問題社員112 能力が極端に低く仕事ができない。
目次
動画解説
1. 能力が低く仕事ができない社員は珍しい存在ではない
会社を経営していると、「どう見ても仕事ができない」「何度説明しても理解しない」と感じる社員に直面することは、決して珍しいことではありません。むしろ、一定の規模以上の組織であれば、能力にばらつきが生じるのは自然な現象と言えます。
会社経営者として注意すべきなのは、「能力が低い社員がいること自体」を特別視しすぎないことです。問題は能力の高低そのものではなく、その状態に対して会社としてどのように向き合い、どのような管理を行っているかにあります。感情的に「使えない」「困った社員だ」と捉えてしまうと、対応は場当たり的になり、後々のトラブルにつながりやすくなります。
能力が低い、仕事ができないと感じる社員についても、まずは「なぜそう評価されているのか」「どの業務で、どの点ができていないのか」を冷静に整理する必要があります。会社経営者として重要なのは、問題を個人攻撃の対象にするのではなく、経営と労務管理の課題として捉え直す姿勢です。その視点を持つことが、この問題に適切に対応していくための出発点になります。
2. 「能力不足」とは何か―労働契約との関係
会社経営者が「能力不足」と感じる社員について考える際、まず押さえておくべきなのは、能力不足とは感覚的な評価ではなく、労働契約との関係で整理されるべき概念だという点です。「期待していた水準に達していない」「周囲より仕事が遅い」という印象だけで、直ちに問題社員と位置付けることはできません。
労働契約において社員が負っているのは、「結果を必ず出す義務」ではなく、「契約上予定されている業務に誠実に取り組む義務」です。したがって、会社経営者が求める理想像とズレがあるからといって、直ちに契約違反になるわけではありません。この点を誤解すると、対応を誤りやすくなります。
会社経営者として重要なのは、「その社員は、契約上予定されている業務を、会社が求める水準で遂行できているのか」という視点で整理することです。能力不足を問題として扱うためには、業務内容、求めるレベル、指示や教育の内容が明確になっている必要があります。能力不足とは主観的な不満ではなく、契約関係の中で初めて意味を持つ概念であることを、まず正しく理解しておく必要があります。
3. 日本企業において能力不足の立証が難しい理由
会社経営者が「明らかに仕事ができない」と感じていても、日本の労務実務においては、能力不足を理由に不利な処遇や雇用終了へ直結させることは簡単ではありません。その最大の理由は、能力不足が主観的な評価になりやすく、客観的に立証することが難しい点にあります。
例えば、「仕事が遅い」「理解力が低い」といった評価は、比較対象や基準が曖昧なままでは、単なる印象論と受け取られかねません。本人からすれば、「必要な指示や教育がなかった」「求められている水準が分からなかった」と反論する余地が残ります。この状態では、会社側の判断が一方的だと評価されるリスクが高まります。
会社経営者として重要なのは、「能力が低い」という結論を先に置くのではなく、「どの業務について、どの水準を求め、それに対してどのような指導を行い、それでも改善が見られなかったのか」を説明できる状態を作ることです。能力不足の立証が難しいからこそ、感覚的な評価に頼らず、事実と経過を積み重ねていく姿勢が、後々のトラブルを防ぐために不可欠になります。
4. 「仕事ができない」は評価であり事実ではない
会社経営者が陥りやすい落とし穴の一つが、「仕事ができない」という評価を、そのまま事実として扱ってしまうことです。しかし、この表現はあくまで評価であって、法的にも実務的にも、そのままでは根拠として不十分です。
例えば、「ミスが多い」「判断が遅い」「段取りが悪い」といった指摘があったとしても、それがいつ、どの業務で、どの程度生じているのかが整理されていなければ、単なる印象論にとどまります。本人から見れば、「具体的に何が問題なのか分からない」「急に能力不足と言われても納得できない」という反応になるのは自然です。
会社経営者として重要なのは、評価をそのままぶつけるのではなく、評価の根拠となる事実を切り分けて整理することです。どの業務で、どの指示を出し、どのような結果になったのか。その積み重ねがあって初めて、「この業務については、会社が求める水準に達していない」という説明が可能になります。「仕事ができない」という言葉を使う前に、事実に落とし込めているかを自問することが、この問題に対応するうえでの重要な分岐点になります。
