問題社員72 職場で上司を誹謗中傷する。
目次
動画解説
1. 上司を誹謗中傷する社員がもたらす深刻な経営リスク
職場で上司を誹謗中傷する社員が現れた場合、その影響は当事者間の問題にとどまりません。会社経営者としてまず認識すべきなのは、これは職場秩序や組織運営の根幹を揺るがす、極めて重大な経営リスクであるという点です。
誹謗中傷が放置されると、当該上司の精神的負担が急激に高まり、マネジメント機能が低下します。その結果、指示命令系統が乱れ、職場全体の生産性が落ちていきます。上司が疲弊し、現場を統率できなくなれば、会社としての統制は事実上崩れてしまいます。
また、周囲の社員に与える影響も見過ごせません。「あの程度の発言をしても会社は何もしない」という空気が広がれば、職場の規律は一気に緩みます。誹謗中傷が連鎖的に拡大し、職場の雰囲気が悪化するケースも少なくありません。
さらに重要なのは、法的リスクです。上司が精神的に追い詰められ、健康被害が生じた場合、会社は安全配慮義務違反を問われる可能性があります。問題社員の行為が不法行為に該当すれば、会社は使用者責任を負う立場になります。
このような場合、会社は被害者ではありません。適切に対応せず、誹謗中傷を放置していたのであれば、会社自身が責任を問われる側になります。
上司を誹謗中傷する社員の存在は、単なる「困った社員」の問題ではなく、会社の管理体制そのものが問われる問題です。会社経営者としては、この事態を軽視せず、早期に会社の問題として対処する必要があります。
2. この問題を「上司と部下の個人的トラブル」で済ませてはいけない理由
上司を誹謗中傷する社員がいる場合、会社経営者の中には、「上司と部下の相性の問題」「当事者同士で何とかしてほしい」と考えてしまう方も少なくありません。しかし、この捉え方は極めて危険です。
本来、職場における人間関係のトラブルを個人間の問題として処理できるのは、ごく軽微な場合に限られます。誹謗中傷が繰り返され、上司が精神的に追い込まれている状況であれば、それはもはや個人の問題ではなく、会社の管理責任が問われる段階に入っています。
特に注意すべきなのは、「上司が配置転換した」「上司が対応している」という認識です。配置転換の最終的な権限は会社にあり、仮に現場判断で行われていたとしても、法的には会社が行ったものと評価されます。上司に任せていたという事情は、会社の責任を軽くしてくれません。
また、誹謗中傷を受けて精神的に参っている上司に、問題社員への対応や法的措置まで任せるのは、本末転倒です。会社には、雇用している社員を守る安全配慮義務があります。本来、守られるべき立場の上司に、さらに負担をかける対応は、経営判断として適切とは言えません。
誹謗中傷行為を把握しながら、会社が十分な対応を取らなかった場合、後になって「なぜ放置していたのか」「なぜ会社として動かなかったのか」と問われることになります。そのとき、「上司と部下の問題だと思っていた」という説明は通用しません。
この問題の主役は、上司でも問題社員でもありません。会社自身です。会社経営者が「これは自分の会社の問題だ」と認識し、主体的に動かなければ、状況は改善せず、リスクだけが積み上がっていきます。
上司と部下の個人的トラブルという見方を捨て、会社の責任として正面から向き合うこと。それが、この問題を解決に向かわせるための出発点になります。
3. 誹謗中傷問題の本質は会社自身の責任にある
上司を誹謗中傷する社員がいる場合、多くの会社では「問題のある社員が悪い」「現場でうまく対応できていない」といった見方が先行しがちです。しかし、この問題の本質は、社員個人の資質ではなく、会社自身の対応にあります。
会社は、職場環境を適切に維持し、社員が安心して働ける状態を確保する義務を負っています。上司に対する誹謗中傷が繰り返されているにもかかわらず、会社が有効な対策を取っていなければ、その時点で会社の管理体制が問われることになります。
特に重要なのは、会社が問題を把握していたか、そして把握後にどのような行動を取ったかという点です。誹謗中傷の存在を知りながら、「様子を見る」「当事者に任せる」といった対応を続けていた場合、結果として事態を悪化させた責任は会社にあります。
また、誹謗中傷行為が不法行為に該当するような内容であれば、会社は使用者責任を問われる立場になります。この場合、会社は被害者ではなく、加害者側として評価される可能性があることを、会社経営者は強く意識しなければなりません。
上司が精神的に追い詰められ、休職や退職に至った場合でも、「問題社員がやったことだから」という説明は通用しません。会社が適切な対応をしていれば防げたのではないか、という視点で厳しく検証されます。
