問題社員125 厳しい指導に耐えられない。

動画解説

本記事の内容は、代表弁護士 藤田進太郎が動画でも解説しています。「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)では、問題社員対応の実務を継続的に配信しています。

この記事の結論
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厳しい指導は直ちにパワーハラスメントになるわけではなく、業務上の必要性があり方法が社会通念上相当な範囲内であれば適正な指導として認められる

判断基準は本人の主観ではなく、平均的な労働者の感じ方を基準に客観的に評価されます。

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法的にパワハラに該当しない場合でも、個々の社員の適性やストレス耐性への配慮は別途求められる

安全配慮義務の観点から、指導方法の見直しや配置転換の検討が必要になる場合があります。

 業務上どうしても厳しい指導を行わざるを得ない場面は、どの企業にも存在します。そのような指導に対して一部の社員から「パワハラだ」との指摘が出た場合、会社経営者として不安を感じるのは自然なことです。

 本記事では、厳しい指導とパワハラの境界について、会社経営者がどのような基準で判断すべきかを解説します。

01厳しい指導は直ちにパワハラになるのか|業務上必要かつ相当な範囲の判断

 まず確認すべきなのは、厳しい指導がそのまま直ちにパワーハラスメントになるわけではないという点です。法的に問題となるのは、「優越的な関係を背景とした言動」であり、「業務上必要かつ相当な範囲を超えたもの」によって「労働者の就業環境が害される」場合です。客観的に見て業務上必要であり、その方法も社会通念上相当な範囲にとどまっているのであれば、適正な業務指導として許容されます。まず行うべきは「厳しい」という抽象的評価ではなく、どのような言葉を用いたのか、声量や態様、繰り返しの有無、人格否定的な発言の有無を事実ベースで整理することです。

 「業務上必要性」とは、その指導が本当に業務遂行のために必要であったかという問題であり、単なる感情の発散や相手を萎縮させること自体を目的とする言動は、必要性を欠くと評価される可能性があります。一方、重大なミスの防止や安全確保、顧客対応品質の維持など業務の性質上どうしても厳しく指導せざるを得ない場面では、指導自体の必要性は認められることが多いといえます。次に問題となる「相当性」については、必要性があったとしても言い方や態様が社会通念上相当といえる範囲を超えていれば違法と評価される可能性があります。長時間にわたる繰り返しの叱責や、人格を否定する発言、他の社員の前で過度に羞恥を与える態様は、相当性を欠くと判断されやすい傾向にあります。

02「就業環境が害される」の意味と、平均的労働者基準・個人差の問題

 「就業環境が害される」とは、単に「嫌な思いをした」というレベルでは足りません。問題となるのは、その言動によって労働者が身体的または精神的に苦痛を受け、能力の発揮に重大な悪影響が生じるなど、就業する上で看過できない程度の支障が生じたかどうかです。この判断には、「平均的な労働者の感じ方」という基準が用いられ、同様の状況で同じ言動を受けた場合に、社会一般の労働者が就業する上で看過できない支障が生じたと感じるかどうかが判断基準となります。「本人がパワハラだと言っているからパワハラだ」と短絡的に考える必要はありませんが、「他の社員は平気だから問題ない」と即断することも同様に危険です。

 平均的労働者基準による判断であるため、当該社員が主観的に強い苦痛を感じたとしても、それだけで直ちに違法となるわけではありません。もっとも、「他の社員は問題なく働いている」という事実だけで安心すべきではありません。実際には不満を抱えながらも声を上げていない社員がいる可能性があり、「表面上問題が出ていない」ことが必ずしも安全であることを意味するわけではないためです。また、ストレス耐性や受け止め方には個人差があり、客観的には違法でないとしても、特定の社員にとっては過度の負担となる場合があります。「パワハラではない」という結論に至ったとしても、そこで思考を止めず、当該社員にとって適切な対応は何かというマネジメント上の視点をあわせて持つことが重要です。

03指導方法の見直しと、適性・ストレス耐性への配慮

 法的にはパワーハラスメントに該当しないと整理できたとしても、それで検討を終えてよいとは限りません。「昔からこのやり方でやってきた」という考え方は理解できますが、現行の方法が唯一の正解とは限らず、言葉の選び方や伝え方、タイミングを工夫することで受け止め方が大きく変わることがあります。公開の場での叱責ではなく個別面談に切り替える、人格評価ではなく行為の具体的問題点に絞る、改善点とあわせて期待や評価も伝えるといった方法は、指導効果を維持しつつ摩擦を減らす可能性があります。目的は業務改善や成果向上であり、強い口調そのものが目的ではないという点を意識することが重要です。

