問題社員95 テレワークを要求する。
目次
動画解説
1. テレワークを要求する社員に悩む会社経営者へ
社員から「テレワークを認めてほしい」「在宅勤務に切り替えたい」といった要求を受け、対応に悩んでいる会社経営者は少なくありません。世の中全体でテレワークが広がったこともあり、「断ると問題になるのではないか」「認めないのは時代遅れなのではないか」と不安を感じている方もいるでしょう。
しかし、テレワークを導入するかどうかは、会社経営者にとって重要な経営判断です。単に社員から要望があったからといって、無条件に認めなければならないものではありません。業務内容や会社の体制によっては、テレワークが適さないケースも数多く存在します。
実務上よくあるのは、「一部の社員だけが強くテレワークを希望している」「業務上の必要性よりも、個人的な都合が理由になっている」といったケースです。このような場合、対応を誤ると、他の社員との不公平感や、職場全体の士気低下につながるおそれもあります。
会社経営者としては、「テレワークは認めるべきものなのか」「どこまで応じる必要があるのか」「認めた場合のリスクは何か」といった点を、冷静に整理したうえで判断する必要があります。感情的に押し切られたり、世間の流れだけで決めたりするのは危険です。
本記事では、テレワークを要求する社員への対応について、会社経営者が知っておくべき考え方やリスク、判断のポイントを、順を追って解説していきます。
2. テレワークが必ずしも業務と相性が良いとは限らない理由
世間ではテレワークが当たり前のように語られることがありますが、すべての業務がテレワークと相性が良いわけではありません。会社経営者としては、「テレワークができるかどうか」ではなく、「その業務に本当に適しているか」という視点で考える必要があります。
例えば、社内外との頻繁な調整が必要な業務や、状況に応じた判断や即時対応が求められる仕事では、対面でのやり取りが前提となっているケースも多くあります。こうした業務を無理にテレワークに切り替えると、意思疎通の遅れや判断ミスが生じやすくなります。
また、業務の進め方が属人的で、マニュアル化が十分でない場合も、テレワークとの相性は良くありません。出社していれば自然にフォローできていたことが、在宅勤務になることで見えなくなり、結果として業務効率が下がることもあります。
会社経営者の中には、「一部でもテレワークを認めないと不満が出るのではないか」と考える方もいますが、業務に合わない形で導入すれば、かえって現場の不満や混乱を招くことになります。テレワークは、働きやすさを高める手段であって、業務の質を下げてまで導入すべきものではありません。
テレワークを認めるかどうかを判断する際には、「世の中がそうだから」という理由ではなく、「この業務はテレワークに適しているのか」という冷静な検討が欠かせません。業務との相性を見極めることが、会社経営者にとって最初の重要な判断ポイントとなります。
3. テレワークで顕在化しやすい業務効率低下の問題
テレワークを導入した結果、想定以上に業務効率が下がってしまったという相談は少なくありません。出社していれば短時間で済んでいた確認や相談が、テレワークではメールやチャットを介するため、時間がかかってしまうケースがよく見られます。
特に、細かな調整が頻繁に発生する業務では、やり取りの往復が増え、「待ち時間」が積み重なります。社員本人は働いているつもりでも、全体として見ると業務が停滞しているという状況が生じやすくなります。会社経営者の立場からすると、成果が見えにくくなる点も大きな問題です。
また、テレワークでは、業務の進捗やつまずきが把握しにくくなります。出社していれば、表情や様子から「困っていそうだ」と気づけた場面でも、在宅勤務ではその兆候が見えません。結果として、問題の発見が遅れ、修正に余計な時間がかかることがあります。
社員によっては、集中力が維持できず、作業効率が落ちるケースもあります。自宅環境は必ずしも仕事に適しているとは限らず、生活音や家族の存在など、集中を妨げる要素が多いのも現実です。
テレワークは万能な働き方ではありません。業務効率が下がるリスクがあることを前提に、その影響を会社経営者としてどう許容できるのかを、冷静に見極める必要があります。
4. コミュニケーション不足がもたらす経営上のリスク
テレワークを導入すると、業務上のコミュニケーションが想像以上に減少することがあります。必要最低限の連絡は取れているように見えても、出社していれば自然に行われていた雑談や、ちょっとした確認、空気感の共有が失われていきます。
この変化は、短期的には大きな問題として表面化しないかもしれません。しかし、長期的には、認識のズレや判断ミスを生みやすくなり、経営上のリスクにつながります。社員同士の理解が浅くなり、「言ったつもり」「分かっているはず」という前提で仕事が進んでしまうからです。
