問題社員25 虚偽の内部告発をして、会社の名誉・信用を毀損する。

 労働契約上、社員は、会社の名誉信用等を害して職場秩序に悪影響を与え、業務の正常な運営を妨げるような行為をしない義務を負っていると考えられますが、それを明確にするために、その旨、就業規則に規定しておくべきです。

 虚偽の内部告発については、その程度に応じて、注意、指導、懲戒処分を検討することになりますが、公益通報者保護法、言論表現の自由との関係を検討する必要があります。

 公益通報者保護法との関係では、
① 公益通報をしたことを理由とする解雇の無効(3条)
② 公益通報をしたことを理由とする労働者派遣契約の解除の無効(4条)
③ 公益通報をしたことを理由とする不利益取扱いの禁止(5条)
が問題となります。
 これらは、公益通報をしたことを理由とする解雇、労働者派遣契約の解除、不利益取扱いを禁止するものに過ぎず、公益通報をしたからといって、公益通報をしたこと以外の事実を理由とする解雇、労働者派遣契約の解除、不利益処分ができなくなるわけではありません。

 「不正の利益を得る目的、他人に損害を加える目的その他の不正の目的」を有する内部告発は「公益通報」(2条)に該当しないため、公益通報者保護法では保護されません。

 公益通報者保護法が保護の対象とする同法2条3項所定の「通報対象事実」とは、刑法、食品衛生法、証券取引法、個人情報保護法等の同法2条別表に掲記の通報対象法律において犯罪行為として規定されている事実と犯罪行為と関連する法令違反行為として規定されている事実に限定されており、通報対象法律以外の法律に規定された犯罪行為やその犯罪行為と関連する法令違反行為の事実、通報対象法律において最終的にその実効性が刑罰により担保されていない規定に違反する行為の事実は該当しません。
 公益通報者保護法の保護を受けようとする社員は、その法令違反行為が、いかなる通報対象法律において犯罪行為として規定される事実と関連する法令違反行為であるのかを明らかにする必要があります。

 「当該労務提供先等に対する公益通報」(勤務先、派遣先等に対する公益通報)が保護されるためには、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると思料する場合」であれば足ります。
 「当該通報対象事実について処分又は勧告等をする権限を有する行政機関に対する公益通報」が保護されるためには、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」である必要があります。
 「その者に対し当該通報対象事実を通報することがその発生又はこれによる被害の拡大を防止するために必要であると認められる者に対する公益通報」(マスコミ等に対する公益通報)が保護されるためには、「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由があり、かつ、次のいずれかに該当する場合」であることが必要となります。
① 労務提供先等、行政機関等に公益通報をすれば解雇その他不利益な取扱いを受けると信ずるに足りる相当の理由がある場合
② 労務提供先等に公益通報をすれば当該通報対象事実に係る証拠が隠滅され、偽造され、又は変造されるおそれがあると信ずるに足りる相当の理由がある場合
③ 労務提供先等から労務提供先等、行政機関等に対する公益通報をしないことを正当な理由がなくて要求された場合
④ 書面により勤務先等に対する公益通報をした日から20日を経過しても、当該通報対象事実について、当該労務提供先等から調査を行う旨の通知がない場合又は当該労務提供先等が正当な理由がなくて調査を行わない場合
⑤ 個人の生命又は身体に危害が発生し、又は発生する急迫した危険があると信ずるに足りる相当の理由がある場合

 公益通報者保護法が保護の対象とならない内部告発についても、言論表現の自由との関係で保護されることがあります。
① 内部告発事実(根幹的部分)が真実ないしは原告が真実と信ずるにつき相当の理由があるか否か(「真実ないし真実相当性」)
② その目的が公益性を有しているか否か(「目的の公益性」)
③ 労働者が企業内で不正行為の是正に努力したものの改善されないなど手段・態様が目的達成のために必要かつ相当なものであるか否か(「手段・態様の相当性」)
を総合考慮して、当該内部告発が正当と認められる場合には、仮にその告発事実が誠実義務等を定めた就業規則の規定に違反する場合であっても、その違法性は阻却されるとする裁判例があります(学校法人田中千代学園事件東京地裁平成23年1月28日判決)。

 公益通報者保護法の適用がない場合であっても、正当な内部告発を理由とする懲戒処分等は無効となり、正当な内部告発に対する注意・指導については不当なものと評価されることになります。
 場合によっては、これらが不法行為法上において違法と評価されるリスクも生じかねません。

 内部告発が正当なものとはいえなかったとしても、出向命令権濫用法理(労働契約法14条)、懲戒権濫用法理(同法15条)、解雇権濫用法理(同法16条)が適用されるため、直ちに出向命令、懲戒処分、解雇が有効となるわけではないことには注意が必要です。
 原則どおり、これらの法理の有効要件を満たすか検討する必要があります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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