問題社員117 注意指導するとパワハラだと言って指導に従わない。

動画解説

 

 

1. 注意指導ができなくなる職場の危険性

 問題のある行動を取る社員に対して、注意指導ができなくなった職場は、時間の問題で崩れていきます。会社経営者としてまず理解すべきなのは、注意指導は「社員をいじめる行為」ではなく、「職場を守るために不可欠な行為」だという点です。

 業務上明らかに間違ったやり方をしている社員がいても、誰も注意できない。周囲に迷惑をかける言動や嫌がらせがあっても、「パワハラと言われるのが怖いから」と見て見ぬふりをする。このような状態が続けば、真面目に働いている社員ほど不満を募らせていきます。

 特に深刻なのは、被害を受けている側の社員が「会社は助けてくれない」と感じてしまうことです。嫌な思いをしても、正しいことを言ってもらえない職場で、安心して働き続けたいと思う人は多くありません。その結果、問題社員ではなく、守るべき社員から先に辞めていくという、本末転倒な事態が起こります。

 また、注意指導ができない職場では、業務の質も確実に低下します。ミスが修正されず、ルールが守られず、周囲が気を遣ってフォローに回ることで、全体の生産性が落ちていきます。これは単なる人間関係の問題ではなく、会社経営そのものに直結するリスクです。

 会社経営者の役割は、問題のある行動を放置せず、必要な注意指導を行うことで、職場全体を守ることにあります。「パワハラと言われるかもしれない」という不安から指導をためらい続けることこそが、結果として職場を壊してしまう最大の原因になり得るのです。

2. 「パワハラだと言われたらパワハラ」は誤解である

 注意指導を行った際に、「それはパワハラだ」と言い返されると、多くの会社経営者は不安になります。しかし、まず押さえておくべきなのは、「相手がパワハラだと感じたら、それだけでパワハラになる」という考え方は誤りだという点です。この誤解が、必要な指導をためらわせる最大の原因になっています。

 パワハラは、社員の主観だけで決まるものではありません。もし「言われた本人がパワハラだと感じたらアウト」という基準が通ってしまえば、正当な業務指示や注意指導であっても、いくらでも封じることができてしまいます。そのような状態では、職場の秩序は成り立ちません。

 実際の判断基準は、あくまで客観的なものです。業務上の必要性があるのか、その言い方や内容が相当な範囲にとどまっているのか、就業環境を害するほどのものかどうかといった点を総合的に見て判断されます。本人がどう感じたかだけで決まるわけではありません。

 会社経営者として重要なのは、「パワハラと言われた」という事実と、「パワハラに該当する」という法的評価を切り分けて考えることです。言われた瞬間にひるんでしまい、「もう何も言わない方がいい」と判断してしまうと、問題のある行動を正す機会を自ら放棄することになります。

 注意指導が必要な場面で、「相手がどう言うか」だけを基準にしてしまえば、職場は簡単に麻痺します。会社経営者としては、誤った通説に振り回されず、何が正当な指導で、何が行き過ぎなのかを冷静に見極める視点を持つことが不可欠です。

3. パワハラの法的な基本構造を理解する

 注意指導がパワハラに当たるかどうかを判断するためには、感覚や雰囲気ではなく、パワハラの法的な基本構造を正しく理解しておく必要があります。ここを押さえていないと、「言われたら終わり」「揉めそうだから何も言わない」という極端な判断に陥りがちです。

 パワハラと評価されるためには、一般に三つの要素が必要とされています。第一に、優越的な関係を背景とした言動であることです。これは上司から部下という典型的な上下関係に限られず、立場や経験、人数差などから事実上の力関係がある場合も含まれます。

 第二に、その言動が業務上必要かつ相当な範囲を超えていることです。仕事を進めるために必要な注意や指導であれば、ここには該当しません。必要性がなく、やり方も相当とは言えない場合に、問題となります。

 第三に、その結果として労働者の就業環境が害されることです。単に不快に感じたというだけでは足りず、仕事をする上で支障が生じるような程度が求められます。

 重要なのは、これらはすべて客観的に判断されるという点です。本人がどう感じたかだけで決まるものではなく、同じ状況に置かれた平均的な労働者であればどう受け止めるか、という視点で評価されます。

