問題社員47 勤務態度が悪い。
目次
- 動画解説
- 1. 勤務態度が悪い社員が会社に与える本当のリスク
- 2. 勤務態度の問題は「社員個人」ではなく「会社経営」の問題である
- 3. 問題行動は小さいうちに対応すべき理由
- 4. 勤務態度が悪い社員への基本対応―その都度の面談の重要性
- 5. 面談で必ず押さえるべき「具体性」という視点
- 6. 放置が招くエスカレーションと法的トラブル
- 7. 改善しない場合に検討すべき懲戒処分の位置づけ
- 8. 懲戒処分を飛ばしてはいけない理由
- 9. 退職勧奨を行う際に会社経営者が注意すべきポイント
- 10. 解雇を検討せざるを得ない場面と弁護士関与の必要性
- 11. 管理職がマネジメントできない場合の会社経営者の選択肢
- 12. プレイヤー能力とマネジメント能力は別物である
- 13. 会社経営者自らが関与すべき局面とは
- 14. 勤務態度問題への対応は会社経営者の価値を左右する
動画解説
1. 勤務態度が悪い社員が会社に与える本当のリスク
勤務態度が悪い社員が一人でもいると、会社全体に想像以上に大きな影響を及ぼします。単に「やる気がない社員がいる」「扱いにくい社員がいる」というレベルの話では終わりません。
まず影響を受けるのは、職場の雰囲気です。挨拶をしない、協調性がない、指示に従わない、周囲に不快感を与える言動を繰り返すといった勤務態度が放置されると、周囲の社員は「なぜあの人だけ許されているのか」と感じるようになります。その結果、真面目に働いている社員ほど不満を溜め込み、職場への信頼を失っていきます。
次に問題となるのが、人材流出のリスクです。職場環境に不満を抱いた社員は、「もっと雰囲気の良い職場で働きたい」と考えるようになります。特に注意すべきなのは、こうした場面では勤務態度に問題のある社員よりも、むしろ優秀で常識的な社員から先に辞めていく傾向が強いという点です。会社にとって本来守るべき人材を失うことになりかねません。
さらに深刻なのは、勤務態度の悪さがハラスメントの温床になる点です。最初は態度や言葉遣いの問題に過ぎなかったものが、次第に嫌がらせや威圧的な行動へと発展するケースも少なくありません。ここまで進むと、職場トラブルは個別の問題では済まず、会社全体の管理責任が問われる局面に入ります。
加えて、当該社員本人の業務パフォーマンスにも悪影響が出ることが多いのが実情です。勤務態度が乱れている状態では、集中力や責任感が低下し、結果として仕事の質も下がりやすくなります。これは単なる「気合の問題」ではなく、会社の生産性そのものに関わる問題です。
このように、勤務態度が悪い社員を放置することは、職場環境の悪化、人材流出、ハラスメントリスクの増大、生産性低下といった複数の経営リスクを同時に抱え込むことを意味します。会社経営者としては、「その社員一人の問題」と捉えるのではなく、会社全体に波及するリスクとして正面から向き合う必要があります。
2. 勤務態度の問題は「社員個人」ではなく「会社経営」の問題である
勤務態度が悪い社員が出てきたとき、多くの会社経営者は無意識のうちに「困った社員がいる」「被害を受けている」という捉え方をしてしまいがちです。しかし、会社側弁護士の立場から見ると、その考え方自体が問題を長期化・深刻化させる原因になることが少なくありません。
勤務態度の問題は、社員個人の資質や性格だけに帰結させるものではなく、会社経営の一環である「マネジメント」の問題として捉える必要があります。なぜなら、勤務態度は放置されるか、是正されるかによって、その後の行動が大きく変わる性質を持っているからです。
会社経営の問題として考えるべき理由は、主に次の点にあります。
- 勤務態度が悪くても注意されなければ「許されている」と社員が受け取ってしまう
- 対応の仕方次第で、改善する社員も一定数存在する
- 放置は問題行動のエスカレーションを招きやすい
- 最終的にトラブル化すると、会社の管理責任が問われる
