問題社員73 毎年年休を使い切り欠勤する。

動画解説

 

1. 毎年年休を使い切って欠勤する社員が生む経営上の悩み

 毎年のように年次有給休暇をすべて使い切り、その後に欠勤を繰り返す社員がいると、会社経営者としては頭を悩ませるところだと思います。欠勤が続けば業務に支障が出ますし、周囲の社員への負担も大きくなります。

 特に、人員に余裕のない会社では、一人の欠勤が現場全体に与える影響は小さくありません。「どうして計画的に休めないのか」「年休を少し残しておいてくれればいいのに」と感じるのは、経営者として自然な感情でしょう。

 しかし、この問題を考える際に注意しなければならないのは、「困っている」という感覚と、「処分できるかどうか」は必ずしも一致しないという点です。業務に支障が出ているからといって、直ちに懲戒処分ができるとは限りません。

 また、この問題は年休の使い方と欠勤が混同されやすい点にも注意が必要です。年休をすべて使い切る行為そのものと、その後に発生する欠勤とでは、法的な評価が全く異なります。ここを整理せずに対応してしまうと、思わぬトラブルに発展するおそれがあります。

 会社経営者としてまず必要なのは、「どこが問題で、どこは問題ではないのか」を冷静に切り分けることです。感情論で「困るから何とかしたい」と考えるのではなく、法的に許される対応と、許されない対応を見極めることが重要になります。

 毎年年休を使い切って欠勤する社員の問題は、対応を誤ると、年休取得の妨害と受け取られかねません。一方で、適切に整理すれば、会社として取り得る対応も見えてきます。そのための前提として、まずこの問題の構造を正しく理解する必要があります。

2. 年休を使い切ること自体は処分できないという大前提

 毎年年休をすべて使い切る社員に対して、「それはどうなのか」「少しは残しておくべきではないか」と感じる会社経営者は少なくありません。しかし、まず押さえておかなければならないのは、年次有給休暇を使い切ること自体は、完全に労働者の権利であるという点です。

 年休は、労働基準法によって保障された権利であり、取得理由も問われません。いつ、どの年休を使うのかは、原則として労働者の判断に委ねられています。したがって、「毎年使い切っている」という事情だけで、注意や処分を行うことはできません。

 この点を誤解し、「年休を全部使うのは困る」「少し残すようにしなさい」といった趣旨の発言を、会社経営者や上司がしてしまうと、年休取得の抑制や妨害と受け取られるリスクがあります。たとえ命令のつもりがなく、「アドバイスのつもり」であっても、立場の違いから、社員側には圧力として伝わりやすい点に注意が必要です。

 特に、会社経営者自身がこのような発言をすると、その影響は大きくなります。「年休を取ると評価が下がるのではないか」「使い切ると目を付けられるのではないか」といった不信感が社内に広がれば、会社のイメージや職場環境にも悪影響を及ぼします。

 一方で、年休取得の結果として欠勤が増え、業務に支障が出ているという事情があったとしても、その不満を年休の使い方に向けてしまうのは適切ではありません。問題にすべき対象は、あくまで年休ではなく、その後に発生している欠勤の部分です。

 年休を使い切ること自体は問題ではない。この大前提を会社経営者がしっかり理解し、社内でも共有しておくことが重要です。この前提を踏まえたうえで初めて、「では、欠勤についてはどう考えるのか」という次の議論に進むことができます。

 

3. 「年休を残しておけ」と言ってはいけない理由

 毎年年休を使い切り、その後に欠勤を繰り返す社員を見ていると、「少しは年休を残しておけばいいのに」「計画的に使ってほしい」と言いたくなるのが、会社経営者としての正直な気持ちだと思います。しかし、この発言には注意が必要です。

 年休は、労働者が自由に取得できる権利であり、その使い方について会社が指示・誘導することは原則として許されていません。「年休を残しておけ」「取っておくべきだ」という発言は、内容次第では年休取得の抑制、すなわち権利行使への干渉と受け取られるおそれがあります。

 たとえ「命令ではない」「アドバイスのつもり」という意識であっても、会社経営者や上司という立場から発せられた言葉は、社員にとっては強い影響力を持ちます。結果として、「年休を使い切ると評価が下がるのではないか」「使い切ると目を付けられるのではないか」といった不信感を生むことになりかねません。

 また、「将来欠勤するかもしれないから年休を取っておけ」という考え方自体、会社側の都合を年休の使い方に反映させようとするものです。これは、年休制度の趣旨から外れています。年休は、将来の不測の事態に備えるための制度ではなく、あくまで労働者の裁量で取得する休暇です。