5. 事実に基づく説明がマネジメントの出発点
能力不足の問題に向き合う際、会社経営者が最初に意識すべきなのは、「評価」ではなく「事実」を起点に説明しているかどうかです。「仕事ができない」「期待に応えていない」といった言葉だけでは、本人にとって何を改善すればよいのかが分からず、反発や混乱を招くだけになりがちです。
例えば、「報告が遅い」という評価があるのであれば、「〇月〇日の案件について、報告期限を〇日と指示したが、〇日遅れて報告があった」といった具体的事実に落とし込む必要があります。事実に基づいて説明することで、初めて本人も状況を客観的に理解できるようになります。
会社経営者として重要なのは、「分かってほしい」「察してほしい」という姿勢を捨てることです。事実を一つひとつ積み上げて説明することは手間がかかりますが、この作業を怠ると、後になって指導や配置転換、退職勧奨を行う際に、「聞いていない」「そんな説明は受けていない」と反論されるリスクが高まります。事実に基づく説明こそが、能力不足問題に向き合うマネジメントの出発点であることを、強く意識しておく必要があります。
6. 記録と客観的証拠を残す重要性
能力不足の社員に対応するうえで、会社経営者が軽視しがちなのが、記録と客観的証拠を残すことの重要性です。「何度も指導してきた」「前から問題は分かっていた」と感じていても、それが記録として残っていなければ、後になって会社側の主張を裏付ける材料にはなりません。
例えば、口頭で注意した内容、業務指示の内容、期限、結果、改善が見られなかった事実などは、簡潔でも構いませんので日時とともに残しておくことが重要です。評価シートや面談記録、メールやチャットでのやり取りも、立派な客観的資料になります。
会社経営者として意識すべきなのは、記録は「処分のため」ではなく、「適切に対応してきた経過を示すため」に残すものだという点です。記録があれば、本人に対しても「何が問題で、どの点を改善すべきか」を具体的に説明しやすくなりますし、配置転換や退職勧奨といった判断を行う際にも、その合理性を裏付けることができます。能力不足の問題において、記録と証拠を積み重ねる姿勢こそが、会社経営者自身を守る最も現実的な手段と言えるでしょう。
7. 能力不足社員への教育指導とマイクロマネジメント
能力不足が疑われる社員に対して、会社経営者がまず検討すべきなのは、教育指導によって改善の余地があるのかという点です。ただし、ここでいう教育指導は、「頑張れ」「意識を高めろ」といった抽象的なものでは足りません。業務内容を細かく区切り、何をどの順番で、どの水準まで求めているのかを明確に伝える必要があります。
この段階では、一定程度のマイクロマネジメントもやむを得ません。業務の進め方を細かく確認し、途中経過を報告させ、ズレがあればその場で修正する。通常であれば避けたい管理方法ですが、能力不足の可能性がある社員については、「どこでつまずいているのか」を把握するために必要なプロセスです。
会社経営者として注意すべきなのは、教育指導と感情的な叱責を混同しないことです。指導の目的は、あくまで業務水準に到達できるかどうかを見極めることにあります。その結果、改善が見られればよし、改善が見られなければ次の対応を検討する。その判断材料を集めるという意味でも、教育指導と一定期間のマイクロマネジメントは、能力不足問題に向き合ううえで避けて通れない重要な工程になります。
8. 配置転換・業務変更という現実的対応
教育指導やマイクロマネジメントを一定期間行っても改善が見られない場合、会社経営者として次に検討すべきなのが、配置転換や業務変更です。能力不足の問題は、「本人が悪い」「努力が足りない」という話ではなく、現在の業務内容と本人の適性が合っていない可能性として捉える必要があります。
例えば、判断力やスピードが強く求められる業務でつまずいている社員でも、手順が明確で定型的な業務であれば、安定して遂行できるケースもあります。業務の性質を見直し、「その人にしかできない仕事」ではなく、「その人でも安全にできる仕事」に切り替えることで、トラブルを抑えられる場合もあります。
会社経営者として重要なのは、配置転換を「左遷」や「懲罰」と捉えないことです。あくまで会社全体のリスクを下げ、他の社員への悪影響を防ぐための経営判断です。適性を無視して同じ業務に就かせ続けることの方が、結果として本人にも会社にも負担を強いることになります。配置転換や業務変更は、能力不足問題における現実的かつ重要な選択肢の一つであると理解しておく必要があります。
