問題社員78 納期を気にしない。
目次
動画解説
1. 納期を守らない社員が会社にもたらす経営リスク
会社経営において、納期を守るということは単なる「現場の努力目標」ではありません。法的にも、取引実務上も、極めて重要な意味を持つ経営課題です。
納期を守れないという事態が発生すると、まず問題となるのは、契約上の債務不履行です。納期は契約内容の中核をなす要素であり、これを守れなければ、会社として契約違反の状態に陥ります。
債務不履行となれば、取引先からの信頼は大きく損なわれます。一度失われた信頼を回復することは容易ではなく、新規契約の獲得や既存契約の継続に深刻な影響を及ぼすことになります。
さらに状況が悪化すれば、損害賠償請求を受ける可能性も否定できません。納期遅延によって取引先に損害が生じた場合、その責任を会社として問われるリスクが現実化します。これは決して理論上の話ではなく、実務上、頻繁に問題となる場面です。
ここで重要なのは、「社員が納期を気にしていなかった」という事情が、会社の責任を免除してくれるわけではないという点です。対外的には、社員個人ではなく、あくまで会社が責任主体として評価されます。
つまり、納期を守らない社員の存在は、そのまま会社経営上のリスクに直結します。現場の問題として片付けるのではなく、経営リスクとして正面から捉えなければなりません。
会社経営者にとって、納期遅延は「困った社員がいる」という話ではなく、「会社の信用・契約・法的責任に関わる問題」であるという認識を持つことが、すべての出発点となります。
2. 納期管理は誰の責任か――会社経営者が持つべき基本認識
納期が守られない問題に直面したとき、多くの会社経営者は「社員の意識が低い」「責任感が足りない」と感じがちです。しかし、法的・経営的な観点から見ると、この発想そのものが問題解決を難しくしてしまいます。
まず明確にしておくべきなのは、納期を管理し、守らせる責任は、管理する側にあるという点です。現場で実際に作業を行う社員に一定の注意義務があることは否定できませんが、納期管理の最終責任は、社員個人ではなく、組織としての会社に帰属します。
そして、その会社を代表し、最終的な判断と責任を負う立場にあるのが会社経営者です。管理職が存在する場合であっても、それは責任を分担しているにすぎず、責任そのものが会社経営者から切り離されるわけではありません。
実務上、納期遅延が問題になった際、取引先や裁判所が見るのは、「なぜ社員が守らなかったのか」ではなく、「会社としてどのような管理体制を取っていたのか」という点です。管理体制が不十分であれば、その責任は会社、ひいては会社経営者に帰結します。
つまり、納期を守れない状況が続いているのであれば、それは「問題のある社員がいる」という話ではなく、「会社の管理のあり方に問題がある」と評価される可能性が高いのです。
この点を取り違え、自分は被害者であるかのように考えてしまうと、適切な対策を講じることができません。厳しい言い方になりますが、納期が守れない状態を放置している限り、その責任は会社経営者自身が引き受けていることになります。
会社経営者に求められているのは、現場の不満を嘆くことではなく、納期を守らせる仕組みをどう構築するかを考え、実行することです。その覚悟を持つことが、納期問題を解決する第一歩となります。
3. 「社員が無責任」という発想が問題解決を妨げる理由
納期を気にしない社員を見て、「無責任だ」「やる気がない」と感じること自体は、会社経営者として自然な感情です。実際、納期があると分かっていながら、それを意識せずに仕事をする姿勢は、評価されるものではありません。
しかし、「社員が無責任だ」という評価に思考が止まってしまうと、納期問題は解決に向かいません。なぜなら、その発想は問題の原因をすべて社員個人に押し付け、会社として取るべき対策を見えなくしてしまうからです。
法的・組織的に見れば、一般社員は、そもそも会社全体の納期責任を負う立場にはありません。社員の責任は限定的であり、どこまで責任を負わせるのかを決め、管理するのは会社側です。
にもかかわらず、「本来は分かっているはずだ」「普通は察するだろう」といった期待を前提にしてしまうと、指示や管理が曖昧になり、その結果として納期遅延が発生します。そして遅延が起きると、社員を責める。この悪循環に陥りがちです。
