問題社員132 整理整頓が苦手。

動画解説

 

1. 整理整頓が苦手な社員が会社経営に与えるリスク

 整理整頓が苦手な社員の問題は、単に「机が散らかっている」という表面的な話ではありません。会社経営者の視点で見た場合、業務効率、組織運営、法的リスクにまで波及する可能性のある経営課題です。

 まず最も分かりやすいのは、業務効率の低下です。どこに何があるのか分からない状態では、資料やデータを探すだけで時間がかかります。結果として作業時間が伸び、生産性が下がります。本人が結果を出しているように見えても、裏で余計な時間が発生している可能性は否定できません。

 さらに問題なのは、ミスの増加です。整理整頓が不十分な環境では、古いデータを参照してしまう、最新版を見落とす、備品の不足に気づかないといった事態が起こりやすくなります。これは単なる性格の問題ではなく、業務品質に直結する問題です。

 また、他の社員への悪影響も看過できません。共有フォルダが乱雑、書類の保管場所が不明確、備品の所在が曖昧といった状況が続けば、組織全体の作業効率が下がります。属人化が進み、「その人しか分からない状態」が固定化すると、退職や長期離脱が発生した際に重大な業務停滞を招きます。

 会社経営者として特に警戒すべきは、情報管理リスクです。書類の誤保管やデータ管理の不備が、情報漏えいや契約トラブルに発展することもあります。整理整頓の問題が、コンプライアンス問題に拡大する可能性があるということです。

 さらに、指導が長期化すると、周囲の社員のストレスが増大します。何度言っても改善しない状況が続けば、不満が蓄積し、組織の雰囲気が悪化します。場合によっては感情的な指導が生まれ、ハラスメント問題へと発展する危険性もあります。

 重要なのは、「本人が困っていないから問題ない」と考えないことです。整理整頓の問題は、個人完結の問題ではなく、組織全体に波及する構造的問題です。

 会社経営者が守るべきは、特定の社員のスタイルではなく、組織全体の安定性と持続性です。整理整頓の問題を軽視すると、気づかないうちに業務効率の低下、属人化の進行、リスク管理の甘さという形で経営に跳ね返ってきます。

 整理整頓が苦手という一見小さな問題も、経営視点で捉え直すことが不可欠です。放置するか、早期に構造的対策を講じるかで、将来の負担は大きく変わります。

2. 結果を出している場合でも放置してはいけない理由

 整理整頓が苦手であっても、本人が一定の成果を出している場合、「問題ないのではないか」と考える会社経営者は少なくありません。実際、「結果がすべて」という考え方を取る企業も存在します。

 しかし、会社経営者の視点では、それでも放置すべきではありません。

 第一に、属人化の進行です。整理整頓ができていない環境では、業務情報や資料の所在が本人の頭の中にしか存在しない状態になりがちです。本人は把握していても、他の社員がすぐにアクセスできない構造は、組織として極めて脆弱です。退職、長期休職、急病などが発生した瞬間に業務が止まります。

 第二に、組織全体の効率低下です。共有フォルダが乱雑、書類の保管ルールが曖昧、備品管理が不明確といった状態は、他の社員に余計な負担をかけます。本人が成果を出していても、周囲が無意識のうちに時間と労力を消耗している可能性があります。

 第三に、将来的な品質リスクです。今は偶然ミスが顕在化していないだけで、管理が不十分な状態は常に事故の温床です。重要データの誤削除、契約書の紛失、情報漏えいなどに発展すれば、企業信用は一気に損なわれます。

 さらに見逃せないのは、組織文化への影響です。「成果さえ出せば整理整頓は不要」という空気が広がれば、全体の規律が緩みます。ルールの遵守が軽視される組織は、やがてコンプライアンス全体が弱体化します。

 会社経営者として考えるべきは、「今困っていないか」ではなく、「将来リスクが顕在化しないか」です。目に見える業績だけで判断すると、構造的な問題を見落とします。

 もちろん、直ちに厳しい処分を科す必要はありません。しかし、少なくとも業務標準の整備や共有ルールの徹底といった基本的対策は講じるべきです。

 整理整頓の問題は、個人の机の上の問題ではなく、組織の持続可能性の問題です。結果を出しているからといって放置することは、将来の経営リスクを積み上げることに等しいと認識すべきです。