だからこそ、この問題を「現場のトラブル」や「上司のマネジメント不足」として処理してはいけません。会社経営者が、自社の問題、自分自身の責任として捉え直すことが不可欠です。
誹謗中傷問題の本質が会社自身にあると理解できたとき、初めて、次に取るべき具体的な行動が見えてきます。ここから先は、事実確認や処分といった、会社としての実務対応が問われる段階に入っていきます。
4. 配置転換で解決しようとする発想の危うさ
上司を誹謗中傷する社員への対応として、配置転換を選択する会社は少なくありません。確かに、物理的に距離を取ることで、一時的に問題が沈静化する場合もあります。しかし、配置転換だけで解決しようとする発想には、大きな落とし穴があります。
まず押さえておくべきなのは、配置転換は問題行為に対する「処分」ではないという点です。配置を変えたからといって、誹謗中傷行為そのものがなかったことになるわけではありませんし、社員に対して問題行為を明確に認識させたことにもなりません。
実際、配置転換先でも同様の誹謗中傷を繰り返すケースは少なくありません。これは、問題の本質が「人間関係」ではなく、「社員の行動そのもの」にあるからです。配置を変えても、行動に対する評価や是正が行われていなければ、同じ問題が再発します。
また、配置転換を行ったことで、「会社はこの問題を処理した」という誤った安心感が生まれる点も危険です。その結果、事実確認や指導、懲戒処分といった、本来取るべき対応が後回しになり、問題が長期化・深刻化してしまいます。
さらに重要なのは、配置転換の最終的な責任は会社にあるという点です。現場の上司が主導したように見えても、配置転換権限は会社にあります。したがって、配置転換という対応を選んだ以上、その結果についても会社が責任を負うことになります。
誹謗中傷が続き、被害を受けている上司が精神的に追い込まれている状況で、配置転換だけで対応を終えることは、会社の安全配慮義務を尽くしたとは言えません。むしろ、「根本的な対処を避けた」と評価されるリスクもあります。
配置転換は、あくまで数ある選択肢の一つにすぎません。問題行為の内容や程度を正確に把握し、その上で、指導や懲戒処分を含めた対応を検討する。その中で必要に応じて配置転換を組み合わせるという位置付けで考えるべきです。
配置転換で問題を「見えなくする」のではなく、会社として正面から向き合う。この姿勢がなければ、誹謗中傷問題は決して解決に向かいません。
5. 上司に損害賠償請求をさせる前に会社が考えるべきこと
上司に対する誹謗中傷があまりにもひどく、精神的に追い詰められている状況を見ると、「上司個人として損害賠償請求を起こすしかないのではないか」と考えてしまう会社経営者もいるかもしれません。しかし、この発想は、会社として立つべき位置を見誤っています。
まず冷静に考えるべきなのは、精神的に参っている上司に、さらに訴訟という重い負担を背負わせることが、本当に適切なのかという点です。損害賠償請求訴訟は、時間的にも精神的にも大きな負荷がかかります。会社が守るべき社員に、会社の問題解決を丸投げする形になっていないか、立ち止まって考える必要があります。
また、誹謗中傷行為が不法行為に該当する場合、問題となるのは社員個人の責任だけではありません。会社がその行為を把握しながら十分な対応を取っていなかったのであれば、会社自身が使用者責任や安全配慮義務違反を問われる立場になります。
この場合、会社は被害者ではなく、むしろ加害者側として評価される可能性があります。そのような状況で、上司個人に損害賠償請求をさせるという対応は、責任の所在を不適切にすり替えていると言わざるを得ません。
本来、会社経営者がまず考えるべきなのは、「会社として、この上司をどう守るのか」という視点です。問題社員への対応、職場環境の是正、上司の精神的負担の軽減など、会社が主体となって取るべき措置が先にあります。
上司個人の損害賠償請求は、会社としてやるべき対応を尽くした上で、それでもなお必要性があるかどうかを検討すべき最終手段です。初動対応として選ぶべきものではありません。
誹謗中傷問題を個人の紛争に矮小化せず、まずは会社の責任として整理すること。それができて初めて、次の「事実確認」や「処分」といった実務対応に進むことができます。
6. まず会社が行うべき事実確認の重要性
上司に対する誹謗中傷問題に直面したとき、会社経営者が最初に着手すべきなのは、感情的な評価や結論ありきの対応ではありません。最優先すべきは、会社の責任としての事実確認です。
「誹謗中傷がひどい」「精神的に参っている」という評価だけでは、会社として何を根拠に対応するのかが不明確です。後に指導や懲戒処分を行う場合でも、抽象的な表現では正当性を説明できません。
