運送業のトラック運転手は従来、自営業者意識が濃厚な傾向があり、トラック運転手のそういった傾向に対応して、運送業の会社経営者は残業代(割増賃金)を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にありました。運送業では、トラック運転手の給料が「1日現場に行って来たら1万○○○○円」といった形で定められている会社が多く、労働者というよりは個人事業主に近い形で労務管理がなされている傾向にあります。昔からそのやり方で問題なくやってきたわけですから、トラック運転手から多額の残業代請求を受けて大きな損失を被らない限り、なかなか制度を変更しようとはしません。簡単に言えば、脇が甘いわけです。トラック運転手から残業代(割増賃金)請求を受けると強い被害者意識を持つ会社経営者が多い傾向にあるのも運送業の特徴です。
他方で、最近では残業代(割増賃金)に関するトラック運転手の意識が急速に変わってきています。おそらく、「○○さんは、弁護士に頼んで○○○万円も残業代を払ってもらったらしい。」などと、トラック運転手同士で情報交換しているうちに、自分も残業代(割増賃金)が欲しくなるトラック運転手が増えてきたものと思われます。運送業では、長距離運転があったり、手待時間が長くなったりしていることが多いことなどから、労働時間が長くなりがちで、残業代(割増賃金)も多額になる傾向にあります。少額の残業代(割増賃金)しか取れないのであれば会社と争っても仕方ありませんが、何百万円といった多額の金銭を取得できるのであれば、会社経営者との関係が悪化したとしても残業代(割増賃金)を取得できた方がいいと考えるトラック運転手が増えるのもやむを得ないところがあります。何しろ労基法で認められた正当な権利を行使しているだけなのですから、「残業代を払わないできた会社が悪い。」と自分を納得させることができますので、良心の呵責も大きくはありません。
運送業でトラック運転手から残業代(割増賃金)請求を受けるリスクが特に高い一番の理由は、運送業の会社経営者が残業代(割増賃金)を支払わなければならないという意識が希薄な傾向にあるのに対し、残業代(割増賃金)を請求すれば多額の残業代(割増賃金)を取得できることを知って残業代(割増賃金)を請求する意欲が高まっているトラック運転手の意識のギャップにあると考えています。実態と形式にギャップがある状態は、残業代(割増賃金)請求の格好のターゲットとなります。残業代(割増賃金)を請求するトラック運転手の立場からすれば、ガードを固めた会社と戦うのは大変ですが、脇が甘い会社であれば、大して難しいことをしなくても簡単に残業代(割増賃金)を取得できてしまいます。
トラック運転手が個人事業主に近い実態があるにもかかわらず、形式的には労基法上の労働者に該当することが多いことから、そのギャップを突かれて多額の残業代(割増賃金)の支払を余儀なくされているというのが実情に合致していると思います。
弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