問題社員18 有期契約労働者を契約期間満了で雇止めしたところ、雇止めは無効だと主張してくる。

1 労契法19

 有期労働契約は契約期間満了で契約終了となるのが原則です。
 しかし、労契法19条の要件を満たす場合は、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で有期労働契約者からの有期労働契約の更新の申込み又は有期労働契約の締結の申込みを承諾したものとみなされるため、雇止めをしても労働契約を終了させることはできません。

(有期労働契約の更新等)
19条 有期労働契約であって次の各号のいずれかに該当するものの契約期間が満了する日までの間に労働者が当該有期労働契約の更新の申込みをした場合又は当該契約期間の満了後遅滞なく有期労働契約の締結の申込みをした場合であって、使用者が当該申込みを拒絶することが、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められないときは、使用者は、従前の有期労働契約の内容である労働条件と同一の労働条件で当該申込みを承諾したものとみなす。

一 当該有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるものであって、その契約期間の満了時に当該有期労働契約を更新しないことにより当該有期労働契約を終了させることが、期間の定めのない労働契約を締結している労働者に解雇の意思表示をすることにより当該期間の定めのない労働契約を終了させることと社会通念上同視できると認められること。
二 当該労働者において当該有期労働契約の契約期間の満了時に当該有期労働契約が更新されるものと期待することについて合理的な理由があるものであると認められること。

2 労契法19条の趣旨

 労契法19条は、東芝柳町工場事件最高裁第一小法廷昭和49年7月22日判決、日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決等の最高裁判決で確立している雇止め法理を制定法化して明確化を図り、認識可能性の高いルールとすることにより、紛争を防止する趣旨の条文です。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では、「法第19条は、次に掲げる最高裁判所判決で確立している雇止めに関する判例法理(いわゆる雇止め法理)の内容や適用範囲を変更することなく規定したものであること。」とされていますが、従来の雇止め法理では解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理されていたのに対し、本条は使用者の承諾みなしを規定したものであり、本条の構造は従来の雇止め法理とは異なっています。
 もっとも、雇止め法理を制定法化して明確化を図るという立法趣旨からすれば、本条の解釈にあたっては従来の雇止め法理が参考にされるものと考えられます。

3 更新に対する合理的期待の判断時期が「当該有期労働契約の契約期間の満了時」とされたことの意味

 本条2号では、更新に対する合理的期待の判断時期が「当該有期労働契約の契約期間の満了時」であると規定されていますが、これは従来の雇止め法理では明示0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では、「なお、法第19条第2号の『満了時に』は、雇止めに関する裁判例における判断と同様、『満了時』における合理的期待の有無は、最初の有期労働契約の締結時から雇止めされた有期労働契約の満了時までの間におけるあらゆる事情が総合的に勘案されることを明らかにするために規定したものであること。したがって、いったん、労働者が雇用継続への合理的な期待を抱いていたにもかかわらず、当該有期労働契約の契約期間の満了前に使用者が更新年数や更新回数の上限などを一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに同号の該当性が否定されることにはならないと解されるものであること。」とされています。

4 有期契約労働者による有期労働契約の更新または締結の申込み

 従来の雇止め法理では、解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理されていたこともあり、有期契約労働者による有期労働契約の更新または締結の申込みは要件とはされていませんでした。
 これに対し、本条は有期労働契約の申込みに対する使用者の承諾を擬制することにより有期労働契約の更新または成立を認めるものであるため、有期労働契約者による有期労働契約の更新または締結の申込みが新たに要件として規定されました。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」では、「法第19条の『更新の申込み』及び『締結の申込み』は、要式行為ではなく、使用者による雇止めの意思表示に対して、労働者による何らかの反対の意思表示が使用者に伝わるものでもよいこと。」「また、雇止めの効力について紛争となった場合における法第19条の『更新の申込み』又は『締結の申込み』をしたことの主張・立証については、労働者が雇止めに異議があることが、例えば、訴訟の提起、紛争調整機関への申立て、団体交渉等によって使用者に直接又は間接に伝えられたことを概括的に主張立証すればよいと解されるものであること。」とされています。

