Q19 残業代込みの給料(固定残業代・みなし残業)であることに納得して入社したにもかかわらず残業代の請求をしてくる。

1 「残業代込みの給料」により残業代が支払われたことになるのはどのような場合か

(1)  「残業代込みの給料」の具体的意味
 「残業代込みの給料」と言っても多種多様なものがあり,「所定の給料以外に残業代を払わない。」というものから,「一定額の残業代を固定残業代(みなし残業代)として支払い,不足があれば追加で支払う。」というものまであります。

(2) 「所定の給料以外に残業代を払わない。」という合意の有効性
 ① 法内時間外労働時間(所定労働時間が日中の7時間30分の社員が30分残業した時間等)
 ② 法定外休日労働時間(週休二日制で月~金が所定労働日の社員が祝日のため休日とされた水曜日の日中に出勤して8時間以内の時間働いた時間等)
のいわゆる「法内残業時間」の給料は,労基法37条の対象外であり,労働契約において支払うか支払わないかを決めることができます。したがって,法内残業時間について「所定の給料以外に残業代を払わない。」との合意も有効です。
 【大星ビル管理事件最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決】
 「労基法上の労働時間であるからといって,当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するものではなく,当該労働契約において仮眠時間に対していかなる賃金を支払うものと合意されているかによって定まるものである。」
 他方,
 ① 時間外(労基法32条で労働時間の上限とされている週40時間又は1日8時間を超える時間)
 ② 休日(労基法35条で与えることを義務づけられている1週1休の法定休日)
 ③ 深夜(22時~5時)
における労働の対価として労基法37条で支払を義務づけられている残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)について「所定の給料以外に残業代を払わない。」という合意をしても,労基法13条により無効とされ,労基法37条の定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務を免れることはできません。
 【大星ビル管理事件最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決】
 「上記のとおり,上告人らは,本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について,労働契約の定めに基づいて既払の泊り勤務手当以上の賃金請求をすることはできない。しかし,労基法13条は,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分について無効とし,無効となった部分は労基法で定める基準によることとし,労基法37条は,法定時間外労働及び深夜労働に対して使用者は同条所定の割増賃金を支払うべきことを定めている。したがって,労働契約において本件仮眠時間中の不活動仮眠時間について時間外勤務手当,深夜就業手当を支払うことを定めていないとしても,本件仮眠時間が労基法上の労働時間と評価される以上,被上告人は本件仮眠時間について労基法13条,37条に基づいて時間外割増賃金,深夜割増賃金を支払うべき義務がある。」
 労働者本人から「残業代は要らないから働かせて欲しい。」と懇願されて採用し,残業代は支払わない旨明記された契約書等に労働者が押印していても,労基法37条の定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払わない旨の合意は無効です。
 運送業のドライバー,飲食店の社員等,従来,残業代が支払われない傾向にあった業種の労働者についても,労基法37条の定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払わない旨の合意は無効となり,時間外・休日・深夜労働をさせた場合には,労基法37条の定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の支払義務が生じることになります。
 年俸制社員であれば,残業代を支払わなくていいかのような誤解が流布されていますが,残業代を支払わない旨の合意が有効となるのは,法内残業時間についてのみです。年俸制社員であっても,基法37条の定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払わない旨の合意は無効となります。