特に重要なのは、「本人の問題」として距離を取ってしまう姿勢です。この捉え方をしてしまうと、会社経営者は無意識に被害者意識を持ち、「どうして自分がこんな目に遭わなければならないのか」という感情が先に立ってしまいます。その結果、冷静なマネジメント判断ができなくなり、対応が後手に回りやすくなります。
本来、会社経営者に問われるのは、「問題のある社員がいるかどうか」ではありません。「その問題に対して、会社としてどのように向き合い、どのような行動を取ったのか」という点です。勤務態度の悪さを把握しながら何もせず放置した場合、その責任は社員ではなく会社側にあると評価される場面も出てきます。
極端な言い方をすれば、勤務態度の問題は、会社経営者自身、あるいは会社経営者から管理を委ねられている体制の問題です。だからこそ、感情論や好き嫌いではなく、「どうすれば職場秩序を維持できるのか」「どうすれば業務に支障が出ない状態に戻せるのか」という経営判断として扱う必要があります。
この視点に立つことができるかどうかで、その後の対応は大きく変わります。改善に向かうのか、トラブルに発展するのか、その分かれ目は、会社経営者の捉え方にあると言っても過言ではありません。
3. 問題行動は小さいうちに対応すべき理由
勤務態度に問題のある社員への対応で、会社経営者が最も注意すべき点の一つが、「様子を見る」「今は忙しいから後回しにする」といった判断です。問題行動が小さいうちに対応しなかったことが、後になって大きな経営リスクに発展するケースは非常に多く見られます。
問題行動は、時間の経過とともに自然に収まることはほとんどありません。むしろ、注意されずに放置されることで、次のようにエスカレートしていく傾向があります。
- 最初は態度や言葉遣いの問題だったものが常態化する
- 周囲からの注意や視線に慣れ、問題意識が薄れる
- 「これくらいやっても大丈夫だ」という認識が強まる
- さらに強い言動や露骨な態度に発展する
特に注意すべきなのは、本人が「黙認されている」「会社として問題視していない」と受け取ってしまう点です。会社経営者や管理体制が何も言わない状態が続くと、それが暗黙のルールであるかのように認識されてしまいます。その結果、後から注意や処分を行おうとしても、「今まで言われなかった」「急に言われても納得できない」と反発を招きやすくなります。
また、問題が小さい段階であれば、通常のマネジメントの範囲で十分に対応できることがほとんどです。口頭での注意や短時間の面談だけで改善するケースも少なくありません。しかし、放置によって問題が積み重なると、懲戒処分や退職勧奨、場合によっては解雇といった重い対応を検討せざるを得なくなり、会社側の負担も大きくなります。
さらに、問題が大きくなってから対応すると、周囲の社員から「なぜ今まで放置していたのか」という不信感を持たれるおそれもあります。これは職場全体の士気低下につながり、会社経営者としての統率力にも影響を及ぼしかねません。
問題行動が小さいうちに対応するというのは、社員を厳しく管理するという意味ではありません。職場秩序を守り、無用なトラブルを未然に防ぐための、ごく基本的な経営判断です。早い段階で手を打つことで、結果的に穏便かつ低コストで問題を収束させることができる点を、ぜひ意識していただきたいところです。
4. 勤務態度が悪い社員への基本対応―その都度の面談の重要性
勤務態度が悪い社員への対応として、会社経営者がまず取るべき基本行動は、「その都度、きちんと面談を行うこと」です。注意すべきなのは、評価の時期やトラブルが大きくなってからまとめて対応しようとする姿勢です。このやり方は、問題解決につながりにくいだけでなく、後の紛争リスクを高める原因にもなります。
勤務態度に問題がある行動が見られた場合、可能な限り時間を空けずに、会議室などの落ち着いた場所で話をすることが重要です。人前で注意するのではなく、個別に面談の場を設けることで、感情的な対立を避けつつ、冷静に事実を伝えることができます。