5 「当該契約期間の満了後遅滞なく」の意味

 有期労働契約者による有期労働契約の締結の申込みは、当該契約期間満了後遅滞なくなされる必要があります。
 この要件が加えられることにより、使用者が契約期間終了後長期間不安定な法的状態に置かれ続けることを防止することができ、法的安定性に資することになります。
 もっとも、「当該契約期間の満了後遅滞なく」という要件は、必ずしも法律に詳しいわけではない労働者側に要求される要件であることを考慮すれば、比較的緩やかに解釈されることが予想されます。
 基発0810第2号平成24年8月10日「労働契約法の施行について」においても、「法第19条の『遅滞なく』は、有期労働契約の契約期間の満了後であっても、正当な又は合理的な理由による申込みの遅滞は許容される意味であること。」とされています。

6 労契法19条の効果

 使用者は、従前の有期労働契約の労働条件と同一の労働条件(契約期間を含む。)で、労働者からの有期労働契約の更新または締結の申込みを承諾したものとみなされます。
 これは、有期労働契約の更新または締結の申込みに対する使用者の承諾を擬制することにより有期労働契約の更新または締結を認めるものであり、従来の雇止め法理が解雇権濫用法理の類推適用(濫用論)で処理していたのとは効果が異なります。
 また、本条では、契約期間についても、従前の有期労働契約の労働条件と同一であることが明確にされています。

7 有期労働契約の類型

 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会」(山川隆一座長)は38件にも及ぶ雇止めに関する裁判例を分析し、平成12年9月11日に「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」を発表しました。
 同報告では、有期労働契約の類型について、以下のような分析がなされています。

1 原則どおり契約期間の満了によって当然に契約関係が終了するタイプ
[純粋有期契約タイプ]
  事案の特徴:
・ 業務内容の臨時性が認められるものがあるほか、契約上の地位が臨時的なものが多い。
・ 契約当事者が有期契約であることを明確に認識しているものが多い。
・ 更新の手続が厳格に行われているものが多い。
・ 同様の地位にある労働者について過去に雇止めの例があるものが多い。
 雇止めの可否: 雇止めはその事実を確認的に通知するものに過ぎない。

2 契約関係の終了に制約を加えているタイプ
 1に該当しない事案については、期間の定めのない契約の解雇に関する法理の類推適用等により、雇止めの可否を判断している(ただし、解雇に関する法理の類推適用等の際の具体的な判断基準について、解雇の場合とは一定の差異があることは裁判所も容認)。
 本タイプは、当該契約関係の状況につき裁判所が判断している記述により次の3タイプに細分でき、それぞれに次のような傾向が概ね認められる。

 (1) 期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態に至っている契約であると認められたもの
[実質無期契約タイプ]
 事案の特徴: 業務内容が恒常的、更新手続が形式的であるものが多い。雇用継続を期待させる使用者の言動がみられるもの、同様の地位にある労働者に雇止めの例がほとんどないものが多い。
 雇止めの可否: ほとんどの事案で雇止めは認められていない。

 (2) 雇用継続への合理的な期待は認められる契約であるとされ、その理由として相当程度の反復更新の実態が挙げられているもの
 [期待保護(反復更新)タイプ]
 事案の特徴: 更新回数は多いが、業務内容が正社員と同一でないものも多く、同種の労働者に対する雇止めの例もある。
 雇止めの可否: 経済的事情による雇止めについて、正社員の整理解雇とは判断基準が異なるとの理由で、当該雇止めを認めた事案がかなりみられる。

 (3) 雇用継続への合理的な期待が、当初の契約締結時等から生じていると認められる契約であるとされたもの
[期待保護(継続特約)タイプ]
 事案の特徴: 更新回数は概して少なく、契約締結の経緯等が特殊な事案が多い。
 雇止めの可否: 当該契約に特殊な事情等の存在を理由として雇止めを認めない事案が多い。