また、問題が起きた際に、早期に察知しにくくなる点も見逃せません。出社していれば、表情や態度から違和感を感じ取り、早めに声をかけることができた場面でも、テレワークではその機会が失われます。結果として、小さな問題が放置され、大きなトラブルに発展することもあります。
さらに、組織としての一体感が弱まることも、会社経営者にとっては深刻な問題です。会社の考え方や価値観が共有されにくくなり、社員が「個人で仕事をしている」意識を強めてしまうと、組織としての方向性がばらつきやすくなります。
テレワークを認めるかどうかを判断する際には、業務効率だけでなく、こうしたコミュニケーション面の影響も含めて検討する必要があります。目に見えにくい部分だからこそ、会社経営者として意識的にリスクを捉えることが重要です。
5. 自律的に働けない社員にテレワークを認める危険性
テレワークは、時間や場所に縛られずに働ける一方で、社員の自律性が強く求められる働き方です。裏を返せば、自分で業務を管理し、優先順位を判断し、成果を出す力が不足している社員にとっては、非常に難しい働き方でもあります。
出社していれば、周囲の目や空気感によって自然と仕事に集中できていた社員でも、テレワークになると緊張感が保てず、業務効率が大きく落ちることがあります。会社経営者としては、「本人は働いていると言っているが、成果が伴っていない」という状況に直面することも少なくありません。
このような社員に対して安易にテレワークを認めてしまうと、問題が表面化しにくくなります。出社していれば気づけた業務の遅れやミスが見えなくなり、結果として対応が後手に回るリスクが高まります。テレワークは、問題を解決する手段ではなく、問題を隠してしまう可能性がある働き方でもあるのです。
また、一部の社員だけにテレワークを認めた場合、「なぜあの人は在宅なのか」「不公平ではないか」といった不満が生じることもあります。自律的に働けていない社員ほど、周囲からの評価と実態とのギャップが大きくなり、職場の不信感につながるおそれもあります。
テレワークを認めるかどうかは、福利厚生の問題ではなく、業務遂行能力の問題です。自律的に働けるかどうかを冷静に見極めずに導入すれば、かえって会社全体の生産性を下げてしまう危険があります。会社経営者としては、「誰にでもテレワークを認める」という発想ではなく、「認める前提条件は何か」を明確にする必要があります。
6. テレワークにおける労働時間管理の難しさ
テレワークを導入する際に、会社経営者が特に注意しなければならないのが、労働時間管理の問題です。出社していれば、始業・終業の把握や残業の有無を比較的容易に管理できますが、テレワークではそれが一気に難しくなります。
社員本人が「今日はここまでで終わります」「今から少し作業します」と自己申告する形になりやすく、実際にどこまでが労働時間なのかが曖昧になりがちです。結果として、会社が把握していない時間外労働が発生し、後から残業代請求につながるリスクも高まります。
特に注意したいのは、「業務の進みが悪いから、本人が自主的に夜に作業している」というケースです。会社として明確に指示していなくても、業務との関連性が認められれば、労働時間と評価される可能性があります。「本人が勝手にやった」という言い分が通らない場面も少なくありません。
また、テレワークでは、上司が業務終了を止めるタイミングを把握しにくくなります。出社していれば「今日はもう帰りなさい」と声をかけられる場面でも、在宅勤務ではそれができません。その結果、長時間労働が常態化するおそれもあります。
テレワークを認める以上、労働時間管理の責任は会社にあります。管理が難しいからといって曖昧にしたまま運用すれば、後になって大きな法的リスクとして返ってくる可能性があります。会社経営者としては、テレワークの利便性だけでなく、この管理の難しさを十分に理解したうえで判断する必要があります。
7. 労災・残業代請求につながりやすいポイント
テレワークを巡るトラブルで、会社経営者が特に注意すべきなのが、労災や残業代請求といった法的問題です。テレワークは働く場所が会社外になる分、トラブルが起きた際に「会社の管理下にあったのか」が争点になりやすくなります。
例えば、自宅で業務中に転倒してケガをした場合でも、業務との関連性が認められれば、労災と判断される可能性があります。「自宅だから自己責任」と簡単に切り分けられるものではありません。業務時間中であり、業務の一環として行っていた行為であれば、会社の責任が問われることがあります。
残業代についても同様です。テレワークでは、業務の開始・終了時刻が曖昧になりやすく、「実際には長時間働いていた」と後から主張されるリスクがあります。チャットの履歴やメール送信時刻などから、業務時間が推認されるケースも少なくありません。
