問題社員84 残業する理由が不明。

動画解説

 

1. 残業する理由が不明な社員に不信感を抱く背景

 仕事量は多くないはずなのに、毎月のように一定時間の残業が発生している社員がいる。このような状況に直面したとき、会社経営者として「なぜこの残業が必要なのか分からない」「もしかして残業代目的ではないのか」といった不信感を抱いてしまうことは、決して珍しいことではありません。

 そもそも、会社経営者がこのような疑念を持ってしまう背景には、「会社として想定している業務量」と「実際に発生している残業時間」との間にズレが生じているという現実があります。業務量の把握ができているつもりであればあるほど、そのズレは違和感として強く意識されやすくなります。

 しかし、この不信感が生じている状態そのものが、会社にとって健全とは言えません。社員に対して疑いの目を向けながら働いてもらう状況は、職場の信頼関係を損ね、結果として生産性や組織の安定性にも悪影響を及ぼします。

 重要なのは、「残業する理由が分からない社員がいる」という現象を、社員個人の問題として片付けてしまわないことです。この違和感の正体は、多くの場合、残業の位置づけや管理のあり方が曖昧になっていることにあります。つまり、問題の本質は社員ではなく、会社側のマネジメントのあり方にあるのです。

 会社経営者が不信感を抱くに至った背景を冷静に整理し、「なぜ理由が分からない状態が生まれているのか」を考えることが、適切な対応への第一歩となります

2. 「残業は例外」という原則を会社経営者が再確認すべき理由

 残業について考える際、会社経営者がまず立ち返るべきなのは、「残業は原則ではなく例外である」という基本構造です。所定労働時間内で業務を終えることが本来の姿であり、残業は業務上やむを得ない場合にのみ、例外的に行われるものです。

 ところが実務の現場では、この原則がいつの間にか曖昧になり、「気づいたら毎月一定時間の残業が発生している」「特に理由を確認しないまま残業代を支払っている」といった状態に陥っている会社も少なくありません。こうした状態こそが、「なぜ残業しているのか分からない」という違和感を生み出す原因になります。

 本来、残業をさせるかどうかを判断するのは会社側です。社員が自由に残業するかどうかを決めるものではなく、会社経営者、あるいはその権限を委ねられた立場の者が、業務の必要性を踏まえて判断すべき事項です。この判断を曖昧にしたまま残業が常態化すると、管理していないのに支払っている、という歪な状態になります。

 「残業は例外である」という前提を見失うと、会社経営者は後になってから「この残業は本当に必要だったのか」「残業代目的ではないのか」と疑念を抱くことになります。しかし、その疑念は、残業を例外として管理してこなかった結果として生じているにすぎません。

 残業の必要性が分からないという状況は、残業を例外として位置づけず、原則と例外の線引きをしてこなかったサインでもあります。会社経営者としては、まずこの原則を明確に認識し直すことが、問題解決の出発点となります。

3. 残業管理が曖昧な会社で起きやすい典型的な問題

 残業管理が曖昧な会社では、「なぜ残業しているのか分からない」という状況が発生しやすくなります。これは偶然ではなく、残業を誰が・どの基準で・どのように判断しているのかが明確でないことによる必然的な結果です。

 特に多いのが、「残業するかどうかは本人に任せている」という状態です。一見すると、社員を信頼し、裁量を与えているようにも見えますが、実際には残業の必要性を会社として確認していないだけ、というケースも少なくありません。その結果、残業が本当に必要なのかどうか、会社経営者自身が把握できなくなります。

 このような状況では、後から残業時間を見て「そんなに仕事は多くないはずなのに」「なぜ毎月これだけ残業しているのか」と疑問や不信感が生じます。しかし、残業を事前にも事後にも管理していない以上、理由が分からなくなるのは当然です。

 さらに問題なのは、社員側も「残業したほうがいいのか」「帰っていいのか」が分からないまま働いている可能性があることです。上司や先輩が残っているから帰りづらい、空気的に残業した方が無難だと感じている、こうした曖昧な判断の積み重ねが、いわゆる“意味のない残業”を生み出します。

 残業管理が曖昧な会社では、会社経営者は社員を疑い、社員は会社の意図を推測しながら行動するという、非常に不健全な関係が生まれがちです。この状態を放置すると、信頼関係が損なわれるだけでなく、無駄な人件費の増加や、将来的な労務トラブルにもつながりかねません。

 「理由が分からない残業」が発生している場合、それは社員の問題ではなく、残業を管理する仕組みが機能していないというサインです。会社経営者としては、この点を正面から受け止める必要があります。

4. 残業を「社員の裁量」に任せることの法的・実務的リスク

 「残業するかどうかは社員の裁量に任せている」という考え方は、一見すると合理的で、社員を信頼した柔軟な運用のように見えます。しかし、会社経営者の立場から見ると、この運用には見過ごせない法的・実務的リスクが潜んでいます。