8 有期労働契約の実態を検討する際の考慮要素

 「有期労働契約の反復更新に関する調査研究会報告」によれば、裁判例における判断の過程をみると、主に次の6項目に関して、当該契約関係の実態に評価を加えているものとされています。
① 業務の客観的内容
 従事する仕事の種類・内容・勤務の形態(業務内容の恒常性・臨時性、業務内容についての正社員との同一性の有無等)
② 契約上の地位の性格
 契約上の地位の基幹性・臨時性(例えば、嘱託、非常勤講師等は地位の臨時性が認められる。)、労働条件についての正社員との同一性の有無等
③ 当事者の主観的態様
 継続雇用を期待させる当事者の言動・認識の有無・程度等(採用に際しての雇用契約の期間や、更新ないし継続雇用の見込み等についての雇主側からの説明等)
④ 更新の手続・実態
 契約更新の状況(反復更新の有無・回数、勤続年数等)、契約更新時における手続の厳格性の程度(更新手続の有無・時期・方法、更新の可否の判断方法等)
⑤ 他の労働者の更新状況
 同様の地位にある他の労働者の雇止めの有無等
⑥ その他
 有期労働契約を締結した経緯、勤続年数・年齢等の上限の設定等

9 労契法19条が適用された場合と正社員の解雇の差異

 従来、有期労働契約者の雇止めに解雇権濫用法理が類推適用された場合であっても、雇止め制限の判断基準は正社員の解雇の判断基準とは異なる扱いがなされてきました。
 例えば、日立メディコ事件最高裁第一小法廷昭和61年12月4日判決は、業績悪化を理由として人員削減目的の雇止めがなされた事案に関し、「右臨時員の雇用関係は比較的簡易な採用手続で締結された短期的有期契約を前提とするものである以上、雇止めの効力を判断すべき基準は、いわゆる終身雇用の期待の下に期間の定めのない労働契約を締結しているいわゆる本工を解雇する場合とはおのずから合理的な差異があるべきである。」とした上で、「独立採算制がとられているYのP工場において、事業上やむを得ない理由により人員削減をする必要があり、その余剰人員を他の事業部門へ配置転換する余地もなく、臨時員全員の雇止めが必要であると判断される場合には、これに先立ち、期間の定めなく雇用されている従業員につき希望退職者募集の方法による人員削減を図らなかつたとしても、それをもつて不当・不合理であるということはできず、右希望退職者の募集に先立ち臨時員の雇止めが行われてもやむを得ないというべきである。」と判断しています。

10 事前の対応

 「実質無期契約タイプ」と評価されないためにも、最低限、契約更新手続を形骸化させず、更新ごとに更新手続を行う必要があります。
 また、契約更新を拒絶する可能性があることを労働条件通知書等に明記してよく説明するとともに、不必要に雇用継続を期待させるような言動は慎むべきでしょう。
 有期契約労働者については、身元保証人の要否、担当業務の内容、責任の程度等に関し、正社員と明確に区別した労務管理を行うべきです。

11 雇止めが認められないリスクが高い事案の対応

 雇止めが無効となるリスクが高い事案においては、合意により退職する形にせざるを得ません。
 上乗せ金の支払や年休の買い上げも検討せざるを得ないでしょう。
 年休を消化させたり、年休買い上げの合意を盛り込んだりしておくと、合意の有効性が認められやすくなります。

12 適性把握目的の有期労働契約の雇止め

 労働者の適性を評価・判断する目的で労働契約に期間を設けた場合は、期間の満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意が当事者間に成立しているなどの特段の事情が認められる場合を除き、契約期間は契約の存続期間ではなく、試用期間として取り扱われることになります(神戸弘陵学園事件最高裁第三小法廷平成2年6月5日判決)。
 労働者の適性を評価・判断する目的の期間満了による雇止めが有効とされるためには、試用期間満了時における本採用拒否と同様、解約権留保の趣旨・目的に照らして、客観的に合理的な理由があり社会通念上相当として是認される場合であることが必要となる可能性があります。
 期間満了で労働契約を確実に終了させられるようにしておきたいのであれば、当初の労働契約書において、期間満了により労働契約が当然に終了する旨の明確な合意をしておくとともに、期間満了により当初の労働契約は現実に終了させ、その後も正社員として勤務させる場合には、通常の正社員採用の際と同様、労働条件通知書を交付する等の採用手続を改めて行う必要があります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

 


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