問題社員82 同僚を誹謗中傷する。
目次
動画解説
1. 同僚を誹謗中傷する社員が経営問題に発展する理由
社員同士の人間関係の中で、不満や愚痴が出ること自体は珍しくありません。しかし、その内容が特定の同僚を貶める発言や、人格や能力を否定するような言動に変わった瞬間、この問題は単なる職場の人間関係ではなく、会社経営上のリスクに変わります。
会社経営者として注意すべきなのは、誹謗中傷が「当事者同士の問題」にとどまらない点です。一人の社員が特定の同僚を悪く言い続けることで、職場の空気は確実に悪化します。周囲の社員は居心地の悪さを感じ、発言や行動を萎縮させられ、生産性や士気の低下につながります。
また、誹謗中傷は放置されることでエスカレートしやすい性質を持っています。最初は軽口や陰口のつもりでも、次第に内容が過激になり、事実かどうか分からない話が広まると、会社として収拾がつかなくなります。この段階では、「なぜ早く止めなかったのか」と経営判断そのものが問われることになります。
さらに深刻なのは、誹謗中傷された側が精神的な不調を訴えたり、休職・退職に追い込まれたりするケースです。この場合、問題は一社員の言動では済まされず、会社の職場環境や管理体制が問われます。安全配慮の観点からも、会社が無関係でいられる話ではありません。
会社経営者として見落としがちなのが、「本人同士で何とかしてほしい」「大人なのだから自分たちで解決できるだろう」という期待です。誹謗中傷が発生している時点で、すでに当事者間での解決は難しくなっていることが多く、会社が関与しなければ問題は長期化します。
また、誹謗中傷を行う社員が、業務能力が高かったり、成果を出していたりする場合、「多少の問題発言には目をつぶろう」と判断してしまうことがあります。しかし、この対応は、周囲の社員に「成果を出せば何を言っても許される」という誤ったメッセージを与え、組織の規律を崩す原因になります。
同僚を誹謗中傷する社員の問題は、放置すれば確実に会社全体に波及します。だからこそ、早い段階で「これは経営問題である」と認識し、感情論ではなく、会社としてどう向き合うかを整理する必要があります。
この問題を適切に扱うためには、次に「そもそも誹謗中傷とは何なのか」「事実との違いをどう考えるべきか」を整理することが不可欠です。次は、その前提となる考え方を確認します。
2. 「誹謗中傷」は事実ではなく評価にすぎないという前提
同僚を誹謗中傷する問題に対応する際、会社経営者がまず理解しておくべき重要な前提があります。それは、「誹謗中傷」と呼ばれる発言の多くは、事実ではなく、発言者の評価や主観にすぎないという点です。
実務の現場では、「あの人は仕事ができない」「性格に問題がある」「信用できない」といった発言が、事実であるかのように扱われがちです。しかし、これらは客観的に証明された事実ではなく、発言者の価値判断や感情が反映された評価にすぎません。
会社経営者として注意すべきなのは、こうした評価表現が、繰り返されることで「事実のように扱われてしまう」点です。周囲の社員が真偽を確認しないまま受け止めると、本人の評価や人間関係に実害が生じ、取り返しのつかない状況になることがあります。
また、誹謗中傷を行う社員は、「事実を言っているだけだ」「正当な意見だ」と主張することが少なくありません。しかし、その内容が業務上の客観的事実なのか、それとも個人的な不満や感情に基づく評価なのかは、厳密に切り分ける必要があります。
この切り分けをせずに対応すると、会社は二つのリスクを抱えることになります。一つは、事実確認が不十分なまま誰かの評価を下げてしまうリスク。もう一つは、誹謗中傷を「意見表明」として放置してしまい、職場環境を悪化させるリスクです。
会社経営者として重要なのは、「それは事実か、それとも評価か」という問いを、常に持ち続けることです。事実であれば、業務上の問題として整理すべきですし、評価にすぎないのであれば、職場で広めるべきものではありません。
この前提を押さえておかないと、次に行うべき事実確認や聴き取りの場面で、話が混乱します。評価と事実が混ざったままでは、誰の言動が問題なのかが見えなくなり、対応が後手に回ります。
だからこそ、誹謗中傷問題に向き合う際には、最初に「これは何についての話なのか」を冷静に整理する必要があります。そのうえで、次に進むべきなのが、「最初に行うべき対応は、誹謗中傷かどうかを決めることではない」という点です。
3. 最初に行うべきは「誹謗中傷かどうか」の判断ではない
同僚を悪く言う発言が問題になったとき、会社経営者が陥りやすいのが、「これは誹謗中傷に当たるのか」「処分できるレベルなのか」を最初から判断しようとする姿勢です。しかし、この考え方は、実務上は順序が逆になります。