 問題があるとすれば、それは年休を使い切ったことではなく、その後に発生している欠勤の内容や頻度です。にもかかわらず、年休の使い方に口を出してしまうと、本来フォーカスすべき「欠勤」の問題がぼやけてしまいます。

 会社経営者としては、「年休は気持ちよく取得させる」「年休の使い方には口を出さない」という姿勢を明確にしたうえで、欠勤についてのみ冷静に評価・対応していく必要があります。その線引きを誤らないことが、この問題をこじらせないための重要なポイントです。

4. 処分の対象になるのは年休ではなく欠勤である

 毎年年休を使い切った後に欠勤が続く社員を見ると、「年休の使い方そのものが問題ではないか」と感じてしまいがちです。しかし、法的に整理すべきポイントは明確です。処分の対象になり得るのは年休ではなく、あくまで欠勤です。

 年休は、労働者が正当に取得できる権利であり、その行使を理由に不利益な取り扱いをすることは許されません。したがって、「年休を全部使ったから業務に支障が出た」という発想で対応してしまうと、会社側が不利な立場に立たされるおそれがあります。

 一方で、年休を使い切った後に発生する欠勤については、話が別です。欠勤は、労務提供義務を果たしていない状態であり、その頻度や態様によっては、業務運営に重大な支障を及ぼします。この部分については、会社として評価・対応を検討する余地があります。

 重要なのは、「年休を使い切ったこと」と「その後に欠勤したこと」を切り分けて考えることです。年休取得の事実は一切問題にせず、欠勤がいつ、どの程度発生しているのか、事前連絡の有無、業務への影響など、欠勤そのものに焦点を当てて整理する必要があります。

 例えば、無断欠勤が繰り返されている場合や、連絡があっても業務に著しい支障を生じさせている場合には、服務規律違反として注意や指導、場合によっては懲戒処分の検討対象になり得ます。ここで重要なのは、「年休を使い切ったから処分する」という構図にならないよう、理由付けを厳密にすることです。

 会社経営者としては、「年休は完全に切り離す」「欠勤だけを冷静に評価する」という姿勢を徹底する必要があります。この整理ができていなければ、正当な処分を行ったつもりでも、後から年休取得妨害と評価されるリスクが残ります。

 年休と欠勤を混同しないこと。これができるかどうかが、この問題を適切に処理できるかどうかの分かれ目になります。

5. サボりによる欠勤の場合に検討できる処分の範囲

 年休を使い切った後の欠勤について、会社経営者が最も悩むのが、「これは体調不良なのか、それともサボりなのか」という点だと思います。もし欠勤の実態が、正当な理由のないサボりである場合、会社として検討できる対応の幅は広がります。

 まず前提として、正当な理由のない欠勤は、労務提供義務違反に該当します。これは、年休とは異なり、会社が評価・指導・処分の対象とし得る行為です。ただし、「サボりだ」と決めつけるのではなく、その判断は慎重に行う必要があります。

 例えば、欠勤理由の説明が一貫していない、連絡が極端に遅い、欠勤日が特定の曜日や繁忙期に集中している、同僚の証言と本人の説明が食い違っている、といった事情が積み重なれば、正当な理由のない欠勤と評価される可能性が高まります。

 サボりによる欠勤と判断できる場合、まずは注意・指導が基本となります。どの欠勤が問題で、何が会社として許容できないのかを具体的に伝え、改善を求めることが重要です。この段階で記録を残しておくことは、後の対応において極めて重要になります。

 注意や指導を行っても改善が見られない場合には、就業規則に基づき、戒告や減給、出勤停止といった懲戒処分を検討することも可能です。さらに、欠勤が長期・反復的で、業務への支障が著しい場合には、より重い処分が問題となるケースもあります。

 ただし、処分の重さは、欠勤日数、頻度、業務への影響、本人の職位や責任の重さ、これまでの指導経過などを総合的に考慮して決める必要があります。いきなり重い処分に踏み切るのではなく、段階的な対応を取ることが、処分の有効性を確保するうえでも重要です。

 会社経営者として意識すべきなのは、「年休を使い切った社員を問題視している」という構図にならないことです。あくまで問題にするのは、正当な理由のない欠勤行為そのものです。この整理を徹底することで、会社は法的にも実務的にも安定した対応を取ることができます。

6. 欠勤日数と職位・責任の重さをどう評価するか

 欠勤への対応を検討する際、「何日欠勤したら処分できるのか」という発想に陥りがちですが、この考え方は危険です。欠勤の評価は、単純な日数だけで決められるものではありません。会社経営者としては、欠勤日数とあわせて、その社員の職位や担っている責任の重さを踏まえて評価する必要があります。

