残業代請求の対応(会社経営者側)

残業代請求の対応(会社経営者側)

 毎月の給料日に支払っている給料のほかに未払残業代があると主張されて残業代請求を受ければ,会社経営者が困惑するのは当然のことです。なぜなら,会社経営者の認識としては,残業代についても毎月の給料を支払うことにより支払済みと考えていたのであり,追加の残業代請求は予想外の出来事だからです。残業代請求は,会社に対する貢献度が高く,会社経営者が多額のボーナスを支払いたくなるような在職中の社員からではなく,会社に迷惑をかけて辞めたような問題社員からなされることが多いことも,会社経営者の困惑に追い打ちをかけます。そのような問題社員に対し多額の残業代を支払う結果になった場合,会社のために頑張って働いている社員に不公平感が蔓延してしまいかねません。
 しかしながら,残業代の計算は極めてテクニカルな問題であり,実質的には十分な賃金が支払われている場合であっても,裁判所で会社経営者の言い分が認められないことは珍しくありません。未払残業代額は「残業代の時間単価×残業時間数+遅延損害金-支払済みの残業代額」で機械的に決まってしまいます。会社経営者が本人のためにどれだけ配慮してあげたか,本人がどれだけ周りに迷惑をかけた問題社員かといったことは,全く考慮されません。たとえ,刑事事件を起こして退職したような問題社員であっても,「残業代の時間単価×残業時間数+遅延損害金-支払済みの残業代額」で計算した結果,未払残業代があれば,堂々と裁判で残業代を取得できてしまうのです。
 こんな請求を認めてしまったら,真面目に働いている他の社員に申し訳ないとは思いませんか?会社経営者は,残業代請求をした一部の社員のことだけ考えればいいというものではなく,あなたの会社のために働いてくれている社員全員のことを考えてあげなければなりません。賃金原資が限られている中,社員全員が会社に対する貢献度に応じた賃金を得られるようにするのが,正義に適っていることは明らかです。
 弁護士法人四谷麹町法律事務所は,残業代請求を受けた会社の経営者から数多くの相談を受け,労働審判,労働訴訟,団体交渉の対応に当たってきました。会社のために頑張ってくれている社員が不公平感を抱かないよう,社員全員が会社に対する貢献度に応じた賃金を得られるようにするための賃金制度の構築,労務管理にも,数多く関わっています。残業代を請求する労働審判,労働訴訟,団体交渉等の対応は,弁護士法人四谷麹町法律事務所にご相談下さい。 

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎

目 次

残業代の計算

未払残業代の計算式 Menu

 未払残業代額は,
 残業代の時間単価×残業時間数+遅延損害金-既払いの残業代
で計算します。

残業代の種類 Menu

 労基法37条が定める残業代には,
 ① 時間外割増賃金
 ② 休日割増賃金
 ③ 深夜割増賃金
の3種類があります。

 労基法37条で支払が義務付けられていない時間,例えば,法定内時間外労働時間についても残業代を支払うこととされている場合には,当該規定等に基づき残業代を支払う必要があることになります。

残業代の計算式 Menu

 残業代の計算式は,
 ①通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価×②時間外・休日・深夜労働時間数×③所定の割増率
残業代の時間単価(①③)×時間外・休日・深夜労働時間数(②)
です。

 残業代の時間単価は,
 ①通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価×③所定の割増率
で計算します。

通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価の計算 Menu

時給制のアルバイトの場合
 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価=時給です。
 時給1000円であれば,通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価=1000円/時となります。

日給制の場合 
 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価=日給÷一日の所定労働時間数で算定されます。
 日給1万円で所定労働時間数が8時間の場合は,1万円÷8時間=1250円/時となります。

月給制の正社員の場合 
 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価=月給÷一年間における一月平均所定労働時間数で算定されます。
 例えば,月給26万円で除外賃金がなく,一年間における一月平均所定労働時間数が160時間であれば,26万円÷160時間=1625円/時が通常の労働時間・労働日の賃金となります。

一年間における一月平均所定労働時間数の計算 Menu

 月給制の通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価を計算する場合,「月における所定労働時間数」を算出する必要があります。月によって所定労働時間数が異なる場合には,「一年間における一月平均所定労働時間数」を算出する必要があります。

 一年間における一月平均所定労働時間数は,次のように計算します。

①年間所定労働日数の計算
 1年の日数(365日または366日)-年間所定休日数
②年間所定労働時間数の計算
 1日の所定労働時間数×年間所定労働日数(①)
③一年間における一月平均所定労働時間数の計算
 年間所定労働時間数(②)÷12か月

 たとえば,1年の日数が365日,年間所定休日数125日であれば,一年間における一月平均所定労働時間数は次のように計算します。
 年間所定労働日数=365日-125日=240日
 年間所定労働時間数=8時間×240日=1920時間
 一年間における一月平均所定労働時間数=1920時間÷12か月=160時間/月

除外賃金とは Menu

 除外賃金とは,家族手当,通勤手当,別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金,1か月を超える期間ごとに支払われる賃金など,労働の内容や量と無関係な労働者の個人的事情で変わってくる賃金手当のことをいいます。

 残業代を計算する際の基礎賃金には,「除外賃金」は含まれません。
 たとえば月給26万円のうち,4万円が除外賃金に該当する家族手当・通勤手当等の場合,一年間における一月平均所定労働時間数が160時間であれば,通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価は,(26万円-4万円)÷160時間=22万円÷160時間=1375円/時となります。

