問題社員105 仕事ができないのに知ったかぶりをする。

動画解説

 

1. 知ったかぶりをする社員が会社にもたらす問題

 仕事ができないにもかかわらず、知ったかぶりをする社員がいると、会社経営者としては非常に扱いづらさを感じるものです。本人は理解しているつもりでいるため、指示を出しても修正が効かず、同じミスを繰り返す傾向が強くなります。その結果、業務の質が上がらないだけでなく、周囲の社員の負担も増えていきます。

 また、知ったかぶりをする社員は、「分からない」と言わないため、教育や指導のスタート地点が見えにくいという問題があります。会社経営者や指導する側としては、どこまで理解していて、どこから理解していないのかが把握できず、無駄な説明や的外れな指導を繰り返してしまうことにもなりがちです。

 さらに厄介なのは、知ったかぶりが続くことで、「教えても無駄だ」「やる気がない社員だ」という評価につながりやすい点です。本来は能力や適性の問題であるにもかかわらず、姿勢や人格の問題として受け取られてしまうと、会社にとっても本人にとっても不幸な結果になりかねません。まずは、知ったかぶりという行動が、会社の業務や組織にどのような悪影響を及ぼしているのかを正しく認識することが、対応を考える第一歩になります。

2. 「知らないことを知らない」状態の危険性

 仕事ができないにもかかわらず知ったかぶりをする社員の多くは、「分かっていない」という自覚そのものが欠けている状態にあります。いわゆる「知らないことを知らない」状態であり、本人の中では理解できていない部分が問題として認識されていません。

 この状態が厄介なのは、本人に学ぼうとする動機が生まれにくい点です。分からないと自覚していなければ、質問をすることも、復習をすることもありません。その結果、同じ説明を何度受けても改善せず、「なぜできないのか本人にも分からない」という悪循環に陥ります。

 会社経営者として注意すべきなのは、この状態を「やる気がない」「態度が悪い」と短絡的に評価してしまうことです。実際には、能力や適性の問題が背景にあり、本人なりに精一杯やっているケースも少なくありません。まずは、本人がどこまで理解していて、どこから理解できていないのかを可視化する必要があります。その前提を欠いたままでは、どれだけ指導しても効果が上がらず、時間と労力だけが消費されてしまいます。

3. 記録化による指導の限界と注意点

 知ったかぶりをする社員への対応として、メールやチャットなどで指示内容や注意点を記録に残す方法を取る会社経営者も少なくありません。何度説明しても同じミスを繰り返す場合、記録を残しておくこと自体は、後から経緯を振り返るうえで一定の意味があります。

 しかし、記録化だけに頼った指導は、教育効果が低くなりがちです。本人から見ると、「証拠集めをされている」「評価を下げるために書いている」と受け取られることもあり、改善に向けた前向きな姿勢を引き出せない場合があります。結果として、気分を害しただけで、行動が変わらないというケースも少なくありません。

 また、知ったかぶりをする社員の場合、面談で何を指摘されたのかを正確に理解できていないこともあります。その状態で記録だけが残ると、「そんな説明は受けていない」「言われた内容と違う」といった認識のズレが生じやすくなります。記録化はあくまで補助的な手段と位置付け、まずは対面での丁寧な指導や確認を重ねることが、会社経営者として押さえるべき重要なポイントです。

4. 知っているなら説明させるという対処法

 知ったかぶりをする社員に対して有効な方法の一つが、「知っているのであれば説明してもらう」という対応です。会社経営者や指導する側が一方的に説明を重ねるのではなく、本人に理解している内容を言葉にしてもらうことで、実際の理解度が明確になります。

 本当に仕事として使えるレベルで理解しているのであれば、他人に説明できるはずです。逆に、説明が曖昧になったり、要点を外したりする場合には、本人が十分に理解できていないことが自然に表面化します。この方法は、「分かっていない」と直接指摘するよりも、本人に気付かせやすい点が大きなメリットです。

 また、このやり方は感情的な対立を避けやすく、教育のスタート地点を共有しやすいという利点もあります。会社経営者としては、相手を追い込むためではなく、理解度を確認し、次にどこを補うべきかを見極めるための手段として活用する意識を持つことが重要です。

5. 知識不足とトレーニング不足の切り分け

 知ったかぶりをする社員が仕事をできない理由は、必ずしも「知識が足りない」ことだけとは限りません。一定の知識は頭に入っているものの、それを実際の業務で使いこなすためのトレーニングが不足しているケースも多く見られます。会社経営者としては、この二つを切り分けて考える視点が重要です。

 知識不足であれば、説明や資料の提供によって改善が見込めます。しかし、知ってはいるものの実行できない場合には、説明を繰り返すだけでは成果につながりません。実際の業務を想定した練習や、手本を見せながらの反復など、身体で覚えさせるトレーニングが必要になります。

 仕事の多くは、本を読んだり話を聞いたりしただけで身につくものではありません。会話の仕方や作業の手順などは、考えなくても自然に動ける状態になるまで訓練が求められます。単に「分かっているはずだ」と決めつけるのではなく、知識と実行力のどこに問題があるのかを見極めたうえで対応することが、会社経営者にとって現実的で効果的な判断と言えるでしょう。