 厳しい指導が法的にパワーハラスメントに該当しないとしても、当該社員のストレス耐性という観点も検討する必要があります。客観的には業務上必要かつ相当な指導であっても、特定の社員にとっては強い精神的負担となり、体調不良やメンタル不調に発展することもあります。会社は労働者が安全かつ健康に働けるよう配慮する義務を負っており、社員が強いストレスを受けていることを認識しながら何らの対応も取らずに同様の指導を続けた場合、安全配慮義務違反が問われる可能性があります。「法的にはパワハラではなかった」というだけでは十分ではなく、体調変化の兆候を把握し必要な配慮を検討していたかどうかが問われる点に留意が必要です。

04配置転換の検討と、退職という選択肢を検討する際の注意点

 厳しい指導が法的に問題ないと整理できたとしても、当該社員がどうしても適応できない場合、配置転換の可能性を検討することが望まれます。当該業務が本人の性格やストレス耐性に明らかに適していないのであれば、他の業務に変更することで双方にとって合理的な解決となる場合があります。もっとも、すべての企業に十分な配置余地があるわけではなく、中小企業や専門性の高い業務を行う企業では「他に回せる仕事がない」という現実もあります。その場合でも、実際にどの程度の検討を行ったのかという経緯が、後に紛争となった際に大きな意味を持ちます。

 指導方法の見直しや配置転換の可能性を検討したものの、それでもなお当該社員が業務に適応できない場合、最終的に退職という選択肢を検討せざるを得ない場面もあります。ただし、十分な検討や配慮を行わずに退職勧奨を進めれば、後に「退職強要」と評価されるリスクがあります。退職を選択肢とする場合には、会社としてどのような配慮や代替措置を検討したのかを整理し、可能な対応を尽くしたうえで適応が困難であるという経緯を積み重ねることが重要です。退職勧奨を行う場合には、あくまで本人の自由な意思決定であることを明確にし、威圧的な態度や執拗な説得は避ける必要があります。

05コンプライアンスと経営判断を両立させる視点

 厳しい指導がパワハラに該当するかどうかという問題は、会社経営者にとってコンプライアンスと組織運営をどう両立させるかという経営課題です。過度に萎縮し適正な指導ができなくなれば業務品質の低下や組織規律の崩れを招く一方、「うちは問題ない」と根拠なく楽観視することも危険です。会社経営者に求められるのは感覚ではなく基準に基づく判断であり、業務上の必要性と相当性を整理し、就業環境への影響を検討し、必要に応じて指導方法を見直すというプロセスを踏むことで、適正指導とコンプライアンスの両立が可能になります。

 万が一紛争に発展した場合でも、「検討を尽くしていた」という事実は大きな意味を持ちます。裁判や労働審判で問われるのは結果だけでなく判断過程です。厳しい指導は企業運営において不可欠な場面もありますが、それを恐れて放棄することでも、無自覚に続けることでもなく、法的基準を理解したうえで自社にとって最も合理的な運営方法を選択することが、会社経営者に求められる統治判断です。判断に迷う場合は、会社側専門の弁護士にご相談ください。

06よくある質問(FAQ)

Q. 厳しい指導は直ちにパワハラになりますか。

厳しい指導が直ちにパワーハラスメントになるわけではありません。法的には「業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動」により「就業環境が害される」場合にパワハラと判断されます。客観的に見て業務上の必要性があり、方法が社会通念上相当な範囲内であれば、適正な指導として認められます。

Q. 「就業環境が害される」かどうかの判断基準は何ですか。

本人の主観的な「不快感」だけで決まるのではなく、「平均的な労働者の感じ方」を基準に判断されます。同様の状況で同じ言動を受けた場合に、社会一般の労働者が就業する上で看過できない支障が生じたと感じるかどうかが客観的な尺度となります。

Q. 指導に耐えられない社員に対し、法的リスクを抑えた対応はありますか。

パワハラに該当しない場合でも、特定の社員にとって過度な負担となっている場合は、安全配慮義務の観点から注意が必要です。個別面談への切り替えや人格否定を避けるといった指導方法の工夫、適材適所を考慮した配置転換の検討など、段階的かつ具体的な配慮を行うことがリスク低減につながります。

経営上のポイント 厳しい指導は直ちにパワーハラスメントになるわけではなく、業務上の必要性があり方法が社会通念上相当な範囲内であれば適正な指導として認められます。判断基準は平均的な労働者の感じ方であり、本人の主観だけで決まるものではありません。法的にパワハラに該当しない場合でも、個々の社員の適性やストレス耐性への配慮は別途求められるため、指導方法の見直しや配置転換もあわせて検討してください。具体的な事情に応じて、実務で活用いただける方針をご案内します。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。パワハラ・指導方法に関するお悩みがございましたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月9日


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