 除外賃金に該当するかどうかは実質的に判断されるため,「家族手当」とか「通勤手当」といった名目で支給されていたとしても,除外賃金にあたるとは限りません。
 扶養家族数に応じて支給される家族手当,通勤に必要な実費に対応して支給される通勤手当等であれば,除外賃金に該当しますが,扶養家族数とは関係なく一律に支給される家族手当,通勤距離や通勤に要する実費等とは関係なく一律に支給される通勤手当等は,除外賃金には該当せず,割増賃金(残業代)の基礎となる賃金に算入します。

 労基法37条5項,労規則21条の除外賃金は限定列挙と考えられており,「残業代(割増賃金)」は除外賃金として規定されていませんが,残業代(時間外・休日・深夜労働の対価)の実質を有する賃金については,これを残業代計算の基礎に算入すると趣旨が重複するため,残業代の基礎賃金から除外します
 労基法37条5項,労規則21条に「残業代(割増賃金)」が掲げられていないせいか,残業代の趣旨で支給する手当についてまで基礎賃金に含めて残業代を計算したり,基準内賃金扱いにしたりしている賃金規程が散見されますが,お勧めできません。残業代の趣旨で支給する賃金を残業代計算の基礎に算入して残業代を計算したり,基準内賃金扱いにすること自体は,直ちに労基法37条に違反するものではありません。しかし,当該賃金が残業代請求対策のために形式的に残業代として支払う旨規定しているだけであって,残業代(時間外・休日・深夜労働の対価)の実質を有していないと評価されるリスクが高くなってしまいます。当該賃金が残業代の実質を有していないと評価された場合,残業代計算の基礎賃金に算入されるだけでなく,残業代の支払として認められなくなってしまいます。

残業代の支給名目 Menu

 残業代(時間外・休日・深夜労働の対価)の実質を有する賃金については,これを残業代計算の基礎賃金に算入すると趣旨が重複してしまうため,残業代計算の基礎賃金には算入しませんが,一見して残業代と分からない支給名目で残業代を支給すると,残業代の支払とは認められないリスクを高める(マイナスポイントとなる)ことになります。
 「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等の残業代の趣旨で支払われたと推認できる名目で支払われた賃金については,通常は残業代として取り扱われ,残業代計算の基礎賃金には算入されません。定額残業代(固定残業代)について,残業代(時間外・休日・深夜労働の対価)としての実質を有しているかどうかが問題となることがある程度です。
 他方,「営業手当」等,その名目から残業代であるとは推認できないものについては,賃金規程に当該手当が残業代である旨明記して周知させたり,労働契約書にその旨明示して合意したりしておかなければ,残業代として取り扱われず,基礎賃金に算入されるリスクが生じます。就業規則や労働契約書に明記していた場合であっても,残業代(残業の対価)としての実質を有しないと判断された場合には,基礎賃金に算入されることになります。また,残業代の支払の趣旨が含まれることまでは認めてもらえたとしても,営業社員等の職務に対して報いる等,残業代以外の趣旨と混在している場合には,残業代と通常の賃金を判別することができないとして,残業代の支払とは認められないことはよくあります。
 したがって,残業代の名目は,「時間外勤務手当」「休日勤務手当」「深夜勤務手当」等,名称自体から残業代(時間外・休日・深夜労働の対価)であることを推認することができる名目とすることが望ましいところです。

割増率 Menu

 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価を算定した後,「割増率」を乗じて残業代の時間単価を算定することになります。
 法定時間外労働時間      25%増し(1月60時間超の場合は中小事業主を除き50%増し)
 法定休日労働時間       35%増し
 深夜労働時間(22時~5時) 25%増し

 平成22年4月1日の労働基準法の改正により,1か月に60時間を超える法定時間外労働を行わせた場合,その超えた部分については,通常の賃金の時間単価の50%増し以上の割増率で計算した残業代を支払わなければならないと規定されましたが,中小事業主(資本金の額が3億円以下である事業主及び常時使用する労働者の数が300人以下である事業主等)については,この規定は猶予されています。
 法定休日労働については,休日労働における時間外労働という概念が無いため,時間外労働に関する規制が及ばず,休日に8時間を超えて労働した場合でも,深夜にわたらない限り,割増率は,通常の労働時間の賃金の35%増しでよいとされています。

残業時間数 Menu

1.残業時間の種類と基本的な考え方
 残業時間には,①時間外労働時間,②休日労働時間,③深夜労働時間の3種類があります。
 時間外労働時間は,労基法32条の規制を超えて労働させた時間のことをいい,週40時間,1日8時間を超えて労働させた時間は,原則として時間外労働時間に該当します。時間外労働時間数をカウントする場合,1日8時間超の時間外労働時間としてカウントした時間については,週40時間超の時間外労働時間をカウントする際には重複してカウントしません
 例えば,日曜日が法定休日の企業において,月曜日~土曜日に毎日9時間ずつ労働させた場合,月~木に9時間×4日=36時間労働させているから金曜日に4時間を超えて労働した時間から週40時間超の時間外労働になると考えるのではなく,月~金に1時間×5日=5時間の時間外労働のほか8時間×5日=40時間労働させているから土曜日の勤務を開始した時点から週40時間超の時間外労働となると考えることになります。
 日曜日 法定休日
 月曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 火曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 水曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 木曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 金曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 土曜日 労働時間9時間(時間外労働9時間)←週40時間超