特に危険なのは、「成果さえ出ていれば細かい時間管理はしない」という運用です。一見合理的に思えても、労働時間管理を放棄していると評価されれば、未払い残業代請求につながるおそれがあります。テレワークだからといって、労働時間管理の義務が軽くなるわけではありません。
テレワークを認める場合には、こうした法的リスクが現実に存在することを前提に、運用を考える必要があります。トラブルが起きてから対応するのではなく、「起き得る問題」として事前に想定しておくことが、会社経営者に求められる姿勢です。
8. テレワークは義務なのかを最初に確認する
社員からテレワークを要求された場合、会社経営者が最初に確認すべきなのは、「テレワークを認める法的義務があるのか」という点です。結論から言えば、原則として、会社には社員の求めに応じてテレワークを必ず認めなければならない義務はありません。
テレワークは、法律で一律に義務付けられている制度ではなく、会社が業務内容や体制を踏まえて選択する働き方の一つにすぎません。就業規則や雇用契約、労使協定などでテレワークを認める定めがない限り、社員が一方的に要求できる権利ではありません。
にもかかわらず、「テレワークは当然の権利だ」「他社ではやっている」といった主張を受け、会社経営者が必要以上にプレッシャーを感じてしまうケースも見られます。しかし、世間の流れと、会社としての義務は別問題です。まずは、制度上の前提を冷静に整理する必要があります。
もっとも、育児や介護、体調上の理由など、個別事情によって配慮を検討すべき場面はあります。ただし、それも「必ず認めなければならない」という話ではなく、業務への影響や代替手段を踏まえたうえでの判断になります。
テレワーク要求への対応を誤らないためには、「義務なのか、それとも任意なのか」を最初に明確にすることが重要です。この整理をせずに話を進めてしまうと、会社経営者自身が不要な譲歩を重ねてしまい、後戻りできなくなるおそれがあります。
9. 義務でない場合にテレワーク要求へどう対応するか
テレワークが法的な義務ではないと整理できた場合、次に重要になるのは、「では、社員の要求にどう対応するのか」という実務上の判断です。会社経営者としては、感情論や場当たり的な対応ではなく、一定の基準を持って対応する必要があります。
まず大切なのは、「業務上の必要性」という軸を明確にすることです。テレワークを認めるかどうかは、社員の希望の強さではなく、その働き方が業務に支障をきたさないかどうかで判断すべきです。業務効率、情報管理、他の社員との連携など、具体的な影響を整理したうえで説明することが重要です。
また、「前例を作ること」の影響も慎重に考える必要があります。一人の社員の強い要望に応じてテレワークを認めると、他の社員からも同様の要求が出てくる可能性があります。その結果、全体として業務運営が成り立たなくなるケースもあります。個別対応が、会社全体に与える影響を見落としてはいけません。
対応する際には、「会社としては現時点ではテレワークは認めていない」「業務の性質上、出社を前提としている」といった形で、会社の方針として伝えることが重要です。あいまいな言い方をすると、「交渉の余地がある」と受け取られ、要求が長期化する原因になります。
義務でない以上、テレワークを認めないという判断は、不当なものではありません。会社経営者としては、社員個人の事情に一定の配慮をしつつも、最終的には会社全体の業務とリスクを踏まえて線を引く必要があります。その判断を、冷静かつ一貫した姿勢で示すことが、無用なトラブルを避けるポイントです。
10. テレワークを認めるか否かを会社経営者が判断する視点
テレワークを要求する社員への対応は、「認めるべきか、断るべきか」という単純な二択ではありません。業務内容、社員の自律性、労働時間管理の体制、法的リスク、職場全体への影響など、複数の要素を踏まえたうえで判断する必要があります。
重要なのは、「社員が希望しているから」「世の中の流れだから」という理由だけで決めないことです。テレワークは、働き方の一つに過ぎず、会社にとって義務ではありません。業務に支障が出る、管理が難しい、リスクが高いと判断されるのであれば、認めないという判断も、経営判断として十分に正当です。
一方で、条件を限定したうえで一部認める、期間を区切って試行するなど、会社側が主導権を持った形での運用を検討する余地がある場合もあります。その際には、「例外対応」ではなく、「会社としてのルール」として整理することが不可欠です。
テレワークを巡る問題は、現場任せにすべきものではありません。最終的にどの働き方を採用するのかは、会社経営者自身が責任を持って決断すべきテーマです。中途半端な対応や曖昧な説明は、後になってより大きなトラブルを招く原因になります。
会社経営者には、社員個人の希望と、会社全体の業務・リスクのバランスを見極める役割があります。テレワークを認めるにせよ、認めないにせよ、その判断に一貫した理由と覚悟を持つことが、安定した経営につながるといえるでしょう。
最終更新日2026/2/10

