問題社員48 指示内容が理解できない。
目次
- 動画解説
- 1. 指示内容が理解できない社員が会社経営に与える影響
- 2. 「理解できない」の原因をどう捉えるべきか
- 3. 会社経営者がまず行うべき具体的な教育指導の考え方
- 4. 具体的指示・行動レベルまで落とし込む重要性
- 5. 観察なくして適切な指示はできない
- 6. 教育指導に伴う社内負担と会社経営者の配慮義務
- 7. 指導を続けることによるパワハラリスクへの注意
- 8. 業務適性の観点から配置転換を検討するという選択
- 9. 社内に適した業務がない場合の現実的対応
- 10. 転職・退職勧奨を検討すべきケース
- 11. 試用期間中に判断することの重要性
- 12. 本採用拒否・解雇判断における法的ハードル
- 13. 弁護士に相談しながら進めるべき場面
- 14. 会社経営者としての最終的な判断軸
動画解説
1. 指示内容が理解できない社員が会社経営に与える影響
指示内容が理解できない社員がいる場合、会社の業務運営には少なからず支障が生じます。言われたとおりに仕事が進まなければ、やり直しや確認作業が増え、結果として業務効率は低下します。その影響は当該社員本人にとどまらず、周囲の社員や部署全体に波及していきます。
また、本来であれば通常の指示で業務が回るはずの場面において、特定の社員に対してのみ過度なフォローが必要になると、他の社員の業務時間が圧迫され、不満や疲弊を招く原因にもなります。これは職場環境の悪化につながり、組織全体のパフォーマンスを下げかねません。
さらに、会社経営者自身が現場対応に時間を取られるケースも少なくありません。指示が通らないことによる混乱が続けば、経営判断や事業戦略といった本来注力すべき業務に集中できなくなります。この問題は、単なる個人の能力の問題ではなく、会社経営上の重要な課題として捉える必要があります。
したがって、指示内容が理解できない社員の存在は、放置すれば会社全体の生産性や組織運営に影響を及ぼすものであり、早い段階で適切な対応を検討することが、会社経営者にとって不可欠といえるでしょう。
2. 「理解できない」の原因をどう捉えるべきか
指示内容が理解できない社員がいる場合、つい「本人のやる気がない」「真剣さが足りない」と評価してしまいがちです。しかし、会社経営者としては、そのような感情的な評価に留まらず、原因を冷静に捉える視点が欠かせません。
指示が理解できない背景には、理解力の特性、業務との適性不一致、過去の経験不足、指示内容の抽象度の高さなど、さまざまな要因が考えられます。必ずしも本人の努力不足や怠慢とは限らず、構造的な問題であるケースも少なくありません。
特に注意すべきなのは、「他の社員は理解できているのだから、この社員がおかしい」という見方です。一定の抽象度の指示を理解できる社員がいる一方で、同じ指示では理解が難しい社員が存在するのも事実です。その違いを能力の優劣だけで片付けてしまうと、適切な対応策を見誤ることになります。
会社経営者として重要なのは、問題を個人攻撃的に捉えるのではなく、「なぜ業務が回らないのか」「どこにミスマッチがあるのか」という経営視点で整理することです。この切り分けができて初めて、教育指導、配置転換、あるいは次の判断へと進むことが可能になります。
3. 会社経営者がまず行うべき具体的な教育指導の考え方
指示内容が理解できない社員に対して、会社経営者が最初に検討すべきは「本人を責めること」ではなく、「教育指導の設計を変えること」です。つまり、伝え方・教え方を見直し、業務が回る状態に近づけるために、会社側が取り得る手段を優先的に講じるという発想が出発点になります。
特に重要なのは、指示の抽象度を下げることです。「一般論として正しい説明」や「心構え」だけでは、理解が追いつかない社員には届きません。会社経営者としては、業務の遂行に必要な情報を、より具体的で、誤解の余地が小さい形に落とし込む必要があります。
その際、教育指導は“理想論”ではなく“再現性”で考えるべきです。誰が教えても一定の結果が出るように、手順、判断基準、確認方法を具体化し、可能であれば文書化・テンプレート化していきます。個別対応で属人的に抱え込むほど、負担が増大し、結果的に組織としてのリスクが高まります。
