勝手に何日も休んで周りに迷惑をかけている社員を解雇する場合は、正当な理由なく欠勤を続けていることを解雇理由とするのが通常です。
したがって、この解雇の有効性を判断するにあたっては「欠勤」の有無、日数、欠勤の理由等が問題となります。
ここで最初に問題となるのが、「仕事を休みます。」との連絡が、年次有給休暇の取得申請なのか、欠勤の届出なのかという点です。
何年も勤務を続けている社員の場合、年次有給休暇(労基法39条)が何日もたまっていることがあります。
何日も欠勤したことを理由として解雇したところ、年次有給休暇取得の申請をしたのだから欠勤しておらず解雇事由が存在しないとか、欠勤した日はあるにしても年休を取得した日数を差し引けばわずかな欠勤日数なのだからこの程度の欠勤日数で解雇するのは解雇権の濫用(労契法16条)で無効であるといった主張がなされるリスクが残ることになります。
もちろん、所定の用紙を用いて年次有給休暇取得を申請するルールになっているにもかかわらず、単に「休みます。」と連絡しただけでは年次有給休暇取得を請求したとはいえないと解釈すべきという主張にももっともな理由があるところです。
しかし、会社の中には、風邪などで欠勤した場合に、年次有給休暇を使ったことにして欠勤扱いせず、欠勤控除しないのが慣行となっている会社も数多くあるところです。
そのような会社で、年次有給休暇が10日も20日も残っている社員が休むと連絡してきた場合、その連絡には年次有給休暇取得請求の趣旨が含まれていると考えることもできそうです。
また、社員本人が年休を取得していると考えていたのであれば、それが欠勤と評価されることが後から判明したとしても、会社が当該社員の意思確認をそれなりにしていない限り、何ら理由のない欠勤とは悪質性の程度が大きく異なると言わざるを得ません。
事前に書面で申請しない限り年次有給休暇の取得は一切認めないというルールを作成し、現実にそのルールを例外なく適用していて、全ての社員がルールをよく理解している会社であれば話は別かもしれませんが、貴社においてそのような運用は現実的でないというのであれば、別の対処方法を考えた方が賢明と思われます。
私が顧問先企業にお勧めしているアドバイスの中には、「欠勤を理由に何らかの処分をしたいのであれば、まずは年次有給休暇を使い切らせて下さい。」というものがあります。
年次有給休暇が残っていれば、年休取得なのか、欠勤なのかの問題が残りますが、年次有給休暇を使い切らせてしまえば、年休を取得したという主張を完全に封じることができます。
また、会社とトラブルになっている社員の中には、退職すること自体はやぶさかではないが、年次有給休暇を使い切らずに退職してしまうのだけが心残りだ、もったいない、と考えている者も多くいます。
心残りとなっていることを解消してやれば、紛争解決に大きく近づいていくことになりますので、年次有給休暇を使い切らせるというのは、実際上も紛争解決に役に立つことになります。
くれぐれも、「こんな問題社員に年休取得までさせたら、踏んだり蹴ったりで、会社ばかりが一方的に損をすることになるし、迷惑がかかっている他の社員が納得しないから、年休取得を認めるわけにはいかない。」などと考えて、年休取得を妨げるようなことはないようにして下さい。
そのような不合理な対処をしたら、労働審判などにおける解決金の相場が無駄に上がってしまう可能性が高くなります。
具体的なやり方としては、所定の申請用紙を本人宛書留郵便などで郵送し、年次有給休暇の取得なのか、欠勤なのか、明確に記載して返送するよう伝えれば足りますので、難しい手続ではありません。
年次有給休暇が何日も残っている社員であれば、まず間違いなく、年次有給休暇を取得する旨記載して返送してきます。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