場の雰囲気や人間関係にも影響を及ぼす点です。現場では不満や苛立ちが蓄積し、「一緒に仕事をしたくない」「何とかしてほしい」といった声が上がることもあります。

 このように、ミスの理由が分からない社員の存在は、業務効率の低下だけでなく、社員の心理面や組織全体の安定性にも影響を与える問題です。会社経営者としては、早い段階でこの問題を認識し、適切な対応を検討する必要があります。

2. ミスの原因が分からない問題はマネジメントの問題である

 ミスの理由が分からない社員がいる場合、会社経営者としてまず認識すべきなのは、この問題を「本人だけの問題」と捉えるのは適切ではないという点です。本当にミスの原因を理解できないレベルに達している場合、個人の努力だけで改善することは極めて困難であり、実質的にはマネジメントの問題として対応する必要があります。

 もちろん、ある程度の経験や基礎能力が備わっている社員であれば、自分自身で原因を分析し、試行錯誤を重ねながら改善していくことも可能です。しかし、会社経営者が「どうすればいいか分からない」と相談を受けるほどのケースでは、その段階をまだ超えられていないことがほとんどです。

 このような状況にもかかわらず、「自分で考えろ」「なぜ分からないのか」と突き放してしまうと、改善につながらないばかりか、本人の自信や意欲をさらに低下させる結果になりがちです。その結果、ミスは減らず、周囲の負担だけが増えていきます。

 会社経営者として重要なのは、ミスの理由が分からない状態そのものを、組織としてどう補うかという視点です。誰が、どのように関与し、どこまで支援するのかを設計することが、経営判断として求められます。

 ミスの原因が分からないという問題は、現場任せにして自然に解消するものではありません。会社としてマネジメントの枠組みを整え、適切に関与することではじめて、改善や次の判断につなげることができる問題だといえるでしょう。

3. 「やる気の問題」と誤解してはいけない理由

 ミスの理由が分からない社員を前にすると、「やる気がないのではないか」「真剣に仕事に向き合っていないのではないか」と感じてしまうことがあります。しかし、会社経営者としては、この見方が誤解であるケースが非常に多いことを理解しておく必要があります。

 仕事がうまくいかない状態が続けば、誰であっても自信を失い、消極的な態度に見えてしまうものです。その結果、「やる気がなさそうだ」と評価されがちですが、実際には、能力や理解力が不足しているために成果が出ず、気力を失っているという順序であることが少なくありません。

 この点を見誤り、「やる気を出せ」「もっと真剣に考えろ」と精神論で対応してしまうと、問題は改善しないどころか、さらに悪化する可能性があります。能力が足りていない状態で努力だけを求められても、本人としては何をどう改善すればよいのか分からず、追い込まれてしまうからです。

 会社経営者として重要なのは、「やる気がないように見える理由」を一段掘り下げて考えることです。ミスの理由が分からないという状況の裏には、基礎的な理解力や経験の不足、業務適性の問題が隠れていることが多く、それを放置したままでは状況は変わりません。

 したがって、この種の問題に直面した場合は、やる気の有無を論点にするのではなく、「能力をどう補うのか」「業務設計や指導方法が適切か」という観点から対応を検討することが、会社経営者として求められる姿勢といえるでしょう。

4. 能力不足を前提とした対応の考え方

 ミスの理由が分からない社員への対応を考える際、会社経営者としてまず前提に置くべきなのは、「能力不足である可能性が高い」という現実です。これは本人を否定する趣旨ではなく、問題を正しく捉えるための出発点にすぎません。

 ミスの原因を自分で分析し、改善策を立てられるというのは、一定の基礎能力や経験があって初めて可能になるものです。その水準に達していない社員に対して、「自分で考えろ」「次は同じミスをするな」と求めても、実質的には何の解決にもなりません。

 会社経営者として重要なのは、「できないことを前提に、どう補うか」という発想に切り替えることです。能力不足を本人の努力不足と捉えて突き放すのではなく、どの部分が理解できていないのか、どの工程でつまずいているのかを分解し、外から補助していく必要があります。

 また、能力不足を前提とした対応を取ることで、無用な感情的対立を避けることにもつながります。「なぜできないのか」と責め続けるよりも、「ここが難しいから、こうサポートする」という姿勢を示す方が、現場の混乱や摩擦を抑えやすくなります。

