残業代請求対策(基本的発想)

残業代請求対策をする上で重要な点

 残業代請求対策をする上では,次の発想が重要と考えています。

①時間外・休日・深夜に労働させた場合に残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払うことは,全ての労働者に共通する基本原則であること

②発生した残業代は,「支払済み」にしなければ,残業代請求を受けるリスクはなくならないこと

③変形労働時間制のような労働時間に関する規制を緩和する制度や,管理監督者のような労働時間規制等を適用除外する制度は,使用者の残業代の支払義務を免除することを主な目的として立法された制度ではないため,残業代請求対策を主な目的として採用すべきではないこと

計算式から導かれる検討事項

 未払残業代は,「①残業代の時間単価×②残業時間数+③遅延損害金-④既払いの残業代」で算定されますので,残業代請求対策としては,

①残業代の時間単価を抑制すること

②残業時間数を抑制すること

③遅延損害金の発生を抑制すること

④発生した残業代を支払うこと

が主な検討事項になります。

 ただし,①残業代の時間単価を抑制しただけでは,能力や貢献度に見合った賃金が支給できなくなってしまいますので,適正水準の賃金を支給し,優秀な人材を確保することができるようにするために,残業代の時間単価を抑制する一方で,能力や貢献度に応じた賃金を支給できるようにする必要があります。

 残業代の時間単価を抑制しつつ能力や貢献度に応じた賃金を支給できるようにする方法としては,

①月例賃金を抑制し,賞与の比率を高める

②月例賃金に占める除外賃金の割合を高める

③定額残業代制を採用する

ことが考えられます。

残業代の消滅時効期間

 残業代の消滅時効期間は各給料日から2年です。各給料日から2年を経過している残業代について請求を受けた場合は,消滅時効の援用を検討することになります。

残業代を支払わない旨の合意

 残業代の支払は労基法37条で義務付けられており,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める部分についてのみ無効となり,無効となった部分は労基法で定める労働基準となります(労基法13条)。

 残業させた場合であっても労基法37条に定める残業代を支払わないとする合意は無効となり,残業させた場合には労基法37条で定める残業代の支払義務を負うことになるため,残業代を支払わなくても異存はない旨の誓約書に署名押印させてから残業させた場合であっても,使用者は残業代の支払義務を免れることはできません。この結論は,年俸制社員であっても,同業他社より高額の基本給・手当・賞与を支給して,残業に十分に報いていたとしても,変わりません。「残業代なんて払っていたら,会社経営なんてできない。」などと言って残業代を支払わないでいると,残業代請求を受けるリスクが高くなります。

残業代とは分からない名称の手当を残業代の趣旨で支給する場合

 「営業手当」「役職手当」「特殊手当」「配送手当」「長距離手当」等,一見して残業代の支払のための手当とは分からない名称の手当を残業代の趣旨で支給する場合は,個別合意や就業規則や労働協約の定めに明記しておく必要があります。

 書面にはそれらの手当が残業代の趣旨で支給されるものであることは全く書かれていない事案で,「「当該手当は残業代の趣旨で支給する」と口頭で説明してある」との説明を受けることも多いですが,労働条件通知書や賃金規程等に残業代の趣旨で支給する旨明記されていないと,裁判所に残業代の支払であると認定してもらうことは難しく,固定残業代の合意等が有効か無効かという論点以前の問題として,固定残業代の合意等が存在しないと判断されてしまう可能性が高いです。

 労働条件通知書や賃金規程等に残業代の趣旨で支給する旨明記されていた場合であっても,当事者(特に会社側)が残業代の趣旨で支給される手当だという認識が希薄な場合には,実質的に見て,当該手当は時間外労働等の対価としての性格を有しないとして,残業代として認められない場合があります。

 他方,「残業手当」「時間外勤務手当」「深夜勤務手当」「休日勤務手当」等,一見して残業代の趣旨を有する手当であることが分かる名目で支給し,給与明細書や賃金台帳にその金額の記載がある場合は,時間外労働などの対価としての性質を有していないと判断されるリスクは低くなります。

 「営業手当」「役職手当」「特殊手当」「配送手当」「長距離手当」等,一見して残業代の支払のための手当であるとは読み取れない手当の「一部」を残業代の趣旨で支給する場合にも,残業代に当たる部分を特定して支給しないと,残業代の支払とは認められない可能性が高いところです。

 たとえば,役職手当として5万円を支給し残業代が含まれているという扱いにしている場合,役職者としての責任等に対する対価が何円で,残業代が何円なのか分からないと,残業代の支払が全くなされていないことを前提として残業代が算定されるリスクが高くなります。

 固定残業代の合意等をする場合にも「含む。」という曖昧な言葉は使わず,明確に金額を分けてその全額が残業代であることを明示するようにしましょう。

個人事業主や取締役の場合

 個人事業主や取締役であっても,労基法が予定する程度の指揮命令下で仕事をさせると,労基法上の労働者と認定され,残業させた場合には残業代の支払が必要となることがあります。

 労基法上の労働者に該当するかどうかは,労基法上の労働者性に関する裁判例のほか,昭和60年12月19日付け労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」を参考に判断することが多いです。

管理職≠管理監督者

 労基法上の管理監督者に該当する場合は,労働時間規制の対象から除外されるため,時間外・休日に労働させても時間外・休日割増賃金を支払う義務はなく,深夜労働時間を把握して,深夜割増賃金を支払えば足ります。

 ただし,管理監督者は残業代請求対策のための制度ではありません。単なる管理職というだけでは管理監督者には該当せず,厳格な要件を満たして初めて管理監督者として認められるのが裁判実務での運用です。

 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,

① 職務の内容,権限及び責任の程度

② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度

③ 待遇の内容,程度

等の要素を総合的に考慮して,判断されることになります。

Return to Top ▲Return to Top ▲