 まず前提として、残業は会社が命じる、または黙認することによって成立します。社員が自発的に残っていたとしても、会社が業務として把握し、止めていないのであれば、それは会社の管理下にある労働時間と評価されます。「本人の判断でやっている」という説明は、残業代の支払い義務を免れる理由にはなりません。

 また、残業を社員の裁量に任せている状態では、会社経営者自身が「どの業務に、どれだけ時間がかかっているのか」を把握できなくなります。その結果、後になってから残業時間を見て違和感を覚え、「本当に必要だったのか」「残業代目的ではないのか」と疑念を抱くことになります。

 しかし、この疑念は、残業の判断を社員に委ねてきた運用そのものと矛盾しています。裁量を与えている以上、基本的にはその判断を信頼するか、あるいは信頼できないのであれば裁量を与えるべきではありません。中途半端に任せながら疑う、という状態が最もトラブルを生みやすいのです。

 さらに、社員側から見ても、「残業していいのか、帰っていいのか」が分からないまま働くことになります。結果として、空気を読んで残業する、周囲に合わせて帰れない、といった行動が常態化し、会社経営者の意図とは無関係に残業時間が積み上がっていくことになります。

 残業を社員の裁量に任せるという運用は、会社経営者が残業管理から解放されることを意味しません。むしろ、管理しないことによる責任やリスクを引き受けることになる、という点を正しく理解しておく必要があります。

5. 残業代目的を疑う前に会社経営者が取るべき行動

 仕事量から見て必要性が感じられない残業が続くと、会社経営者として「残業代目的なのではないか」と疑念を抱いてしまうことがあります。しかし、その疑いを社員に向ける前に、会社経営者自身が取るべき行動があります。

 まず重要なのは、「なぜその残業が発生しているのか」を事実として把握することです。残業代目的かどうかを推測する前に、どの業務にどれだけ時間がかかっているのか、業務の進め方に無駄や偏りがないかを冷静に確認する必要があります。理由を知らないまま疑うことは、問題解決にはつながりません。

 そのためには、本人から直接事情を聞くことが最も有効です。会議室などで落ち着いた環境を用意し、「どうしてこの業務でこれだけの残業が必要なのか」「所定労働時間内では終わらない理由は何か」を率直に確認してください。この段階では、責める姿勢ではなく、事実確認に徹することが重要です。

 話を聞いた結果、残業の必要性が合理的であれば、その残業は認めるべきですし、逆に翌日対応で足りる、あるいは業務配分の見直しで解消できるのであれば、残業をさせない判断をすれば足ります。重要なのは、会社経営者が判断主体になることです。

 「残業代目的ではないか」と感じる状況の多くは、残業の必要性を確認せず、判断を先送りにしてきた結果として生じています。不信感を抱いたまま放置するよりも、事実を確認し、残業するのか、帰らせるのかを明確に決める方が、はるかに健全です。

 残業代目的かどうかを疑うこと自体が問題なのではありません。その疑念を行動に移さず、曖昧なままにしてしまうことが、会社にとっても社員にとっても不幸な結果を招くのです。

6. 残業の必要性を確認するための具体的な進め方

 残業の理由が分からないという状況を解消するためには、会社経営者が主体となって、残業の必要性を一つひとつ確認していくことが欠かせません。ここで重要なのは、曖昧な印象や感覚ではなく、具体的な事実をもとに判断することです。

 まず行うべきなのは、対象となる社員本人から直接話を聞くことです。形式ばった調査である必要はありませんが、業務の内容、所定労働時間内で終わらない理由、残業中に行っている作業内容などを、順を追って確認してください。「どうして残業しているのか」を本人の言葉で説明してもらうことが第一歩です。

 次に、その説明が業務上合理的かどうかを検討します。突発的な対応が多いのか、業務量が一時的に増えているのか、あるいは業務の進め方に課題があるのか。必要であれば、業務の優先順位や分担の見直しも視野に入れるべきでしょう。

 確認の結果、残業が業務上必要であると判断した場合には、その旨を明確に伝えたうえで、健康を害しない範囲で残業してもらうようにします。一方で、残業の必要性が認められない場合には、「今日は残業せずに帰ってください」とはっきり伝えることが重要です。遠回しな表現や曖昧な態度は、再び同じ問題を生み出します。

 このプロセスで大切なのは、残業するかどうかの最終判断を会社経営者が行うという姿勢を示すことです。確認し、判断し、指示する。この一連の流れを繰り返すことで、「理由が分からない残業」は自然と減っていきます。

 残業の必要性を確認することは、社員を疑うためではありません。会社経営者が責任を持って労働時間を管理するための、当然の行為であると捉えるべきです。

7. 雰囲気や思い込みによる残業を生まないために会社経営者がすべきこと

 残業の理由が分からない職場では、社員が業務の必要性ではなく、周囲の雰囲気や思い込みによって残業してしまうケースが少なくありません。例えば、上司や先輩が残って仕事をしているために、自分だけ先に帰ると変に思われるのではないか、と心配して残っている場合です。