 もちろん、どこまで会社として補助すべきかには限界があります。しかし、その限界を見極めるためにも、まずは能力不足を前提とした適切な対応を尽くすことが不可欠です。それを行ったうえで初めて、次の判断──業務内容の見直しや配置転換、さらには別の選択肢──を冷静に検討することができるようになります。

5. 教育指導は「教え込む」ことが前提になる

 ミスの理由が分からない社員に対しては、「気づいてくれるはず」「経験を積めば分かるようになるだろう」と期待する姿勢そのものを見直す必要があります。会社経営者としては、この段階の社員に対する教育指導は、「自ら学ばせる」ものではなく、「教え込む」ことが前提になると理解しておくことが重要です。

 ある程度の基礎ができている社員であれば、仕事を任せて試行錯誤させることで成長を促すことも可能です。しかし、ミスの原因すら把握できない水準の社員に同じ対応をしても、成長にはつながりません。それどころか、「仕事を丸投げされた」「誰も助けてくれなかった」と受け取られ、モチベーションの低下や不満につながることもあります。

 このような場合には、どこで判断を誤ったのか、どの選択肢が正しかったのかを、具体的に言語化して伝える必要があります。抽象的な反省や一般論ではなく、「この場面では、こう判断すべきだった」「ここでこの確認が必要だった」というレベルまで落とし込むことが求められます。

 また、言葉で説明するだけでなく、実際の業務場面に立ち会い、行動を見ながら修正していくことも欠かせません。理解力が十分でない社員ほど、事後的な説明よりも、その場での具体的な指摘の方が効果的です。これを繰り返すことで、徐々にミスの理由を自分で認識できるようになっていくケースもあります。

 会社経営者としては、この「教え込む」教育指導が相当な負担を伴うものであることを前提に考える必要があります。そのうえで、どこまで会社として対応するのか、どの時点で次の判断に移るのかを見極めていくことが、現実的なマネジメントといえるでしょう。

6. 行動を観察し、その場で修正する指導の重要性

 ミスの理由が分からない社員に対しては、結果だけを見て指導するのでは不十分です。会社経営者としては、「どのような行動の積み重ねの結果、そのミスに至ったのか」を把握し、その行動自体を修正していく視点が不可欠になります。

 このタイプの社員は、ミスが起きた後に説明を受けても、どの場面で判断を誤ったのかを正確に理解できないことが少なくありません。そのため、事後的に反省を求めるだけでは改善につながらず、同じミスを繰り返してしまいます。

 そこで重要になるのが、実際の業務を行っている様子を観察し、間違った行動や判断があれば、その場で具体的に修正する指導です。「ここで確認すべきだった」「この手順を飛ばしてはいけなかった」といったように、行動レベルで指摘することで、初めて本人の中に正しい業務イメージが形成されていきます。

 また、観察を通じて指導することで、会社側も「どの工程が難しいのか」「どの判断が理解できていないのか」を把握しやすくなります。これは、単に叱責するよりも、今後の業務設計や配置転換を検討する際の重要な材料にもなります。

 もっとも、このような指導は、指導する側の時間と労力を大きく消費します。だからこそ、会社経営者としては、この負担を個人任せにせず、組織としてどう支えるのか、どこまで続けるのかをあらかじめ考えておく必要があります。行動を観察し、その場で修正する指導は効果的である一方、限界を見極める視点も同時に求められる対応といえるでしょう。

7. 改善が見られた場合の関与レベルの調整

 行動を観察し、その場で修正する指導を続けていく中で、少しずつでも改善が見られるようであれば、会社経営者として次に考えるべきは「関与の度合いをどう調整するか」です。常に付きっきりで指導し続けることは、現実的にも持続可能ではありません。

 ミスが減り、本人が「なぜこの対応をするのか」「なぜ前回はミスになったのか」を部分的にでも理解できるようになってきた場合には、段階的に距離を取っていくことが重要です。最初は常にそばで確認していたものを、事後チェックに切り替える、重要な場面だけ関与する、といった形で関与レベルを下げていきます。

 この調整を行う目的は、本人を放置することではありません。あくまで、どこまでなら自力で対応できるのかを見極めるためのプロセスです。関与を減らした途端にミスが増えるのであれば、まだ自立の段階に達していないと判断できますし、問題なく業務が進むのであれば、一定の成長が確認できたといえるでしょう。