その都度面談を行うことには、次のようなメリットがあります。
- どの行動が問題だったのかを具体的に伝えやすい
- 本人の記憶が新しく、事実関係の認識が一致しやすい
- 「問題行動が見過ごされていない」というメッセージを伝えられる
- 小さな修正を積み重ねることで、大きなトラブルを防げる
多くの会社経営者が誤解しがちなのですが、勤務態度が悪い社員の中には、「自分は普通に振る舞っているだけ」と本気で思っている人も少なくありません。そのため、「勤務態度が悪いから直してほしい」といった抽象的な注意では、本人に問題意識が伝わらないことが多いのです。
問題行動が起きた直後に面談を行えば、「今の発言」「先ほどの行動」といった具体的な事実を示しながら説明することができます。これは、会社経営者側にとっても説明がしやすく、不要な言い争いを避けるうえで非常に有効です。
また、その都度対応していくことで、改善する社員は一定数存在します。劇的に模範的な社員になるわけではなくても、「以前よりは周囲に迷惑をかけない状態」に落ち着くケースは珍しくありません。会社経営においては、このレベルまで改善すれば十分と判断できる場面も多いでしょう。
逆に、このプロセスを踏まずに放置したまま、後から評価を下げたり、退職勧奨や解雇を検討したりすると、「なぜ今さら」「事前に何も言われていない」という反発を招きやすくなります。これは、会社側にとって不利な状況を自ら作り出してしまうことにほかなりません。
勤務態度の問題に対するその都度の面談は、厳罰を与えるためのものではなく、職場秩序を維持するための基本的なマネジメントです。会社経営者として、早い段階から丁寧に積み重ねていくことが、結果的に最もリスクの少ない対応と言えます。
5. 面談で必ず押さえるべき「具体性」という視点
勤務態度が悪い社員との面談で、会社経営者が最も意識すべきなのが「具体性」です。抽象的な注意や感覚的な指摘では、改善につながらないばかりか、かえって反発や誤解を生む原因になります。
よくある失敗例が、「勤務態度が悪い」「周りに迷惑をかけている」「もっと社会人として考えてほしい」といった表現です。これらは会社経営者側としては正しい指摘のつもりでも、社員本人には「何が悪いのか分からない」「自分なりに普通にやっている」という受け止め方をされてしまうことが非常に多いのが実情です。
面談では、必ず事実ベースで話す必要があります。具体的には、次の点を意識してください。
- いつ
- どこで
- 何を言った、または何をしたのか
- それがなぜ問題なのか
例えば、「勤務態度が悪い」という言い方ではなく、「昨日の朝礼で、他の社員が発言している最中にため息をついたこと」「先ほど取引先からの電話対応で、語気が強くなっていたこと」といったように、行動を切り取って説明することが重要です。
このように具体的に伝えることで、社員本人も「その行動が問題だったのか」と初めて認識できる場合があります。実務上、本人に悪意がなく、「そう見られるとは思っていなかった」「自分では気づいていなかった」というケースは決して珍しくありません。
また、具体性を意識することは、将来的なトラブル防止の観点からも極めて重要です。後になって懲戒処分や退職勧奨を検討する場面では、「これまでどのような注意をしてきたのか」「何を問題として伝えてきたのか」が問われます。抽象的な指導しかしていない場合、会社側の対応が不十分と評価されるリスクが高まります。
その意味でも、問題行動が起きた直後に面談を行うことには大きな意味があります。記憶が新しいうちであれば、事実関係を示しやすく、感情論に陥りにくくなります。会社経営者としても、余計な言い訳や説明を重ねる必要がなくなり、冷静な対応が可能になります。
勤務態度の是正は、「考えろ」「反省しろ」といった精神論では進みません。具体的な行動を示し、その行動が会社や職場にどのような影響を与えているのかを丁寧に伝えることが、実務的かつ法的にも安全な対応と言えます。