6. 教育しても改善しない場合の考え方

 知ったかぶりをする社員に対して、説明を工夫し、トレーニングも行っているにもかかわらず、いつまで経っても改善が見られないケースは現実に存在します。この段階に入った場合、会社経営者としては「教え方が悪いのではないか」と自分を責め続ける必要はありません。

 重要なのは、一定期間・一定水準の教育指導を行ったかどうかです。場当たり的ではなく、内容を整理し、理解度を確認しながら指導してもなお成果が出ないのであれば、それは能力や適性の問題である可能性が高くなります。ここを曖昧にしたまま指導を続けると、周囲の負担が増えるだけでなく、本人にとっても苦しい状態が長期化します。

 会社経営者としては、「努力すれば必ずできるようになる」という前提に固執し過ぎないことも必要です。改善が見込めないと判断した場合には、次の選択肢を検討する段階に入ったと捉え、冷静に対応方針を切り替えていくことが求められます。

7. 配置転換という現実的な選択肢

 教育やトレーニングを重ねても改善が見られない場合、会社経営者として検討すべき選択肢の一つが配置転換です。現在の業務では力を発揮できていなくても、別の業務に就かせることで、状況が大きく好転するケースは決して珍しくありません。

 人には必ず向き不向きがあります。理解力や処理能力、得意分野は業務内容によって大きく左右されるため、今の仕事が合っていないだけで「使えない社員」と評価してしまうのは早計です。知ったかぶりをしてしまう背景に、業務とのミスマッチがある場合も少なくありません。

 配置転換を検討する際には、「できないこと」を無理に克服させる発想だけでなく、「できることを活かせないか」という視点を持つことが重要です。会社経営者としては、本人の適性と会社の業務内容を照らし合わせ、別の役割を与えることで組織全体の生産性が高まる可能性がないかを、一度立ち止まって考えてみる価値があります。

8. 社内に適職がない場合の判断

 配置転換を検討しても、社内に本人の適性に合う業務が見当たらないというケースもあります。その場合、会社経営者としては「何とか今の仕事を続けさせる」ことだけに固執すべきではありません。無理に合わない業務を続けさせることは、会社にとっても本人にとっても負担が大きくなります。

 知ったかぶりをしながら仕事ができない状態が続けば、業務の質が上がらないだけでなく、周囲の社員がフォローに追われることになります。また、本人自身も「できないことを責められ続ける」状況に置かれ、精神的な負担が蓄積していきます。これは健全な雇用関係とは言えません。

 このような場合には、会社の中で活かすことが難しいという現実を踏まえ、本人の今後のキャリアも含めて整理する視点が必要になります。会社経営者としては、感情論ではなく、組織全体と本人双方の将来を見据えた判断を行うことが求められます。

9. 退職勧奨・解雇を検討する際の注意点

 社内での配置転換も難しく、教育やトレーニングによる改善も見込めない場合、会社経営者としては退職勧奨や解雇といった選択肢を検討せざるを得ない局面に入ります。ただし、ここから先の対応は、感覚や勢いで進めてよいものではありません。

 まず退職勧奨については、あくまで「合意による退職」を目指すものであり、強要や圧力と受け取られる言動は避ける必要があります。条件の提示や説明の仕方によっては、後からトラブルに発展することもありますので、慎重な進め方が求められます。

 解雇については、さらにハードルが高く、客観的で合理的な理由と社会的相当性が必要になります。特に本採用後の解雇は簡単ではなく、試用期間中の本採用拒否であっても、一定の合理性が求められる点は変わりません。この段階に進む場合には、必ず事前に弁護士へ相談し、手続や証拠関係を整理したうえで進めることが、会社経営者自身を守るうえでも不可欠です。

10. 知ったかぶり社員への対応における総括判断

 仕事ができないにもかかわらず知ったかぶりをする社員への対応は、感情的になりやすく、判断を誤りやすいテーマです。しかし、会社経営者として重要なのは、「態度が悪い」「生意気だ」といった印象論で処理するのではなく、能力、理解度、適性という観点から冷静に整理することです。

 まずは、本当に理解していないのか、知識はあるが実行できないのかを見極め、そのうえで教育やトレーニングを工夫する。それでも改善が見込めない場合には、配置転換という選択肢を検討し、それも難しければ、退職勧奨や解雇といった判断に進むことになります。重要なのは、どの段階でも「やるべきことをやった」と説明できる対応を積み重ねておくことです。

 知ったかぶりをする社員の問題は、本人の人格だけに原因があるとは限りません。業務とのミスマッチや能力不足が背景にあることも多く、会社経営者としては、その現実から目を背けず、会社と本人の双方にとって最も現実的な着地点を探る姿勢が求められます。冷静で一貫した判断こそが、組織を守り、無用なトラブルを防ぐ最善の対応と言えるでしょう。

 

最終更新日2026/2/8


弁護士法人四谷麹町法律事務所

〒102-0083 東京都千代田区麹町6丁目2番6
PMO麹町2階

Copyright ©問題社員、労働審判、残業代トラブルの対応、経営労働相談|弁護士法人四谷麹町法律事務所 All Rights Reserved.
Return to Top ▲Return to Top ▲