2.特例措置対象事業場 
 次の事業場のうち,常時10人未満の労働者を使用するもの(特例措置対象事業場)については,1週間については44時間,1日については8時間まで労働させることができます。特例措置対象事業場についても,1日8時間を超えて労働させた場合には時間外労働となりますが,1週間については44時間を超えて労働させて初めて時間外労働となります。
 例えば,日曜日を法定休日として,月~土に1日9時間ずつ労働させた場合,土曜日に4時間を超えて労働し始めた時点から週44時間超の時間外労働時間となります。
 日曜日 法定休日
 月曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 火曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 水曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 木曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 金曜日 労働時間9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 土曜日 労働時間9時間(時間外労働5時間)←週44時間超

3.所定労働時間が1日8時間未満の場合
 所定労働時間が1日8時間未満(例えば,7時間)の場合に1日8時間ちょうど働いたような場合,労基法上の時間外労働はしていなくても,所定時間外労働はしていることになります。所定時間外労働ではあっても労基法上の時間外労働ではない時間について賃金を支払うかどうかは労基法37条の規制外であり,賃金規程や個別合意で決めることができます。ただし,労働契約は労務の提供と賃金の支払が対価関係に立つ双務契約ですので,特段の定めがない場合は,割増ししない通常の時間単価の賃金を支払うこととされる可能性が高いと思います。就業規則等で法内残業についても割増しした賃金を払う旨定めている場合には,それによることになります。

4.休日労働時間
 休日労働時間とは,労基法35条の法定休日(原則として1週1休以上)に労働させた時間のことをいいます。土日が休日の週休二日制の会社において,日曜日が法定休日の場合,休日である土曜日に労働させた場合であっても,ここでいう休日労働には該当せず,週40時間を超えて労働させた結果,時間外労働に該当する可能性があるにとどまります。

5.深夜労働時間 
深夜労働時間とは,深夜(22時~5時)に労働させた時間のことをいいます。昼間の仕事の場合には,深夜労働時間は,時間外労働時間でもあるのが通常です。夜勤の場合は,深夜労働ではあっても,時間外労働ではないことがあります。

残業時間数の計算例 Menu

 モデルケース(始業午前9時,終業午後6時,休憩時間1時間,法定休日は日曜日)を使って時間外労働時間(残業時間)の計算すると,次のようになります。

1.時間外労働時間数の計算
 通常の労働日に,午前9時に労働を開始し,午後8時まで働いた場合,休憩時間が1時間であれば,時間外労働時間数は2時間となります。
計算1

2.深夜労働時間数の計算
 通常の労働日に,午前9時に労働を開始し,深夜1時まで働いた場合,休憩時間が2時間であれば,時間外労働時間数は6時間,深夜労働時間数は3時間になります。

計算2

3.週40時間超の計算

 月曜日から土曜日まで,毎日,午前9時に労働を開始し,午後8時まで働いた場合,休憩時間が1時間であれば,月曜日から土曜日までの時間外労働時間数の合計は15時間になります。

計算3

 なお,1日8時間超の時間外労働時間としてカウントした時間については,週40時間超の時間外労働時間をカウントする際には重複してカウントしませんので,3月5日(金)からではなく6日(土)から週40時間超の労働時間をカウントすることになります。

4.所定労働時間が7時間30分の場合の計算
 始業午前9時,終業午後5時30分,休憩時間1時間(1日の所定労働時間7時間30分),法定休日が日曜日の会社において,月曜日から金曜日まで毎日午前9時から午後8時まで働き,土曜日は午前9時から午後3時まで働いた場合,月曜日から土曜日までの法内時間外労働時間数の合計は2時間30分(30分×5日),法外時間外労働時間数の合計は15時間((2時間×5日)+5時間)となります。
 時間外労働時間数をカウントする場合,1日8時間超の時間外労働時間としてカウントした時間については,週40時間超の時間外労働時間をカウントする際には重複してカウントしませんが,1日8時間以内であれば所定時間外労働時間であってもカウントします1日7時間30分を超えて8時間までの30分については,週40時間超の時間外労働時間数をカウントするにあたり,「週40時間」にカウントすることになります。

計算4

 

残業代の時間単価 Menu

時給1000円のアルバイトの場合
 時給制のアルバイトの残業代の時間単価は,時給単価に割増率を乗じて計算します。
 時間外割増賃金=時給1000円×1.25=1250円/時
 休日割増賃金=時給1000円×1.35=1350円/時
 深夜(22時~5時)の労働時間については,
 深夜割増賃金=1000円/時×0.25=250円/時
を加算します。したがって,
 深夜の時間外労働の時間単価=1250円/時+250円/時=1500円/時
 深夜の休日労働の時間単価=1350円/時+250円/時=1600円/時
となります。

通常の労働時間・労働日の賃金が1500円/時の正社員の場合
 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価が1500円/時の正社員の場合,残業代の時間単価の計算は次のようになります。
 時間外割増賃金=1500円/時×1.25=1875円/時
 休日割増賃金=1500円/時×1.35=2025円/時
 深夜(22時~5時)の労働時間については,
 深夜割増賃金=1500円/時×0.25=375円/時
を加算します。
 したがって,
 深夜の時間外労働の時間単価=1875円/時+375円/時=2250円/時
 深夜の休日労働の時間単価=2025円/時+375円/時=2400円/時
となります。