3. 整理整頓できない原因は「怠慢」ではなく適性の問題か

 整理整頓ができない社員に対して、会社経営者が最も注意すべきなのは、「やる気がない」「怠けている」と短絡的に評価しないことです。実務上、多くのケースで問題の本質は怠慢ではなく、能力特性や適性の問題にあります。

 もちろん、忙しさを理由に一時的に散らかっているだけであれば、軽い注意で改善します。しかし、繰り返し指導しても改善しない場合、その社員にとっての“普通のやり方”が既にその状態である可能性が高いのです。

 つまり、本人は真面目に仕事をしているつもりでも、整理整頓の基準や優先順位の置き方が他の社員と大きく異なっていることがあります。

 例えば、

 情報を頭の中で管理する傾向が強いタイプ、

 視覚的整理よりも処理スピードを優先するタイプ、

 細部より全体像を重視する思考傾向のタイプ、

こうした特性を持つ人は、一般的な「整っている状態」を自然には作れないことがあります。

 ここで重要なのは、「できる人の基準」で指導しないことです。

 会社経営者自身や優秀な社員の基準で「これくらい言えば分かるはずだ」と考えてしまうと、指導は空回りします。

 整理整頓が苦手な社員は、自分のやり方で仕事をすると自然に散らかるのです。その状態が本人にとっての“標準”です。したがって、「意識を変えろ」「自分で考えろ」という抽象的な指示では改善しません。

 さらに注意すべきなのは、能力不足を強く責め続けることの危険性です。改善できないことを繰り返し指摘され続ければ、本人は強いストレスを感じます。場合によっては適応障害などの診断書が提出され、労務対応が一段と難しくなることもあります。

 会社経営者としては、「怠慢なのか」「構造的に難しいのか」を見極める必要があります。短期間で改善するなら意識の問題、具体的指示を重ねても変化が乏しいなら適性の問題である可能性が高いと整理できます。

 原因を誤ると、対策も誤ります。

 怠慢ではなく適性の問題であれば、必要なのは叱責ではなく、具体的な行動設計や業務内容の見直しです。

 整理整頓の問題を人格の問題にしてしまうと、組織内に不要な対立を生みます。会社経営者としては、感情ではなく構造で捉える姿勢が求められます。

4. 効果的な注意指導の方法|抽象論は通用しない

 整理整頓が苦手な社員に対して会社経営者が取るべき対応は、抽象的な注意ではなく、具体的な行動指示です。「きちんと片付けてください」「整理整頓を意識してください」といった表現では、ほとんどの場合改善しません。

 なぜなら、本人にとってはすでに「普通にやっている」状態だからです。何が足りないのか、どこが基準に達していないのかが明確でなければ、行動は変わりません。

 まず重要なのは、基準を具体化することです。

 どの書類をどこに保管するのか。

 データはどのフォルダ階層に保存するのか。

 机の上には何を置いてよいのか。

 こうした点を曖昧にせず、具体的に示す必要があります。

 次に有効なのが、実演型の指導です。会議室で口頭説明するだけではなく、実際の職場環境で現物を見ながら説明します。「ここはこう分ける」「これは必ずこの箱に戻す」と、その場で見せることが効果的です。

 さらに、本人にその場でやらせて確認することも重要です。説明だけで終わらせず、実際に整理させ、その結果をチェックします。できていなければ、どこが基準とずれているのかを具体的に伝えます。

 ここで絶対に避けるべきなのは、「自分で考えなさい」という指導です。自分で考えてできるのであれば、すでにできています。抽象的な自己判断に委ねることは、実質的に放置と同じです。

 また、指導の際には感情を排除することが不可欠です。「なぜこんなこともできないのか」といった人格否定に近い発言は、改善に寄与しないばかりか、ハラスメント問題へ発展する危険があります。

 会社経営者としては、「改善させること」が目的であり、「叱ること」が目的ではありません。指導の目的を見失わないことが重要です。

 一定期間、具体的指示と確認を繰り返しても改善が乏しい場合には、その原因を再検討する段階に入ります。指導不足なのか、適性の問題なのかを冷静に見極める必要があります。

 注意指導は感覚ではなく設計です。

 どの行動を変えさせたいのかを明確にし、その行動を具体化し、確認し、定着させる。このプロセスを経営判断として実行することが求められます。

5. 実演・具体指示・業務命令の出し方の実務ポイント

 整理整頓が苦手な社員に対する指導が口頭注意だけで改善しない場合、会社経営者としては、より踏み込んだ具体的措置を検討する段階に入ります。ただし、その方法を誤ると、かえって紛争リスクを高めるため注意が必要です。

