問題社員90 病気が理由で就業規則どおりの勤務ができない。

動画解説

 

1. 病気を理由に就業規則どおり働けない社員が生じる背景

 病気を理由として、就業規則に定められた勤務時間や勤務形態どおりに働けない社員が生じることは、決して珍しいことではありません。特に近年は、高齢化の進行や医療の発達により、何らかの持病を抱えながら働く社員が増えています。

 会社経営者の立場からすると、「以前は問題なく働いていた社員が、体調を理由に勤務時間の短縮や業務内容の軽減を求めてくる」「通院や体調不良による欠勤・遅刻が増えてきた」といった場面に直面することも多いでしょう。このようなケースでは、単に個人の問題として片付けることができず、職場全体への影響も無視できません。

 実務上よく見られるのは、社員本人が「病気なのだから配慮してほしい」と訴える一方で、会社としては「就業規則どおりの勤務が前提ではないのか」と悩む状況です。特に、これまで特別な対応を続けてきた場合には、どこまで配慮すべきなのか、どこで線を引くべきなのかが分からなくなりがちです。

 また、病気の内容や程度は外見から分かりにくいことも多く、会社経営者や管理する立場の者が判断に迷う要因となります。結果として、明確な基準を設けないまま、場当たり的な対応を続けてしまうケースも少なくありません。

 会社経営者としては、病気を理由に就業規則どおり働けない社員が生じる背景には、社会的な変化と会社の運用の積み重ねがあることを理解したうえで、問題を整理する必要があります。次項では、こうした状況の中で、長年「甘い対応」を続けてきた場合に、どのような問題が生じるのかを確認していきます。

2. 長年「甘い対応」を続けてきた場合に生じる経営上の問題

 病気を理由に就業規則どおりの勤務ができない社員に対して、個別に配慮し続けてきた会社は少なくありません。当初は一時的な対応のつもりであっても、それが長期間にわたって継続されると、次第に経営上の問題が表面化してきます。

 まず生じやすいのが、社内の不公平感です。特定の社員だけが勤務時間や業務内容について例外的な扱いを受けている状況が続くと、他の社員から「なぜあの人だけ特別なのか」「自分たちばかり負担が増えている」という不満が出やすくなります。こうした不満は、職場の雰囲気を悪化させ、生産性の低下につながります。

 また、「これまで認めてきたのだから、今後も認められるはずだ」という既得権意識が社員側に生じる点も見逃せません。会社経営者としては、状況が変わったため対応を見直したいと考えても、社員から「今さら元に戻すのはおかしい」と反発され、対応の変更が難しくなってしまいます。

 さらに、個別対応が常態化すると、就業規則の形骸化が進みます。本来、就業規則は会社運営のルールとして全社員に適用されるべきものですが、例外が積み重なることで、「就業規則は守らなくてもよいもの」という認識が広がってしまうおそれがあります。

 会社経営者として特に注意すべきなのは、こうした「甘い対応」が、善意や配慮から始まったものであっても、結果として会社全体の統制を弱めてしまう点です。問題が顕在化してから対応を改めようとしても、すでに現場では混乱が生じていることが少なくありません。

 次項では、このような問題が生じやすい背景として、高齢化社会の進展や「治療しながら働く社員」が増えている現実について、もう少し視点を広げて確認していきます。

3. 高齢化社会と「治療しながら働く社員」が増える現実

 病気を理由に就業規則どおりの勤務ができない社員への対応が難しくなっている背景には、社会全体の構造的な変化があります。特に、高齢化の進行と医療技術の発達により、何らかの疾患を抱えながら就労を継続する社員が増えている点は、会社経営者として無視できません。

 以前であれば、長期の治療が必要な病気については退職を選択せざるを得なかったケースでも、現在では通院や投薬を続けながら働くことが一般的になっています。その結果、「完全に健康な状態でフルタイム勤務できる社員」だけを前提とした就業規則や人員配置が、現実と合わなくなりつつあります。

 一方で、こうした社会の流れを理由に、すべての個別事情に無制限に対応することが、会社経営として常に正しいとは限りません。治療と仕事の両立は重要なテーマではありますが、業務の性質や人員体制によっては、どうしても就業規則どおりの勤務を求めざるを得ない場面もあります。

 実務上は、「社会的には配慮が求められている」「本人も真剣に働く意思がある」といった事情と、「会社として業務を回す必要がある」という現実との間で、会社経営者が板挟みになるケースが多く見られます。この葛藤が、対応を先送りにしたり、場当たり的な個別対応を続けてしまう原因となることも少なくありません。