月給制の正社員の残業代計算のモデルケース Menu

 これまでの残業時間の計算方法に従って,実際に月給制の労働者の残業代を計算してみましょう。

 [モデルケース]
 1日の所定労働時間:8時間
 1年の日数365日
 年間所定休日数:131日
 月給:基本給25万円(他の手当等無し)
 残業時間数:時間外労働時間数35時間(うち深夜労働時間数15時間),休日労働時間数20時間

1 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価
 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価は,「月によって定められた賃金(基礎賃金)÷一月平均所定労働時間数」で求められますので,除外賃金がない今回のモデルケースでは次のように計算します。
 年間所定労働日数=365日-所定休日数131日=234日
 年間所定労働時間数=1日の所定労働時間数8時間×年間所定労働日数234日=1872時間
 一月平均所定労働時間数=1872時間÷12か月=156時間/月
 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価=月給25万円÷156時間=1602円/時(小数点以下切り捨て)

2 残業代の時間単価の計算
 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価に割増率を乗じ,残業代の時間単価を計算します(小数点以下切り捨て)。
 時間外割増賃金の時間単価=1602円/時×1.25=2002円/時
 休日割増賃金の時間単価 =1602円/時×1.35=2162円/時
 深夜割増賃金の時間単価 =1602円/時×0.25= 400円/時

3 残業代の計算 
 残業代は,上記で算定した残業代の時間単価に,残業時間数を乗じて計算します。
 時間外割増賃金=2002円/時×35時間=7万0070円
 休日割増賃金 =2162円/時×20時間=4万3240円
 深夜割増賃金 =400円/時×15時間 =  6000円
                   合計11万9310円

歩合給制の残業代計算のモデルケース Menu

 歩合給(出来高払)制の残業代は,以下の計算式で計算します。
 歩合給÷総労働時間数×割増率×時間外・休日・深夜労働時間数
で計算します。

 歩合給を「総労働時間数」で割るのは,歩合給の対象となる成果は実労働時間全体によって生じているという考え方に基づくものです。

 歩合給に関しては,残業時間に対する時間当たりの賃金(1.0の部分)は支払済みであり,残業代として支払うのは割増部分のみで足ります。つまり,固定給では通常の労働時間・労働日の時間単価に1.25を乗じて時間外割増賃金の時間単価を算出するのに対し,歩合給については通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価に0.25を乗じて時間外割増賃金の時間単価を算出するということになります。

 それでは,この計算方法に従って,実際に歩合給制の労働者の残業代を計算してみましょう。

 [モデルケース]
 歩合給:30万円
 総労働時間数:200時間
 残業時間:時間外労働時間数30時間,休日労働時間数10時間

1 残業代の時間単価の計算
 時間外労働の時間単価=(歩合給30万円÷総労働時間数200時間)×0.25=375円/時
 休日労働の時間単価 =(歩合給30万円÷総労働時間数200時間)×0.35=525円/時

2 残業代の計算
 時間外割増賃金=375円/時×30時間=1万1250円
 休日割増賃金 =525円/時×10時間=  5250円
                  合計 1万6500円

固定給と歩合給の両方がある場合のモデルケース Menu

 固定給と歩合給の両方を支払っている場合は,固定給部分と歩合給部分を分けて計算します。

  [モデルケース]
 固定給:基本給25万円
 歩合給:5万円
 一月平均所定労働時間数:156時間
 総労働時間数:206時間
 残業時間:時間外労働時間数30時間,休日労働時間数20時間

固定給部分の残業代の計算

1.通常の労働時間における賃金の時間単価の計算(小数点以下切捨て)
 通常の労働時間における賃金の時間単価=固定給25万÷一月平均所定労働時間数156時間=1602円/時

2.残業代の時間単価の計算(小数点以下切捨て)
 時間外労働の時間単価=1602円/時×1.25=2002円/時
 休日労働の時間単価=1602円/時×1.35=2162円/時

3.残業代の計算
 時間外割増賃金=2002円/時×30時間=6万0060円/時
 休日割増賃金=2162円/時×20時間=4万3240円/時

4.固定給部分の残業代の計算
 固定給部分の残業代=6万0060円+4万3240円=10万3300円

歩合給部分の残業代の計算

1.残業代の時間単価の計算(小数点以下切捨て)
 時間外労働の時間単価=(歩合給5万円÷206時間)×0.25=60円/時
 休日労働の時間単価=歩合給5万円÷206時間×0.35=84円/時

2.残業代の計算
 時間外割増賃金=60円/時×30時間=1800円
 休日割増賃金=84円/時×20時間=1680円

3.歩合給部分の残業代の計算
 歩合給部分の残業代=1800円+1680円=3480円

残業代合計(固定給部分+歩合給部分)
 残業代合計=固定給部分の残業代10万3300円+歩合給部分の残業代3480円
      =10万6780円

所定労働時間が7時間30分の場合のモデルケース Menu

 所定労働時間が,労基法32条で1日8時間,週40時間と規定している労働時間よりも短い場合,当該所定労働時間を超えて1日8時間,週40時間を超えない範囲の労働時間を「法内時間外労働時間(法内残業)」といいます。法内残業について残業代を支払うかどうかは労基法37条の規制外であり,支払わない扱いとしたとしても労基法37条に違反するものではありません。
 しかし,労働契約が労務の提供に対し賃金を支払うことを内容とする双務契約であることから,特別な定めがない場合は通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価で計算した賃金を支払うこととされていることも珍しくありません。また,法内時間外労働時間について,就業規則で割増率が定められている場合には,その割増率で計算することになります。本モデルケースでは,法内残業については,通常の賃金の時間単価で計算された賃金を支払うものとして,計算しています。