 例えば、同じ欠勤日数であっても、一般社員と管理職では、業務への影響は大きく異なります。管理職は、単に自分の業務をこなすだけでなく、部下の管理や意思決定、対外的な対応を担っている立場です。その管理職が頻繁に欠勤すれば、現場全体の業務に深刻な支障が生じます。

 また、欠勤が特定の時期や業務に集中している場合も、評価は厳しくなります。繁忙期や重要なプロジェクトの最中に欠勤が重なれば、業務への影響は一層大きくなります。この点は、単なる欠勤日数以上に重視すべき要素です。

 さらに、欠勤に至るまでの経緯も重要です。事前に相談があったのか、連絡は適切だったのか、業務の引き継ぎや調整に配慮があったのか。これらの事情によって、同じ欠勤であっても評価は大きく変わります。

 会社経営者として注意すべきなのは、「欠勤日数が少ないから問題にしない」「多いから即処分する」といった機械的な判断をしないことです。欠勤が業務運営にどのような影響を与えているのか、その社員の立場から見て、どの程度の責任違反と言えるのかを、総合的に判断する必要があります。

 この整理を怠ると、後になって処分の妥当性が争われた際に、「なぜこの社員だけ厳しく評価したのか」「基準が不明確だ」と指摘されるリスクが高まります。欠勤日数と職位・責任の関係を、会社として説明できる状態にしておくことが重要です。

 欠勤対応は、感情や場当たり的な判断ではなく、社員の立場と業務への影響を踏まえた経営判断です。この視点を持つことで、次に検討すべき「制度としての対応」へと進むことができます。

7. 私傷病休職制度がある場合の欠勤対応の考え方

 年休を使い切った後に欠勤が続く社員について、私傷病休職制度を設けている会社では、「この欠勤は休職に切り替えるべきではないか」という判断が問題になります。会社経営者としては、この切り替えのタイミングと考え方を整理しておく必要があります。

 私傷病休職制度は、社員の私的な病気やケガによって就労が困難になった場合に、一時的に労務提供義務を免除する制度です。したがって、前提となるのは、欠勤の原因が私傷病であり、就労が困難な状態にあるという点です。

 重要なのは、欠勤が続いているからといって、直ちに休職扱いにできるわけではないという点です。本人からの申出や、医師の診断書など、就労不能であることを裏付ける事情が必要になります。会社の都合で一方的に「休職にする」という対応は、制度趣旨から外れます。

 一方で、明らかに体調不良が原因で欠勤が続いているにもかかわらず、休職制度を使わずに欠勤扱いを続けることも問題です。この場合、会社が制度を用意していながら適切に適用していないとして、安全配慮義務の観点から責任を問われるリスクがあります。

 会社経営者として意識すべきなのは、欠勤の実態を丁寧に把握し、「就労が困難な状態なのか」「業務配慮で対応できる範囲なのか」「休職に切り替える段階なのか」を段階的に整理することです。休職は懲戒ではなく、あくまで制度上の措置であることを忘れてはいけません。

 また、休職制度を適用する場合には、休職期間、復職判断の基準、復職後の配置や配慮についても、就業規則に基づいて明確に運用する必要があります。ここが曖昧なままだと、休職が長期化し、かえってトラブルの原因になります。

 私傷病休職制度がある会社では、欠勤を「サボりかどうか」で即断するのではなく、まず制度として受け止める余地があるかを検討することが重要です。その整理ができてこそ、次に「制度がない場合はどうするか」という議論に進むことができます。

8. 私傷病休職制度がない場合の欠勤対応の注意点

 私傷病休職制度を設けていない会社の場合、年休を使い切った後の欠勤が続く社員への対応は、より慎重な判断が求められます。制度がないからといって、自由に欠勤を評価・処分できるわけではありません。

 まず理解しておくべきなのは、休職制度は法律上の義務ではなく、あくまで会社が任意で設ける制度であるという点です。したがって、制度がないこと自体が直ちに違法になるわけではありません。ただし、制度がない分、欠勤対応の一つ一つが会社の判断として直接評価されることになります。

 体調不良を理由とする欠勤が続いているにもかかわらず、「制度がないから欠勤扱いでよい」と機械的に処理してしまうと、安全配慮義務の観点から問題が生じる可能性があります。会社として、就労が困難な状態にある社員に対し、どのような配慮を検討したのかが問われるからです。

 一方で、私傷病休職制度がないからといって、すべての欠勤を正当化しなければならないわけではありません。欠勤理由が曖昧で、説明が一貫しない、連絡が不十分、業務への影響が大きいといった事情があれば、正当な理由のない欠勤として評価される余地はあります。