 会社経営者として重要なのは、社会の変化を理解したうえで、どこまでを会社として受け入れ、どこからは就業規則どおりの対応を求めるのかという線引きを意識することです。次項では、そうした線引きが必要となる具体的な場面として、「就業規則どおりに処理せざるを得ないケース」について整理していきます。

4. 就業規則どおりに処理せざるを得ない場面とは

 病気を理由に就業規則どおりの勤務ができない社員がいる場合であっても、会社経営者として、就業規則どおりに処理せざるを得ない場面は確実に存在します。すべてのケースで柔軟な対応が求められるわけではありません。

 例えば、業務の性質上、一定の勤務時間や出勤が不可欠であり、代替要員の確保が難しい場合には、就業規則どおりの勤務を前提とせざるを得ません。製造現場や顧客対応業務など、欠員や業務遅延が直ちに会社全体に影響を及ぼす職種では、個別対応を続けることが現実的でないケースも多くあります。

 また、病気を理由とする配慮が長期間にわたり、業務内容が大幅に軽減されている状態が常態化している場合には、その社員が本来の職務を果たしているとは言い難くなります。このような状況を放置すれば、他の社員への負担が増え、職場全体のバランスが崩れてしまいます。

 さらに、就業規則上、欠勤や遅刻が一定期間・一定回数を超えた場合の取扱いが明確に定められているにもかかわらず、病気を理由として例外的な対応を続けていると、就業規則の適用に一貫性がなくなるという問題も生じます。後になって規則どおりの処理に戻そうとしても、「なぜ今さら厳しくするのか」と反発を招く原因になります。

 会社経営者としては、「病気だから仕方がない」という感情論だけで判断するのではなく、業務への影響、他の社員との公平性、就業規則の位置付けといった観点から、就業規則どおりに処理すべき場面を冷静に見極める必要があります。次項では、こうした状況の中で、個別対応を続けることの限界と、その弊害について整理していきます。

5. 個別対応を続けることの限界と現場への負担

 病気を理由に就業規則どおりの勤務ができない社員に対し、個別対応を続けることには、一定の限界があります。短期的には問題が表面化しにくくても、長期的には現場や組織全体に歪みが生じやすい点を、会社経営者は意識しておく必要があります。

 まず、現場レベルでの負担増が挙げられます。特定の社員の勤務時間や業務内容が恒常的に軽減されている場合、そのしわ寄せは周囲の社員に及びます。業務分担の調整やフォローが常態化すると、現場では「なぜ自分たちが負担し続けなければならないのか」という不満が蓄積し、職場の一体感や士気の低下につながります。

 また、個別対応が続くことで、管理の属人化が進む点も問題です。特定の上司や管理者だけが事情を把握し、例外的な運用を行っている場合、その担当者が異動・退職すると対応が引き継がれず、混乱が生じやすくなります。会社としての統一的な基準がない状態は、長期的に見てリスクが高いといえます。

 さらに、個別対応が積み重なることで、「病気を理由にすれば特別扱いしてもらえる」という誤ったメッセージが社内に広がるおそれもあります。結果として、同様の要望が次々と出てきて、会社として収拾がつかなくなるケースも少なくありません。

 会社経営者としては、善意による配慮と、組織としての持続可能性を切り分けて考える必要があります。個別対応を続けることが、結果として会社全体の運営や職場環境を悪化させていないかを、冷静に見直すことが重要です。次項では、こうした状況を踏まえ、治療と仕事の両立支援をどこまで行うべきかという点について整理していきます。

6. 治療と仕事の両立支援をどこまで行うべきか

 病気を抱える社員への対応を考える際、「治療と仕事の両立支援をどこまで行うべきか」は、会社経営者にとって非常に判断の難しい問題です。社会的にも両立支援の重要性が強調される中で、対応を誤ると「配慮が足りない会社」と評価されるのではないかと不安を感じる方も少なくありません。

 もっとも、治療と仕事の両立支援は、無制限に行うことが前提とされているものではありません。会社には事業を継続し、組織として業務を円滑に回していく責任があります。そのため、業務の性質や人員体制、代替要員の有無などを踏まえたうえで、対応の限界を見極める必要があります。

 実務上重要なのは、「できる範囲での配慮」と「会社として守るべきルール」を切り分けて考えることです。例えば、一時的な勤務時間の調整や業務内容の見直しといった対応が可能な場合もありますが、それが長期化し、本来の職務を果たせない状態が常態化している場合には、両立支援の範囲を超えていると判断せざるを得ないこともあります。

 また、両立支援を行う場合であっても、就業規則や社内ルールとの整合性を意識することが重要です。明確な基準を設けずに例外的な対応を続けてしまうと、前例が積み重なり、後から対応を見直すことが難しくなります。結果として、会社経営者自身の判断の自由度を狭めてしまうおそれがあります。