厳しい言い方になりますが、社員が納期を意識していない状態を作っているのは、会社側であるケースが少なくありません。納期を守ることがどれほど重要なのか、いつまでに何をすべきなのか、守れなかった場合にどうなるのかを、明確に示していないのであれば、その責任は会社にあります。
「社員が無責任だから仕方がない」という発想は、一見すると自分を守る考え方のように見えますが、実際には会社経営者自身の選択肢を狭めてしまいます。問題を社員の資質に矮小化してしまうことで、管理体制の見直しや指示方法の改善といった、本来取るべき行動を先送りにしてしまうのです。
納期問題を本気で解決したいのであれば、まずは「社員が悪い」という評価を一度脇に置き、「会社として、納期を守らせる設計になっているのか」という視点で見直すことが不可欠です。この視点の転換こそが、次の一手を打つための前提条件になります。
4. 納期を守らせるために会社経営者が腹をくくるべき覚悟
納期を守らない問題に直面したとき、会社経営者にまず求められるのは、「誰かに何とかしてもらう」という姿勢を捨てることです。納期が守れないという結果が生じている以上、その責任を最終的に引き受けるのは会社経営者である、という覚悟が必要になります。
この覚悟がないまま、「現場が悪い」「管理職が頼りない」と不満を口にしていても、状況は改善しません。むしろ、責任の所在が曖昧になり、納期遅延が常態化するリスクが高まります。
法的に見ても、取引先との関係において責任を問われるのは会社です。社員や管理職の能力や姿勢を理由にしても、会社の責任が軽くなることはありません。だからこそ、納期が守れないという問題を、他人事ではなく「自分の経営判断の結果」として受け止める必要があります。
もちろん、会社経営者がすべての実務を自分で行う必要はありません。しかし、「納期を守れない状態を放置しない」「改善のために自分が決断する」という姿勢だけは、誰にも委ねることができない部分です。
場合によっては、社員への指示方法を根本から見直す必要があるかもしれません。管理職の配置や役割分担を変える判断が必要になることもあります。人員を増やす、外注を検討する、あるいは事業の進め方そのものを修正する決断を迫られることもあるでしょう。
これらはいずれも負担の大きい判断です。しかし、納期問題を本気で解決しようとすれば、楽な選択肢は存在しません。「大変だが、引き受けるしかない」という腹のくくり方が、結果的に会社を守ることにつながります。
納期を守らせるための覚悟とは、感情論で社員を叱責することではありません。問題を自分の責任として引き受け、必要な判断を先送りにしないことです。この姿勢を明確に持てるかどうかが、会社経営者としての分岐点になると言えるでしょう。
5. 納期を気にしない社員への対応で最初に見直すべき点
納期を気にしない社員がいる場合、すぐに指導や処分を考えたくなるかもしれません。しかし、会社経営者として最初に行うべきなのは、「社員をどうするか」ではなく、「会社として何ができていないのか」を見直すことです。
特に注意すべきなのは、いつまでに、何を、どの水準で完了させるのかが、明確に示されているかという点です。実務上、納期遅延が起きるケースの多くは、社員の怠慢以前に、指示や期待値が曖昧なまま業務が進んでいることに原因があります。
「このくらい言わなくても分かるだろう」「普通は間に合わせるはずだ」という認識は、会社側の思い込みにすぎません。社員にとっては、優先順位や期限がはっきりしない仕事は、どうしても後回しになりがちです。その結果、納期を気にしていないように見える行動につながります。
また、納期の重要性が、会社として十分に共有されているかも確認が必要です。納期を守れなかった場合に、会社や取引先にどのような影響が出るのかを、具体的に伝えていなければ、社員が危機感を持つことは期待できません。
会社経営者としては、「社員の意識改革」よりも先に、「納期を意識せざるを得ない環境が整っているか」を点検すべきです。指示系統、業務の割り振り、進捗確認の仕組みが不十分であれば、どれだけ注意しても同じ問題が繰り返されます。
納期を気にしない社員への対応は、個人の性格や姿勢を矯正することから始めるものではありません。まずは、会社としての指示・管理・仕組みを見直すこと。これができて初めて、次の具体的な対応に進む土台が整います。
6. 指示の曖昧さが納期遅延を生む――主体的な指示の重要性
納期を気にしない社員が生まれる背景には、会社側の指示が曖昧であるという問題が潜んでいることが少なくありません。会社経営者としては、この点を軽視してはいけません。