 会社経営者としては、「パワハラかどうか分からないから何もしない」のではなく、この基本構造を前提に、「これは業務上必要で相当な注意指導か」を自ら確認しながら対応することが重要です。法的な枠組みを理解していれば、過度に恐れる必要はなく、必要な指導を自信を持って行うことができるようになります。

4. 適正な業務指示・注意指導が違法にならない理由

 注意指導を行う際、会社経営者が過度に不安を感じる必要がない理由は、適正な業務指示や注意指導は、そもそもパワハラには当たらないと整理されているからです。この点を正しく理解しておくことで、「何も言えない経営」から抜け出すことができます。

 業務上、明らかに間違ったやり方をしている社員がいれば、それを正すよう指示するのは当然です。周囲に迷惑をかける行動や、業務を妨げる言動があれば、やめるよう注意する必要があります。これらは会社経営者としての裁量ではなく、むしろ責任の一部だといえます。

 重要なのは、その指示や注意が「業務上必要であるか」と「相当な範囲にとどまっているか」という点です。業務と無関係な人格攻撃や、必要以上に威圧的な態度を取ることは問題になりますが、業務を円滑に進めるために必要な内容を、合理的な方法で伝える限り、違法とは評価されません。

 厚生労働省の指針においても、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指示や指導は、パワハラに該当しないと明示されています。これは、注意指導を行うこと自体が問題なのではなく、その中身とやり方が問題になるという整理です。

 会社経営者としては、「強く言ったらアウト」「注意したら危険」という思い込みを捨てることが重要です。業務上の必要性と合理性を意識した指導であれば、パワハラと評価されることを過度に恐れる必要はありません。適正な注意指導を行うことは、会社と社員双方を守る行為だといえるでしょう。

5. 客観的に見た「就業環境が害される」とは何か

 パワハラの要件の一つとしてよく挙げられるのが、「就業環境が害される」という点です。しかし、この言葉の意味を曖昧に理解していると、「相手が嫌だと感じたならアウトなのではないか」と誤解しやすくなります。会社経営者としては、この点を正確に押さえておく必要があります。

 まず重要なのは、「就業環境が害されるかどうか」は主観ではなく、客観的に判断されるという点です。判断基準は、同じ立場・同じ状況に置かれた平均的な労働者であれば、仕事をする上で支障が生じると感じるかどうか、という視点です。本人が強く不快に感じたというだけでは、直ちに該当するものではありません。

 例えば、業務上のミスや不適切な行動について、具体的な事実を挙げて注意した結果、一時的に気分を害したとしても、それだけで就業環境が害されたとは評価されません。仕事を進めるために必要な指導であり、その内容や方法が相当な範囲にとどまっていれば、就業環境を害したとはいえないのが原則です。

 一方で、必要性の乏しい叱責を繰り返したり、人格を否定するような言動を続けたりすれば、業務への集中が妨げられ、職場にいること自体が苦痛になる可能性があります。このような場合には、客観的に見ても就業環境が害されていると判断されやすくなります。

 会社経営者としては、「相手がどう感じたか」だけに引きずられるのではなく、「平均的な労働者から見て、業務に支障が出るレベルか」という視点で冷静に考えることが重要です。この基準を意識して注意指導を行えば、必要な指導まで萎縮してしまう事態を防ぐことができます。

6. 事実を具体的に伝える注意指導の重要性

 パワハラだと言われることを恐れるあまり、注意指導が曖昧になってしまう会社は少なくありません。しかし、会社経営者として最も意識していただきたいのは、「事実を具体的に伝える注意指導」は、パワハラになりにくく、かつ指導効果が高いという点です。

 注意指導において問題となりやすいのは、抽象的で評価的な言い方です。「協調性がない」「勤務態度が悪い」といった表現は、どの行動を指しているのかが分からず、受け手にとっては人格を否定されたように感じやすくなります。これでは、改善点が伝わらないばかりか、無用な対立を生みやすくなります。

