問題社員204 着服・横領・手当を不正受給した社員を退職勧奨する際の注意点

動画解説

この記事の要点

まず「解雇ができる状態かどうか」を判断することが最初のステップ。解雇できるなら退職勧奨の難易度は大幅に下がる

解雇できる場合は断られても解雇すればよい。解雇できない・できるか微妙な場合は退職勧奨の進め方が変わる

退職勧奨の基本は「やめなければならない理由を事実ベースで具体的に説明すること」。「横領したから当然だろう」では伝わらない

何円を不正取得したか・どのような行為だったかを具体的に示し、なぜ退職に値するのかを丁寧に説明する

解雇できるか微妙な事案では、退職勧奨の場での発言が録音されていることを前提として話す。「懲戒解雇になるよ」という脅し的な発言は危険

実際には解雇できない状態で「懲戒解雇になる」と言って退職届を取ると、錯誤・脅迫を理由に退職の意思表示を取り消されるリスクがある

退職条件の提示は、解雇できない・できるか微妙な場合でも合理的。在籍させ続けるコストより退職のコストが低い場合がある

悪さをした社員でも、解雇できるかどうかは別の問題。在籍させ続けるより退職条件を払ってやめてもらう方が会社のメリットになる場合がある

1. まず「解雇できるか」を判断する——2つのケースで対応が変わる

(1) 解雇できる場合——退職勧奨は比較的シンプル

着服・横領・手当の不正受給が明らかで、かつ懲戒解雇が有効にできる状況にある場合は、退職勧奨の難易度が大幅に下がります。

「断られたら解雇する」という選択肢が明確にあるため、条件面でも無理をする必要がありません。退職に応じるなら「懲戒解雇にはせず、退職金も通常支給、退職日まで出社不要」という条件で話をまとめることができます。横領が発覚した後に出社を続けることは本人にとっても辛いため、こうした条件は本人にとっても受け入れやすいことが多いです。

この場合も退職届・退職合意書は必ず取ってください。

(2) 解雇できない・微妙な場合——退職条件の提示と慎重な進め方が必要

問題行動があっても、懲戒解雇が有効になるかどうかが微妙な場合があります。例えば、横領の金額が少額だった・本人が認めていない・証拠が弱いなどのケースです。

こうした場合、断られても解雇できないかもしれないという状況で退職勧奨を行うことになります。その際は退職条件の提示が重要になります。

▶ 退職条件を提示することが合理的な理由

「悪さをした人間に条件を払うのか」と思うかもしれません。しかし在籍させ続けることで毎月の給与を払い続けることになります。やらせる仕事がない・周囲の社員が納得できない場合、在籍コストが退職条件より高くなることは十分あります。感情ではなく経営判断として考えてください。

2. 退職勧奨の基本——やめなければならない理由を事実ベースで説明する

いずれのケースでも共通する退職勧奨の基本は、「なぜやめなければならないのかを、具体的な事実に基づいて丁寧に説明すること」です。

「横領したんだから当然でしょう」という言い方では伝わりません。本人が「そんなにひどいことをしたのか」という認識を持っていないことすらあります。不正に取得した金額・行為の内容・なぜそれが退職に値するのかを、具体的に・淡々と・事実ベースで伝えてください。

▶ 事実ベースの説明のポイント

・不正行為の具体的な内容(何を・いつ・どのように)
・不正取得の金額
・なぜこれが重大な問題なのか
・なぜ退職に値するほどの問題なのか
・評価的な言葉(「信頼を裏切った」など)は添える程度にとどめる

感情的な言葉・評価的な言葉よりも、具体的な事実の説明が説得力を持ちます。相手が「確かにそういう行為をした」と認識できる情報を丁寧に積み上げることが、退職の納得感につながります。

3. 最大の落とし穴——「懲戒解雇になる」という発言と録音のリスク

解雇できるか微妙な事案での退職勧奨では、特に深刻なリスクがあります。それが「懲戒解雇になるよ」「懲戒解雇にならないように退職にしてあげる」という発言です。

退職勧奨の場では常に録音されていると思って臨む必要があります。そして録音された発言が後から問題になった場合、最悪のシナリオが起きます。

⚠ 退職の意思表示が取り消されるリスク

実際には解雇が有効にできない状態であるにもかかわらず「懲戒解雇になる」と言って退職届を取った場合、本人から「懲戒解雇になると脅されて退職届を出した(脅迫)」「懲戒解雇になると勘違いしてやめた(錯誤)」という主張で、退職の意思表示を取り消されることがあります。
そうなると、退職は無効となり在籍中として扱われます。働いていない期間の給与を延々と払い続ける義務が生じることになります。

懲戒解雇が実際に有効にできる状況であれば、「このままでは懲戒解雇になりえます」という説明は正当な情報提供として許容される場合があります。しかし解雇できるかどうかが微妙な場合にこの言葉を使うことは非常に危険です。

退職勧奨の発言は、「裁判官や弁護士に聞かれても問題のない言葉かどうか」を基準に選んでください。難しいと感じる場合は、事前に弁護士と話し合いのシミュレーションを行った上で臨むことをお勧めします。

4. まとめ

① 解雇できるかどうかをまず判断する

解雇できる場合とできない(微妙な)場合で退職勧奨の進め方が変わります。まずこの判断を弁護士と行ってください。

② やめなければならない理由を事実ベースで具体的に説明する

不正行為の内容・金額・なぜ退職に値するのかを具体的に伝えてください。評価的な言葉より事実の積み上げが説得力を持ちます。

③ 録音前提で話し、「懲戒解雇になる」という発言は慎重に

解雇できないかもしれない状況での「懲戒解雇になる」という発言は、退職の意思表示を取り消されるリスクがあります。録音されていると思って、裁判官に聞かれても問題のない言葉で話してください。

よくある質問(FAQ)

Q
社員が横領をしました。まず懲戒解雇すべきですか、それとも退職勧奨から始めるべきですか?
A

まず弁護士に相談して「懲戒解雇が有効にできる状況かどうか」を判断することが最初のステップです。解雇できる状況にあれば、退職勧奨で断られても解雇すれば良く、退職勧奨はあくまでスマートな解決手段として使えます。解雇できない・微妙な場合は退職勧奨を慎重に進める必要があります。個別の状況によって対応が大きく変わりますので、早めに弁護士に相談してください。

Q
横領した社員に損害賠償請求と退職勧奨を同時に進めることはできますか?
A

可能ですが、状況に応じた戦略が必要です。退職合意書の中で損害賠償請求の内容を含める形でまとめることもあります。また損害賠償請求は別途進めることもあります。ただし、損害賠償請求を「脅し」に使って退職届を取ることは避けてください。必ず弁護士と相談しながら進めてください。

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弁護士 藤田 進太郎

監修者
弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

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弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日 2026/04/14