実務の現場では、「なるべく早く」「できるだけ急いで」「適切に対応しておいて」といった表現が頻繁に使われがちです。しかし、これらは納期を示した指示とは言えません。社員の側からすれば、いつまでに終わらせなければならないのかが分からず、結果として優先順位を下げてしまいます。
納期を守らせたいのであれば、いつまでに、何を、どの状態まで仕上げるのかを、具体的かつ明確に伝える必要があります。これは管理職任せにすべき問題ではなく、会社経営者自身がその重要性を理解し、組織全体に徹底させるべき事項です。
「自主性に任せたい」「細かく言うのは嫌だ」と考える会社経営者も少なくありません。しかし、納期管理に関して言えば、自主性に期待することと、指示を曖昧にすることは全く別物です。明確な期限を示した上で、その達成方法を考えさせるのが、本来の意味での自主性です。
指示が曖昧なまま業務を進め、結果として納期が守られなかった場合、その責任を社員にだけ負わせることはできません。裁判や紛争の場面においても、「会社としてどのような指示を出していたのか」が厳しく問われることになります。
会社経営者に求められる主体的な姿勢とは、現場に丸投げすることではありません。納期という重要事項については、自らが関与し、具体的な指示と確認の仕組みを整えることです。これを怠れば、納期遅延は繰り返され、会社の信用は確実に損なわれていきます。
納期を守らせるための第一歩は、社員の意識改革ではなく、会社経営者自身が「曖昧な指示を出していないか」を点検することにあります。この視点を持つことが、次の対策につながります。
7. 自主性に任せてはいけない理由とその限界
納期を守らせるための対応として、「社員の自主性に任せる」という考え方を取っている会社経営者は少なくありません。しかし、納期管理に関して言えば、この発想には明確な限界があります。
自主性とは、本来、前提条件が整っていて初めて機能するものです。期限、業務内容、優先順位、責任範囲が明確に示された上で、その進め方を任せるのが自主性です。これらが曖昧なまま「自主的にやってほしい」と伝えても、それは単なる放任に過ぎません。
特に一般社員やパート・アルバイトに対して、会社全体の納期責任を前提とした判断を期待することは現実的ではありません。法的にも、彼らはそのような重い責任を負う立場にはありません。自主性に任せた結果、納期が守られなかったとしても、その責任は会社側に残ります。
また、自主性に任せる運用は、社員ごとの差を拡大させます。納期意識の高い社員は問題なく進めますが、そうでない社員は後回しにし、結果として全体の足を引っ張ることになります。これでは組織としての安定性は確保できません。
会社経営者として意識すべきなのは、「自主性を尊重すること」と「納期管理を手放すこと」は全く別であるという点です。納期については、明確なルールと期限を示し、守らせる体制を整えた上で、その枠内で裁量を与える必要があります。
納期が絡む業務を、社員の判断や意識に委ねてしまうと、結果として会社の信用や契約関係を危険にさらすことになります。自主性を重視したつもりが、実は経営リスクを拡大させているというケースも少なくありません。
自主性には限界があるという現実を直視し、納期管理については会社経営者が主導権を握る。この姿勢を明確にすることが、次の具体的な対応につながっていきます。
8. 説得・業務命令・残業命令をどう判断すべきか
納期を守らせるためには、社員に対してどの段階で、どの程度まで踏み込むべきかという判断が不可欠になります。会社経営者として重要なのは、説得・業務命令・残業命令を感情ではなく、目的に応じて使い分けることです。
まず基本となるのは、説得です。納期の重要性、取引先への影響、会社全体へのリスクを具体的に説明し、なぜ今この仕事を優先しなければならないのかを理解させる必要があります。単なる精神論ではなく、事実と理由を示すことが重要です。
説得をしても行動が変わらない場合には、業務命令を検討することになります。業務命令とは、会社が労働契約に基づいて発する正式な指示であり、正当な内容であれば社員は従う義務があります。納期を明示し、その期限までに業務を完了させる命令は、適法な業務命令に該当するのが通常です。
さらに、納期に間に合わせるために時間的制約がある場合には、残業命令が必要になることもあります。ただし、残業命令については、労働時間管理や36協定の有無など、法的な制約を十分に確認した上で行う必要があります。安易な残業命令は、別の労務トラブルを招きかねません。
