問題社員74 負担の軽い仕事にも耐えられない。
目次
動画解説
1. 負担の軽い仕事にも耐えられない社員が生む経営上の戸惑い
業務内容をできる限り軽くし、残業もさせず、周囲にも配慮させている。それにもかかわらず、「体調が悪い」「精神的につらい」として業務の継続が難しいと訴える社員がいる場合、会社経営者としては強い戸惑いを覚えると思います。
特に、「これ以上どう配慮すればよいのか分からない」「他の社員は問題なく働いているのに、なぜこの社員だけなのか」という感覚に陥りやすい場面です。この戸惑い自体は、経営者として自然なものです。しかし、この段階で感情的な判断をしてしまうと、後に大きなリスクを抱えることになります。
まず理解しておくべきなのは、「業務負担が軽いかどうか」と「その社員が就労可能かどうか」は、必ずしも一致しないという点です。第三者から見れば負担の軽い業務であっても、本人にとっては耐えられない場合があります。この点を「甘え」「気持ちの問題」と短絡的に評価してしまうと、対応を誤ります。
一方で、「本人がつらいと言っているのだから、これ以上何も言えない」と考え、判断を先送りにするのも適切ではありません。業務が回らず、他の社員にしわ寄せがいっている以上、これは個人の問題ではなく、会社経営の問題です。
このようなケースでは、「配慮しているのに働けない社員を、どう位置付けるのか」という、極めて難しい判断を迫られます。ここで重要なのは、善意や感情だけで対応せず、法的な視点と経営判断としての整理を同時に行うことです。
負担の軽い仕事にも耐えられない社員の問題は、放置すれば長期化し、会社全体の生産性や職場の公平感を損ないます。会社経営者としては、まずこの問題を「珍しい個別事案」ではなく、「どの会社でも起こり得る経営課題」として冷静に捉える必要があります。
この認識を持つことが、次に考えるべき「判断を誤らせる思い込み」や「原因の切り分け」へとつながっていきます。
2. 「他の社員は問題ない」という感覚が判断を誤らせる理由
負担の軽い業務にも耐えられない社員を前にすると、会社経営者として「同じ環境で他の社員は普通に働いている」「なぜこの社員だけが問題になるのか」と感じるのは自然なことです。しかし、この感覚に引きずられた判断は、法的にも実務的にも危うさを含んでいます。
まず押さえておくべきなのは、労務トラブルにおいて「他の社員は問題ない」という事実は、決定的な判断基準にはならないという点です。就労可能性や健康状態は、個人差が大きく、同一条件で一律に評価できるものではありません。
実務上問題になるのは、この感覚が「本人の問題だ」「本人の甘えだ」という結論に直結してしまうことです。こうした評価を前提に対応を進めると、後になって「会社が本人の状態をきちんと確認していなかった」「一方的に切り捨てた」と評価されるリスクが高まります。
また、「他の社員はできている」という理由で配慮を打ち切ったり、厳しい対応に切り替えたりすると、安全配慮義務との関係で問題が生じやすくなります。会社は、集団平均ではなく、個別の社員の状態に即して対応を検討する義務を負っているからです。
一方で、「他の社員との公平性」を意識するあまり、判断を先送りにするのも適切ではありません。特定の社員だけ業務を免除し続ければ、現場の不満が蓄積し、組織の統制が崩れていきます。重要なのは、感情的な公平感ではなく、合理的な説明ができる対応です。
会社経営者として必要なのは、「他の社員は問題ない」という感覚を一度脇に置き、この社員について、何が原因で就労が困難になっているのかを整理することです。原因が分からないままでは、配慮を続けるべきか、別の判断をすべきかも見えてきません。
この段階で求められるのは、白黒をつける判断ではなく、原因を切り分ける視点です。次に考えるべきは、「なぜこの社員は働けないのか」という原因を、どのように整理すべきかという点になります。
3. 適応障害の原因として考えられる二つの可能性
負担の軽い業務にも耐えられない社員について、医師から「適応障害」という診断が出ている、あるいは本人がそう説明しているケースは少なくありません。このとき、会社経営者としてまず整理すべきなのは、適応障害の原因には大きく二つの可能性があるという点です。
一つ目は、職場環境や業務内容そのものが原因となっている可能性です。業務量が多い、責任が重い、人間関係に強いストレスがあるなど、外部環境が本人の適応を妨げている場合です。この場合、会社には業務内容の見直しや配置転換、環境調整など、安全配慮義務の観点から検討すべき対応が生じます。
二つ目は、業務内容や職場環境とは直接関係なく、本人側の特性や体調に起因して、就労そのものが難しくなっている可能性です。業務負担を軽くしても改善が見られない場合や、特定の業務に限らず出勤自体が困難な場合には、こちらの可能性を視野に入れる必要があります。
