問題社員132 整理整頓が苦手。

動画解説

本記事の内容は、代表弁護士 藤田進太郎が動画でも解説しています。「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)では、問題社員対応の実務を継続的に配信しています。

この記事の結論
1

整理整頓ができない原因は怠慢ではなく能力特性による適性の問題である場合が多く、抽象的な注意ではなく具体的な行動指示と仕組み化による改善が有効である

「意識を変えろ」という指導では改善せず、基準の具体化とマニュアル整備が属人化の防止にもつながります。

2

改善が見られない場合は配置転換、それでも困難な場合は段階的に懲戒処分・退職勧奨を検討する

整理整頓の不備が直ちに重い処分の理由になるわけではなく、具体的事実と段階的指導の記録が判断の基礎になります。

 整理整頓が苦手な社員の問題は、単に「机が散らかっている」という表面的な話ではありません。業務効率、組織運営、法的リスクにまで波及する可能性のある経営課題です。

 本記事では、整理整頓が苦手な社員への対応について、会社経営者がどのような順序で判断すべきかを解説します。

01整理整頓が苦手な社員が経営に与えるリスクと、放置してはいけない理由

 どこに何があるのか分からない状態では資料を探すだけで時間がかかり、生産性が低下します。古いデータの参照や最新版の見落としといったミスも起こりやすく、共有フォルダや書類の保管場所が不明確な状態が続けば、属人化が進み「その人しか分からない状態」が固定化することで、退職や長期離脱の際に重大な業務停滞を招きます。書類の誤保管やデータ管理の不備が情報漏えいや契約トラブルに発展すれば、コンプライアンス問題へ拡大する可能性もあります。

 本人が一定の成果を出している場合、「問題ないのではないか」と考えたくなりますが、放置は避けるべきです。属人化の進行、組織全体の効率低下、将来的な品質リスクという構造的な問題が、成果の陰に隠れているためです。「成果さえ出せば整理整頓は不要」という空気が広がれば組織全体の規律が緩み、コンプライアンス全体が弱体化するおそれもあります。直ちに厳しい処分を科す必要はありませんが、業務標準の整備や共有ルールの徹底といった基本的対策は講じるべきです。

02原因は「怠慢」ではなく適性の問題か|効果的な注意指導の方法

 整理整頓ができない社員に対して「やる気がない」と短絡的に評価しないことが重要です。繰り返し指導しても改善しない場合、情報を頭の中で管理する傾向が強い、処理スピードを優先する、細部より全体像を重視するといった特性を持つ本人にとって、それがすでに“標準”になっている可能性があります。「できる人の基準」で指導すると空回りしやすく、能力不足を強く責め続けると本人が強いストレスを感じ、適応障害などの診断書が提出され労務対応が難しくなることもあります。短期間で改善するなら意識の問題、具体的指示を重ねても変化が乏しいなら適性の問題である可能性が高いと整理してください。

 効果的な対応は、抽象的な注意ではなく具体的な行動指示です。どの書類をどこに保管するのか、データはどのフォルダ階層に保存するのかといった基準を具体化し、実際の職場環境で現物を見ながら説明する実演型の指導が有効です。本人にその場でやらせて確認し、できていなければどこが基準とずれているのかを具体的に伝えます。「自分で考えなさい」という指導は実質的に放置と同じであり、人格否定に近い発言はハラスメント問題へ発展する危険があります。指導の目的は「改善させること」であり、「叱ること」ではない点を意識してください。

03実演・具体指示・業務命令の出し方と、マニュアル整備による属人化防止

 口頭注意だけで改善しない場合、実物や実データを前にして「何を」「どの順番で」「どの状態まで」整えるのかを明確に示す実演を伴う具体指示を積み重ねます。一定水準が必要な業務であれば手順や保存形式をルール化し、それでも守られない場合には業務命令として明確に指示を出すことを検討しますが、業務命令は内容が曖昧であったり過度に抽象的であったりすると後に無効と評価される可能性があるため、求める行為、期限、守られなかった場合の扱いを明確に整理する必要があります。口頭指導の日時、内容、本人の反応、改善状況を記録しておくことも重要であり、口頭指導 → 実演指導 → 具体的業務命令 → 書面注意 → 懲戒検討という段階的対応が、合理性と相当性を担保します。

 整理整頓の問題を根本的に解決するために有効なのがマニュアル整備です。ここでいうマニュアルとは、現場で実際に守られる実務基準であり、完璧を目指す必要はありません。まずはA4一枚程度でも構わないので、データの保存先ルール、書類の保管場所、不要書類の廃棄基準、机上に置いてよい物の範囲といった、自社の実情に即した具体的事項を明文化することから始めます。マニュアルは作って終わりではなく、定期的な確認や違反時の指導ルールと組み合わせることで実効性が生まれ、「誰がやっても一定水準を保てる状態を作ること」が属人化を防ぐ分岐点になります。

