問題社員117 注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない。

動画解説

本記事の内容は、代表弁護士 藤田進太郎が動画でも解説しています。「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)では、問題社員対応の実務を継続的に配信しています。

この記事の結論
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「相手がパワハラだと感じたらパワハラになる」という理解は誤りであり、業務上必要かつ相当な範囲の注意指導は違法とは評価されない

パワハラの該当性は、本人の主観だけでなく、客観的な事情を踏まえて判断されます。

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事実に基づいて具体的に伝える注意指導は、パワハラと評価されるリスクを抑えつつ、指導効果も高めることができる

注意指導を過度に控えることは、周囲の社員を守るという会社経営者の責任を果たせない結果につながりかねません。

 問題のある行動を取る社員に対して注意指導ができなくなった職場は、時間の経過とともに秩序を保つことが難しくなっていきます。注意指導は社員をいじめる行為ではなく、職場を守るために欠かせない行為であるという理解を、まず持っていただきたいと思います。

 本記事では、パワハラを過度に恐れず適正な注意指導を行うための法的基準について、会社経営者が押さえておくべきポイントを解説します。

01注意指導ができない職場の危険性と、「パワハラだと言われたらパワハラ」という誤解

 業務上明らかに問題のある社員がいても、パワハラと言われることを恐れて誰も注意できない状態が続くと、真面目に働いている社員ほど不満を募らせていきます。特に深刻なのは、被害を受けている側の社員が「会社は助けてくれない」と感じてしまうことであり、その結果、守るべき社員から先に職場を去っていくという事態も起こり得ます。注意指導ができない職場では業務の質も低下していくため、これは人間関係にとどまらず、経営そのものに関わるリスクとして捉える必要があります。

 注意指導を行った際に「それはパワハラだ」と言われると、多くの会社経営者は不安を感じられるかもしれません。しかし、まず押さえておくべきなのは、相手がパワハラだと感じたことだけでパワハラが成立するわけではないという点です。もし主観だけで判断されるのであれば、正当な業務指示や注意指導までもがいくらでも封じられてしまい、職場の秩序は成り立ちません。実際の判断は、業務上の必要性の有無、言い方や内容が相当な範囲にとどまっているか、就業環境を害する程度に至っているかといった点を踏まえた客観的なものです。「パワハラと言われた」という事実と、「パワハラに該当する」という法的評価は、切り分けて考える必要があります。

02パワハラの法的な基本構造と、適正な指導が違法にならない理由

 注意指導がパワハラに当たるかどうかを判断するには、パワハラの法的な基本構造を理解しておく必要があります。一般に、①優越的な関係を背景とした言動であること、②その言動が業務上必要かつ相当な範囲を超えていること、③その結果として労働者の就業環境が害されること、という三つの要素を満たす場合にパワハラと評価されます。これらはいずれも客観的に判断されるものであり、同じ状況に置かれた平均的な労働者であればどう受け止めるかという視点で評価されます。

 業務上明らかに問題のあるやり方をしている社員がいれば、それを正すよう指示することは会社経営者としての当然の責務です。厚生労働省の指針においても、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに該当しないと整理されています。重要なのは、その指示や注意が業務上必要であるか、相当な範囲にとどまっているかという点であり、業務と無関係な人格攻撃や、必要以上に威圧的な態度でなければ、違法と評価されるものではありません。

 「就業環境が害される」という要件についても、主観ではなく客観的に判断される点に注意が必要です。業務上のミスや不適切な行動について、具体的な事実を挙げて注意した結果、一時的に気分を害したとしても、それだけで就業環境が害されたとは評価されません。一方で、必要性の乏しい叱責を繰り返したり、人格を否定するような言動を続けたりすれば、客観的に見ても就業環境が害されていると判断されやすくなります。会社経営者としては、「平均的な労働者から見て、業務に支障が出る程度か」という視点で冷静に見極めることが重要です。

03事実に基づく注意指導の実践|評価的・人格的表現のリスク

 事実を具体的に伝える注意指導は、パワハラと評価されにくく、指導効果も高いという特徴があります。「協調性がない」「勤務態度が悪い」といった抽象的で評価的な言い方は、どの行動を指しているのかが分からず、人格を否定されたように受け止められやすくなります。これに対し、いつ、どこで、誰に対して、どのような行動を取ったのか、その結果何が問題だったのか、どうすべきだったのかを丁寧に伝える指導であれば、業務上の必要性と合理性が明確になり、社員自身も改善すべき点を理解しやすくなります。

 一方で注意すべきなのが、評価的・人格的な表現です。「やる気がない」「社会人として失格だ」といった表現は、具体的な事実を伴わないまま人格そのものを否定する言い回しになりやすく、業務上の指導という枠を超えた評価と受け取られがちです。声を荒らげる、皮肉や侮辱的な言葉を交えるといった態度も、指摘内容自体が正しくても、業務上必要かつ相当な範囲を超えていると評価されるおそれがあります。「評価しない」「人格に触れない」という原則を意識し、あくまで事実と行動に焦点を当てて指導することが、パワハラと評価されるリスクを大きく下げることにつながります。