誹謗中傷かどうかという評価は、事実関係が整理された後に行うものです。発言の背景や文脈、具体的な内容が分からない段階で結論を出そうとすると、判断を誤るリスクが高まります。
会社経営者として最初に行うべきなのは、「誰が、いつ、どこで、誰に対して、どのような発言をしたのか」という事実を淡々と整理することです。ここでは、善悪の評価や処分の可否を考える必要はありません。事実を正確に把握することが最優先です。
この順序を飛ばして、「それは誹謗中傷だ」「問題発言だ」と断定してしまうと、本人は防御的になりやすく、「言論の自由だ」「事実を言っただけだ」と反発する構図に入りがちです。そうなると、冷静な事実確認が難しくなります。
また、最初から誹謗中傷と決めつけてしまうと、会社自身が中立性を失います。後になって事実関係が曖昧だったことが判明した場合、「決めつけによる不当な対応だった」と評価されるリスクも生じます。
重要なのは、会社が「裁判官」にならないことです。誰が正しく、誰が悪いのかを即断するのではなく、「職場で問題になり得る言動があった」という事実を起点に対応する姿勢が求められます。
この段階では、「その発言が事実かどうか」「業務にどのような影響を与えているか」という視点で整理するだけで十分です。評価や処分は、その後のステップになります。
最初に誹謗中傷かどうかを判断しようとしないことは、会社が問題から逃げるという意味ではありません。むしろ、後から説明できる対応を行うために必要な、極めて重要な準備段階です。
この前提を押さえたうえで、次に進むべきなのが、「具体的な言動をどのように特定していくのか」という実務的な事実確認の進め方です。
4. 具体的言動を特定するための事実確認の進め方
同僚を誹謗中傷している疑いがある場合、会社経営者として最も重要なのが、「何が問題なのか」を具体的な言動レベルで特定することです。ここが曖昧なままでは、注意や指導、さらには処分の正当性を確保することはできません。
事実確認で最初に意識すべきなのは、「性格が悪い」「いつも文句を言っている」といった抽象的な評価を排除することです。問題にすべきなのは、あくまで、いつ・どこで・誰に対して・どのような言葉が使われたのかという具体的な事実です。
実務上は、発言内容をできる限り言葉そのままの形で把握することが重要です。「悪口を言っていた」というまとめ方ではなく、「〇〇は仕事ができない」「あいつは信用できない」といった具体的表現を確認することで、問題の性質が見えてきます。
また、発言の回数や継続性も重要な判断材料になります。単発の不用意な発言なのか、特定の相手に対して繰り返されているのかによって、会社としての対応は大きく異なります。頻度や期間を整理することで、職場への影響の度合いも評価しやすくなります。
事実確認の際に注意すべきなのは、噂話や又聞きをそのまま事実として扱わないことです。伝聞情報は参考にはなりますが、それだけで結論を出すことはできません。複数の情報を突き合わせ、内容に一貫性があるかを確認する姿勢が必要です。
会社経営者として避けるべきなのは、「誰が悪いか」を決めるための確認になってしまうことです。目的は、処分のための材料集めではなく、職場で何が起きているのかを正確に把握することにあります。この姿勢を崩すと、関係者が防御的になり、事実が見えなくなります。
また、この段階では、評価や結論を本人に伝える必要はありません。「事実関係を確認している段階である」という位置付けを明確にし、冷静に進めることが重要です。
具体的言動が特定できて初めて、「その発言をどう評価するのか」「どのような対応が適切なのか」を検討する土台が整います。この土台がないまま注意や処分に進むことは、極めて危険です。
次に考えるべきなのは、事実確認の中核となる「誰から、どのように話を聞くか」という点です。誹謗中傷問題では、聴き取りの進め方一つで、問題が拡大することもあります。
5. 情報提供者・本人・周囲への聴き取りで注意すべき点
同僚を誹謗中傷する問題では、事実確認の中核となるのが関係者への聴き取りです。しかし、この聴き取りを誤ると、問題の収束どころか、職場の混乱を拡大させてしまうおそれがあります。
まず、情報提供者への聴き取りでは、「誰が悪いかを決めるために呼ばれている」と感じさせないことが重要です。情報提供者は、正義感から話している場合もあれば、感情的な対立関係の中で話している場合もあります。会社としては、その動機を評価するのではなく、具体的な事実だけを丁寧に拾い上げる姿勢が求められます。