 まず、実演を伴う具体指示を積み重ねることが基本です。実物や実データを前にして、「何を」「どの順番で」「どの状態まで」整えるのかを明確に示します。抽象的な理想論ではなく、現場基準での具体的完成形を共有することが重要です。

 次に、ルール化です。一定水準が必要な業務であれば、「必ずこの手順で行う」「この形式で保存する」といった明文化を行います。ここで初めて、守るべき基準が客観化されます。

 それでも守られない場合、業務命令という形で明確に指示を出すことを検討します。ただし、ここは慎重な判断が必要です。業務命令は法的効力を持つため、内容が曖昧であったり、過度に抽象的であったりすると、後に無効と評価される可能性があります。

 業務命令を出す場合には、

 どの行為を求めるのか、

 いつまでにどの状態を実現するのか、

 守られなかった場合にどのような扱いになるのか、

を明確に整理する必要があります。

 さらに、指導履歴を残しておくことも不可欠です。口頭注意の日時、内容、本人の反応、改善状況などを簡潔に記録しておきます。これは後に懲戒処分や解雇を検討する際の重要な基礎資料になります。

 注意すべきなのは、いきなり形式的な厳重注意書や懲戒処分に進まないことです。整理整頓の問題が能力特性に起因している場合、直ちに懲戒へ進むと「処分が重すぎる」と判断される可能性があります。

 会社経営者としては、段階的対応が原則です。

 口頭指導 → 実演指導 → 具体的業務命令 → 書面注意 → 懲戒検討

という流れを踏むことで、合理性と相当性を担保できます。

 感情に任せて一足飛びに処分へ進むと、紛争リスクは一気に高まります。整理整頓の問題は小さく見えて、対応を誤れば大きな労務トラブルに発展しかねません。

 実務対応は常に「後から説明できるか」という視点で設計することが、会社経営者に求められる冷静な判断です。

6. マニュアル整備で属人化を防ぐ方法

 整理整頓の問題を根本的に解決するために、会社経営者が必ず検討すべきなのがマニュアル整備です。もっとも、ここでいうマニュアルとは、体裁だけ整った立派な文書ではありません。現場で実際に守られる実務基準のことです。

 整理整頓が苦手な社員の問題は、個人の能力だけでなく、「基準が曖昧であること」によって増幅されます。どこまで整っていれば合格なのかが共有されていない場合、人によって基準がばらつきます。その結果、属人化が進行します。

 属人化が進むと、「その人しか分からない状態」が固定化されます。本人が在籍している間は問題が顕在化しなくても、退職や休職が発生した瞬間に業務が止まります。会社経営者にとって、これは極めて大きな経営リスクです。

 マニュアル整備のポイントは、完璧を目指さないことです。最初から分厚い文書を作ろうとすると、時間ばかりかかり、現場とかけ離れた内容になりがちです。

 まずはA4一枚程度でも構いません。

 「必ず守るべき整理ルール」

 を明文化することから始めます。

 例えば、

 データの保存先ルール、

 書類の保管場所、

 不要書類の廃棄基準、

 机上に置いてよい物の範囲、

といった具体的事項を、実態に即して定めます。

 重要なのは、「一般論」ではなく「自社の実情」に合っていることです。他社のマニュアルを流用しただけの内容では、実務に根付きません。

 さらに、マニュアルは作って終わりではありません。守らせる運用設計が不可欠です。定期的な確認、簡易チェック、違反時の指導ルールなどを組み合わせることで、初めて実効性が生まれます。

 会社経営者としての視点は、「誰がやっても一定水準を保てる状態を作ること」です。能力に差があっても、最低限の整理水準が維持できる仕組みを整えることが、組織としての強さにつながります。

 整理整頓の問題を個人任せにせず、仕組みで管理する。この発想に転換できるかどうかが、属人化を防げるか否かの分岐点になります。

7. 懲戒処分を検討する際の法的留意点

 整理整頓の問題が改善せず、業務に具体的な支障が生じている場合、会社経営者としては懲戒処分を検討せざるを得ない場面もあります。しかし、ここは最も慎重さが求められる局面です。