[モデルケース]
1日の所定労働時間:7時間30分
一月平均所定労働時間数:156時間
月給:基本給30万円(他の手当等なし)
残業時間:法内時間外労働時間10時間,時間外労働時間数35時間(内深夜労働時間数15時間),休日労働時間数20時間

1 通常の労働時間・労働日における賃金の時間単価の計算(小数点以下切捨て)
 通常の労働時間・労働日における賃金の時間単価=固定給30万÷一月平均所定労働時間数156時間
                       =1923円/時

2 残業代単価(小数点以下切捨て)
 時間外割増賃金の時間単価=1923円/時×1.25=2403円/時
 休日割増賃金の時間単価 =1923円/時×1.35=2596円/時
 深夜割増賃金の時間単価 =1923円/時×0.25=480円/時

3 残業代の計算
 法定内時間外賃金=1923円/時×10時間=1万9230円
 時間外割増賃金 =2403円/時×35時間=8万4105円
 休日割増賃金  =2596円/時×20時間=5万1920円
 深夜割増賃金  =480円/時×15時間 =  7200円
                     合計16万2455円

労働時間

労基法上の労働時間とは Menu

 労基法上の労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい(労基法32条),労基法上の労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めの如何により決定されるべきものではありません。
 労働者が,就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,当該行為は,特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労基法上の労働時間に該当します。

労働時間数の認定 Menu

 労働時間数は原則として,「一日の労働時間の開始時刻から終了時刻までの拘束時間-休憩時間」で,一日ごとに認定されることになります。

 タイムカード,ICカード等の客観的な記録がある場合は,原則としてタイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として,一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間が認定されます。自己申告制を採用し,日報等が存在する場合も,原則として日報等を基礎として一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間が認定されることになります。
 ただし,タイムカード,ICカード等の客観的な記録や,自己申告の内容が,実際の一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間と大きく乖離している場合には,これらを基礎として一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間を認定することはできません。必要に応じて実態調査を実施し,所要の労働時間の補正をするなどして,適正に実際の一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間を管理する必要があります。

 タイムカード,ICカード等の客観的な記録も,自己申告された日報等も存在しない場合については,日記等により一応の労働時間の立証がなされたのに対し会社側が有効な反証ができないと,日記等の証明力の低い証拠だけで労働時間が認定されることがあります。労働時間を水増しした残業代請求がなされても反論できるよう,タイムカード,ICカード等の客観的な記録や日報等を基礎として,労働時間を管理しておくようにしましょう。

通勤時間の労働時間性 Menu

 通勤は,労働者が労働力を使用者のもとへ持参するための債務の履行の準備行為であって,使用者の指揮命令下に入っていない労務提供以前の段階に過ぎませんので,通勤時間は労働時間に該当しません。
 高栄建設事件東京地裁平成10年11月16日判決においても,労働者が会社の提供するバスに乗って寮と就業場所を往復していた時間について,「寮から各工事現場までの往復の時間はいわゆる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものである以上,これについては原則として賃金を発生させる労働時間にあたらないものというべきである」と述べており,単に通勤方法について一定の拘束を受けていたというだけでは,使用者の指揮命令下におかれているとは認めていません。

直行直帰の移動時間の労働時間性 Menu

 直行・直帰とは,いったん会社に出勤し,そこから使用者の業務命令により作業現場や得意先などの目的地に移動すべきところを,会社を経由することによる無駄を省くため,直接自宅から目的地に移動し,また,目的地から直接自宅に移動することをいいます。
 実際の労務提供は目的地で開始されるものであり,目的地までの移動は準備行為と考えることができ,且つ,労働者は移動時間中の過ごし方を自由に決めることができることから,使用者の指揮命令が全く及んでいない状態にあるため,原則として労働時間性は認められません。

手待ち時間の労働時間性 Menu

 手待時間は,使用者の指示があれば直ちに作業をしなければならず,使用者の指揮監督下に置かれている時間でので,手待時間は労働時間に該当します。使用者の指揮監督から離脱し,労働者が自由に利用できる時間である休憩時間とは異なります。
 労基法でも,作業時間と手待時間が交互に繰り返される断続的労働について,労働時間規制の例外としていますが,手待時間も労働時間に含まれることを前提としていると考えられます。
 手待時間と休憩時間の区別については,場所的拘束の有無や程度,使用者の指揮命令の具体的内容,実作業の必要性から生じる頻度や実作業に要する時間等の判断要素を踏まえて,個別具体的に判断していくことになります。

緊急対応のための待機時間の労働時間性 Menu

 緊急対応のための待機時間は,それが使用者の指揮命令下に置かれているか否かにより,労基法上の労働時間に該当するか否かを判断することになります。
 自宅での待機時間については,待機場所が自宅であることからすれば,待機中も制服の着用を求めたり,仮眠を禁止したりするなど,待機中の過ごし方を強く拘束されている場合や,頻繁に緊急対応しなければならないような場合でなければ,労働時間には該当しないと考えます。

 大星ビル管理事件最高裁平14年2月28日第一小法廷判決では,「本件仮眠時間中,労働契約に基づく義務として,仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられている」こと,「(作業)の必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しない」ことから,仮眠時間を労働時間と認めています。