 会社経営者として重要なのは、「改善しているかどうか」を感覚ではなく、具体的な行動や結果で判断することです。ミスの回数、確認が必要な場面の減少、質問の質の変化など、客観的に見える変化を基準にすることで、過度な期待や見誤りを防ぐことができます。

 また、関与レベルを調整することで、指導する側の負担を軽減する効果もあります。いつまでも同じ密度で関わり続けるのではなく、改善に応じて関与を変えていくことができなければ、現場の疲弊は避けられません。改善が見られた場合には、その成長を評価しつつ、無理のない形で次の段階へ進めていくことが、現実的なマネジメントといえるでしょう。

8. 教育指導に伴う現場社員の負担への配慮

 ミスの理由が分からない社員への教育指導は、指導される本人以上に、実際に現場で関わる社員の負担が大きくなりがちです。会社経営者としては、この点を十分に理解し、軽視しないことが重要です。

 多くのケースでは、日常的な指導役を担うのは、現場の上司や先輩社員です。自分の業務をこなしながら、付き添って教え、ミスを修正し、フォローまで行うとなれば、時間的にも精神的にも相当な負荷がかかります。その結果、「もう限界だ」「このままでは自分の仕事が回らない」といった不満が生じることも少なくありません。

 会社経営者が注意すべきなのは、こうした声に対して、「誰だって最初はできない」「もう少し我慢してほしい」と精神論でなだめるだけでは、問題は解決しないという点です。現場の負担が限界を超えれば、指導する側のモチベーション低下や離職といった、別の経営リスクを招く可能性があります。

 したがって、教育指導を継続するのであれば、会社経営者として、現場社員の負担をどう軽減するかを具体的に考える必要があります。業務量の調整、役割分担の見直し、評価や処遇面での配慮など、何らかの形で「会社として理解している」という姿勢を示すことが不可欠です。

 教育指導は、善意や責任感だけに依存して成り立つものではありません。現場の負担を把握し、必要な配慮を行うことではじめて、組織として持続可能なマネジメントが可能になります。会社経営者としては、指導される側だけでなく、指導する側にも目を向けた判断が求められるといえるでしょう。

9. マニュアル・研修に頼りすぎることの限界

 ミスの理由が分からない社員への対応として、マニュアルの整備や研修の実施を検討する会社経営者は多いと思います。これらは有効な手段になり得ますが、過度に期待しすぎることには注意が必要です。

 ミスの原因を自分で理解できない社員の場合、マニュアルを「読めば分かる」「研修を受ければ身につく」という前提自体が成り立たないことがあります。書かれている内容の意味を正確に理解できなかったり、研修で学んだ知識を実際の業務に結びつけられなかったりするケースは決して珍しくありません。

 このような状況にもかかわらず、「マニュアルは用意した」「研修も受けさせたのだから、あとは本人の責任だ」と考えてしまうと、問題は解決しないまま放置されることになります。結果として、ミスは減らず、現場の不満だけが蓄積していきます。

 会社経営者として重要なのは、マニュアルや研修はあくまで補助的な手段に過ぎないという認識です。特に理解力に課題がある社員に対しては、それらを実際の業務にどう落とし込むかを、現場で具体的にフォローすることが不可欠になります。

 マニュアルや研修を整備すること自体は無駄ではありませんが、それだけで問題が解決するとは考えないことが重要です。これらを活かすために、誰が、どこまで、どのように関与するのかを設計してこそ、初めて実効性のある対策になるといえるでしょう。

10. 本人の能力水準に応じた業務設計の必要性

 ミスの理由が分からない社員への対応を続ける中で、会社経営者として必ず検討すべきなのが、「そもそもその業務設計が本人の能力水準に合っているのか」という点です。どれだけ丁寧に教えても、能力水準と業務内容がかけ離れていれば、ミスはなくなりません。

 業務には、それぞれ前提となる理解力、判断力、処理スピードがあります。一定の水準を前提に組み立てられた業務を、その水準に達していない社員にそのまま任せれば、ミスが多発するのはある意味当然です。この状況を放置したまま教育指導だけを重ねても、根本的な解決にはなりません。

 会社経営者として重要なのは、「できるようになるまで同じ仕事をやらせ続ける」ことが本当に合理的なのかを冷静に考えることです。一時的に業務の難易度を下げる、工程を分解する、判断が必要な部分を他の社員が補うなど、能力水準に応じた業務設計を行うことで、ミスを減らせるケースもあります。

