問題社員113 私生活で刑事事件を起こした。

動画解説

 

1. 私生活の刑事事件と会社の基本スタンス

 社員が私生活において刑事事件を起こしたと聞いたとき、会社経営者としては強い衝撃を受けるのが通常です。「このまま雇用を続けてよいのか」「すぐに処分すべきではないか」といった判断が頭をよぎることも少なくありません。しかし、この場面で最も重要なのは、感情的に動かず、会社としての基本スタンスを冷静に整理することです。

 大前提として、社員の私生活は原則として会社の支配・管理の外にあります。刑事事件を起こしたという事実だけをもって、直ちに会社が何らかの処分を行えるわけではありません。この点を見誤ると、不当な処分として後に大きな法的リスクを抱えることになります。

 一方で、「私生活の問題だから一切関係ない」と切り捨てられるほど単純でもありません。事件の内容や社会的評価、会社との関係性によっては、会社の信用や職場秩序に直接影響を及ぼすケースもあります。会社経営者としては、まず「原則は私生活不干渉」であることを押さえたうえで、どのような場合に例外として会社対応が問題となるのか、その判断軸を冷静に整理することが、この問題への正しい向き合い方の出発点になります。

 

2. 私生活不干渉の原則と例外

 社員が私生活で刑事事件を起こした場合、会社経営者として必ず押さえておくべき原則が、「私生活不干渉の原則」です。労働契約は業務提供を中心とする契約であり、社員の私生活すべてを会社が管理・評価できるわけではありません。この原則を軽視すると、会社の対応が直ちに違法・無効と評価されるリスクがあります。

 そのため、たとえ刑事事件を起こしたとしても、それが業務と無関係であり、会社の信用や職場秩序に影響を及ぼさないのであれば、会社が懲戒処分や解雇に踏み込むことは原則として許されません。「犯罪を起こしたのだから当然に処分できる」という発想は、非常に危険です。

 もっとも、この原則には例外があります。事件の内容が社会的に強い非難を受けるものである場合や、社員の立場・職務内容から会社の名誉や信用に直結する場合には、私生活上の行為であっても会社対応が問題となり得ます。会社経営者として重要なのは、「原則」と「例外」を感覚ではなく、影響の有無という視点で切り分けることです。私生活不干渉の原則を踏まえつつ、どのような場合に例外が認められるのかを冷静に整理することが、この問題に対応するうえでの基礎になります。

3. 会社の社会的評価・名誉信用への影響

 私生活での刑事事件について、会社経営者が次に検討すべきなのが、「会社の社会的評価や名誉信用にどの程度の影響が生じているか」という点です。私生活不干渉の原則があるとはいえ、会社に実害が及んでいる場合まで、何も対応できないわけではありません。

 例えば、事件が報道され、会社名や社員の所属が特定されている場合、取引先や顧客からの問い合わせ、クレーム、契約見直しといった具体的な影響が生じることがあります。また、社員が顧客対応や対外的な立場にある場合には、事件そのものよりも「その人物が会社に在籍していること」自体が、会社の信用を損なう要因となることもあります。

 会社経営者として重要なのは、「世間体が悪い」「印象が悪い」といった感覚論ではなく、実際にどのような影響が出ているのかを整理することです。取引先の反応、社内の混乱、業務への支障など、具体的な事実を積み上げて初めて、会社としての対応を検討する土台が整います。社会的評価や名誉信用への影響が明確であればあるほど、会社対応の必要性と合理性を説明しやすくなるという点を、しっかり押さえておく必要があります。

4. 最初に行うべき事実確認

 社員が私生活で刑事事件を起こしたという情報を得た場合、会社経営者がまず行うべきなのは、処分の検討ではなく事実確認です。噂や断片的な報道だけを前提に動いてしまうと、誤った判断を下すリスクが高まります。

 確認すべきなのは、「いつ、どこで、どのような行為があったのか」「逮捕・勾留・起訴の有無」「現在の身柄状況」など、客観的に把握できる事実です。この段階では、有罪か無罪かを会社が判断する必要はありません。あくまで、現時点で分かっている事実関係を整理することが目的です。

 会社経営者として注意すべきなのは、本人への聞き取りも感情的に行わないことです。問い詰めるような姿勢ではなく、「業務への影響を判断するために必要な確認である」という立場を明確にしたうえで、冷静に事実を確認する必要があります。初動の事実確認が雑であれば、その後の欠勤対応や処分判断のすべてが不安定になります。だからこそ、この段階ではスピードよりも正確さを優先し、会社として把握すべき事実を一つひとつ整理することが不可欠です。