ここで注意すべきなのは、「適応障害=会社が悪い」と短絡的に結論づけないことです。適応障害は、特定の環境に適応できない状態を指すものであり、その原因が必ずしも会社側にあるとは限りません。
一方で、「本人の問題だ」と決めつけてしまうのも危険です。原因が会社側にある可能性を十分に検討せず、対応を打ち切ってしまえば、安全配慮義務違反として責任を問われるリスクがあります。
会社経営者として重要なのは、この二つの可能性を意識したうえで、どちらに近いのかを丁寧に見極めることです。そのためには、本人の話だけでなく、業務内容、これまでの配慮状況、欠勤や体調不良の経緯などを総合的に整理する必要があります。
適応障害の原因を切り分けることは、配慮を続けるべきか、別の判断をすべきかを考えるための前提条件です。この整理ができていなければ、次の一手を誤ることになります。
4. ハラスメントがない場合でも注意すべき視点
負担の軽い業務にも耐えられない社員について検討する際、「ハラスメントは存在しない」「上司や同僚の対応に問題はない」と確認できると、会社経営者としては一安心してしまいがちです。しかし、ハラスメントがないという事実だけで、会社の対応が正当化されるわけではありません。
まず理解しておくべきなのは、安全配慮義務は、ハラスメントの有無だけで判断されるものではないという点です。明確なハラスメントが存在しなくても、社員の心身の状態に配慮すべき義務は、会社に引き続き課されます。
例えば、業務内容は軽く、上司も配慮しているにもかかわらず、欠勤や体調不良が続いている場合でも、「ハラスメントがないから問題ない」と対応を打ち切ることはできません。その社員が実際に就労困難な状態にあるのであれば、会社としてどこまでの配慮や確認を行ったのかが問われます。
一方で、「ハラスメントがない以上、会社に責任はない」と考え続けると、判断を先送りにすることにもつながります。配慮を続けても改善が見られない状況が長引けば、他の社員への影響や業務の停滞といった、別の経営リスクが現実化します。
重要なのは、ハラスメントの有無と、就労可能性の判断を切り離して考えることです。ハラスメントがないことを確認した上で、「この社員は、現時点で業務を継続できる状態にあるのか」「どのような条件であれば可能なのか」を整理する必要があります。
そのためには、本人の申告だけで判断するのではなく、医師の意見を含めた客観的な情報をもとに検討することが望ましい場合もあります。どこまで確認し、どこから先は会社として対応できないのか、その線引きを明確にすることが重要です。
ハラスメントがないという事実は、あくまで一つの判断材料にすぎません。会社経営者としては、「問題がない」と結論づける材料ではなく、「次に何を検討すべきか」を考える出発点として位置付ける必要があります。
5. まず会社経営者が取るべき初動対応とは
負担の軽い業務にも耐えられない社員の問題が表面化したとき、会社経営者として最も重要なのは、結論を急がず、初動対応を誤らないことです。この段階での対応が、その後の選択肢を大きく左右します。
まず行うべきなのは、「何が起きているのか」を事実として整理することです。本人の訴えだけで判断するのではなく、これまでの業務内容、配慮の内容、欠勤や体調不良の経緯、周囲への影響などを時系列で確認します。ここでは善悪の評価をせず、事実を集めることに徹します。
次に重要なのが、本人との面談です。ただし、この面談は責任追及や説得の場ではありません。現在どのような点がつらいのか、どの業務が難しいのか、就労継続について本人がどう考えているのかを確認する場と位置付ける必要があります。経営者自らが行う場合でも、感情的な発言は避け、記録を残すことが重要です。
また、この段階で「いつまで様子を見るのか」を決めておくことも欠かせません。配慮を続けるにしても、無期限に続けることはできません。一定期間を区切り、その間に改善が見られるのか、就労可能性を再評価するという枠組みを設けることが、後の判断を支えます。
ここでやってはいけないのは、「かわいそうだから」「トラブルにしたくないから」という理由だけで判断を先送りにすることです。初動対応を曖昧にすると、配慮が義務なのか、善意なのか分からなくなり、後になって対応を切り替えにくくなります。
会社経営者としての初動対応は、社員を切り捨てるためのものではありません。一方で、無条件に抱え続けるためのものでもありません。事実を整理し、一定の枠組みを作ることが、次の「安全配慮義務との関係」や「復職・継続可否の判断」へ進むための土台になります。
6. 欠勤が長期化した場合に意識すべき安全配慮義務