 会社経営者としては、「そんなつもりはなかった」「自由に帰っていいと思っていた」と感じるかもしれません。しかし、会社としての考え方が明確に伝えられていなければ、社員は自分なりに空気を読んで行動するしかなくなります。

 このような状況を防ぐためには、会社経営者が「残業はどういう場合に必要なのか」「上司や先輩が残っていても帰って問題ないのか」といった点を、はっきりと言葉にして伝える必要があります。曖昧なままにしておくと、社員は勝手な思い込みで行動し、その結果、会社経営者が想定していない残業が発生します。

 雰囲気や思い込みによる残業は、社員の性格や意識の問題ではありません。判断基準を明確に示していない会社側の問題です。だからこそ、会社経営者が主体的に方針を示すことが重要になります。

8. 残業するのか、しないのかは会社経営者が決めてはっきり伝える

 残業について問題が生じている場合、多くのケースで共通しているのは、「残業するのか、しないのか」がはっきり決められず、曖昧なままになっているという点です。残業をするかどうかは、本来、働く側が決めることではありません。会社経営者、または会社経営者から管理を任されている立場の者が判断すべき事項です。

 業務上、その日のうちに対応しなければならない事情があるのであれば、「今日は残業が必要です」と伝えて残業させればよいだけですし、特に急ぎでないのであれば、「今日は残業する必要はないので帰ってください」と言えば足ります。どちらかを決めて伝えるだけの、非常にシンプルな話です。

 ところが、残業するかどうかを本人にある程度任せている職場では、「いちいち細かく言わない方がいい」「本人の裁量に任せている」という考えから、判断を明確にしないまま放置されがちです。その結果、社員は「帰っていいのか」「残った方がいいのか」を自分なりに考え、雰囲気や思い込みで行動することになります。

 会社経営者として不信感を抱くほどの状況が生じているのであれば、そのやり方はうまく機能していないと考えるべきです。任せているのであれば信頼する、信頼できないのであれば事情を確認して判断する。このどちらかしかありません。

 残業するかどうかを曖昧にしたまま、「なぜこんな残業が必要なのか分からない」と感じるのは、判断を先送りにしていることの裏返しです。そう感じた時点で、会社経営者が一歩踏み込み、「この場合は残業してください」「この場合は帰ってください」と、はっきり伝えるようにしてください。それだけで、状況は大きく改善します。

9. 残業の問題を社員のせいにしてはいけない理由

 残業の理由が分からない状況が続くと、「社員の意識の問題ではないか」「残業代目的で動いているのではないか」と感じてしまうことがあります。しかし、残業に関する問題を社員個人の責任として捉えてしまうのは、適切ではありません。

 そもそも、残業は社員の権利ではありません。原則として所定労働時間内で業務を終えるのが前提であり、残業は会社が必要と判断した場合に、例外的に行われるものです。にもかかわらず、「なぜ残業しているのか分からない」という状態が生じているのであれば、それは残業させるかどうかを会社側が十分に管理できていないことを意味します。

 社員が残業するかどうかを自分で判断しているように見えたとしても、その前提を作っているのは会社です。判断基準を明確に示さず、残業の必要性を確認しないまま任せてきた結果として、今の状況が生じているにすぎません。

 この段階で、「社員がおかしい」「考え方が間違っている」と捉えてしまうと、問題の本質を見誤ります。残業の理由が分からないという事態は、マネジメントがうまく機能していないサインであり、社員の問題ではなく、会社側の判断と管理の問題です。

 残業に関する責任を社員に押し付けるのではなく、会社経営者が主体的に状況を把握し、残業させるのか、帰らせるのかを決めて伝える。この基本に立ち返ることが、問題解決への近道となります。

10. 残業管理は会社経営者の判断と責任で行うもの

 残業する理由が分からない、という状態は、本来とても不自然なものです。なぜなら、残業は原則ではなく例外であり、必要があると判断した場合にだけ行わせるものだからです。理由が分からないのであれば、残業させなければよいだけですし、必要があるのであれば、その理由を確認すれば足ります。

 それにもかかわらず、「なぜこんな残業が必要なのか分からない」「残業代目的なのではないか」といった不信感が生じているのであれば、それは残業をどう扱うのかという判断を、会社として曖昧にしてきた結果です。任せているつもりでも、管理しないまま放置していれば、いずれ矛盾が表面化します。

 残業するかどうかを社員に任せるというやり方を選ぶのであれば、基本的にはその判断を信頼するしかありません。一方で、不信感を抱くほどの状況になっているのであれば、そのやり方はすでに限界を迎えています。その場合は、事情を確認し、残業させるのか、帰らせるのかを会社経営者が判断するしかありません。

 残業管理は、現場任せにできる細かな問題ではなく、会社経営者の意思決定そのものです。曖昧な状態を続けたまま、社員の行動を疑うことは、会社にとっても社員にとっても健全とは言えません。

 理由の分からない残業や、不信感を抱えたままの関係を続けるよりも、事実を確認し、判断し、はっきり伝える。その責任を会社経営者が引き受けることで、残業に関する問題は必ず整理されていきます。

 


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