次に、誹謗中傷を行っているとされる本人への聴き取りでは、特に慎重さが必要です。最初から「問題発言をした」と断定するような聞き方をすると、本人は防御的になり、事実関係の確認が難しくなります。この段階では、「事実確認のために話を聞いている」という立場を崩さず、冷静に進めることが重要です。
本人が「事実を言っただけだ」「悪意はない」と主張するケースも少なくありません。その場合でも、感情や評価の是非を議論するのではなく、「どのような言葉を使ったのか」「誰に対して話したのか」といった具体的な行動に話を戻す必要があります。
周囲の社員への聴き取りでは、噂話や憶測を広げない配慮が不可欠です。必要以上に多くの社員に事情を聞けば、それ自体が新たな噂を生みます。聴き取りは、必要最小限の範囲にとどめ、守秘への配慮を明確に伝えることが重要です。
会社経営者として特に注意すべきなのは、聴き取りの内容や態度に一貫性を欠くことです。ある人には厳しく、ある人には軽く聞くと、「会社は誰かをかばっている」「結論ありきだ」という不信感を生みます。質問内容や進め方は、できる限り統一する必要があります。
また、聴き取りの結果を、その場で評価したり、結論を伝えたりすることは避けるべきです。「それは問題だ」「それなら仕方ない」といったコメントは、後の対応を縛ることになります。聴き取りは、あくまで情報収集の場であるという位置付けを貫くことが重要です。
適切な聴き取りができて初めて、「その言動をどう評価するか」「どの段階の対応が適切か」を冷静に検討することが可能になります。
次に考えるべきなのは、「本人に悪気がなかった場合でも、会社はなぜ止めなければならないのか」という点です。誹謗中傷問題では、この視点を欠くと対応が甘くなりがちです。
6. 悪気がない発言でも会社が止めなければならない理由
同僚を誹謗中傷していると指摘された社員から、「悪気はなかった」「冗談のつもりだった」「正直な意見を言っただけだ」と説明されることは少なくありません。会社経営者としても、「そこまで悪意があるわけではなさそうだ」と感じ、強い対応をためらう場面があるでしょう。
しかし、実務上は、「悪気がなかったかどうか」は、会社が対応すべきかどうかの判断基準にはなりません。問題になるのは、発言の意図ではなく、その発言が職場にどのような影響を与えているかという点です。
たとえ本人に悪意がなかったとしても、特定の同僚の能力や人格を否定するような発言が繰り返されれば、職場の雰囲気は確実に悪化します。周囲の社員は発言に萎縮し、本音を言いづらくなり、チームとしての機能が低下します。この状態を放置すれば、会社としての職場環境配慮が問われることになります。
会社経営者として注意すべきなのは、「悪気はなかった」という説明を、そのまま免罪符のように扱ってしまうことです。これを許すと、「悪気がなければ何を言ってもよい」という誤ったメッセージが職場に広がります。結果として、発言の線引きが崩れ、誹謗中傷が常態化しやすくなります。
また、「事実を言っただけ」という主張があった場合でも、その表現方法や伝え方が問題になることがあります。業務上の課題を指摘することと、本人の評価を周囲に広めることは別物です。改善のための指摘であれば、適切なルートと表現が求められます。
会社として止めるべきなのは、「何を言ったか」だけではなく、「どこで」「誰に向けて」「どのような形で」発言したかという点です。本人同士で話し合うべき内容を、第三者に広める行為は、たとえ悪意がなくても、職場秩序を乱す行為として看過できません。
悪気がない発言だからこそ、早い段階で線を引くことが重要です。軽い注意で済む段階で止めておかなければ、後になって厳しい対応を取らざるを得なくなり、そのときには本人の反発も大きくなります。
会社経営者としては、「悪気があったかどうか」ではなく、「会社として許容できる発言かどうか」という基準で対応する必要があります。この基準を明確に持つことで、感情論に流されない対応が可能になります。
この線引きを踏まえたうえで、次に考えるべきなのが、「どの段階で口頭注意や教育指導で足りるのか」という見極めです。誹謗中傷問題では、初動の判断がその後の展開を大きく左右します。
7. 口頭注意・教育指導で足りるケースの見極め
同僚を誹謗中傷する言動が確認された場合、すべてのケースで直ちに厳しい対応が必要になるわけではありません。会社経営者として重要なのは、「どの段階で口頭注意や教育指導で足りるのか」を冷静に見極めることです。
口頭注意や教育指導で足りる典型例は、発言が一時的・単発的であり、本人が問題性を理解している場合です。例えば、感情的になった一度の発言で、その後本人が反省し、同様の言動を繰り返していないのであれば、早期の是正が期待できます。