6. 放置が招くエスカレーションと法的トラブル
勤務態度に問題のある社員を放置することは、単なるマネジメント上の怠慢にとどまらず、将来的に法的トラブルへと発展する大きなリスクを孕んでいます。会社側弁護士として多くの相談を受けてきましたが、「もっと早く対応していればここまでにはならなかった」というケースは非常に多いのが実情です。
問題行動は、放置されることで次第にエスカレートしていきます。最初は軽い態度の問題であっても、注意されない状態が続くと、本人の中で「会社は本気で問題視していない」という認識が固まっていきます。その結果、言動がさらに大胆になり、周囲への影響も拡大していきます。
エスカレーションの過程では、次のような問題が起こりやすくなります。
- 周囲の社員が精神的ストレスを抱える
- 職場内の人間関係が悪化する
- ハラスメントの訴えが出てくる
- 内部通報や外部相談に発展する
特に注意が必要なのが、ハラスメントとの関係です。勤務態度の悪さが、威圧的な言動や無視、執拗な態度につながると、ハラスメントとして評価される可能性が高まります。この段階になると、「勤務態度が悪い社員の問題」では済まず、「会社が適切な措置を取っていたか」という管理責任が厳しく問われることになります。
実務上、法的トラブルに発展しやすいのは、注意や指導がほとんど行われていないまま、いきなり重い処分を行ったケースです。会社側としては我慢を重ねたつもりでも、記録や具体的な指導実績がなければ、「突然不利益な扱いを受けた」と主張されやすくなります。
また、放置期間が長いほど、「なぜ今になって問題視するのか」「これまで黙認していたではないか」といった反論を招きやすくなります。これは懲戒処分や解雇の有効性を判断する場面で、会社側にとって不利な事情として評価されることがあります。
会社経営者として重要なのは、「今はまだ大した問題ではない」という感覚で判断しないことです。小さな問題であっても、対応せずに積み重ねた結果、大きな法的リスクとして跳ね返ってくる可能性があることを常に意識しておく必要があります。
放置しない、先送りにしない、問題が見えた段階で対応する。この基本的な姿勢こそが、エスカレーションと法的トラブルを防ぐ最大のポイントです。
7. 改善しない場合に検討すべき懲戒処分の位置づけ
その都度の面談を重ね、具体的な問題行動を指摘してもなお勤務態度が改善しない場合、会社経営者としては次の段階を検討せざるを得ません。その一つが、懲戒処分です。懲戒処分は「罰を与えるためのもの」と誤解されがちですが、本来は会社秩序を維持し、是正の機会を与えるためのマネジメント手段の一つです。
重要なのは、懲戒処分を「いきなり最終手段」として使わないことです。懲戒処分には段階があり、注意・指導を経ても改善が見られない場合に、次のステップとして位置づけられるべきものです。つまり、これまでの面談や注意の積み重ねが前提になります。
実務上、懲戒処分を検討する局面では、次の点が特に重要になります。
- どの行為が問題なのかが明確であること
- これまでに注意・指導を行ってきた経緯があること
- 改善の機会を与えてきた事実があること
- 社内ルールや就業規則との整合性が取れていること
これらが整理されていない状態で懲戒処分を行うと、「会社の感情的な対応」「いきなり重い処分を受けた」と受け取られやすくなり、後のトラブルにつながります。逆に言えば、適切なプロセスを踏んでいれば、懲戒処分は十分に合理的な経営判断として位置づけることができます。
また、懲戒処分は「直すための最後の警告」という意味合いを持つことも多くあります。書面で正式に処分を伝えることで、本人が初めて事態の深刻さを理解し、態度を改めるケースも少なくありません。ここで重要なのは、「まだ改善の余地がある段階で使う」という点です。
