労働審判手続を申し立てられたら

労働審判の勝負のポイント

 労働審判の勝負のポイントを一言でいうと,「第1回期日までが勝負」です。
 労働審判手続では,申立人は労働審判手続の申立書において,相手方は答弁書において,全ての主張と立証計画を記載して提出し,第1回期日では争点及び証拠の整理をすることが前提とされています。
 平成27年までの統計では,労働審判事件全体の約30%が第1回期日で事実審理を終えており,第2回,第3回期日が開催されないことも珍しくありません。
 つまり,答弁書提出期限までに,どれだけ有効な証拠を集め,充実した答弁書を作成し,第1回期日に備えるかで勝負が決まってきます。

代理人の必要性

 労働審判法は,代理人をつけることを義務付けていませんので,会社が代理人をつけずに対応することは可能です。
 しかし,労働審判手続は,労働関係上の権利義務関係を踏まえて審理され,その手続の中で争点の整理や証拠調べ等が行われ,法的粋組に従った議論や法的な知識経験が必要なことから,民事訴訟と同様に,弁護士を代理人につけることが望ましいといえます。
 平成24年~平成28年の労働審判事件の統計では,申立人,相手方共に,全体の約85%が代理人をつけて対応しています。
 弁護士に代理を依頼する場合,まずは,弁護士に労働審判手続の第1回期日のスケジュールを確保してもらう必要があります。労働審判手続の第1回期日は,特別な事情が無い限り,労働審判手続の申立てから40日以内に指定されます。裁判所から指定された第1回期日を変更することは,準備不足のまま第1回期日が間近に迫っているような場合や,依頼した代理人弁護士の都合がつかない場合であっても,原則として認めてもらえません。
 特定の弁護士に依頼したい場合は,労働審判手続の申立書が会社に届いたら,当該弁護士に連絡し,スケジュールを確保してもらうよう努力すべきでしょう。

期日の変更

 労働審判手続の期日の変更は,顕著な事由がある場合でなければ認められません。なぜなら,労働審判手続において期日の変更を行う場合,当事者双方の他に労働審判員2名の日程調整もしなければならず,他の手続と比べて調整が困難であり,審理の遅延を引き起こしやすいからです。
 「顕著な事由」とは,単に「○○へ出張する」といった理由だけでは認められない可能性が高く,認められやすい例としては,変更を申し立てる側に責任のない急病(診断書などの証明する書類が必要な場合があります。)などが考えられます。
 なお,第1回期日を変更した場合に答弁書の提出期限も変更されるのかについては,充実した答弁書を作成するために必要な準備期間が確保されているか等を考慮して,労働審判委員会が判断します。

答弁書作成のポイント

 労働審判手続では,第1回期日まででほぼ勝負が決まるため,充実した答弁書を作成し提出することは極めて重要です。労働審判手続は訴訟と異なり第1回期日で審理を終えることが多いため,訴訟でみられるような「追って答弁する。」などの形式的な答弁のみが記載された答弁書は許されず,下記の答弁書の記載事項を記載する必要があります。
 労働審判期日に出頭する会社関係者は,労働審判に不慣れなことが多いため,労働審判期日では,緊張して事実を正確に伝えることができなくなりがちです。言いたいことが言えないまま終わってしまうことがないようにするためには,事前に提出する答弁書に言いたいことをしっかり盛り込んでおいて,労働審判の期日に話さなければならないことをできるだけ減らしておくのが,最も効果的だと思います。ただし,不必要にページ数の多い答弁書は作成しないようにしましょう。同じ内容であれば,ページ数の少ない答弁書の方が言いたいことが伝わりやすく,優れているといえます。
 答弁書を裁判所に提出する際は,証拠の写しも提出するのが通常ですが,東京地方裁判所の運用では,労働審判員には答弁書のみが事前に送付され,証拠の写しについては送付されない扱いとなっています。このため,労働審判員は自宅等で証拠と照らし合わせながら答弁書を検討することができず,別件で裁判所に来た際などに証拠を閲覧し,詳細な手控えを取ったりして対応しているようです。また,労働審判官(裁判官)も,限られた時間の中で大量に事件処理を行っているため,答弁書の記載のみからでも,主張内容が明確になるようにする必要があります。
 証拠の中でも特に重要なものについては,証拠と照らし合わせなくても証拠の記載内容が分かるように答弁書に書き込んでおくことをおすすめします。
 答弁書は労働審判委員会を「説得」するものです。労働審判委員会に会社の主張を理解してもらえず不当な結果になってしまった場合は,労働審判委員会を説得することができなかった自分たちに問題があったと受け止めるスタンスでいることが重要です。

答弁書の記載事項

 労働審判手続では,申立人は申立書において,相手方は答弁書において,全ての主張と立証計画を記載して提出し,第1回期日で争点及び証拠の整理をします。
 労働審判手続の答弁書には,実質的な記載事項として,次のものを記載しなければなりません。

①申立書の趣旨に対する答弁
②労働審判手続の申立書に記載された事実に対する認否
③答弁を理由づける具体的な事実
④予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
⑤予想される争点ごとの証拠
⑥当事者間においてされた交渉その他申立てに至る経緯の概要

答弁書の提出期限

 答弁書の提出期限は,第1回期日の1週間前から10日前に設定されることがほとんどです。提出期限は,可能な限り遵守しなければなりません。
 第1回期日間際になって答弁書を提出した場合,労働審判官(裁判官)・労働審判員が答弁書の主張内容を十分に検討することができないため,会社側の主張を理解してもらえなくなるリスクが高くなります。
 相手方(主に使用者側)は,「答弁書の作成に十分な時間が取れないから第1回期日を変更したい」,「主張立証を第2回期日までさせてほしい」ということになりがちですが,第1回期日の変更は原則認められませんので,第1回期日までに全力で準備していく必要があります。
 労働審判手続は,第1回期日までが勝負ですので,弁護士に依頼したのが答弁書提出期限の直前または提出期限経過後の場合であっても,出来る限りの準備をして答弁書を提出するのが原則です。しかし,事件の重要性・複雑性等によっては,期日変更と併せて答弁書の提出期限を変更してもらうことを検討せざるを得ないケースも考えられます。

答弁書の作成に十分な時間が取れない場合

 労働審判手続の第1回期日は,特別の事由がある場合を除き,労働審判手続の申立てがされた日から40日以内の日に指定されます。「特別の事由」とは,やむを得ず期日の指定が遅れた場合,事案が複雑で答弁書作成に時間を要することが見込まれる場合等,申立ての日から40日以内に第1回期日が指定されたのでは十分な準備ができないと見込まれる場合等です。

補充書面

 労働審判手続では,答弁書に記載された相手方の主張に対する反論や,これに対する再反論の主張は,原則として労働審判手続の期日において口頭でするものとされておりますが,例外的に,これを補充する書面(補充書面)を提出することが認められています。
 これは,書面審理に慣れていない労働審判員の便宜や,迅速性の確保を考慮しており,労働審判手続の期日で当事者が口頭で主張を行い,これを聴いた労働審判委員会が争点及び証拠の整理をすることで,短期間で事案の真相に迫ることができるよう考えられたものです。
 もっとも,相手方(主に会社側)は,補充書面を出さないのが通常です。

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