Q66 月額30万円の給与を差し押えられた社員がいる。

1 当該社員から事情を聞く

 業者から会社に対して当該社員宛の電話が架かってくることで,多重債務の事実が判明することが多いとお思います。
 この場合,まずは当該社員から事情を聞くことになりますが,本人が話したくないのにもかかわらず,長時間根掘り葉掘り聴取することは,プライバシー侵害のおそれがありますので,常識的な範囲内で事情を聞くべきです。
 当該社員から返済計画等について相談に乗ることも考えられますが,業者と返済額等について交渉していくことになりますので,弁護士に相談するよう進言するのが良いと考えます。
2 賃金・退職金が差し押えられる範囲
 賃金や退職金は,当該労働者の生活費となるものですので,最低限の生活保障という社会政策的配慮から,その全額を差し押えることは禁止されています(民事執行法152条1項2号)。
 給与は,その4分の3が差押禁止とされていますが,その4分の3に相当する部分が21万円を超えるときは,その額までが差押禁止の部分になります。
 ご質問の社員の場合,給与が28万円以上の者に該当しますので,21万円が差押禁止になり,差し押えられるのは9万円です。
 退職金は,額に関係なく,4分の3に相当する部分が差し押え禁止です。
3 差し押えられた額を支払う相手
 会社は,給与のうち差し押えられた部分を業者に支払うか,または供託することになります(民事執行法156条1項)。
 差し押さえが競合する場合には供託をしなければなりません(同条2項)。
4 賃金・退職金が差し押えられたことを理由に懲戒処分や解雇できるか
 多重債務があり給与が差し押えられたとしても,これは私生活上のトラブルに過ぎません。当該社員がきちんと勤務している限りは,ただちに企業秩序を乱したり,業務遂行を妨げたりするものではありませんので,懲戒処分や解雇はできません。
 もっとも,当該社員が多重債務を理由に仕事がおろそかになっていたり,同僚から借金をして職場でトラブルになっていたりするという事情がある場合には,単なる私生活上のトラブルとは言えなくなります。

 このような事情がある場合は,企業秩序維持の観点から,口頭で注意をすることが考えられ,場合によっては,けん責などの懲戒処分を検討することが考えられます。

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