一方で、「そこまで問題があるなら懲戒処分をすべきだったのに、何もせず放置していた」というケースも多く見られます。その結果、いきなり退職勧奨や解雇を検討することになり、会社側が不利な立場に立たされてしまうことがあります。懲戒処分を適切に位置づけていないことが、対応の選択肢を狭めてしまうのです。
会社経営者としては、懲戒処分を怖がって避けるのではなく、「どの段階で、どの処分を使うのか」を冷静に整理しておくことが重要です。その判断に迷いがある場合には、早い段階で専門家に相談し、手順を確認しながら進めることが、結果的にリスクを抑えることにつながります。
8. 懲戒処分を飛ばしてはいけない理由
勤務態度に大きな問題がある社員について、「もう我慢の限界だ」「これ以上注意しても無駄だ」と感じ、懲戒処分を行わないまま退職勧奨や解雇を検討してしまう会社経営者は少なくありません。しかし、この対応は法的にも実務的にも非常にリスクが高いと言えます。
懲戒処分を飛ばしてしまう最大の問題は、会社側の対応の一貫性が失われる点にあります。これまで口頭注意や面談にとどまり、正式な処分を一度も行っていないにもかかわらず、いきなり「辞めてほしい」「解雇する」という対応を取ると、社員側からは次のように受け取られがちです。
- そこまで重大な問題だとは聞いていない
- 改善のチャンスを与えられていない
- 突然不利益な扱いを受けた
このような受け止め方をされると、退職勧奨がうまく進まないだけでなく、解雇の有効性も強く争われることになります。実際の紛争では、「懲戒処分を行うほどの問題があったのであれば、なぜそれをしてこなかったのか」という点が厳しく問われます。
また、懲戒処分は会社にとっての「警告」としての役割を果たします。書面で正式に処分を行うことで、会社がどの行為を問題視しているのか、その行為がどれほど重大なのかを明確に伝えることができます。このプロセスを踏まずに退職勧奨や解雇に進むと、社員側に「本気度」が伝わらず、かえって対立を深めてしまうケースも少なくありません。
さらに、懲戒処分を経ていない場合、会社側の主張が「感情的」「場当たり的」と評価されるリスクも高まります。勤務態度の悪さに対して一貫した対応を取ってきたかどうかは、後になって第三者が判断する際の重要なポイントになります。
もちろん、すべてのケースで軽い懲戒処分から順番に行わなければならないわけではありません。行為の内容や程度が著しく重い場合には、重い処分を検討する余地もあります。ただし、その場合であっても、「なぜその段階を飛ばすのか」「どの点が通常の指導では足りないのか」を説明できる状態にしておく必要があります。
会社経営者としては、「懲戒処分は面倒」「トラブルになりそうで怖い」と避けるのではなく、適切な順序の中で位置づけていくことが重要です。懲戒処分を飛ばさないという基本を押さえることが、結果的に退職勧奨や解雇を検討する際のリスクを大きく下げることにつながります。
9. 退職勧奨を行う際に会社経営者が注意すべきポイント
勤務態度に関する指導や懲戒処分を重ねても改善が見られない場合、会社経営者として退職勧奨を検討する局面が出てきます。ただし、退職勧奨は対応を誤ると、紛争に直結しやすい手続きでもあります。進めるにあたっては、いくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
まず大前提として、退職勧奨は「合意によって退職してもらう手続き」であるという点を正しく理解してください。一方的に辞めさせるものではなく、本人が同意しなければ成立しません。この前提を無視した進め方をすると、「実質的な強要」「違法な退職強制」と評価されるリスクが高まります。
退職勧奨を行う際に、特に注意すべきポイントは次のとおりです。
- なぜ退職を求めるのか、理由を具体的に説明すること
- これまでの指導や懲戒処分の経緯を整理しておくこと
- 感情的な言葉や人格否定を避けること
- 「辞めないならどうなるのか」を不用意に示唆しないこと