重要なのは、具体的な事実を一つひとつ積み上げることです。いつ、どこで、誰が、誰に対して、どのような発言や行動をしたのか。その内容はどの程度の頻度で繰り返されているのか。これらを可能な限り具体的に把握する必要があります。
事実確認は、上司任せにしてはいけません。被害を受けている上司は、すでに精神的な負担を抱えている状態です。その上司に、調査や聴き取りの役割まで担わせることは、会社として不適切です。
本来、事実確認は会社の仕事です。会社経営者自身、あるいは会社から権限を委ねられた人事担当者が、責任をもって行うべきものです。仮に人事に任せる場合であっても、最終責任は会社経営者にあるという認識を忘れてはいけません。
また、事実確認は一方当事者の話だけで済ませてはいけません。誹謗中傷を行ったとされる社員本人からも、面談を通じて事情を聴く必要があります。双方の言い分を整理し、食い違いがある場合は、周囲の社員からの聴き取りや客観的資料も活用します。
「今さら事実確認をしても、記憶が曖昧だ」というケースもあるかもしれません。しかし、早期に動かなかった責任は会社にあります。だからこそ、今できる範囲で最善を尽くす姿勢が求められます。
事実確認を曖昧にしたまま対応を進めると、その後の指導や処分が不安定になります。逆に、事実を丁寧に押さえておけば、会社として自信をもって次の対応に進むことができます。
誹謗中傷問題への対応は、事実確認から始まり、事実確認で成否が決まると言っても過言ではありません。ここを疎かにせず、会社の責任として正面から取り組むことが不可欠です。
7. 「誹謗中傷」という言葉を具体化する必要性
誹謗中傷問題に対応する際、会社側の説明としてよく使われるのが、「誹謗中傷があった」という表現です。しかし、この言葉をそのまま使っている限り、会社として適切な対応を取ることはできません。
「誹謗中傷」というのは、あくまで評価や結論にすぎません。実務上重要なのは、その評価に至る前提となる具体的な言動です。何を言ったのか、どのような表現を使ったのか、どの場面で、誰に向けて行われたのか。これらを明確にしなければ、会社として正当な指導や処分を行うことはできません。
例えば、「パワハラだ」「管理放棄だ」といった言葉を職場で繰り返し発していたとしても、それだけでは足りません。どの発言が、どのような文脈で、どの程度の頻度で行われたのかを整理する必要があります。単なる意見表明なのか、人格攻撃なのか、業務の円滑な遂行を妨げる行為なのかを、具体的事実に基づいて判断することが求められます。
会社が「誹謗中傷をしたから処分する」という説明をしてしまうと、後になって「何が問題だったのか分からない」「評価が主観的だ」と争われるリスクが高まります。特に懲戒処分を検討する場合、この点は致命的になりかねません。
重要なのは、まず事実を並べ、その事実に対して会社としての評価を行うという順序を守ることです。具体的な言動を一つひとつ確認し、「これらの行為が、職場秩序を乱し、上司に対する誹謗中傷に該当する」と説明できる状態を作る必要があります。
この作業を丁寧に行うことで、会社としての対応に一貫性と説得力が生まれます。逆に、抽象的な言葉だけで処理しようとすると、問題社員に対しても、周囲の社員に対しても、「会社は何を問題視しているのか分からない」という印象を与えてしまいます。
誹謗中傷問題において、「誹謗中傷」という言葉はスタート地点ではありません。具体的な言動を把握し、それを言語化することこそが、会社経営者として次の対応に進むための前提条件になります。
8. 調査結果を踏まえた注意・指導・懲戒処分の考え方
事実確認を行い、具体的な言動が明らかになった後、会社経営者が次に向き合うのが、どのような対応を取るべきかという判断です。ここで重要なのは、感情や場当たり的な対応ではなく、調査結果に基づいた段階的な対応を行うことです。
まず軽度のケースでは、口頭注意や文書による指導が考えられます。ただし、この場合でも、「誹謗中傷をやめなさい」といった抽象的な指摘では不十分です。どの発言や行動が問題で、今後どのような行為が許されないのかを、具体的に示す必要があります。
注意や指導を行う際には、必ず記録を残してください。後になって「注意は受けていない」「聞いていない」と争われるケースは少なくありません。指導内容を文書化し、本人に交付することで、会社としての対応履歴を明確にしておくことが重要です。
誹謗中傷の内容や頻度が悪質である場合、あるいは注意・指導を行っても改善が見られない場合には、懲戒処分を検討する段階に入ります。ここで躊躇してしまう会社も多いのですが、問題行為を把握しながら処分を行わないことは、会社としての責任を放棄しているのと同じです。