5. 逮捕・勾留で出勤できない場合の整理

 私生活での刑事事件により社員が逮捕・勾留され、物理的に出勤できない状態になった場合、会社経営者としては、感情論ではなく労務管理上の整理を優先する必要があります。この段階では、「悪いことをした社員をどうするか」ではなく、「労務提供ができない状態をどう扱うか」が問題の本質になります。

 逮捕や勾留によって出勤できない場合、原則として労務の提供は不可能です。そのため、この期間を通常勤務として扱うことはできず、欠勤として整理するのが基本になります。有給休暇の扱いについても、本人からの申請がない限り、自動的に充当することはできません。

 会社経営者として重要なのは、出勤できない理由が「刑事事件」であったとしても、特別な処罰的扱いをしないことです。あくまで「労務提供ができない」という事実に基づき、欠勤として整理する。この一貫した姿勢が、その後の休職判断や処分検討の土台になります。逮捕・勾留という状況に引きずられて場当たり的な対応を取らず、就業規則に基づいた淡々とした整理を行うことが、会社経営者としての適切な初動対応と言えるでしょう。

6. 欠勤・普通解雇・休職制度の考え方

 逮捕・勾留によって出勤できない状態が続く場合、会社経営者として次に検討すべきなのが、「欠勤のまま様子を見るのか」「休職制度を使うのか」「普通解雇を検討するのか」という整理です。ここでも重要なのは、処罰感情ではなく、労務提供の可否という観点で判断することです。

 短期間の欠勤であれば、欠勤扱いのまま経過を見ることも考えられます。しかし、勾留が長期化する場合や、いつ復帰できるか見通しが立たない場合には、欠勤のまま放置することは現実的ではありません。このような場合、就業規則に定めがあれば、休職制度の適用を検討することが合理的な選択肢になります。

 一方で、「刑事事件を起こしたから解雇できる」と短絡的に普通解雇へ進むことは危険です。普通解雇が認められるためには、長期にわたり労務提供が不可能であり、雇用を継続することが困難であるという客観的事情が必要になります。会社経営者としては、欠勤・休職・解雇を感情で選ぶのではなく、労務提供の見通しと就業規則を踏まえ、段階的に整理していく姿勢が不可欠です。

7. 起訴休職制度をどう考えるか

 社員が刑事事件で起訴された場合、会社経営者として検討対象になるのが、いわゆる「起訴休職制度」です。就業規則に起訴を理由とする休職規定がある会社では、感情的な処分に走らず、制度に基づいて整理できる点が大きなメリットになります。

 起訴休職の考え方の根底にあるのは、「有罪か無罪かが確定していない段階で、通常業務に就かせ続けることが会社にとって適切か」という視点です。特に、社会的信用が重要な業務や対外的な立場にある社員の場合、起訴されているという事実だけでも、業務遂行や会社評価に支障が生じることがあります。

 会社経営者として注意すべきなのは、起訴休職を懲戒処分の代替として使わないことです。あくまで労務提供の適否や会社への影響を整理するための制度であり、制裁目的で運用すれば後に争われるリスクが高まります。就業規則に根拠があるかを確認したうえで、起訴という客観的事実を前提に淡々と判断することが、実務上の安定した対応につながります。

8. 出社できる場合の適性配置と自宅待機

 私生活で刑事事件を起こした社員が、逮捕・勾留を解かれ、形式的には出社可能な状態にある場合でも、「そのまま元の業務に就かせてよいか」は別問題です。会社経営者としては、出社の可否ではなく、業務への影響と会社のリスクを基準に判断する必要があります。

 事件内容や社会的反響によっては、顧客対応や対外的な業務に就かせることで、会社の信用を損なうおそれがあります。このような場合、業務内容を限定した適性配置や、一定期間の自宅待機を命じる判断も、実務上は検討に値します。自宅待機は懲戒ではなく、業務上の必要性に基づく措置として位置付けることが重要です。

 会社経営者として注意すべきなのは、自宅待機を曖昧なまま続けないことです。期間や目的を明確にせず放置すれば、「実質的な懲戒処分だ」と評価されるリスクがあります。出社可能な状態であっても、会社として任せられる業務があるのか、どのような配置であればリスクを抑えられるのかを冷静に検討し、必要であれば期間・理由を明確にしたうえで適性配置や自宅待機を命じることが、会社経営者としての現実的な対応になります。