4. 具体的指示・行動レベルまで落とし込む重要性
指示内容が理解できない社員に対しては、「分かるだろう」「普通はこうする」といった前提を捨て、行動レベルまで落とし込んだ指示を出すことが不可欠です。具体的指示とは、「何を」「どの順番で」「どのように」行えばよいのかを明確に示すことです。
抽象的な方針や一般論ではなく、実際の業務場面を前提にした行動手順として示すことで、理解の難易度は大きく下がります。また、言葉による説明だけでなく、実際に目の前でやって見せることも有効です。文章や口頭説明では理解できなくても、具体的な動作を見ることで初めて腑に落ちる社員もいます。
もっとも、このような指示は手間がかかり、会社側の負担が重くなるのも事実です。しかし、曖昧な指示を繰り返して業務が停滞し、トラブルが拡大するよりも、早い段階で具体化する方が、結果的には会社全体の損失を抑えることにつながります。
5. 観察なくして適切な指示はできない
指示内容が理解できない社員に対して、的確な指示を出すためには、本人の実際の行動をよく観察することが前提となります。業務がうまく進まない原因は、頭の中だけで想像していても正確には把握できません。
観察をせずに指示を出そうとすると、どうしても抽象的で一般論的な指示になりがちですが、そのような指示は一定の理解力がある社員でなければ実行できません。会社経営者としては、本人の行動を見ながら「この場面ではこう動く」「この場合はこの手順を取る」という形で、状況別に具体的な指示を積み重ねていく必要があります。
6. 教育指導に伴う社内負担と会社経営者の配慮義務
指示内容が理解できない社員に対する教育指導は、想像以上に社内の負担を増大させます。具体的な指示を出し、行動を確認し、場合によっては付き添って教えるとなると、指導する側の時間と労力は大きく消費されます。これは現場の先輩社員や管理職にとって、決して軽い負担ではありません。
会社経営者としては、実際に業務量を調整する、サポート体制を整えるなど、現実的な措置を講じる必要があります。教育指導の負担を適切にコントロールすることは、現場を守るだけでなく、結果的に会社全体の安定した経営につながる重要な経営判断といえるでしょう。
7. 指導を続けることによるパワハラリスクへの注意
教育指導を継続していく過程では、パワハラリスクが高まりやすい点に注意が必要です。いくら説明しても改善が見られない状況が続くと、指導する側にも苛立ちが募り、言葉が強くなったり、感情的な表現が出てしまうことがあります。しかし、正当な業務指導であっても、言い方や頻度によっては法的に「パワハラ」と評価される可能性があります。
したがって、会社経営者としては、「教育指導を続けること自体がリスクになり得る」という視点を持つことが重要です。改善の見込みが乏しいにもかかわらず、無理に指導を続けるのではなく、配置転換や次の対応策を検討すべき段階に来ていないかを、冷静に見極める必要があります。
8. 業務適性の観点から配置転換を検討するという選択
指示内容が理解できない状況が続き、教育指導を重ねても改善が見られない場合、会社経営者として検討すべき重要な選択肢が配置転換です。人にはそれぞれ向き不向きがあり、業務内容によって求められる能力や特性も異なります。言語による指示理解が求められる業務では成果が出なくても、別の業務では問題なくパフォーマンスを発揮できるケースもあります。
業務内容を変えることで、本人のストレスが軽減され、結果として能力を発揮できるようになることも少なくありません。配置転換は、問題を先送りするための手段ではなく、会社と社員双方にとって合理的な解決策となり得るかどうかを見極めた上で選択すべき対応といえるでしょう。
9. 社内に適した業務がない場合の現実的対応
特に中小企業では、業務の種類自体が限られており、「別の仕事を用意する」ことが難しい場合も多いでしょう。会社経営者として重要なのは、「何とか社内で居場所を作る」ことが常に最善とは限らないと理解することです。