また、発言内容が抽象的で、特定の同僚の人格や能力を強く否定するレベルに至っていない場合も、教育指導で対応できる余地があります。この場合、発言の是非よりも、「職場でどのような言い方が許されないのか」を具体的に伝えることが重要です。
見極めのポイントとして、本人の受け止め方も重要です。注意や指導に対して、防御的にならず、「配慮が足りなかった」「今後は気を付ける」と受け止めている場合には、改善の可能性が高いと考えられます。
一方で、会社経営者が注意すべきなのは、「とりあえず口頭で注意して様子を見る」という判断を安易に繰り返すことです。過去にも同様の注意を受けている、あるいは発言が周囲に悪影響を与えているにもかかわらず改善が見られない場合には、口頭注意の段階はすでに超えています。
教育指導を行う際には、「なぜ問題なのか」「どのような影響が出ているのか」を業務上の観点から説明する必要があります。「失礼だ」「感じが悪い」といった感情的な表現ではなく、職場環境やチーム運営への影響を軸に整理することが重要です。
会社経営者として意識すべきなのは、口頭注意や教育指導は「軽い対応」ではないという点です。初期段階で適切に行えば、問題を拡大させずに収束させる効果的な手段になります。しかし、その見極めを誤ると、「何を言っても結局は注意で終わる」という誤ったメッセージを与えかねません。
この段階での判断は、後に厳重注意や懲戒処分へ進むかどうかを左右します。だからこそ、「今回は教育指導で足りるのか」を、その場の雰囲気ではなく、これまでの経過と影響を踏まえて判断する必要があります。
この見極めができたうえで、次に検討すべきなのが、「どの段階で厳重注意書や懲戒処分を考えるべきか」という判断軸です。誹謗中傷問題では、この一線をどこに引くかが、会社経営者の腕の見せ所になります。
8. 厳重注意書・懲戒処分を検討すべき判断軸
同僚への誹謗中傷について、口頭注意や教育指導を行っても改善が見られない場合、会社経営者として次に検討すべきなのが、厳重注意書や懲戒処分といった、より重い対応です。ただし、この判断は感情ではなく、明確な軸に基づいて行う必要があります。
まず重要なのは、問題となっている言動が「繰り返されているかどうか」です。一度の不用意な発言であれば教育指導で足りる場合でも、同様の発言が注意後も続いている場合には、会社としてより強いメッセージを示す必要があります。改善の機会を与えたにもかかわらず是正されない点が、判断の出発点になります。
次に見るべきなのは、発言内容の程度と影響範囲です。特定の同僚の人格や能力を否定する発言が継続的に行われ、周囲の社員にも広がっている場合、職場環境への悪影響は軽視できません。この段階では、単なるマナー違反ではなく、職場秩序を乱す行為として評価されます。
厳重注意書は、「これ以上は許されない」という会社としての正式な警告です。口頭での注意とは異なり、書面で残すことで、本人に事態の深刻さを認識させる意味があります。また、後に懲戒処分を検討する場合の前提としても重要な位置付けになります。
懲戒処分を検討すべきかどうかの判断軸は、その言動が就業規則上の服務規律違反に該当するかどうかです。「気に入らない発言だった」「感じが悪い」という理由だけでは足りません。どの規定に反し、業務や職場環境にどのような支障が生じているのかを整理する必要があります。
会社経営者として注意すべきなのは、厳重注意や懲戒処分を「見せしめ」や「感情の発散」として使ってしまうことです。この姿勢は、本人の反発を強めるだけでなく、周囲の社員にも不信感を与えます。あくまで目的は、問題行動を止め、職場環境を回復することにあります。
また、これまでの対応経過も重要な判断材料になります。事実確認を行い、説明や指導の機会を設けてきたか、その記録が整理されているかによって、処分の正当性は大きく左右されます。段階を踏んだ対応ができていなければ、処分は争われやすくなります。
厳重注意書や懲戒処分は、問題を終わらせるための手段ではなく、問題を是正するための手段です。この位置付けを誤らず、説明可能な判断を積み重ねることが、会社経営者に求められます。
この段階まで来たとき、最後に整理しておくべきなのが、「誹謗中傷される側にも改善点がある場合、会社はどう扱うべきか」という難しい問題です。次は、この点を整理します。
9. 誹謗中傷される側にも改善点がある場合の扱い方
同僚への誹謗中傷問題を調査していく中で、「誹謗中傷されている側にも、確かに問題があるのではないか」と感じる場面は少なくありません。この点をどう扱うかは、会社経営者にとって非常に難しい判断になります。