 会社経営者として重要なのは、「制度がない」という事実に安住せず、欠勤の実態を丁寧に把握し、個別に判断していく姿勢です。本人へのヒアリングを行い、体調状況や通院の有無、業務への復帰見込みなどを確認した上で、注意・指導にとどめるのか、処分を検討するのかを整理する必要があります。

 また、このような対応を繰り返す中で、欠勤対応が常に問題になるのであれば、制度設計そのものを見直すことも、会社経営者の判断事項です。私傷病休職制度を新たに設けるかどうかは、将来のリスク管理の観点から検討すべきテーマになります。

 私傷病休職制度がない会社では、欠勤対応がそのまま経営判断として評価されます。だからこそ、場当たり的な対応を避け、理由と経緯を整理したうえで、一貫した対応を取ることが不可欠です。

9. 体調不良による欠勤とサボりを区別する重要性

 年休を使い切った後の欠勤について対応を考える際、会社経営者が最も注意すべきなのが、「体調不良による欠勤」と「サボりによる欠勤」を混同しないことです。この区別を誤ると、会社は大きな法的リスクを抱えることになります。

 体調不良による欠勤は、本人の意思とは無関係に就労が困難になっている状態です。この場合、会社としては、欠勤そのものを非難したり、安易に処分を検討したりするのではなく、健康状態への配慮や、就労可能性の見極めを優先する必要があります。

 一方で、サボりによる欠勤は、正当な理由なく労務提供を怠っている状態であり、これは服務規律違反として評価され得ます。ただし、この判断は極めて慎重に行わなければなりません。「頻繁に休む」「タイミングが悪い」という印象だけで、サボりと決めつけることはできません。

 重要なのは、欠勤理由の説明内容とその一貫性、連絡の仕方、医療機関の受診状況、欠勤前後の勤務状況など、客観的な事情を積み重ねて判断することです。体調不良を理由としながら、説明が二転三転する、受診の形跡がない、業務に戻れる様子が見られないといった事情があれば、サボりを疑う余地が出てきます。

 逆に、医師の診断があり、欠勤理由も一貫していて、本人も就労継続を望んでいるような場合には、たとえ欠勤が業務に支障を与えていたとしても、サボりと評価することはできません。この場合、問題にすべきは欠勤の「是非」ではなく、制度や配置、業務負担の見直しです。

 会社経営者として意識すべきなのは、「疑わしいから処分する」という発想ではなく、「どちらと評価できるのかを説明できるか」という視点です。後になって対応の妥当性が問われたとき、合理的な説明ができなければ、会社側が不利になります。

 体調不良とサボりを丁寧に区別し、それぞれに応じた対応を取ることは、社員を守るためでもあり、会社自身を守るためでもあります。この線引きを曖昧にしないことが、欠勤問題をこじらせないための重要なポイントです。

10. 年休と欠勤を切り分けて考えることが会社を守る

 毎年年休を使い切り、その後に欠勤を繰り返す社員への対応で混乱が生じる最大の原因は、「年休」と「欠勤」を感情的に一体として捉えてしまうことにあります。会社経営者として最も重要なのは、この二つを明確に切り分けて考える姿勢です。

 年休は、労働者の権利であり、どのように使われても原則として問題にすることはできません。年休をすべて使い切ったという事実それ自体は、会社にとって不都合であっても、評価や処分の対象にはなりません。この点を曖昧にしたまま対応すると、年休取得妨害と評価されるリスクが一気に高まります。

 一方で、年休とは別に、その後に発生している欠勤については、会社として冷静に評価する必要があります。欠勤の理由は何か、頻度や期間はどの程度か、業務への影響はどれほどか。これらを具体的に整理した上で、注意・指導にとどめるのか、処分を検討するのか、制度対応を取るのかを判断していくことになります。

 この切り分けができていれば、「年休を使い切ったから困る」という感情論から離れ、「欠勤という事実にどう対応するか」という建設的な議論が可能になります。逆に、両者を混同したまま対応すると、会社は常に法的に不安定な立場に置かれます。

 年休と欠勤を切り分けて考えることは、社員を甘やかすことではありません。むしろ、会社として取れる対応と取れない対応を明確にし、正当な範囲で毅然と対応するための前提条件です。

 会社経営者としては、「年休は一切問題にしない」「欠勤は事実と影響を基に評価する」という軸を社内で共有し、一貫した対応を取ることが求められます。この整理ができていれば、感情に振り回されることなく、会社を守る判断ができるようになります。

 年休と欠勤を正しく切り分けて考えること。それが、この問題において会社経営者が取るべき、最も重要で実務的な結論です。

 


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