 また、能力水準に合わない業務を無理に続けさせることは、本人の自信を奪い、精神的な負担を大きくする要因にもなります。結果として、やる気の低下や体調不良につながれば、会社にとっても本人にとっても不利益です。

 業務設計を見直すことは、「甘やかす」ことではありません。会社が現実的に成果を出し、現場を安定させるための合理的な判断です。会社経営者としては、教育指導と並行して、業務内容そのものが適切かどうかを常に検証し、必要に応じて設計を調整していく姿勢が求められるでしょう。

11. 同じ仕事を続けさせるべきかの判断基準

 ミスの理由が分からない状態が続いている場合、会社経営者として避けて通れないのが、「この社員に同じ仕事を続けさせるべきか」という判断です。感情や希望的観測ではなく、客観的な基準で見極める必要があります。

 一つの判断基準は、教育指導を一定期間行った結果、改善の兆しが見られるかどうかです。ミスの回数が減っているか、指摘された内容を次に活かせているか、同じ種類のミスを繰り返していないかといった点を、具体的に確認することが重要です。努力しているかどうかではなく、「結果として行動が変わっているか」を基準にしてください。

 もう一つの重要な基準は、周囲の負担です。本人が多少改善していたとしても、その状態を維持するために、常に誰かが付き添い、過度なフォローを続けなければならないのであれば、その仕事を任せ続けることが合理的とはいえません。現場の負担が限界に近づいていないか、冷静に見極める必要があります。

 また、将来的な見通しも重要です。今後さらに業務の難易度が上がる可能性がある中で、現在の水準でも苦戦している場合、同じ仕事を続けさせることで問題が拡大する可能性もあります。「今は何とか回っている」だけで判断するのは危険です。

 会社経営者としては、「本人が頑張っているから」「辞めさせるのは気が引ける」といった感情面だけで判断するのではなく、会社全体の業務運営、現場の持続可能性、将来のリスクを総合的に考える必要があります。同じ仕事を続けさせるかどうかの判断は、先送りするほど選択肢が狭まることも多いため、適切なタイミングで結論を出すことが重要といえるでしょう。

12. 業務適性を踏まえた配置転換の検討

 同じ仕事を続けさせることが難しいと判断した場合、会社経営者として次に検討すべき選択肢が配置転換です。ミスの理由が分からないからといって、その社員がすべての業務に不向きとは限りません。業務内容が変われば、求められる能力や判断の仕方も大きく異なります。

 特に、言語的な理解や抽象的な判断を多く求められる業務でつまずいている場合でも、手順が比較的明確な業務や、判断要素が少ない業務であれば、安定した成果を出せるケースもあります。会社経営者としては、「今の仕事に向いていない可能性がある」という視点を持つことが重要です。

 配置転換を検討する際には、単に空いている仕事に回すのではなく、その業務でどのような能力が求められるのか、本人の特性とどの程度合致しているのかを冷静に見極める必要があります。配置転換は問題の先送りではなく、ミスマッチを解消するための手段であるべきです。

 また、配置転換は社員本人にとっても、精神的な負担を軽減する効果があります。ミスを繰り返し叱責される環境から離れることで、気持ちを立て直し、前向きに業務に取り組めるようになることも少なくありません。

 もっとも、配置転換には業務の再設計や周囲の調整が伴うため、会社側の負担も生じます。その負担を踏まえたうえで、それでも配置転換を行う価値があるのか、あるいは次の選択肢を検討すべき段階なのかを判断することが、会社経営者に求められる現実的な判断といえるでしょう。

13. 社内に適職がない場合の現実的選択

 配置転換を検討したとしても、会社の規模や業務内容によっては、社内にその社員に適した仕事が存在しないケースも少なくありません。特に中小企業では、業務の種類が限られており、「別の仕事を用意する」という判断自体が現実的でない場合もあります。

 会社経営者として重要なのは、「社内に残すこと」自体を目的化しないことです。適職がないにもかかわらず、無理に仕事を割り振れば、本人は成果を出せず、周囲はフォローに追われ、結果として誰も幸せにならない状況が続くことになります。