(3) 給料に含まれる残業代の金額を確定することができない定め方であっても「残業代込みの給料」と合意すれば残業代を支払ったことになるか
 では,「所定の給料以外に残業代を払わない。」のではなく,「給料に含まれる残業代の金額は確定することができない定め方ではあるが残業代は支払っている。」という意味で「残業代込みの給料」とする合意は有効でしょうか。
 法内残業時間については,労基法37条の対象外であり,労働契約において支払うか支払わないかを決めることができますので,給料に含まれる残業代の金額を確定することができない定め方であっても「残業代込みの給料」とすることができます。
 他方,時間外・休日・深夜における労働の対価として労基法37条で支払を義務づけられている残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)については,給料に含まれる残業代の金額を確定することができない定め方で「残業代込みの給料」と合意しても,残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払ったことにはなりません。
 なぜなら,最高裁は,労基法37条の定める割増賃金が支払われたということができるためには,「労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要」(医療法人康心会事件最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決)と考えており,給料に含まれる残業代の金額を確定することすらできないのでは,通常の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができないため,残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)が支払われたということはできないからです。
 【医療法人康心会事件最高裁平成29年7月7日第二小法廷判決】
 「他方において,使用者が労働者に対して労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するためには,割増賃金として支払われた金額が,通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として,労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討することになるところ,同条の上記趣旨によれば,割増賃金をあらかじめ基本給等に含める方法で支払う場合においては,上記の検討の前提として,労働契約における基本給等の定めにつき,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要であり」「,上記割増賃金に当たる部分の金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは,使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。」
 「前記事実関係等によれば,上告人と被上告人との間においては,本件時間外規程に基づき支払われるもの以外の時間外労働等に対する割増賃金を年俸1700万円に含める旨の本件合意がされていたものの,このうち時間外労働等に対する割増賃金に当たる部分は明らかにされていなかったというのである。そうすると,本件合意によっては,上告人に支払われた賃金のうち時間外労働等に対する割増賃金として支払われた金額を確定することすらできないのであり,上告人に支払われた年俸について,通常の労働時間の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することはできない。」
 「したがって,被上告人の上告人に対する年俸の支払により,上告人の時間外労働及び深夜労働に対する割増賃金が支払われたということはできない。」

(4) まとめ
 「残業代込みの給料」により残業代が支払われたことになるのは,以下のいずれかの場合です。
 ① 法内残業時間について「残業代込みの給料」とした場合
 ② 労働契約における定めにつき,通常の賃金に当たる部分と労基法37条の割増賃金に当たる部分とを判別することができる場合

2 法内残業時間について「残業代込みの給料」とする場合の注意点

 法内残業時間について残業代を支払うか支払わないかは労働契約で決めることができますので,「残業代込みの給料」とすることができますが,労働契約で残業代を支払わないことが明確にされていない場合は,割増しのない通常の時間単価の給料を支払うこととされていたと解釈されることが多いので,法内残業時間について残業代を支払わないこととする場合は,労働契約書等に明記するとともに,就業規則に明記して周知させることを忘れないようにして下さい。
 入社時に「口頭で」法内残業時間について残業代を支払わないと説明していたとしても,労働契約書等の客観的証拠がないと,残業代を支払わない旨の合意が成立していることを立証することの難易度が高くなってしまいます。
 【大星ビル管理事件最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決】
 「労基法上の労働時間であるからといって,当然に労働契約所定の賃金請求権が発生するものではなく,当該労働契約において仮眠時間に対していかなる賃金を支払うものと合意されているかによって定まるものである。」
 「もっとも,労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり,労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから,労働契約の合理的解釈としては,労基法上の労働時間に該当すれば,通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である。したがって,時間外労働等につき所定の賃金を支払う旨の一般的規定を有する就業規則等が定められている場合に,所定労働時間には含められていないが労基法上の労働時間に当たる一定の時間について,明確な賃金支払規定がないことの一時をもって,当該労働契約において当該時間に対する賃金支払をしないものとされていると解することは相当とはいえない。」

3 労基法37条の定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)について「残業代込みの給料」とする場合の注意点

(1) 固定残業代(みなし残業代)を支払うことにより労基法37条の定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払うことができる
 労基法37条は,労基法37条等に定められた方法により算定された額を下回らない額の割増賃金を支払うことを義務づけているにとどまりますので,固定残業代(みなし残業代)を支払うことにより労基法37条の定める残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払うことができます。
 ただし,固定残業代(みなし残業代)の額が,労基法37条等に定められた方法により算定された残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の額を下回る場合には,不足額を追加で支払う必要があります。

 

(近日中に続きを完成させる予定です。)

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎


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