中でも重要なのが、理由の説明です。「本人も分かっているはず」「今さら説明する必要はない」と考えてしまいがちですが、これは大きな誤りです。退職勧奨の場では、勤務態度のどの点が問題で、なぜ会社としてこれ以上雇用を続けることが難しいのかを、改めて丁寧に伝える必要があります。
理由を説明せずに退職を求めると、「会社経営者の好き嫌い」「感情的な判断」と受け取られかねません。特に後日紛争になった場合、会社側が合理的な説明をしていたかどうかは、重要な判断要素になります。
また、退職勧奨の場では、「応じなければ解雇する」といった言い方には十分注意してください。安易な発言は、合意の自由を侵害したと評価される可能性があります。退職勧奨はあくまで話し合いであり、圧力をかける場ではありません。
情報の整理が難しい場合や、どこまで伝えるべきか判断に迷う場合には、事前に専門家の助言を受けることをおすすめします。経緯や事実関係を整理したうえで臨むことで、無用な対立を避け、現実的な解決につなげやすくなります。
退職勧奨は、会社経営者にとって精神的な負担も大きい対応です。しかし、適切な準備と冷静な進め方をすれば、長期的な紛争を回避しながら会社を守る選択肢となり得ます。
10. 解雇を検討せざるを得ない場面と弁護士関与の必要性
勤務態度の問題について、面談による指導、懲戒処分、退職勧奨といった対応を尽くしてもなお改善が見られない場合、会社経営者としては、最終的に解雇を検討せざるを得ない局面があります。ただし、解雇は会社にとって最もリスクの高い判断の一つであり、慎重な対応が不可欠です。
解雇を検討すべき典型的な場面としては、次のようなケースが挙げられます。
- 懲戒処分を複数回行っても勤務態度が改善しない
- 指導内容を理解できず、是正が現実的に困難である
- 勤務態度の問題が業務や職場秩序に重大な支障を与えている
- 退職勧奨を行ったが、本人が明確に拒否している
この段階になると、もはや通常のマネジメントの範囲を超えています。会社経営者の判断だけで進めてしまうと、後に「解雇権の濫用」として争われるリスクが非常に高くなります。
特に注意すべきなのは、「ここまで我慢してきたのだから仕方がない」「誰が見ても問題社員だ」という感覚的な判断です。解雇の有効性は、会社経営者の主観ではなく、第三者の視点から合理性があるかどうかで判断されます。そこでは、これまでどのような指導を行い、どのような改善機会を与えてきたのかが厳しく検討されます。
このため、解雇を検討する段階では、弁護士の関与が不可欠と言えます。弁護士に相談することで、次のような点を事前に整理することができます。
- 解雇理由が法的に通用する内容か
- 普通解雇と懲戒解雇のどちらが適切か
- これまでの対応に不足がないか
- 追加で行うべき手続きや記録は何か
また、解雇は一度行ってしまうと後戻りができません。訴訟や労働審判に発展した場合、会社経営者にとって時間的・精神的・金銭的な負担は非常に大きなものになります。事前に専門家の目を通すことで、そのリスクを大幅に下げることが可能です。
会社経営者として重要なのは、「解雇できるかどうか」だけを考えるのではなく、「解雇以外に取るべき手段はすべて尽くしたか」「第三者から見て納得できるプロセスを踏んでいるか」という視点です。その確認のためにも、解雇を検討する段階では、必ず専門家を交えながら進めるようにしてください。
11. 管理職がマネジメントできない場合の会社経営者の選択肢
勤務態度に問題のある社員への対応を「管理職に任せているが、うまくいっていない」という相談は、会社側弁護士として非常によく受けます。この場合、問題は当該社員だけでなく、管理体制そのものにあります。会社経営者としては、「任せているから仕方がない」で終わらせず、次の一手を考える必要があります。
まず押さえておくべき前提は、「管理職であること」と「マネジメントができること」は別だという点です。プレイヤーとして優秀であっても、人の問題に向き合い、注意し、行動を変えさせる能力が備わっているとは限りません。この前提を誤ると、問題対応は必ず停滞します。