 まず前提として、整理整頓が苦手であること自体が直ちに懲戒理由になるわけではありません。懲戒処分は制裁ですから、就業規則上の根拠と、処分の合理性・相当性が必要になります。

 重要なのは、「何が問題なのか」を明確にすることです。単に机が散らかっているという程度であれば、懲戒は過重と判断される可能性が高いでしょう。一方で、整理整頓の不備により、重大な業務ミスが繰り返されている、情報管理上の危険が生じている、業務命令に違反している、といった事情があれば評価は変わります。

 会社経営者として整理すべきポイントは三つです。

 第一に、具体的事実の特定です。

 いつ、どのような状態で、どのような業務支障が生じたのかを具体化します。抽象的な「いつも散らかっている」では足りません。

 第二に、段階的指導の有無です。

 口頭注意、具体指導、業務命令、書面注意といった経緯を踏んでいるかどうかが重要です。いきなり懲戒処分に進めば、手続的相当性を欠くと判断される可能性があります。

 第三に、本人の帰責性の程度です。

 能力特性に起因している場合、どこまで非難できるのかは慎重に検討しなければなりません。やろうとしてもできない性質の問題であれば、重い処分は過重評価とされる危険があります。

 懲戒の種類選択も重要です。戒告、譴責、減給、出勤停止など、段階に応じた選択が必要です。整理整頓の問題で直ちに重い処分を科すことは、通常はバランスを欠きます。

 さらに、懲戒処分は将来的な解雇判断にも影響します。適切に段階を踏んでいれば、後の普通解雇の合理性を補強する材料になりますが、不適切な処分は逆に会社側の不利材料となります。

 会社経営者としては、「処分すること」よりも「争われた場合に合理性を説明できること」を重視すべきです。感情的な制裁は最も危険です。

 整理整頓の問題は一見軽微に見えても、懲戒に進む段階では法的リスクが高まります。処分の重さ、順序、表現内容を慎重に設計しなければなりません。

 懲戒は目的ではなく、組織秩序維持の手段です。

 その位置付けを誤らないことが、会社経営者としての重要な判断ポイントです。

8. 改善しない場合の配置転換という選択肢

 具体的な注意指導やマニュアル整備を行っても、整理整頓の問題が改善しない場合、会社経営者として検討すべきなのが配置転換です。ここで重要なのは、「直らない=やる気がない」と短絡的に結論づけないことです。

 整理整頓が苦手な背景には、業務特性との不適合が存在することがあります。細部管理や書類整理を多く含む業務が苦手でも、対人折衝や企画立案など、別の分野では能力を発揮できるケースは少なくありません。

 会社経営者が果たすべき役割は、「誰をどこに配置すれば会社全体として最適か」を判断することです。細かい指導方法は現場に委ねることができても、人事配置の最終判断は経営の根幹です。

 配置転換を検討する際は、まず業務内容を整理します。現在の業務が整理整頓能力を強く要求する構造なのか、それとも別の業務であれば影響が限定的なのかを分析します。そのうえで、社内に適合可能性のあるポジションが存在するかを検討します。

 実務上、配置転換によって問題が大幅に軽減されることは珍しくありません。苦手分野から離れることでストレスが減り、結果的に全体のパフォーマンスが安定することもあります。

 一方で、会社規模が小さく、代替業務が存在しない場合もあります。「この業務のために採用したのに、その業務ができない」という状況であれば、経営判断はより厳しくなります。

 ここで重要なのは、配置転換を単なる救済措置としてではなく、経営合理性に基づく選択肢として位置づけることです。感情的配慮だけで配置を行うと、他の社員とのバランスを崩す危険があります。

 また、配置転換は懲戒とは異なり、原則として業務上の必要性と合理性があれば有効と評価されやすい対応です。したがって、直ちに退職や解雇を検討する前に、まずは社内での活用可能性を探ることが実務的には合理的です。

 会社経営者としては、「教育」「マニュアル」「懲戒」に続く第四の選択肢として、配置転換を冷静に検討してください。適性の不一致を放置するよりも、早期に見直すほうが、組織全体の安定につながります。

9. 退職勧奨・解雇を検討すべきケースとリスク管理

 整理整頓の問題について、注意指導、マニュアル整備、配置転換といった対応を尽くしても改善が見込めない場合、会社経営者としては退職勧奨や解雇を検討せざるを得ない局面に入ります。