負担の軽い業務にも耐えられず、欠勤や体調不良が長期化している場合、会社経営者として必ず意識しなければならないのが安全配慮義務との関係です。この義務を軽視すると、後になって会社の責任が厳しく問われる可能性があります。
安全配慮義務とは、社員が生命や身体、精神の健康を害することなく働けるよう配慮する義務を会社が負っているという考え方です。ここで重要なのは、明確なハラスメントや違法行為がなくても、この義務は発生するという点です。
欠勤が短期間であれば、様子を見るという判断もあり得ます。しかし、欠勤が断続的に、あるいは継続的に長期化している場合、「会社としてどのような対応を検討したのか」が問われる段階に入ります。ただ放置しているだけでは、安全配慮義務を尽くしたとは評価されません。
具体的には、業務内容の調整や配置の見直しを検討したのか、本人の体調や就労可能性について確認を行ったのか、医師の意見を踏まえた対応を検討したのか、といった点が重要になります。これらを一切行わず、「本人が来られないから仕方がない」という姿勢を取り続けることは危険です。
一方で、安全配慮義務は無制限の義務ではありません。会社は、あらゆる状態の社員を無期限に抱え続けなければならないわけではありません。重要なのは、「どこまで配慮を行い、それでも就労が困難であると判断したのか」を、会社として説明できる状態にしておくことです。
欠勤が長期化しているにもかかわらず、対応方針が曖昧なままだと、後になって「なぜもっと早く対応しなかったのか」「なぜ放置したのか」と責任を追及されるリスクが高まります。これは、社員を守るという観点だけでなく、会社経営者自身を守るという観点からも重要です。
欠勤の長期化は、単なる労務管理の問題ではなく、会社の安全配慮義務が正面から問われる局面です。この認識を持ったうえで、次に考えるべきは、「では、復職や継続をどう判断するのか」という問題になります。
7. 復職させるかどうかを判断する際の実務ポイント
欠勤や体調不良が一定期間続いた後、「そろそろ復職させるべきか」「まだ難しいのか」という判断を迫られる場面は、会社経営者にとって非常に悩ましい局面です。この判断を誤ると、安全配慮義務違反や紛争に発展するリスクがあります。
まず重要なのは、「本人が復職したいと言っているかどうか」だけで判断しないことです。復職の可否は、本人の意欲だけでなく、実際に業務を継続できる状態にあるかどうかという客観的な視点が不可欠です。
実務上は、医師の意見を参考にすることが重要になります。ただし、「復職可能」という診断書が出ていれば無条件に復職させなければならないわけではありません。診断書の内容が、どの程度の業務負荷を想定しているのか、配慮が前提なのかを慎重に読み取る必要があります。
また、復職後の業務内容を具体的に想定することも欠かせません。「軽い仕事ならできる」という抽象的な前提ではなく、実際にどの業務を任せるのか、その業務が継続可能なのかを検討する必要があります。復職させたものの、すぐに再び欠勤が続くようであれば、会社としても本人としても不幸な結果になります。
会社経営者として意識すべきなのは、復職を「一か八かの判断」にしないことです。試行的な復職期間を設ける、業務内容を限定する、定期的に状況を確認するなど、段階的な対応を取ることで、判断のリスクを下げることができます。
一方で、「戻したらまた問題になるかもしれない」という不安だけで復職を拒み続けることも適切ではありません。復職を認めない判断をする場合には、どの点が業務継続に支障があるのかを、客観的に説明できる状態にしておく必要があります。
復職の可否は、社員の人生に大きな影響を与える判断であると同時に、会社の責任が問われる判断でもあります。感情や印象ではなく、事実と合理性に基づいて判断することが、会社経営者に求められています。
8. 中途採用・試用期間中という事情の重要性
負担の軽い業務にも耐えられない社員が、中途採用者であったり、まだ試用期間中であったりする場合、会社経営者としては「そもそもこの社員は自社に適合しているのか」という疑問を強く持つと思います。この点は、判断において非常に重要な意味を持ちます。
まず確認しておくべきなのは、試用期間は「様子見期間」ではなく、適格性を判断するための期間であるという点です。業務遂行能力や勤務態度だけでなく、継続的に就労できるかどうかも、本来は適格性判断の対象に含まれます。
中途採用の場合、会社は即戦力としての一定の稼働を期待して採用しているのが通常です。そのため、入社直後から長期間にわたり、軽い業務であっても就労が困難な状態が続いているのであれば、「ミスマッチ」が生じている可能性を検討すること自体は、不合理ではありません。
ただし、ここで注意しなければならないのは、「試用期間だから簡単に切れる」「体調不良だから不採用にしてよい」といった短絡的な発想です。試用期間中であっても、解約や本採用拒否には合理的な理由が必要であり、その判断過程が問われます。
