問題社員47 会社のパソコンで私用メール等をする。
1 会社にパソコンの管理権があること及び社員に職場秩序維持義務があること
会社が貸与したパソコンは会社の所有物であり、インターネットの接続費用も会社が負担していることから、パソコンの利用には会社の施設管理権が及びます。また、社員は、職場内では職場秩序維持義務を負います。
これらのことから、会社は社員に対して、就業中はもちろんのこと、休憩時間中であっても、社用パソコンで私用メールやSNSの閲覧を制限する旨の就業規則(社用パソコン使用規程)を定めることができます。
従業員は社用パソコンの使用にあたり、次の行為を行ってはならない。
① 業務に関係のない文書を作成すること
② 私的な電子メール(社内メールを含む)を送受信すること
③ 業務に関係のないウェブサイトを閲覧すること
④ 機密情報を取り外し可能な記録媒体にコピーすること
2 社員の了解を得ることなく、社用PCを調査できるか?
(1) プライバシー権
社用パソコンであっても私的利用に関する情報は、プライバシー権が及びます。
しかし、プライバシー権といえど、社用パソコンに対しては施設管理権が及ぶことから、社用パソコン内の情報が完全に「私的な」ものであるとはいえないと考えられますので、会社が当該社員の了解を得ることなく、社用パソコンを調査することはできると考えます。
実務上は、就業規則に会社が必要に応じてメール等の使用状況を調査することがある旨定めておくという対応が考えられます。
会社は必要に応じ、送受信した電子メールその他社用パソコン内に保存蓄積されたデータ等を閲覧することができる。
従業員は閲覧に必要なパスワードを開示する等、前項の閲覧に協力しなければならない。
(2) 会社がメールを無断閲覧することがプライバシー権の侵害になるか(F社Z事業部事件東京地裁平成13年12月3日判決)
同事件判決は、電子メールの私的利用問題は、「私用電話とほぼ同様」に考えられ、私的な電子メールの送受信も「会社における職務の遂行の妨げとならず、会社の経済的負担も極めて軽微なものである場合には、合理的な限度の範囲内において」社会通念上許容されるので、その範囲では、社員に一切のプライバシーがないとはいえないとしています。
どのような場合にプライバシー侵害になるかについては、「監視する職務上の合理的必要性が全くないのに専ら個人的な好奇心等から監視した場合」や「個人の恣意に基づく手段方法により監視した場合」など、「社会通念上相当な範囲を逸脱した監視がなされた場合に限り、プライバシー権の侵害となると解するのが相当である。」という判断枠組みを提示した上で、当該事件においては原告らがプライバシー侵害を受けたとはいえないと結論づけました。
なお、この事件は、私的メールの監視などについて、権限や基準、指針が定められていないものでした。権限について規定・周知されている場合の裁判例は現時点で見当たりませんが、権限について規定・周知されている場合であれば、監視・調査を行ってもプライバシー侵害にはならないと判断される可能性があります。
3 社用パソコンで私用メール等をしている社員への対応
(1) 事実確認
社用パソコンを調査することによって、私的利用の頻度、私的利用の期間、私的利用の態様を整理し、その分析結果を証拠として残しておきます。
当該社員が「誰かが勝手にパソコンを操作したのであって、閲覧したのは自分ではない」等と弁解する可能性がありますので、調査時には、当該パソコンを他の者が使用する可能性があったかどうかも調査しておくことが望ましいです。
(2) 面談
調査の結果、当該社員が社用パソコンを私的利用していたということになれば、本人と面談をして、事情を聞き、注意、指導を行います。この面談の内容は、後に紛争になった場合に重要な証拠となりますので、書面に残しておく必要があります。
(3) 懲戒処分の検討
注意、指導、面談を重ねたものの改善されない場合は、懲戒処分を検討することになります。
懲戒処分は、私的利用の頻度、他の従業員における私的利用の実態、使用者側の予防措置(規程の整備や指導等)を考慮したうえで、判断することになりますが、通常は、けん責といった軽い懲戒処分をすることがほとんどです。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
(勤務弁護士作成)