9. 懲戒処分・解雇判断の基本構造

 私生活で刑事事件を起こした社員について、会社経営者が最も慎重になるべきなのが、懲戒処分や解雇の判断です。「犯罪を起こしたのだから処分できるはずだ」という直感的な発想で進めてしまうと、後に処分無効と評価されるリスクが高くなります。

 懲戒処分や解雇が有効と認められるためには、私生活上の行為であっても、それが会社の秩序、名誉信用、業務遂行に具体的な悪影響を及ぼしている必要があります。事件の重大性だけでなく、社員の職務内容、社会的立場、会社との関連性を総合的に考慮することが不可欠です。

 会社経営者として重要なのは、「処分できるかどうか」ではなく、「その処分が客観的に合理的で、社会的に相当と言えるか」という視点です。事実確認、影響の整理、これまでの対応経過を積み上げたうえで判断しなければ、重い処分ほどリスクが高まります。懲戒処分や解雇は最終手段であり、感情的な制裁ではなく、あくまで経営判断として位置付ける必要があります。

10. 処分の重さを左右する主な考慮要素

 私生活で刑事事件を起こした社員に対して、どの程度の処分が相当なのかを判断する際、会社経営者は複数の要素を総合的に考慮する必要があります。単に「犯罪の内容が重いか軽いか」だけで決めてしまうと、判断を誤るおそれがあります。

 具体的には、①事件の内容・重大性、②社会的な報道状況や反響、③社員の職務内容や立場、④会社の業種・規模・社会的役割、⑤実際に業務や取引先にどのような影響が出ているか、といった点が重要な判断要素になります。例えば、対外的な信用が強く求められる職務にある社員と、内部業務中心の社員とでは、同じ事件でも会社への影響は大きく異なります。

 会社経営者として特に意識すべきなのは、「会社としてどの点が問題だと考えているのか」を説明できるかどうかです。世論や感情に引きずられた処分は、後に合理性を否定されやすくなります。処分の重さは、会社への具体的影響と業務上の支障を基準に整理し、その判断過程を記録として残しておくことが、トラブルを防ぐうえで不可欠です。

11. 退職金・合意退職の実務対応

 私生活で刑事事件を起こした社員について、懲戒解雇や普通解雇の判断が難しい場合、現実的な選択肢として浮上するのが、合意退職(退職勧奨)という整理です。会社経営者としては、「辞めさせたい」という感情ではなく、「雇用関係をどのように収束させるのが最もリスクが低いか」という視点で考える必要があります。

 合意退職を検討する場合、退職金の扱いは重要な交渉要素になります。就業規則に退職金規程がある場合でも、懲戒解雇に該当しない限り、当然に全額不支給とできるわけではありません。一方で、事件の内容や会社への影響を踏まえ、一定の減額や支給条件を提示したうえで合意を目指すという実務対応は、多くの会社で採られています。

 会社経営者として注意すべきなのは、退職勧奨が強要や圧力と評価されないようにすることです。「辞めなければ不利な処分をする」といった示唆は避け、これまで整理してきた事実や会社としての判断を冷静に説明したうえで、本人の意思決定に委ねる姿勢を保つ必要があります。合意退職は、適切に進めれば紛争を回避できる有効な手段ですが、進め方を誤ると新たなトラブルを生む点を、十分に意識しておく必要があります。

12. 私生活で刑事事件を起こした社員問題の総括判断

 社員が私生活で刑事事件を起こした場合、会社経営者に求められるのは、「厳しく処分すること」ではなく、「会社として何ができ、何をすべきでないか」を冷静に見極めることです。私生活不干渉の原則を無視して感情的に対応すれば、不当処分として大きなリスクを抱える一方、影響を正しく評価せず放置すれば、会社の信用や職場秩序を損なう結果にもなりかねません。

 重要なのは、①事実確認を丁寧に行い、②会社への具体的影響を整理し、③欠勤・休職・配置・処分といった選択肢を段階的に検討してきたかどうかです。このプロセスを踏まずにいきなり懲戒処分や解雇に進むことは、実務上きわめて危険です。

 最終的に、会社として雇用を継続することが難しいと判断する場合であっても、その結論に至るまでの経過を説明できる状態を作っておくことが、会社経営者自身を守る最大のポイントになります。私生活で刑事事件を起こした社員への対応は、単なる道徳判断ではなく、法的リスクと経営リスクを同時に管理する問題です。冷静で一貫した対応こそが、会社を守る最善の判断と言えるでしょう。

 

最終更新日2026/2/11


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