会社経営者として重要なのは、「どこまで配慮を行い、それでもなお就労が困難であると判断したのか」を説明できる状態を作ることです。業務内容の調整、面談の実施、一定期間の経過観察など、必要なプロセスを踏んだうえで判断することが求められます。
中途採用・試用期間中という事情は、会社にとって有利に働く可能性がある一方で、手続きを誤れば紛争リスクを高める要素にもなります。この段階での判断は、「早く結論を出すこと」よりも、「後から説明できる判断をすること」が重要です。
この点を踏まえたうえで、次に考えるべきは、「雇用を続けない」という選択肢を取る場合に、どのような形が現実的なのか、という問題になります。
9. 合意退職と本採用拒否をどう使い分けるか
負担の軽い業務にも耐えられない状態が続き、「このまま雇用を継続するのは難しい」と判断せざるを得ない場面で、会社経営者が検討することになるのが、合意退職と本採用拒否のどちらを選択すべきかという問題です。この二つは似ているようで、性質もリスクも大きく異なります。
本採用拒否は、試用期間中であることを前提に、当初予定していた本採用を行わないという判断です。ただし、「試用期間中だから自由に拒否できる」というわけではありません。業務遂行能力や適格性を判断するために、どのような機会を与え、どのような配慮や検討を行ったのか、その過程が厳しく問われます。
一方、合意退職は、会社と社員が話し合いのうえで雇用関係を終了させる方法です。形式上は双方の合意によるものですが、実務上は「本当に自由な意思に基づく合意だったのか」が後から争われやすい点に注意が必要です。説明の仕方や進め方を誤ると、実質的な解雇と評価されるリスクがあります。
会社経営者として重要なのは、どちらの方法が「簡単か」ではなく、「どちらが現実的に説明可能か」という視点です。試用期間中であっても、一定期間の配慮や検討を行い、それでも就労が困難であると合理的に判断できる場合には、本採用拒否という選択肢が視野に入ります。
一方で、本人も就労継続に不安を感じており、将来について話し合う余地がある場合には、合意退職の方が紛争リスクを抑えられるケースもあります。ただし、その場合でも、「会社の都合で辞めさせる」という印象を与えないよう、慎重な説明と記録が不可欠です。
いずれを選択するにしても、「ここまで何をしてきたのか」「なぜこの判断に至ったのか」を第三者に説明できる状態にしておくことが重要です。安易に結論を急ぐと、後になって判断の正当性を否定されるおそれがあります。
合意退職と本採用拒否は、問題を終わらせるための手段ではありません。会社としての判断を、どの形で表に出すのかという選択にすぎません。この点を理解したうえで、最後に検討すべきなのが、「専門家をどう使うか」という問題になります。
10. 判断が難しいケースで弁護士をどう活用するか
負担の軽い業務にも耐えられない社員への対応は、どの選択肢を取っても一定のリスクを伴います。配慮を続ければ他の社員への影響が拡大し、判断を切り替えれば法的責任を問われる可能性がある。このような状況で、会社経営者が一人で判断を抱え込む必要はありません。
特に、適応障害や体調不良が絡むケースでは、「どこまでが安全配慮義務なのか」「ここから先は雇用継続が困難と言えるのか」という線引きが極めて難しくなります。判例や実務の積み重ねを踏まえなければ、感覚だけで正解を見つけることは困難です。
弁護士を活用すべき場面は、解雇や本採用拒否を決断する直前だけではありません。むしろ、「配慮を続けるべきか迷っている」「このまま様子見を続けてよいのか不安だ」という段階こそ、相談のタイミングとして適しています。
早い段階で弁護士が関与すれば、事実整理の視点、面談時の注意点、記録として残すべき事項など、後の判断を支える土台を整えることができます。結果として、どの結論を選んだとしても、「会社としてやるべきことはやった」と説明できる状態を作ることができます。
また、合意退職や本採用拒否といったデリケートな局面では、説明の仕方一つで紛争リスクが大きく変わります。会社経営者自身が前面に立つ前に、弁護士と方針や言葉を整理しておくことは、不要な対立を避けるためにも有効です。
重要なのは、弁護士に判断を丸投げすることではありません。最終的な判断と責任は、あくまで会社経営者にあります。そのうえで、専門家の知見を使いながら、リスクを把握し、納得したうえで決断することが、経営判断として求められています。
負担の軽い仕事にも耐えられない社員の問題は、感情論や善意だけでは解決できません。判断が難しいからこそ、早い段階で弁護士を活用し、会社としての対応を整理すること。それが、会社と他の社員、そして会社経営者自身を守る、最も現実的な選択です。