 これに対して、事実を具体的に示す注意指導は、客観性があります。「いつ」「どこで」「誰に対して」「どのような行動を取ったのか」、その結果「何が問題だったのか」、そして「どうすべきだったのか」を丁寧に伝える。この形であれば、業務上の指導としての必要性と合理性が明確になります。

 事実を基にした指導は、教育効果が高いという利点もあります。社員自身が、自分のどの行動が問題だったのかを理解しやすく、次にどう行動すればよいのかが明確になるからです。結果として、同じ問題の再発防止にもつながります。

 会社経営者としては、「怖いから踏み込まない」のではなく、「事実を押さえて具体的に伝える」という姿勢を持つことが重要です。事実に基づく注意指導は、感情的な叱責とは異なり、客観的に見て業務上必要かつ相当な範囲に収まりやすく、パワハラと評価されるリスクを大きく下げることができます。

7. 評価的・人格的な表現が招くリスク

 注意指導において、会社経営者が特に注意すべきなのが、評価的・人格的な表現です。問題行動を正そうとしているはずが、言葉の選び方次第で、指導が一気にパワハラと評価されるリスクを高めてしまうことがあります。

 典型的なのは、「やる気がない」「常識がない」「社会人として失格だ」といった表現です。これらは具体的な事実を示さず、人格そのものを否定する言い回しになりやすいため、業務上の指導という枠を超えた評価と受け取られがちです。受け手からすれば、「どの行動が問題なのか分からないまま、人格を否定された」と感じやすくなります。

 また、イライラや嫌悪感を前面に出した言い方も危険です。声を荒らげる、ため息をつく、皮肉や侮辱的な言葉を交えるといった態度は、たとえ指摘している内容自体が正しくても、「業務上必要かつ相当な範囲」を超えていると評価されるおそれがあります。

 評価的な表現に頼ってしまう背景には、「具体的に説明するのが面倒」「踏み込むと怖い」という心理があります。しかし、抽象的な評価で済ませるほど、注意指導としての効果は下がり、かえってトラブルの火種になります。

 会社経営者としては、「評価しない」「人格に触れない」という原則を意識し、あくまで事実と行動に焦点を当てて指導することが重要です。どの言動が問題で、どう改善すべきなのかを具体的に伝える。この姿勢を貫くだけで、パワハラと評価されるリスクは大きく下げることができます。

8. 「ギリギリセーフ」を狙う指導が危険な理由

 注意指導を行う際に、「これはパワハラになるか、ならないか」という線引きばかりを意識してしまうと、かえってリスクの高い対応になりがちです。いわゆる「ギリギリセーフ」を狙う発想は、会社経営者にとって決して賢い選択ではありません。

 本来、注意指導の目的は、社員の行動を改善し、職場環境や業務の質を高めることにあります。しかし、「どこまで言ったらアウトか」という視点に偏ると、指導の中身よりも、形式や言い回しばかりに意識が向いてしまいます。その結果、注意指導としての効果が低下し、問題行動が改善されないまま残ることになります。

 また、「ギリギリ」を狙う指導は、少しの言い間違いや感情の揺れで、一気にアウト側に転ぶ危険をはらんでいます。最初から余裕のない対応をしていれば、想定外の反応をされたときに、感情的になりやすく、結果として評価的・人格的な表現が出てしまうことも少なくありません。

 一方で、注意指導として客観的に効果の高いやり方を選んでいれば、多少言葉が強くなったとしても、全体として業務上必要かつ相当な範囲に収まりやすくなります。改善を目的とした具体的な指導は、結果としてパワハラと評価されにくいのが実務の感覚です。

 会社経営者としては、「セーフかアウトか」という後ろ向きな発想ではなく、「この指導は本当に改善につながるか」という前向きな視点で考えることが重要です。効果を重視した指導を積み重ねることが、結果的に法的リスクも下げ、健全な職場づくりにつながります。

9. 注意指導の目的は処罰ではなく改善である

 注意指導を行う場面で、会社経営者が忘れてはならないのは、その目的が「罰すること」ではなく、「行動を改善させること」にあるという点です。ここを取り違えると、指導は容易に感情的になり、パワハラと評価されるリスクを高めてしまいます。