 また、ミスの理由が分からない状態で、向いていない仕事を続けさせることは、本人の精神的負担を大きくします。強いストレスが継続すれば、適応障害などの診断書が提出され、長期休職に至るケースもあります。このような事態になれば、会社にとっても本人にとっても大きな不利益です。

 会社経営者としては、「社内で活躍できる可能性が本当にあるのか」「今後も過度な支援を前提としなければ業務が回らないのか」という点を冷静に見極める必要があります。その結果、社内での活躍が現実的でないと判断した場合には、転職や退職勧奨を含めた選択肢に進むことも、決して無責任な判断ではありません。

 社内に適職がないという結論は、逃げの判断ではなく、現実を踏まえた経営判断です。会社経営者としては、情や場当たり的な対応ではなく、会社と本人双方の将来を見据えたうえで、次のステップを検討していく姿勢が求められるといえるでしょう。

14. 転職・退職勧奨を検討する際の注意点

 社内に適職がなく、これ以上同じ状態を続けることが難しいと判断した場合、会社経営者としては、転職や退職勧奨を検討する段階に入ります。ただし、この対応は進め方を誤ると、深刻なトラブルにつながりやすいため、特に慎重さが求められます。

 まず重要なのは、感情的に話を進めないことです。「もう限界だ」「これ以上は無理だ」といった会社側の都合だけを前面に出すと、本人に強い反発や不信感を与えます。これまでの教育指導の経緯、業務上の課題、会社としての限界を、事実ベースで丁寧に説明することが欠かせません。

 また、退職勧奨はあくまで「合意による退職」を目指す手続きであり、辞めることを強制するものではありません。言い方や態度次第では、「実質的な解雇」や「退職強要」と受け取られるおそれがあります。本人に選択の余地があることを明確にし、話し合いの姿勢を崩さないことが重要です。

 加えて、本人のプライドや感情への配慮も必要ですが、事実を曖昧にしたり、理由をすり替えたりすることは避けるべきです。向いていないことが理由であるにもかかわらず、事業縮小など別の理由を持ち出すと、後に矛盾が生じ、かえって不信を招く結果になります。今の時代は、「礼儀正しく、しかし正直に伝える」姿勢が求められます。

 会社経営者としては、退職勧奨を「厄介な作業」と捉えるのではなく、会社と本人の双方にとって、これ以上不幸な状態を続けないための選択肢と位置づけることが大切です。進め方を誤らなければ、紛争を避けつつ、現実的な解決に至ることは十分に可能です。

15. 退職理由を曖昧にしてはいけない理由

 転職や退職勧奨を検討する場面で、会社経営者がつい取りがちなのが、退職理由をぼかした説明です。「本人が傷つくかもしれない」「角が立たないようにしたい」という配慮から、本当の理由を避けてしまうケースは少なくありません。

 しかし、この対応は結果的にトラブルの原因になりやすいという点を、会社経営者として強く意識しておく必要があります。たとえば、「事業縮小」「会社の方針転換」といった理由を伝えたにもかかわらず、その後も同じ職種で求人を出せば、本人から「嘘をつかれた」「騙された」と受け取られても不思議ではありません。

 会社側としては善意のつもりで行った配慮であっても、事実と異なる説明は、信頼関係を一気に崩します。その結果、円満に進められるはずだった退職が、紛争へと発展するケースも現実に多く見受けられます。

 今の時代に求められるのは、事実を隠すことではなく、事実をどう伝えるかという姿勢です。向いていない、パフォーマンスが上がらないといった理由であれば、それをそのまま突きつける必要はありませんが、「業務との適性に課題がある」「会社としてこれ以上の対応が難しい」という形で、事実の核心を外さずに伝えることが重要です。

 会社経営者としては、相手を尊重した丁寧な言葉遣いと、誠実な説明を両立させることを意識してください。退職理由を曖昧にすることは、短期的には楽に見えても、後になって大きなリスクを生む対応です。長期的なトラブルを避けるためにも、正直さを欠かさない姿勢が不可欠です。

16. 試用期間中に判断すべき重要性

 ミスの理由が分からない社員への対応において、会社経営者が最も意識すべきタイミングが試用期間中です。試用期間は、単に勤務態度を見るための期間ではなく、業務適性を見極め、今後の雇用関係を判断するための極めて重要な期間です。