管理職がマネジメントできていない場合、会社経営者には大きく分けて次の選択肢があります。
- 会社経営者自身が直接関与する
- 管理職を教育し、マネジメント能力の向上を図る
- 配置転換や体制変更を検討する
- 複数人で役割を分担して対応する
まず現実的な対応として多いのが、会社経営者自身が一定期間、直接関与する方法です。特に中小規模の企業では、適任者がいないまま問題を放置するよりも、応急措置として会社経営者が前面に出た方が、早期に収束するケースは少なくありません。
次に、管理職の教育という選択肢があります。ただし、マネジメント能力は短期間で身につくものではありません。基礎的な知識の習得に加え、実際の経験を積ませる必要があり、成長スピードにも個人差があります。そのため、「教育すればすぐに解決する」と期待しすぎないことが重要です。
また、適性の問題も無視できません。マネジメントには向き不向きがあり、努力だけでは補えない部分も存在します。その場合、管理職としての配置自体を見直す、あるいは人の問題には関与しない役割に切り分けるといった判断も、会社経営者としては検討すべき選択肢です。
さらに、一人で抱え込ませず、複数人で対応するという方法もあります。直接の上司は対応が苦手でも、別の管理職や会社経営者、人の対応に慣れた人材が補助に入ることで、問題が前に進むケースもあります。
重要なのは、「管理職が対応できない」という事実を放置しないことです。対応できない状態が続けば、社員の問題は解決せず、最終的には会社経営者の管理責任として跳ね返ってきます。誰が、どの役割で、どこまで対応するのかを整理し、現実的な体制を組み直すことが、会社を守る判断と言えます。
12. プレイヤー能力とマネジメント能力は別物である
勤務態度の問題がうまく処理されない背景として、会社経営者が見落としがちな点の一つが、「仕事ができる人=人を管理できる人」という思い込みです。しかし、プレイヤーとしての能力と、マネジメント能力は本質的に別物であり、切り分けて考える必要があります。
現場で高い成果を出している社員は、業務知識や経験が豊富で、判断も早く、周囲からの信頼も厚いことが多いでしょう。そのため、「あの人なら大丈夫だろう」「現場をよく分かっているから任せられる」と考え、管理職に登用するケースは少なくありません。しかし、それだけで人の問題を適切に扱えるとは限りません。
マネジメントに求められるのは、仕事のスキルとは異なる次のような能力です。
- 問題行動に対して冷静に向き合う力
- 相手に不快感を与えずに注意・指導を行う力
- 感情と事実を切り分けて判断する力
- 対立を恐れず、必要な場面で踏み込む覚悟
これらは、業務能力が高いだけでは自然に身につくものではありません。むしろ、仕事ができる人ほど「自分ならやらない」「なぜそんなことができないのか」と感じてしまい、相手の行動を理解できず、指導が空回りすることもあります。
また、現場で成果を出してきた人ほど、人間関係を壊すことを過度に恐れ、問題行動に踏み込めないケースも見られます。「自分が嫌われ役になる必要はない」「そこまで言わなくてもいいだろう」と考え、結果として問題を放置してしまうのです。
会社経営者として重要なのは、「誰が一番仕事ができるか」ではなく、「誰が人の問題に向き合えるか」という視点で管理体制を考えることです。マネジメントが求められる立場に、適性のない人を配置してしまうと、社員の問題は解決せず、最終的には会社経営者自身が対応せざるを得なくなります。
プレイヤー能力とマネジメント能力は別物であるという前提に立ち、役割を適切に分けることができれば、勤務態度の問題への対応も現実的なものになります。これは人材評価の問題ではなく、会社経営としての合理的な判断です。
13. 会社経営者自らが関与すべき局面とは
勤務態度に問題のある社員への対応について、「本来は管理職がやるべきことだ」「そこまで会社経営者が出ていく話ではない」と感じる方も多いと思います。しかし実務上、会社経営者自らが関与しなければ、問題が前に進まない局面は確実に存在します。