9. 周囲の社員が消耗するリスクへの配慮
能力不足の社員を長期間同じ業務に置き続けた場合、見落とされがちなのが、周囲の社員が消耗していくリスクです。フォローや修正を繰り返す立場にある社員ほど、「なぜ自分だけが負担を負わなければならないのか」という不満を抱きやすくなります。
この状態が続くと、優秀な社員ほど疲弊し、最悪の場合には離職につながります。能力不足の社員一人を守ろうとした結果、組織全体のパフォーマンスが下がるのであれば、それは経営判断として健全とは言えません。会社経営者としては、「本人への配慮」と同時に、「周囲の社員への配慮」も同じ重さで考える必要があります。
重要なのは、「もう少し様子を見よう」という判断が、誰にどのような影響を与えているのかを可視化することです。周囲の社員の負担が限界に近づいているにもかかわらず放置すれば、職場全体の不満が一気に噴き出す可能性があります。能力不足問題は、当該社員だけの問題ではなく、組織全体の問題であるという視点を、会社経営者として常に持っておくことが重要です。
10. 退職勧奨を検討すべき場面
教育指導やマイクロマネジメント、配置転換といった対応を段階的に行っても、なお業務水準に達せず、周囲への悪影響も解消されない場合、会社経営者としては退職勧奨を検討すべき局面に入ります。ここまで来た段階では、「本人の将来を思って」「情があって」という理由で判断を先送りすることが、かえって問題を深刻化させることもあります。
退職勧奨は、あくまで本人の同意を前提とするものであり、強制や圧力になってはいけません。そのためには、これまでにどのような業務を任せ、どのような指導や配置転換を行い、それでも改善が見られなかったのかを、事実に基づいて丁寧に説明できる状態を作っておく必要があります。
会社経営者として重要なのは、「能力が低いから辞めさせたい」という感情的な発想ではなく、「この会社では安全かつ安定して任せられる業務がない」という整理です。その現実を冷静に伝え、本人に選択の余地を残しながら話を進めることが、無用な紛争を避けるために不可欠です。退職勧奨は最終手段ではありますが、会社と社員双方の将来を考えた現実的な判断である場合も少なくないことを、会社経営者として理解しておく必要があります。
11. 試用期間中の本採用拒否・解雇の考え方
能力不足の問題が、試用期間中に明らかになっている場合、会社経営者として必ず理解しておくべきなのが、本採用拒否や解雇の考え方です。試用期間だからといって、自由に解雇できるわけではありませんが、通常解雇と比べれば、会社側に一定の裁量が認められています。
もっとも、「思っていたより仕事ができなかった」「期待外れだった」といった主観的な理由だけでは、本採用拒否が正当化されるとは限りません。試用期間中であっても、どのような業務を任せ、どのような指導を行い、それでもどの点が水準に達しなかったのかを、事実として説明できる必要があります。
会社経営者として重要なのは、試用期間を「様子を見るだけの期間」にしないことです。具体的な業務を与え、評価の視点を明確にし、改善の機会を与えたうえで判断する。このプロセスを踏んで初めて、本採用拒否や解雇の合理性が担保されます。試用期間中の対応を曖昧にしてしまうと、後になって通常解雇と同じハードルを求められるリスクがある点を、十分に認識しておく必要があります。
12. 能力不足問題における会社経営者の総括判断
能力が低く仕事ができない社員への対応は、会社経営者にとって非常に判断の難しいテーマです。感情的になれば不当な扱いと評価されるおそれがあり、逆に配慮し過ぎれば、組織全体の秩序や生産性が損なわれます。だからこそ重要なのは、一貫して「事実」と「経過」に基づいた対応を積み重ねてきたかどうかです。
業務内容の明確化、具体的な指導、記録の蓄積、教育や配置転換といった段階的な対応を行ったうえで、それでも改善が見られない場合には、「この会社では適切に活かせる業務がない」という結論に至ることもあります。その判断自体は、決して不当なものではありません。
会社経営者として求められるのは、「辞めさせたいかどうか」ではなく、「会社としてやるべきことを尽くしてきたか」という視点です。やるべき対応を積み重ねた結果としての退職勧奨や雇用終了は、経営判断として正当性を持ちます。能力不足の問題から目を背けず、冷静かつ現実的に整理していくことが、会社と社員双方の将来を守る最終的な判断につながると言えるでしょう。
最終更新日2026/2/11