 実務上、本当に業務に向いていない場合、その兆候は試用期間中から少なからず現れます。ミスが頻発する、ミスの理由を説明できない、指導をしても改善が見られないといった点は、後になって突然出てくるものではありません。にもかかわらず、「もう少し様子を見よう」と判断を先送りにすると、後の選択肢は確実に狭まります。

 試用期間中であれば、業務が合わないという結論について、本人も一定の納得を示しやすい傾向があります。本採用後になって同じ話をすれば、「なぜ採用したのか」「本採用されたのに」と反発が強くなり、トラブルに発展しやすくなります。この違いは、会社経営者が想像する以上に大きなものです。

 法的な観点から見ても、試用期間中の本採用拒否は、本採用後の解雇と比べれば判断のハードルは低くなります。もちろん、合理的な理由や相当性が不要になるわけではありませんが、適切な指導や評価を行ったうえでの判断であれば、現実的な選択肢になり得ます。

 会社経営者として重要なのは、「決断を下す勇気」を試用期間中に持てるかどうかです。判断を先延ばしにすることは、優しさでも配慮でもありません。結果的に会社にも本人にも大きな負担を残すことになりかねない以上、試用期間という制度を、実質的な判断の場として正しく使うことが求められます。

17. 弁護士に相談しながら進めるべき場面

 ミスの理由が分からない社員への対応が、教育指導や配置転換の段階を超え、退職勧奨や本採用拒否といった判断に近づいてきた場合、会社経営者だけで進めることは危険性が高くなります。この局面では、弁護士に相談しながら進めるべき段階に入っていると考えてください。

 特に注意が必要なのは、本人が配置転換を拒否している場合や、「辞めるつもりはない」「この仕事でなければ嫌だ」と強く主張しているケースです。こうした状況では、会社側の意図と本人の受け止め方に大きなズレが生じやすく、発言の一つひとつが後に問題視される可能性があります。

 また、会社経営者自身は「十分に配慮してきた」「やれることはやった」と感じていても、その認識が法的に通用するかどうかは別問題です。教育指導の内容や期間、業務改善の機会をどこまで与えたのか、配置転換を検討した事実があるのかといった点は、後から客観的に説明できる形で整理しておく必要があります。

 弁護士に相談することで、感情や経験則だけでは見落としがちなリスクを事前に洗い出すことができます。退職勧奨の進め方、面談での言葉選び、記録の残し方などについて助言を受けることで、不要な紛争を回避できる可能性は大きく高まります。

 会社経営者として意識していただきたいのは、「問題がこじれてから相談する」のでは遅いという点です。判断に迷い始めた時点、あるいは一歩踏み込んだ対応を考え始めた段階で専門家を交えることが、結果として会社を守ることにつながります。弁護士への相談は、弱気な選択ではなく、合理的な経営判断の一部と捉えるべきです。

18. 会社経営者として押さえるべき最終的な判断軸

 ミスの理由が分からない社員への対応について、教育指導、業務設計の見直し、配置転換、退職勧奨と段階的に検討してきましたが、最終的に必要なのは、会社経営者としての覚悟ある判断です。どの選択肢を取ったとしても、誰かに負担がかかることは避けられません。

 ここで重要なのは、「どこまで会社として責任を負うのか」「どこから先は会社の役割ではないのか」を明確にすることです。無制限に教育やフォローを続けることが、必ずしも人を大切にする経営とは限りません。結果として、現場が疲弊し、組織全体が不安定になれば、別の不幸を生むことになります。

 また、本人にとっても、向いていない仕事を続けることが本当に幸せなのかは、冷静に考える必要があります。最低限の水準に到達するまで苦労し続ける働き方と、別の環境で能力を発揮する可能性とを比べたとき、後者の方が前向きな選択になる場合もあります。

 会社経営者としては、「辞めさせるか、残すか」という二択で考えるのではなく、「この判断は、会社と本人の将来にとって合理的か」という視点で整理することが大切です。情や惰性で判断を先送りすることは、問題を小さくするどころか、後でより大きな形で表面化させることも少なくありません。

 ミスの理由が分からないという問題は、努力や根性論だけでは解決しないケースが多いのが現実です。その現実を直視したうえで、必要な対応を尽くし、それでも難しいと判断したなら、次の選択に進むことも経営判断の一つです。会社が無理なく回り、人が過度に苦しまない状態をつくることこそが、会社経営者に求められる最終的な判断軸だといえるでしょう。

 


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