まず前提として、管理職が十分にマネジメントできていない場合、その状態を放置すること自体が経営判断として問題になります。「任せている」「指示は出している」という事情があったとしても、結果が出ていなければ、会社として適切な対応を取っているとは言えません。
会社経営者が自ら関与すべき典型的な場面としては、次のようなケースが挙げられます。
- 管理職が注意や面談を避け続けている
- 問題行動が明らかにエスカレートしている
- 管理職と社員の関係性が悪化し、指導が機能していない
- 懲戒処分や退職勧奨など、重大な判断が必要になっている
特に注意すべきなのは、「管理職ができないなら仕方がない」と考えてしまうことです。その間にも、職場の雰囲気は悪化し、周囲の社員は不満や不安を抱え続けます。この状況を是正できる立場にあるのは、最終的には会社経営者しかいません。
会社経営者が直接関与するというのは、すべてを自分で抱え込むという意味ではありません。問題の初期対応や重要な局面において、自ら面談に同席する、方針を明確に示す、対応の優先順位を決めるといった関与の仕方も含まれます。これだけでも、管理職の姿勢や対応が大きく変わることは珍しくありません。
また、会社経営者が関与することで、「この問題は会社として正式に扱っている」というメッセージを社員本人に伝える効果もあります。これにより、事態の深刻さを理解し、態度を改めるきっかけになるケースもあります。
一方で、「忙しいから」「現場に任せたいから」と関与を避け続けた結果、問題がこじれ、最終的に解雇や訴訟といった最悪の形で関与せざるを得なくなることもあります。その段階では、時間的・精神的な負担は、初期対応とは比べものになりません。
会社経営者自らが関与すべきかどうかの判断基準は、「自分が出ないと解決しないかどうか」です。管理体制が機能していないと感じた時点で、早めに一歩踏み込むことが、結果的に会社全体を守る判断になります。
14. 勤務態度問題への対応は会社経営者の価値を左右する
勤務態度に問題のある社員への対応は、単なる労務管理の一場面ではありません。会社経営者がどのように向き合い、どのような判断を積み重ねてきたかは、会社の文化そのものを形づくり、経営者としての評価にも直結します。
問題社員がいるかどうか自体は、どの会社にも起こり得ることです。しかし、その問題をどのように扱ったかによって、「この会社はきちんと秩序を守る会社なのか」「理不尽なことを放置する会社なのか」という評価が、社員の中に静かに蓄積されていきます。
勤務態度の問題に対し、会社経営者が取る姿勢は、周囲の社員に次のようなメッセージを発しています。
- 問題があっても見て見ぬふりをする会社なのか
- 公平にルールを適用する会社なのか
- 声を上げた人が守られる会社なのか
これらは、就業規則や理念を掲げているだけでは伝わりません。実際の対応を通じて初めて、社員に伝わるものです。だからこそ、勤務態度の問題への対応は、会社経営者の価値観が最も露呈する場面の一つと言えます。
また、問題への対応を先送りにした結果、優秀な社員が離職してしまったり、職場の雰囲気が悪化したりすれば、その責任は最終的に会社経営者が負うことになります。一方で、早い段階から丁寧にマネジメントを行えば、「この会社は安心して働ける」という信頼につながります。
勤務態度の是正において、完璧を求める必要はありません。模範的な社員に生まれ変わらせることが目的ではなく、職場秩序が保たれ、業務に支障が出ない状態に戻すことが目的です。そのために必要な対応を、一つずつ積み重ねていく姿勢こそが、会社経営者としての力量を示します。
勤務態度の問題から逃げず、感情論に流されず、現実的な対応を積み重ねる。その姿勢は、必ず社員に伝わり、会社全体の土台を強くします。会社経営者にとって大変な判断の連続ではありますが、これこそが会社経営の中核にある仕事の一つと言えるでしょう。