 他方,大道工業事件東京地裁平20年3月27日判決では,ガス管からガスが漏出した際に復旧工事を担当する会社が,修理依頼がある場合に備えて雇用する労働者に対し,シフト制により工事対応を義務付けていたところ,シフト担当の労働時間制が争われ,シフト担当時間に比較して実稼働時間が極めて少なかったこと,労働者はシフト担当時間に寮の自室でテレビを見たりパソコンを操作したりするなどし,外出の規制もなかったことなどから,「原告ら従業員は高度に労働から解放されていたとみるのが相当である」と判示し,労働時間ではないと判断されています。

研修や勉強会の時間の労働時間性 Menu

 就業規則や労働契約において,就業時間外に行われる研修,講習,自主活動等の時間について,残業代を支払う旨定められているなどして,残業代を支払うことが労働契約の内容となっている場合には,当然,残業代を支払う必要があります。
 このような定めでが無い場合でも,
 ① 使用者が研修への参加を義務付ける場合
 ② 使用者が参加を義務付けないとしても不参加の場合に賃金や人事考課等で不利益を受けたりする場合
 ③ 使用者の義務付けや不利益を受けることがなくても研修の内容が業務と密接な場合
 ④ 研修を受けないと業務に支障が生じる場合
には,参加を余儀なくされたと評価されるため,使用者の指揮命令下に置かれているものと評価することができ,研修の時間を労働時間として取り扱わなければならないと考えます。
 他方,純然たる自由参加で,社員が参加しなくても何の不利益も課されず,業務に具体的な支障が生じないような場合は,研修等に要した時間は労働時間には該当しません。

健康診断の労働時間性 Menu

 通達では,一般健康診断に関し,「健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払については,労働者一般に対して行われるいわゆる一般健康診断は,一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり,業務遂行との関連において行われるものではないので,その受診のために要した時間については,当然には事業者の負担すべきものではなく,労使協議して定めるべきものであるが,労働者の健康の確保は,事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると,その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」としています。
 同通達は,一般健康診断は,労働者の一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり,業務遂行との関連において行われるものではないため,一般健康診断を受診しなくても本人の業務に具体的な支障が生じないことから,実質的に受診の義務付けがないものとして,その受診に要した時間の賃金を使用者が「当然には」負担する義務がないとしているものと考えられ,一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間には該当しないという理解を前提としているものと考えられます。同通達の理解を前提とすれば,一般健康診断に要する時間を労基法上の労働時間と考える必要はないことになります。
 もっとも,懲戒処分の威嚇の下,業務命令により一般健康診断の受診を命じたような場合は,労働者が一般健康診断の受診を使用者から義務付けられたと言わざるを得ず,労基法上の労働時間に該当するとも考えられます。一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間に該当するかどうかは,事案ごとに判断していくほかないものと思われます。

 なお,労働者が,使用者が行う健康診断の受診を希望せず,他の医師等の行う健康診断を受診した場合は,労働者は使用者の指揮監督下に置かれていないのが通常ですので,その受診時間は労基法上の労働時間には該当しないものと考えます。

喫煙時間の労働時間性 Menu

 喫煙には業務性がないのが通常ですから,通常,喫煙時間は労基法上の労働時間には該当しません。 
 もっとも,喫煙のため業務を離脱した時間の立証の問題があり,仕事の合間に喫煙をしていたとしても,まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらうのは難しいと思います。
 喫煙時間の管理として,例えば,喫煙に立つ際は必ずその旨及び行き先を明示することを労働者に義務付けたり,1日当たりの回数や時間の上限を定め,これに大きく逸脱した場合には,職務専念義務違反として注意指導や懲戒処分などのペナルティを課すなど,喫煙のルールを設定することが考えられます。

接待ゴルフの労働時間性 Menu

 日本では,ゴルフを通じた社交が企業文化として根付いているため,使用者が労働者に対してゴルフ代や旅費を負担し,参加を奨励することが多く行われています。
 もっとも,接待ゴルフといっても主な目的はゴルフのプレーであることから,仮に,使用者から参加を義務付けられていたり,会社が費用を負担していたとしても,プレー中に労働者が使用者の指揮命令下に置かれているとはいえないのが通常です。ゴルフのプレー中に具体的な商談が予定されていて特定の労働者が必ず参加しなければいけないような場合でない限り,接待ゴルフの時間は労働時間に該当しないものと考えます。

通常の労働日から通常の労働日にかけて二暦日にわたって残業した場合の労働時間 Menu

 通常の労働日2暦日にわたって残業した場合,午前0時をもって労働時間を分断するのではなく,前日の労働として通算します。
 例えば,A社(所定労働時間8時間,始業時刻午前11時,終業時刻午後8時,休憩1時間)において,午前11時から翌午前6時まで働いた場合の時間外労働時間は10時間(拘束時間19時間(午前11時~翌午前6時)-所定労働時間8時間-休憩1時間),深夜労働時間は7時間(午後10時~翌午前5時)になります。
 では,A社で午前11時~翌午後2時まで働いた場合の時間外労働時間はどのように計算するのかというと,残業が翌日の始業時刻まで及んだ場合,翌日の始業時刻以降は通常の賃金を支払うことで足りるため,1日目の時間外労働時間は午前11時~翌午前11時として計算します。この場合の時間外労働時間は15時間(拘束時間24時間(午前11時~翌午前11時)-所定労働時間8時間-休憩1時間),深夜労働時間は7時間(午後10時~翌午前5時)になります。そして,翌午前11時~翌午後2時の労働時間は,翌日の通常の労働時間として扱います。

 