 もっとも、この段階は最も紛争リスクが高い場面です。感情的に進めることは絶対に避けなければなりません。

 まず検討すべきは退職勧奨です。退職勧奨とは、会社から退職を提案し、合意によって労働契約を終了させる方法です。双方合意であれば法的安定性は比較的高く、後の紛争リスクも抑えやすくなります。

 ただし、退職勧奨は強要になってはなりません。

 「辞めなければ解雇する」と断定的に迫る、長時間にわたり執拗に説得する、精神的圧力をかける、といった行為は退職強要と評価される危険があります。

 会社経営者としては、これまでの指導経緯、改善が見られなかった事実、業務への具体的支障を整理したうえで、冷静に説明する必要があります。検討期間を与えることも重要です。

 一方、合意に至らない場合、普通解雇を検討することになります。しかし、能力不足を理由とする解雇は容易ではありません。裁判実務では、相当程度の業務支障があり、十分な教育・配置転換を尽くし、それでも改善見込みがないことが求められます。

 整理整頓の問題だけで直ちに解雇が有効と認められるケースは多くありません。問題は、その不備が業務結果にどれだけ重大な影響を及ぼしているかです。

 例えば、

 重大な情報管理事故が繰り返されている、

 業務命令に明確に違反している、

 複数回の書面注意後も改善が全く見られない、

といった事情があれば、評価は変わります。

 会社経営者が常に意識すべきなのは、「争われた場合に説明できるか」という視点です。記録、指導履歴、配置転換の検討経緯などが整理されていなければ、防御は極めて困難になります。

 また、退職や解雇の判断は、本人だけでなく、組織全体へのメッセージにもなります。不合理な対応をすれば、他の社員の信頼を損ないます。

 最終判断は、「感情的に限界だから」ではなく、「経営合理性としてやむを得ない」と言える状態まで整理してから行うべきです。

 退職勧奨や解雇は最終手段です。しかし、適切なプロセスを踏んでいれば、必要な経営判断として実行することは可能です。会社経営者としては、常にリスク管理を前提に設計しながら進めることが不可欠です。

10. 会社経営者が取るべき全体最適の判断基準

 整理整頓が苦手な社員への対応は、個別指導の問題に見えて、実は経営判断そのものです。会社経営者に求められるのは、「その社員をどうするか」ではなく、「会社全体として何が最適か」を判断することです。

 整理整頓の問題を放置すれば、業務効率の低下、属人化の進行、情報管理リスクの増大、周囲のストレス蓄積といった形で、組織全体に波及します。一方で、過度に厳しく対応すれば、本人の精神的負担が増し、ハラスメント問題や紛争へ発展する可能性もあります。

 重要なのは、バランスです。

 教育指導で改善するのであれば、それが最もコストの低い解決策です。マニュアル整備で仕組み化できるなら、組織としての成熟につながります。配置転換で適性が合えば、双方にとって前向きな結果になります。

 しかし、それでも改善が見込めない場合には、退職勧奨や解雇という判断も、経営上やむを得ない選択肢になります。感情ではなく、プロセスを尽くしたかどうかが判断基準です。

 会社経営者が常に確認すべき問いは次の三点です。

 十分な教育機会を与えたか。

 配置や業務設計の見直しを検討したか。

 その上でなお、組織に与える影響は許容範囲か。

 この順序を踏まずに結論だけを急ぐと、紛争リスクが高まります。

 また、忘れてはならないのは、他の社員の存在です。注意指導を続ける中で、周囲が疲弊していないか。ストレスが蓄積し、突発的なパワハラ発言が生まれる環境になっていないか。会社経営者が守るべき対象は、組織全体です。

 整理整頓の問題は一見小さく見えます。しかし、その対応次第で、組織の規律、文化、安定性が左右されます。

 最終的に必要なのは、「誰か一人のための判断」ではなく、「会社全体の持続可能性を高める判断」です。

 会社経営は、常に最適解が一つとは限りません。教育、仕組み化、配置転換、退職対応――複数の選択肢を比較し、法的リスクと経営合理性を踏まえた上で結論を出すことが求められます。

 

最終更新日2026/2/20


弁護士法人四谷麹町法律事務所

〒102-0083 東京都千代田区麹町6丁目2番6
PMO麹町2階

Copyright ©問題社員、労働審判、残業代トラブルの対応、経営労働相談|弁護士法人四谷麹町法律事務所 All Rights Reserved.
Return to Top ▲Return to Top ▲