問題社員44 不採用通知に抗議する。
目次
1 採用の自由と不採用理由の開示義務
企業には、どのような者をどのような条件で雇い入れるかについて、原則として「採用の自由」が認められています(三菱樹脂事件最高裁昭和48年12月12日判決)。どの応募者を不採用とするかは企業の広範な裁量に委ねられており、法律上、不採用とした応募者に対してその具体的な理由を説明したり、開示したりする義務はありません。
したがって、不採用通知を受け取った応募者から電話や電子メール等で不採用の理由を厳しく問いただされたとしても、会社としては「総合的な判断の結果であり、個別の選考基準や理由については一切開示しておりません」といった回答を維持することで法的には問題ありません。安易に具体的な理由(例:「コミュニケーション能力に欠ける」「経験不足」など)を伝えてしまうと、さらなる反論や「不当な差別だ」といった新たな紛争の火種を招く恐れがあるため、注意が必要です。
2 不当差別を主張して抗議してきた場合の対応
採用の自由があるとはいえ、思想・信条、性別、社会的身分、障害の有無など、法で禁じられた差別的な理由によって不採用とした場合には、不法行為(民法709条)として損害賠償義務を負う可能性があります。
応募者から「性差別だ」「特定の思想を排除している」といった抗議を受けた場合、まずは選考プロセスに客観的な不備がなかったか内部調査を行います。面接時の質問内容に不適切なものがなかったか、選考基準が一定の公平性を保っていたかを確認します。
調査の結果、正当な選考に基づいていることが明らかであれば、毅然とした対応を取ります。感情的な抗議に対しては、対面での面談は避け、書面(電子メールや書面)による回答に留めるのが実務上の定石です。
3 個人情報保護法に基づく開示請求への対応
近年、個人情報保護法に基づき、採用選考時の評価シートや面接記録の開示を求めてくるケースが見られます。しかし、個人情報保護法においても、試験、検査又は認定の評価や判断に関する個人情報について、開示することで「業務の適正な実施に著しい支障を及ぼすおそれがある場合」には、開示を拒むことができると解されています(同法33条2項参照)。
採用選考の評価基準や社内の判定プロセスが開示されれば、今後の公平な選考に重大な支障を来すため、多くの企業では開示を拒絶する対応を取っています。ただし、拒絶する際の理由の示し方には法的な配慮が必要ですので、弁護士と協議の上で回答を作成することをお勧めします。
4 SNSでの拡散やネット炎上への対策
現代の採用実務において最も警戒すべきは、不採用への不満がSNS(旧Twitter等)で拡散される「ソーシャルメディア・リスク」です。応募者が面接官の態度や不採用通知の内容を「ブラック企業の対応」として投稿し、炎上する事例が後を絶ちません。
これを防ぐためには、不採用通知(お祈りメール)の文面を、相手の尊厳を傷つけない丁寧なものに整えるとともに、面接官に対して不適切な質問(家族構成、尊敬する人物、愛読書、支持政党など)を行わないよう徹底した教育が必要です。一度ネットに拡散されると、企業のブランドイメージ回復には多大な労力が必要となります。
5 弁護士による事前の選考フロー構築
採用トラブルを未然に防ぐためには、募集要項の記載内容から面接質問リスト、不採用通知のテンプレートに至るまで、あらかじめリーガルチェックを受けておくことが有効です。万が一、執拗な抗議や嫌がらせ電話が続くような場合には、弁護士を窓口として対応を一本化することで、現場担当者の精神的負担を軽減し、早期解決を図ることが可能です。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年2月27日