会社にとっても、社員本人にとってもメリットが見込めない状態を無理に維持することが、果たして適切なのかを考えることは、経営判断として避けて通れません。社内に適した業務が見当たらないと判断した場合には、次の段階として、転職や退職勧奨といった選択肢を含めた検討に進むことになります。
10. 転職・退職勧奨を検討すべきケース
無理に雇用を維持し続けたとしても、本人は成果を出せず、周囲の社員はフォローに追われ、会社全体の負担が積み重なっていきます。その結果、職場の雰囲気が悪化し、別の社員の離職やモチベーション低下を招くこともあります。会社経営者としては、一人の問題が組織全体に波及するリスクを見過ごすべきではありません。
退職勧奨を行う場合には、感情的に追い込むのではなく、これまでの経緯や会社としての限界を丁寧に説明し、あくまで合意による退職を目指す姿勢が重要です。転職・退職勧奨は、「辞めさせるための手段」ではなく、会社と社員双方にとってこれ以上の不利益を拡大させないための現実的な選択肢です。
11. 試用期間中に判断することの重要性
試用期間中であれば、会社側も社員側も「本採用を前提とした最終確認の段階」にあるため、業務が合わないという結論について、比較的納得感を得やすい傾向があります。本採用後に同じ判断を下そうとすると、強い反発を招きやすく、深刻なトラブルに発展する可能性が高まります。
「もう少し様子を見よう」と判断を先延ばしにし続けないことが肝要です。試用期間中こそ、教育指導の結果や業務適性を冷静に評価し、結論を出す覚悟が求められます。この期間を有効に活用することが、将来のトラブルを未然に防ぐ重要な経営判断といえるでしょう。
12. 本採用拒否・解雇判断における法的ハードル
本採用拒否は形式上は試用期間満了に伴う判断ですが、法的には「解雇」に該当します。そのため、客観的に合理的な理由と、社会通念上の相当性が求められます。実際には、どのような指導を行ったのか、改善の機会を与えたのか、配置転換などの検討を行ったのかといった裏付け(証拠)が厳密に問われます。
本採用後の解雇となれば、法的ハードルはさらに高くなります。法的リスクを抑えるためにも、試用期間中に適切な評価と判断を行い、記録を残しながら進めることが、現実的かつ安全な対応といえるでしょう。
13. 弁護士に相談しながら進めるべき場面
対応が退職勧奨や本採用拒否、解雇といった判断に近づいてきた場合には、弁護士に相談しながら進めることが強く推奨されます。特に社員本人が配置転換を拒否している場合や、「辞めるつもりはない」と強く主張しているケースでは、会社側の発言一つで不利な立場に追い込まれるリスクがあります。
弁護士の助言を受けながら進めることで、リスクの見落としを防ぎ、退職勧奨における言葉選びや面談の進め方を適切にコントロールすることが可能です。「判断に迷い始めた段階で相談する」ことが、最終的に会社と社員双方の納得感ある解決につながります。
14. 会社経営者としての最終的な判断軸
最終的に求められるのは、経営者としての判断です。重要なのは、「この対応は、会社にとって合理的か」「本人にとって将来的にプラスになり得るか」という二つの軸で考えることです。適性のない業務で苦しみ続けることが、本人の人生にとって本当に良い結果をもたらすのか、冷静に考える必要があります。
一人の社員への対応が、組織全体に影響を与える以上、感情や情だけで判断を先送りすることはできません。「会社がうまく回ること」と「人を大切にすること」の両立を目指しつつ、その時点で最も合理的な選択をすることが、経営者に求められている責任ある姿勢だといえるでしょう。

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎
東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)
日本全国各地の会社経営者の皆様へ
弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。問題社員、労働審判、残業代トラブルでお悩みでしたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。
最終更新日:2026年2月28日