通常の労働日から法定休日にかけて二暦日にわたって残業した場合の労働時間 Menu

 労基法上の「休日」とは暦日を指し,午前0時から午後12時までをいいます。したがって,前日の勤務が延長され,法定休日の午前0時を過ぎて労働した場合,法定休日午前0時以降の労働は,法定休日労働として扱うことになります。
 たとえば,A社(所定労働時間8時間,始業時刻午前11時,終業時刻午後8時,休憩1時間)において,午前11時~翌午前6時まで働いた場合,前日の時間外労働時間は4時間(拘束時間13時間(午前11時~午後12時(午前0時))-所定労働時間8時間-休憩1時間)となり,前日の深夜時間外労働時間は2時間(午後10時~午後12時)となります。そして午前0時以降は,法定休日労働時間6時間(午前0時~午前6時),深夜労働時間5時間(午前0時~午前5時)となります。

法定休日から通常の労働日にかけて二暦日にわたって残業した場合の労働時間 Menu

 A社(所定労働時間8時間,始業時刻午前11時,終業時刻午後8時,休憩1時間)において,法定休日に午後9時~翌午前7時まで働いた場合(休憩は午前1時~2時までの1時間),休日労働時間は午後9時~午後12時(午前0時)の3時間,深夜労働時間は6時間((午後10時~翌午前5時)-休憩1時間)となります。

残業代の消滅時効・遅延損害金・付加金

残業代の消滅時効期間 Menu

 残業代の消滅時効期間は各給料日から2年です。
 給料日から2年を経過している残業代についてまで請求を受けた場合は,消滅時効の援用を検討します。内容証明郵便等で残業代の請求を受けた場合であっても,6か月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起等がなされない場合は,内容証明郵便等による請求は時効中断の効力を生じませんので,6か月経過の有無を確認していくことになります。
 2年以上勤務していた労働者からの残業代請求においては,通常は,直近2年分の残業代について請求されます。理屈では,最後の給料日から2年間は残業代の請求を受けるリスクがあるのですが,実際には退職してから間もない時期に残業代請求がなされる事案がほとんどです。退職後数か月経過してから突然,残業代請求がなされることもありますが,退職後1年以上経過してから残業代請求がなされることは滅多にありません。

遅延損害金の利率 Menu

(1) 株式会社,有限会社等の営利を目的とした法人
 賃金支払日の翌日から年6%。

(2) 社会福祉法人,信用金庫等の営利を目的としない法人
 賃金支払日の翌日から年5%。

(3) 退職後の期間の遅延損害金
 退職後の遅延損害金の利率は,年14.6%(民法419条1項・賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・同施行令1条)という高い利率になる可能性があります。
 ただし,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」(賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条4号)等の厚生労働省令で定める事由に該当することを主張立証できた場合には,その事由の存する期間については賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・同施行令1条の適用はなく(賃金の支払の確保等に関する法律6条2項),原則どおり,年6%とか年5%の利率が適用されます。

残業代請求訴訟における付加金請求 Menu

 使用者が,
 ① 解雇予告手当(労基法20条)
 ② 休業手当(労基法26条)
 ③ 残業代(割増賃金)(労基法37条)
 ④ 年次有給休暇取得時の賃金(労基法39条7項)
のいずれかの支払を怠り,労働者から訴訟を提起された場合,裁判所は,これらの未払金に加え,これと同一額の付加金の支払を命じることができるとされています(労基法114条)。
 残業代請求訴訟においては,付加金の請求もなされるのが通常で,例えば,未払残業代の額が300万円の場合,さらに最大300万円の付加金(合計600万円+遅延損害金)の支払が判決で命じられる可能性があります。

 

基本給等の未払があった場合,判決で付加金の支払を命じられることはありますか。 Menu

 判決で付加金の支払が命じられる可能性があるのは,
 ① 解雇予告手当(労基法20条)
 ② 休業手当(労基法26条)
 ③ 残業代(割増賃金)(労基法37条)
 ④ 年次有給休暇取得時の賃金(労基法39条7項)
の未払があったときのみです。
 ①~④以外の基本給等の未払があったとしても,判決で付加金の支払を命じられることはありません。

判決で付加金の支払を命じるのが相当でない場合の対応 Menu

 残業代の支払を怠っていると判決で認定された場合,付加金の支払も命じられることが多いですが,付加金の支払を命じるかどうかは裁判所の裁量に委ねられており,全く付加金の支払が命じられないこともないわけではありませんし,未払残業代の50%とか80%といった金額の付加金の支払が命じられることもあります。
 付加金の支払を命じるのが相当でない事情,付加金を減額すべき事情があるのであれば,その事情を主張立証しておくべきでしょう。

労働審判で付加金の支払を命じられることがありますか。 Menu

 労働審判は「判決」ではありませんので,労働審判で付加金の支払を命じられることはありません。

労働者代理人弁護士との間の任意交渉で,未払残業代のほか付加金も払えと要求されて困っています。任意交渉で付加金の支払要求に応じる必要はありますか。 Menu

 付加金の支払義務は,「判決」で付加金の支払を命じられて初めて,発生するものです。未払残業代があるというだけでは,付加金を支払う法的根拠が存在しません。
 付加金の支払を命じる確定判決が存在しているのであれば別ですが,労働者代理人弁護士との間の任意交渉で未払残業代のほか付加金も払えと要求されたとしても,その付加金の請求には法的根拠がありませんので,付加金の支払要求に応じる必要はありません。