 注意指導は、本来、社員に「何が問題だったのか」「次にどうすればよいのか」を理解してもらうためのものです。過去の行動を責め続けたり、反省の態度そのものを追及したりすることが主目的になってしまうと、業務上の必要性との結びつきが弱くなります。

 また、「言うことを聞かせる」「従わせる」ことに意識が向きすぎると、どうしても言葉が強くなりがちです。その結果、人格や態度に踏み込んだ表現が出てしまい、指導の正当性そのものが疑われることになります。これは、会社経営者にとって本来避けるべき事態です。

 改善を目的とした指導であれば、自然と話の中心は未来志向になります。「今回の行動のどこが問題だったのか」「次からはどう行動してほしいのか」という点を具体的に伝えることで、社員にとっても受け止めやすくなります。

 会社経営者としては、注意指導の場を「白黒をつける場」ではなく、「立て直す場」と位置づけることが重要です。この視点を持つだけで、指導の言い方や態度は大きく変わり、結果としてパワハラと評価されるリスクも大きく下げることができます。

10. パワハラを恐れず指導するための練習という発想

 パワハラの問題を真剣に考える会社経営者ほど、「知識」は十分に持っていることが多いものです。書籍を読んだり、研修を受けたり、ガイドラインを確認したりして、「何がアウトで、何がセーフか」は頭では理解している。しかし、実際の注意指導の場面になると、言葉に詰まり、うまく話せなくなるというケースは少なくありません。

 その原因は、知識が足りないのではなく、「練習」が足りていないことにあります。注意指導は、スポーツや楽器と同じで、インプットだけでは身につきません。実際に言葉に出し、相手の反応を想定しながらアウトプットする経験を積まなければ、本番でスムーズに対応するのは難しいものです。

 特に、「すぐにパワハラだと言い返してくる社員」や、「話をすり替えてくる社員」を相手にする場合、想定外の返答に動揺しやすくなります。その結果、感情的になったり、評価的な言葉が出てしまったりして、不要なリスクを招くことがあります。これは能力の問題ではなく、準備の問題です。

 会社経営者として有効なのは、事前にロールプレイを行うことです。社内で問題社員役を決めて注意指導の練習をしたり、第三者に客観的なコメントをもらったりするだけでも、対応力は大きく向上します。難易度の高いケースについては、弁護士を相手に練習するという方法も現実的です。

 パワハラを過度に恐れる必要はありませんが、無防備で臨むのも危険です。会社経営者としては、「知っている」だけで満足せず、「できる状態」にしておくことが重要です。練習という発想を取り入れることで、必要な注意指導を、自信を持って、適切に行えるようになります。

11. 周囲の社員を守ることが会社経営者の責任

 注意指導を行うかどうかで迷ったとき、会社経営者が立ち返るべき視点は、「この指導は誰のためのものか」という点です。注意指導は、問題行動を起こしている社員だけのために行うものではありません。むしろ、その行動によって不利益を受けている周囲の社員を守るために行うものです。

 嫌がらせを受けている社員や、問題行動の尻拭いをさせられている社員にとって、会社が何も言ってくれない状況は非常につらいものです。「我慢すればいい」「波風を立てない方がいい」という空気が蔓延すれば、真面目な社員ほど声を上げられず、静かに職場を去っていくことになります。

 会社経営者がパワハラを恐れるあまり注意指導を避けてしまうと、その結果として守られるのは問題行動を続ける社員だけです。一方で、守られるべき周囲の社員は置き去りにされ、職場全体の秩序と信頼関係が崩れていきます。これは経営判断として、決して望ましい結果ではありません。

 必要な注意指導を、業務上必要かつ相当な範囲で行うことは、違法でも不当でもありません。それは、職場の安全と秩序を維持するための、正当な経営行為です。問題のある行動を見過ごさず、適切に指導すること自体が、会社経営者の責任だといえます。

 会社経営者としては、「パワハラと言われないこと」を最優先にするのではなく、「職場全体を健全に保つこと」を最優先に考えるべきです。そのために必要な注意指導であれば、自信を持って行う。この姿勢こそが、結果として社員からの信頼を高め、良い職場をつくる基盤になります。

 

最終更新日2026/2/14


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