ここで注意すべきなのは、「言いづらいから何もしない」という選択肢が、最もリスクが高いという点です。説得もせず、業務命令も出さず、結果として納期が守られなければ、その責任は会社側に残ります。
会社経営者としては、社員との関係性を気にするあまり、必要な指示や命令をためらうべきではありません。納期を守るという目的が正当である限り、そのための説得や命令は、経営判断として正当化されます。
説得で足りるのか、業務命令が必要なのか、残業命令まで踏み込むべきなのか。この判断を先送りにせず、状況に応じて適切な手段を選択することが、納期問題を深刻化させないための重要なポイントになります。
9. 管理職が納期を意識しない場合に会社経営者が取るべき対応
一般社員が納期を意識していないこと以上に深刻なのが、管理職自身が納期を軽視しているケースです。管理職が納期を気にしていない状態は、会社経営上、極めて危険なサインと言えます。
管理職は、現場の業務を管理し、期限内に成果を出させることを期待されている立場です。その管理職が納期を意識していないのであれば、組織として納期を守れるはずがありません。この点は、能力や性格の問題ではなく、役割に対する適性の問題として捉える必要があります。
会社経営者としてまず行うべきなのは、管理職に対して、納期管理が職務上の中核であることを明確に伝えることです。「忙しいから仕方がない」「現場が大変だから」といった言い訳を許容してしまうと、納期軽視の姿勢が固定化してしまいます。
それでも改善が見られない場合、より踏み込んだ対応を検討せざるを得ません。具体的には、管理職としての評価を下げる、職務内容を見直す、場合によっては管理職から外すという判断も視野に入れる必要があります。これは感情的な制裁ではなく、経営判断としての配置転換です。
管理職の立場にある以上、「納期が守れないのであれば、なぜ守れないのか」「どうすれば守れるのか」を会社経営者に説明できなければなりません。人員不足や予算の問題が原因であれば、それを具体的に示し、必要な対策を求めるのも管理職の仕事です。
それにもかかわらず、何の説明もなく納期を軽視する姿勢を続けるのであれば、その管理職は、会社経営者の右腕としての役割を果たしていないと評価せざるを得ません。
管理職が納期を意識しない問題は、放置すれば会社全体の体質になります。会社経営者としては、「管理職だから仕方がない」と目をつぶるのではなく、組織の根幹に関わる問題として、明確なメッセージと対応を示すことが求められます。
10. 人員不足で納期が守れない場合の会社経営者の判断責任
納期が守れない理由として、現場や管理職から「人が足りない」という声が上がることは珍しくありません。実際、人員不足が原因で物理的に納期に間に合わないケースも存在します。しかし、この問題を「現場の事情」として片付けてしまうのは、会社経営者として適切ではありません。
人員配置や採用、予算配分は、現場や管理職の権限を超える領域であり、最終的な判断責任は会社経営者にあります。したがって、人員不足による納期遅延は、突き詰めれば経営判断の結果として評価される問題です。
管理職が「これ以上は無理です」「この人数では納期に間に合いません」と説明しているにもかかわらず、会社経営者が具体的な判断を示さなければ、問題は解決しません。「何とか工夫してくれ」「自分で考えろ」という対応では、結果として納期遅延の責任を黙認しているのと同じことになります。
会社経営者に求められるのは、納期を守るために何を選択するのかを明確にすることです。人員を増やすのか、外注を活用するのか、業務量を減らすのか、あるいは受注そのものを見直すのか。どの選択にもコストや痛みは伴いますが、決断を避けることが最も大きなリスクになります。
また、どうしても現行の体制では納期を守れないのであれば、そのビジネスモデル自体が限界に来ている可能性もあります。この点を直視し、事業の進め方を見直すことも、会社経営者にしかできない重要な仕事です。
人員不足を理由に納期が守れない状態が続けば、取引先からは「管理できない会社」と評価されます。その評価は、現場や管理職ではなく、会社そのもの、そして会社経営者に向けられます。
人員不足の問題は、努力や根性で解決できるものではありません。会社経営者として、どこまで責任を引き受け、どのような判断を下すのか。その姿勢こそが、納期問題の最終的な帰結を左右することになります。