04懲戒処分を検討する際の法的留意点と、配置転換という選択肢

 整理整頓が苦手であること自体が直ちに懲戒理由になるわけではなく、懲戒処分には就業規則上の根拠と処分の合理性・相当性が必要です。単に机が散らかっているという程度であれば懲戒は過重と判断される可能性が高い一方、重大な業務ミスの繰り返しや情報管理上の危険、業務命令違反があれば評価は変わります。①具体的事実の特定、②段階的指導の有無、③本人の帰責性の程度という三点を整理し、能力特性に起因している場合には非難の程度を慎重に検討する必要があります。処分は「争われた場合に合理性を説明できること」を重視し、戒告・譴責・減給・出勤停止といった段階に応じた選択を行ってください。

 注意指導やマニュアル整備を行っても改善しない場合、検討すべきなのが配置転換です。「直らない=やる気がない」と短絡的に結論づけず、細部管理や書類整理を多く含む業務が苦手でも、対人折衝や企画立案など別の分野では能力を発揮できるケースは少なくありません。現在の業務が整理整頓能力を強く要求する構造なのかを分析し、社内に適合可能性のあるポジションを検討します。配置転換は懲戒とは異なり、業務上の必要性と合理性があれば有効と評価されやすい対応であるため、直ちに退職や解雇を検討する前に社内での活用可能性を探ることが実務的には合理的です。

05退職勧奨・解雇を検討すべきケースと、会社経営者が取るべき判断基準

 注意指導、マニュアル整備、配置転換といった対応を尽くしても改善が見込めない場合、退職勧奨や解雇を検討することになります。退職勧奨は合意によって労働契約を終了させる方法であり、「辞めなければ解雇する」と断定的に迫る、長時間執拗に説得するといった行為は退職強要と評価される危険があります。これまでの指導経緯、改善が見られなかった事実、業務への具体的支障を整理したうえで冷静に説明し、検討期間を与えることが重要です。合意に至らず普通解雇を検討する場合、能力不足を理由とする解雇は容易ではなく、相当程度の業務支障、十分な教育・配置転換、それでも改善見込みがないことが求められます。

 整理整頓が苦手な社員への対応は、個別指導の問題に見えて経営判断そのものです。十分な教育機会を与えたか、配置や業務設計の見直しを検討したか、その上でなお組織に与える影響が許容範囲かという三点を確認し、この順序を踏まずに結論だけを急ぐと紛争リスクが高まります。周囲の社員が疲弊していないか、突発的なパワハラ発言が生まれる環境になっていないかにも留意し、会社全体の持続可能性を高める判断を積み重ねてください。判断に迷う場合は、会社側専門の弁護士にご相談ください。

06よくある質問(FAQ)

Q. 整理整頓ができないことを理由に、給与をカットすることはできますか。

整理整頓の不備自体を理由とした直接的な給与カットは、労働基準法上の問題が生じる可能性が高いです。ただし、業務効率の低下が人事評価に反映され、その結果として昇給停止や賞与の減額が行われることは、評価制度の合理性の範囲内で認められ得ます。懲戒処分としての「減給」を行うには、就業規則の根拠と相当な理由、法的限度額の遵守が必要です。

Q. 整理整頓の指導を毎日行うことはパワハラになりますか。

業務上の必要性に基づき、適切な態様で行われる指導であれば、毎日であっても直ちにパワハラにはなりません。しかし、大声で怒鳴る、人格を否定する、見せしめのように全員の前で叱責する、過度な長時間にわたる指導などはパワハラと評価されるリスクがあります。具体的かつ冷静な「業務上の指示」に徹することが重要です。

Q. 共有フォルダの整理ルールを勝手に変える社員にはどう対応すべきですか。

まずは会社が定めた「運用ルール」をマニュアル化し、周知徹底してください。そのうえで、ルールに反する行為があれば「業務命令違反」として具体的に注意します。独断での変更が業務に支障をきたしている事実を指摘し、改善されない場合は段階的な懲戒処分の対象となり得ることを説明してください。

経営上のポイント 整理整頓ができない原因は怠慢ではなく能力特性による適性の問題である場合が多く、具体的な行動指示と仕組み化による改善をまず試みてください。マニュアル整備で属人化を防ぎつつ、改善が見られない場合は配置転換、それでも困難な場合は段階的に懲戒処分・退職勧奨を検討します。具体的な事情に応じて、実務で活用いただける方針をご案内します。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。業務品質・属人化に関するお悩みがございましたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月9日


Return to Top ▲Return to Top ▲