懲戒処分を行う場合には、就業規則に基づいた手続を厳格に守る必要があります。処分理由は、あくまで調査で確認された具体的事実に基づいて構成し、「誹謗中傷をしたから」という評価だけで済ませてはいけません。
「懲戒処分をすると職場の雰囲気が悪くなるのではないか」と心配される会社経営者もいますが、職場の雰囲気を悪化させているのは処分そのものではなく、問題行為が放置されている状況です。適切な処分は、むしろ職場秩序を回復させる効果を持ちます。
懲戒処分の経験が少なく、不安がある場合には、無理に自社だけで進める必要はありません。調査結果を整理した上で、弁護士の助言を受けながら処分内容や文書を整えることで、リスクを大きく下げることができます。
調査結果を踏まえた注意・指導・懲戒処分は、会社が問題に正面から向き合っているという強いメッセージになります。会社経営者として、この段階を曖昧にせず、責任ある対応を取ることが不可欠です。
9. 懲戒処分を避け続けることが組織を壊す理由
上司への誹謗中傷が続いているにもかかわらず、「懲戒処分まではやり過ぎではないか」「できれば穏便に済ませたい」と考え、処分を先送りにする会社は少なくありません。しかし、懲戒処分を避け続ける対応は、結果として組織全体を静かに壊していきます。
まず影響を受けるのは、被害を受けている上司です。誹謗中傷行為が明確に問題視されず、会社としての制裁も行われない状況では、「会社は自分を守ってくれない」という強い不信感が生まれます。これが積み重なれば、意欲の低下や休職、最悪の場合は退職につながります。
次に、周囲の社員への影響も深刻です。問題行為を起こしても処分されないという前例ができると、「何をしても大丈夫」「声の大きい人が得をする」という歪んだ価値観が職場に広がります。その結果、真面目に働いている社員ほど不満を抱え、職場の士気は確実に下がっていきます。
会社経営者の立場から見ても、懲戒処分を避け続けることはリスクの先送りにすぎません。問題行為がエスカレートし、後になって重い処分を検討せざるを得なくなった場合、「なぜもっと早く対応しなかったのか」という点が厳しく問われることになります。
また、後追いで処分を行おうとしても、「これまで黙認していたではないか」「突然厳しくなった」と反発され、処分の有効性が争われるリスクも高まります。適切なタイミングで段階的に対応していれば防げたはずの争いが、無用に複雑化してしまいます。
懲戒処分は、社員を排除するための制度ではありません。職場秩序を回復し、会社として守るべき一線を明確にするための手段です。それを使うべき場面で使わないことは、会社が自ら統制力を手放しているのと同じです。
会社経営者として重要なのは、「処分をするかしないか」で迷い続けることではなく、「なぜこの対応が必要なのか」を自分の言葉で説明できる状態を作ることです。適切な事実確認と手続きを踏んだ上での懲戒処分は、組織を守るための正当な経営判断です。
10. 早期対応と弁護士活用が会社と管理職を守る
上司を誹謗中傷する社員への対応で、最も大きな失敗は、「もう少し様子を見よう」「そのうち収まるだろう」と対応を先送りにしてしまうことです。誹謗中傷問題は、時間が経てば自然に解決するものではなく、放置すればするほど、会社のリスクが増大していきます。
対応が遅れれば遅れるほど、事実確認は難しくなり、当事者の記憶も曖昧になります。その結果、会社として十分な証拠をもとに対応できなくなり、注意・指導・懲戒処分のいずれを行うにしても、不安定な判断になりがちです。
また、早期に会社が動いていれば、比較的軽い注意や指導で収まった可能性がある事案でも、放置した結果、重い処分や紛争対応が必要になるケースは少なくありません。これは会社にとっても、被害を受けている上司にとっても、大きな負担になります。
こうした事態を防ぐためには、早い段階で弁護士を活用するという発想が重要です。内容証明が届いてから、裁判や労働審判になってから弁護士に相談するのではなく、「対応に迷う」「何となく嫌な予感がする」という段階で相談することに意味があります。
弁護士に相談することで、事実確認の進め方、注意・指導の方法、懲戒処分の可否や進め方について、法的リスクを踏まえた助言を受けることができます。これにより、会社経営者は自信を持って判断を下すことができ、管理職を不必要な負担から守ることにもつながります。
重要なのは、弁護士に任せきりにすることではありません。あくまで最終判断と責任は会社経営者にあります。そのうえで、専門家の知見を使いながら、会社として最善の対応を選択することが、経営判断として求められています。
上司を誹謗中傷する社員の問題は、会社の覚悟と初動対応で結果が大きく変わります。早期に動き、必要な場面で弁護士を活用すること。それが、会社と管理職を守り、組織を立て直すための最も現実的な方法です。