まず押さえておくべきなのは、「誹謗中傷される側に改善点があるかどうか」と、「誹謗中傷が許されるかどうか」は、全く別の問題だという点です。たとえ業務上の課題や態度の問題があったとしても、それを周囲に言いふらしたり、人格や能力を否定する形で表現したりすることは正当化されません。
会社経営者として注意すべきなのは、「双方に問題があるから五分五分だ」という整理をしてしまうことです。この整理は、一見公平に見えて、実務上は最も危険です。誹謗中傷という行為の問題性が曖昧になり、「問題がある人は悪く言われても仕方がない」という誤ったメッセージを職場に与えてしまいます。
一方で、誹謗中傷される側に業務上の改善点がある場合、それを無視することも適切ではありません。ただし、その扱い方には明確な線引きが必要です。改善点は、誹謗中傷の文脈とは切り離し、通常の評価・指導のルートで扱うべきものです。
具体的には、誹謗中傷を行った社員への対応とは別に、必要であれば、誹謗中傷されている社員に対しても、業務上の課題や期待を正式な形で伝えます。この際、「誰かがこう言っている」「周囲から不満が出ている」といった伝え方をすると、誹謗中傷を追認したように受け取られかねません。
会社経営者として重要なのは、「誰が言ったか」ではなく、「会社としてどう評価しているか」という軸で話をすることです。改善点があるのであれば、それは会社としての評価として、正面から伝える必要があります。
また、誹謗中傷される側に対しても、「今回の件は、あなたが悪いから起きたわけではない」という点を明確にすることが重要です。この確認がないと、被害者側が委縮し、職場への信頼を失うことになります。
誹謗中傷問題は、加害・被害の構図が複雑になりやすいテーマです。だからこそ、会社経営者は、「誹謗中傷への対応」と「業務上の改善指導」を意識的に切り分ける必要があります。この切り分けができていれば、双方への対応を行っても、不公平感や混乱を最小限に抑えることができます。
この整理を踏まえたうえで、最後に考えるべきなのが、「このような誹謗中傷問題を、そもそも放置しないために、会社経営者は何をすべきか」という点です。次は、経営者としての責任をまとめます。
10. 誹謗中傷問題を放置しないために経営者が果たすべき責任
同僚を誹謗中傷する問題に直面したとき、会社経営者に最も強く求められるのは、「見て見ぬふりをしない」という姿勢です。誹謗中傷は、放置すれば自然に収束する問題ではありません。むしろ、放置されることで職場に定着し、より深刻な形で表面化します。
会社経営者としてまず自覚すべきなのは、職場の雰囲気や人間関係は、経営の結果であるという点です。「現場の問題」「個人の性格の問題」と切り離して考えることはできません。誹謗中傷が繰り返される職場は、経営管理が行き届いていない職場として評価される可能性があります。
また、誹謗中傷問題への対応は、「誰かを守るため」だけのものではありません。適切な対応を取らなければ、被害を受けた社員が休職・退職に追い込まれたり、後になって会社の対応不足が問われたりするリスクがあります。結果として、会社経営者自身が説明責任を負う立場に立たされます。
会社経営者が果たすべき責任は、すべての発言を監視することではありません。問題が発生したときに、事実確認を行い、段階的に対応し、職場として許されない行動には明確な線を引くことです。この一貫した姿勢がなければ、社員は「結局、何をしても許される」と受け取ります。
特に重要なのは、「成果を出している社員だから」「影響力がある社員だから」といった理由で、対応に差をつけないことです。誹謗中傷を放置する理由がどこにあっても、組織全体への悪影響は避けられません。不公平な対応は、経営への信頼を確実に損ないます。
また、誹謗中傷問題への向き合い方は、他の社員も見ています。経営者がどのような姿勢で問題に向き合うかは、「この会社では、どこまでが許されるのか」という無言のルールとして共有されます。この影響は、個別事案をはるかに超えた広がりを持ちます。
誹謗中傷問題を適切に扱うことは、厳しい経営判断を意味する場合もあります。しかし、それを避け続けた結果、組織が崩れていくのであれば、それは経営判断の先送りにすぎません。
会社経営者として重要なのは、感情や場当たり的対応ではなく、「後から説明できる対応」を積み重ねることです。事実を整理し、段階を踏み、必要な線引きを行う。この積み重ねこそが、誹謗中傷問題を未然に防ぎ、健全な職場を維持するための経営責任です。
誹謗中傷は、人の問題であると同時に、経営の問題です。この視点を持ち続けることが、会社と社員の双方を守る最も確実な方法になります。