04「改善」を目的とした指導と、実践のための準備

 「これはパワハラになるか、ならないか」という線引きばかりを意識してしまうと、指導の中身よりも言い回しに意識が向き、かえって効果が下がってしまいます。注意指導の目的は罰することではなく、社員の行動を改善させることにあります。「今回の行動のどこが問題だったのか」「次からはどう行動してほしいのか」を具体的に伝える未来志向の指導であれば、社員にとっても受け止めやすくなり、結果としてパワハラと評価されるリスクも下がります。

 もっとも、知識として理解していても、実際の場面ではうまく言葉が出てこないというケースは少なくありません。これは能力の問題というより、準備や練習の不足によるところが大きいといえます。社内でロールプレイを行ったり、第三者から客観的なコメントをもらったりすることで、対応力は着実に向上します。難易度の高いケースについては、弁護士を相手に練習するという方法も一つの選択肢です。パワハラを過度に恐れる必要はありませんが、無防備なまま臨むことも避けるべきであり、「知っている」だけでなく「実践できる」状態にしておくことが望まれます。

05周囲の社員を守ることが会社経営者の責任

 注意指導を行うかどうかで迷ったときは、「この指導は誰のためのものか」という視点に立ち返ることが有用です。注意指導は、問題行動を起こしている社員のためだけに行うものではなく、その行動によって不利益を受けている周囲の社員を守るために行うものでもあります。嫌がらせを受けている社員や、問題行動の尻拭いをさせられている社員にとって、会社が対応してくれない状況は大きな負担となります。

 パワハラを恐れるあまり注意指導を避けてしまうと、結果として守られるのは問題行動を続ける社員だけになり、周囲の社員が置き去りにされ、職場全体の秩序と信頼関係が損なわれていきます。業務上必要かつ相当な範囲で行う注意指導は、違法でも不当でもなく、職場の安全と秩序を維持するための正当な経営行為です。会社経営者としては、「パワハラと言われないこと」だけを優先するのではなく、「職場全体を健全に保つこと」を軸に据え、必要な注意指導は自信を持って行っていただきたいと思います。

06よくある質問(FAQ)

Q. 部下から「それはパワハラです」と言われたら、すぐに指導を中止すべきですか。

直ちに中止する必要はありません。相手がどう感じたかだけでパワハラが成立するわけではなく、その指導が業務上必要かつ相当な範囲であれば、正当な業務指示にあたります。事実に基づいて、何が問題で、どう改善すべきかという話を続けていただくことをお勧めします。

Q. 指導の際に少し声が大きくなってしまいました。これだけでパワハラになりますか。

声の大きさのみで直ちに違法と評価されるわけではありませんが、相当な範囲を超えるリスクはあります。人格を否定するような言葉を使っていないか、指導に合理的な理由があるかが重要であり、今後は事実を淡々と伝える方法に切り替えることをお勧めします。

Q. 問題社員を注意しないことで、他の社員からパワハラだと訴えられることはありますか。

直接的なパワハラとは異なりますが、職場環境を是正しないことについて、安全配慮義務違反を問われる可能性があります。問題行動を放置することは、被害を受けている社員の就業環境を害することにもつながりかねない点にご留意ください。

経営上のポイント 「相手がパワハラだと感じたらパワハラになる」という理解は誤りであり、業務上必要かつ相当な範囲の注意指導は違法とは評価されません。事実に基づいて具体的に伝える指導を実践し、評価的・人格的な表現を避けることが、リスクを抑える最も確実な方法です。注意指導を過度に控えることは、周囲の社員を守るという会社経営者の責任を果たせない結果につながりかねません。具体的な事情に応じて、実務で活用いただける方針をご案内します。
監修者 弁護士 藤田 進太郎

弁護士法人四谷麹町法律事務所 代表弁護士 藤田 進太郎

東京大学法学部卒業。2003年弁護士登録。日本弁護士連合会会員労働法制委員会委員・事務局次長・最高裁行政局との労働審判制度に関する協議会協議員、第一東京弁護士会労働法制委員会委員・研修部会副部会長、経営法曹会議会員・第112回経団連労働法フォーラム報告担当者、労働審判員連絡協議会特別会員、日本労働法学会会員、東京麹町ロータリークラブ会員・2023-24年度幹事。
講演・著作 / 「会社経営者のための問題社員対応講座」(YouTube)

日本全国各地の会社経営者の皆様へ

弁護士法人四谷麹町法律事務所代表弁護士の藤田進太郎です。私は、労働問題のストレスから会社経営者の皆様を解放したいという強い思いを持っており、日本全国各地の会社経営者のために、問題社員、退職勧奨、労働審判、残業代トラブルなどの労働問題の予防解決に当たっています。パワハラ・注意指導に関するお悩みがございましたら、弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談ください。事務所会議室での経営労働相談のほか、ZoomやTeamsでのオンライン経営労働相談を実施しています。

最終更新日:2026年7月8日


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