問題社員31 ソーシャルメディアに社内情報を書き込む。

 ソーシャルメディアへの不適切な社内情報の書き込みを防止するための事前対応としては、ソーシャルメディアの利用に関するガイドラインを作成し、ガイドラインの遵守義務を就業規則で定めて周知させ、繰り返しガイドライン遵守の重要性を伝えること等が考えられます。

 就業時間内は、社員は職務専念義務を負っているため、書き込みの内容にかかわらず、就業時間内にソーシャルメディアへの書き込みを行わないよう命じることができます。
 また、社員は企業秩序遵守義務を負っているため、書き込みの内容にかかわらず、会社が所有し、社員に貸与しているパソコン等の通信機器を利用してソーシャルメディアへの書き込みを行わないよう命じることもできます。

 ソーシャルメディアに不適切と思われる社内情報の書き込みがなされていることが発見された場合、まずはその画面をプリントアウトしたりPDFに保存したりして、証拠を確保します。
 次に、ソーシャルメディアに書き込まれた社内情報の内容を検討し、ソーシャルメディアに対する当該書き込みの当否について検討します。
 会社にとって好ましくない内容の書き込みであれば、本人と話し合って削除させることになります。
 当該書き込みが、単に会社にとって好ましくないという程度にとどまらず、会社の名誉信用等を毀損したり、顧客のプライバシーを侵害したりするようなものである場合には、単に書き込みを削除させるだけでは足りず、十分な事実調査をした上、懲戒処分等の対応を検討せざるを得ません。

 事実関係の調査としては、本人からの事情聴取が中心となります。
 当該社員が書き込みを行ったということで間違いがないか、動機・目的、社内情報の取得経路、それ以外の社内情報の書き込みの有無等を聴取して書面にまとめます。
 聴取書は、当該社員に内容を確認させてから、その内容に間違いない旨記載させます。
 本人に事情説明書・始末書等を作成させて提出させるという方法も考えられますが、重要な事実関係の確認については、十分な事情聴取を行い、漏れがないようにしておく必要があります。
 書き込みを行った社員が作成・提出した事情説明書・始末書等の内容が不合理・不十分だったとしても、突き返して書き直させたりせずに、受領して会社で保管して下さい。
 事実関係の解明に役立つこともありますし、本人が不合理な弁解をしている証拠にもなります。
 不合理・不十分な点については、別途、追加説明を求めれば足ります。

 書き込み内容がインターネット上で拡散したり、ニュース報道されたりして会社に対する批判が高まった場合は、会社として謝罪を検討します。
 謝罪内容としては、社員教育を徹底し、再発防止に全力を尽くすこと等を約束することが多いです。

 書き込み内容の悪質性の程度に応じて、懲戒処分を検討します。
 労契法15条では「使用者が労働者を懲戒することができる場合において、当該懲戒が、当該懲戒に係る労働者の行為の性質及び態様その他の事情に照らして、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。」と定められており、懲戒事由に該当する場合であっても、懲戒処分が有効となるとは限らないことに注意が必要です。
 軽度の懲戒処分であれば使用者の裁量の幅が広く、有効と判断されるケースが多いし、訴訟等で争われるリスクも低いです。
 他方、退職の効果を伴う懲戒解雇・諭旨解雇・諭旨退職等の処分については、訴訟等で争われるリスクが高く、無効と判断されるリスクを慎重に検討する必要があります。

 ソーシャルメディアへの書き込みにより会社が損害を被った場合は、書き込みを行った社員やその身元保証人に対し、損害賠償請求をすることも考えられますが、余程悪質な事案でない限り、思ったほどの賠償金を取得できないことが多いことが予想されます。
 また、損害の性質上、損害額の立証が困難なことが多いです。
 裁判所は、口頭弁論の全趣旨及び証拠調べの結果に基づき、相当な損害額を認定することができる(民訴法248条)ため、損害額の立証ができない場合であっても、損害が生じていることさえ立証することができれば、相当な損害額は認定してもらえますが、思ったほどの金額にならないことが多いものと思われます。
 労働契約の不履行について違約金を定め、損害賠償額を予定する契約をすることは禁止されているため(労基法16条)、社員がソーシャルメディアへの書き込みをした場合に賠償すべき損害額を予め定めても無効となります。

 営業秘密がソーシャルメディアに書き込まれた場合は、不正競争防止法に基づき、差止めや損害賠償請求をすることも考えられますが、同法の保護が及ぶ「営業秘密」とは、「秘密として管理されている生産方法、販売方法その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であって、公然と知られていないもの」をいい、
 ① 秘密管理性
 ② 有用性
 ③ 非公知性
の要件を満たす必要があります(不正競争防止法2条6項)。
 実際の事案では、①秘密管理性の有無が問題となることが多いです。
 不正競争防止法にいう営業秘密の要件としての秘密管理性が認められるためには、①当該情報にアクセスした者に当該情報が営業秘密であることを認識できるようにしていることや、②当該情報にアクセスできる者が制限されていることが必要であるとか(東京地裁平成12年9月28日判決)、少なくとも、これに接した者が秘密として管理されていることを認識し得る程度に秘密として管理している実体があることが必要である(東京地裁平成21年11月27日判決)とされています。
 社員の多くがアクセスできるような情報は、事業活動に有用な技術上又は営業上の情報であっても、①秘密管理性の要件を欠き、不正競争防止法では保護されません。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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