 会社経営者としては、「どこまでが配慮で、どこからが業務上許容できないラインなのか」をあらかじめ意識し、必要に応じてルール化を検討することが重要です。次項では、こうした判断を踏まえ、会社経営者自身が決めるべき「折り合いの付け方」について整理していきます。

7. 会社経営者が決めるべき「折り合いの付け方」

 病気を理由に就業規則どおりの勤務ができない社員への対応について、最終的に判断を下すのは会社経営者です。現場任せや担当者任せにするのではなく、経営判断としてどこで折り合いを付けるのかを明確にする必要があります。

 重要なのは、「すべてを認めるか、すべてを切り捨てるか」という極端な発想を取らないことです。会社経営者としては、業務への影響、他の社員との公平性、就業規則の位置付け、将来の前例化といった複数の要素を踏まえ、現実的な落としどころを探ることになります。

 例えば、一定期間に限って勤務時間や業務内容の調整を認める一方で、その期間を過ぎても就業規則どおりの勤務ができない場合には、休職制度の利用や配置転換を検討するといった段階的な対応も考えられます。このように、あらかじめ出口を見据えた対応を取ることが重要です。

 また、社員本人とのコミュニケーションにおいては、「会社として配慮しているが、無制限に対応できるわけではない」という点を丁寧に説明する必要があります。曖昧な期待を持たせたまま対応を続けると、後になって条件を見直す際に、強い反発を招く原因になります。

 会社経営者としての「折り合いの付け方」とは、社員個人の事情と会社全体の運営とのバランスを取ることにほかなりません。その判断を先送りにせず、一定の基準を持って対応することが、結果としてトラブルを最小限に抑えることにつながります。次項では、その判断を支えるために重要となる、就業規則の見直しと経過措置の考え方について整理していきます。

8. 就業規則を見直す場合の考え方と経過措置の重要性

 病気を理由に就業規則どおりの勤務ができない社員への対応を整理しようとすると、現行の就業規則が実態に合っていないことに気付くケースは少なくありません。その場合、就業規則の見直しを検討すること自体は、会社経営者として自然な判断といえます。

 もっとも、就業規則を見直せばすべての問題が解決するわけではありません。特に注意が必要なのは、いきなり新しいルールを全面適用しないことです。これまで個別対応や例外運用を続けてきた会社が、突然厳格な規則運用に切り替えると、社員から強い反発を受けるおそれがあります。

 そのため、就業規則を見直す場合には、経過措置をどう設けるかが極めて重要になります。例えば、現に配慮を受けている社員については一定期間は従前の取扱いを継続し、その期間内に今後の働き方を整理する、といった段階的な運用が考えられます。

 また、見直しの際には、「病気の社員に冷たい会社」という印象を与えないよう、ルールの趣旨を丁寧に説明することも欠かせません。就業規則の見直しは、社員を排除するためのものではなく、会社全体として持続可能な働き方を維持するためのルール整備であるという点を明確にする必要があります。

 会社経営者としては、就業規則を「形式的な書類」として扱うのではなく、現場で実際に運用できるルールとして再設計する視点が求められます。経過措置を含めた現実的な運用設計を行うことで、不要なトラブルを避けつつ、会社としての方針を明確にすることができます。

9. 会社経営者としての方針をルール化する重要性(まとめ)

 病気を理由に就業規則どおりの勤務ができない社員への対応は、個々の事情に配慮が必要である一方、場当たり的な対応を続けるべき問題ではありません。会社経営者としては、感情論やその場しのぎではなく、会社としての方針を明確にすることが不可欠です。

 これまで見てきたとおり、個別対応を重ねることには限界があり、不公平感の拡大や就業規則の形骸化、現場の疲弊といった問題を招きやすくなります。こうした状況を放置すれば、最終的には会社全体の統制が取れなくなるおそれがあります。

 重要なのは、「誰に」「どこまで」「どのような条件で」配慮を行うのかを、ルールとして整理することです。治療と仕事の両立支援を行うにしても、期間や内容に一定の枠を設け、就業規則や社内制度との整合性を保つ必要があります。例外を例外のままにせず、会社として説明可能な形に落とし込むことが求められます。

 また、方針をルール化することは、社員を切り捨てるためではありません。むしろ、会社としての限界や考え方を明確にすることで、無用な誤解や期待の行き違いを防ぎ、結果として社員とのトラブルを回避することにつながります。

 会社経営者には、社員個人の事情と会社全体の運営とのバランスを取る責任があります。その判断を曖昧にせず、就業規則や社内ルールとして明文化することこそが、安定した経営と持続可能な職場環境を維持するための重要なポイントといえるでしょう。

 

最終更新日2026/2/7


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