合同労組(ユニオン)との団体交渉で,未払残業代だけでなく付加金も払えと要求されて困っています。応じる必要はありますか。 Menu

 付加金の支払義務は,「判決」で付加金の支払を命じられて初めて,発生するものです。未払残業代があるというだけでは,付加金を支払う法的根拠が存在しません
 付加金の支払を命じる確定判決が存在しているのであれば別ですが,合同労組(ユニオン)との団体交渉で,未払残業代だけでなく付加金も支払えと要求されたとしても,その付加金の請求には法的根拠がありませんので,付加金の支払要求に応じる必要はありません。

訴え提起まで2年の除斥期間を経過している未払残業代の付加金 Menu

 付加金の請求は,違反のあったときから2年以内にしなければならないとされていますが(労基法114条),この期間はいわゆる除斥期間であって時効期間ではありません。裁判所が付加金の支払を命じる判決を出すためには,残業代の未払があった日から2年以内に「訴え」が提起されている必要があります。
 各給料日から2年以内に内容証明郵便等で残業代の請求がなされ,それから6か月以内に訴訟提起されているため,残業代の消滅時効は中断している場合であっても,付加金の除斥期間は内容証明郵便での請求を受けても影響を受けないため,各給料日から訴え提起まで2年を経過している未払残業代の付加金については,除斥期間を経過しているため支払を命じることができません。

係争中における未払残業代の支払と付加金の関係 Menu

 未払残業代請求訴訟において,付加金は事実審の口頭弁論終結時において労基法37条に定める未払残業代が存在する場合にのみ,判決で支払を命じられる可能性があるものです。
 事実審の口頭弁論終結時前に未払残業代全額を支払い,その旨の主張立証をした場合は,判決で付加金の支払を命じることはできません。

 

第一審判決で付加金の支払を命じられた場合に付加金の支払義務を免れる方法 Menu

 第一審判決で付加金の支払を命じられた場合であっても,控訴して判決で支払を命じられた未払残業代全額を確定的に支払い,控訴審の口頭弁論終結時(多くの場合,第1回口頭弁論期日終結時)までにその旨主張立証すれば,控訴審判決が第一審判決より増額された未払残業代を認定しない限り,付加金の支払を回避することができます(控訴審判決が第一審判決より増額された未払残業代を認定した場合は,増額部分について付加金の支払を命じられる可能性はあります。)。
 第一審判決を覆すことが難しいと判断された未払残業代については,控訴した上で,遅延損害金を含めて弁済してしまい,付加金の支払を命じた部分を取り消す判決を得ることを検討すべきでしょう。

残業代請求対策

基本的発想 Menu

1 残業代請求対策をする上で重要な点
 残業代請求対策をする上では,次の発想が重要と考えています。
①時間外・休日・深夜に労働させた場合に残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)を支払うことは,全ての労働者に共通する基本原則であること
②発生した残業代は,「支払済み」にしなければ,残業代請求を受けるリスクはなくならないこと
③変形労働時間制のような労働時間に関する規制を緩和する制度や,管理監督者のような労働時間規制等を適用除外する制度は,使用者の残業代の支払義務を免除することを主な目的として立法された制度ではないため,残業代請求対策を主な目的として採用すべきではないこと

2 計算式から導かれる検討事項
 未払残業代は,「①残業代の時間単価×②残業時間数+③遅延損害金-④既払いの残業代」で算定されますので,残業代請求対策としては,
①残業代の時間単価を抑制すること
②残業時間数を抑制すること
③遅延損害金の発生を抑制すること
④発生した残業代を支払うこと
が主な検討事項になります。
 ただし,①残業代の時間単価を抑制しただけでは,能力や貢献度に見合った賃金が支給できなくなってしまいますので,適正水準の賃金を支給し,優秀な人材を確保することができるようにするために,残業代の時間単価を抑制する一方で,能力や貢献度に応じた賃金を支給できるようにする必要があります。
 残業代の時間単価を抑制しつつ能力や貢献度に応じた賃金を支給できるようにする方法としては,
①月例賃金を抑制し,賞与の比率を高める
②月例賃金に占める除外賃金の割合を高める
③定額残業代制を採用する
ことが考えられます。

3 残業代の消滅時効期間
 残業代の消滅時効期間は各給料日から2年です。各給料日から2年を経過している残業代について請求を受けた場合は,消滅時効の援用を検討することになります。

4 残業代を支払わない旨の合意
 残業代の支払は労基法37条で義務付けられており,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約は,労基法で定める基準に達しない労働条件を定める部分についてのみ無効となり,無効となった部分は労基法で定める労働基準となります(労基法13条)。
 残業させた場合であっても労基法37条に定める残業代を支払わないとする合意は無効となり,残業させた場合には労基法37条で定める残業代の支払義務を負うことになるため,残業代を支払わなくても異存はない旨の誓約書に署名押印させてから残業させた場合であっても,使用者は残業代の支払義務を免れることはできません。この結論は,年俸制社員であっても,同業他社より高額の基本給・手当・賞与を支給して,残業に十分に報いていたとしても,変わりません。「残業代なんて払っていたら,会社経営なんてできない。」などと言って残業代を支払わないでいると,残業代請求を受けるリスクが高くなります。

5 残業代とは分からない名称の手当を残業代の趣旨で支給する場合
 「営業手当」「役職手当」「特殊手当」「配送手当」「長距離手当」等,一見して残業代の支払のための手当とは分からない名称の手当を残業代の趣旨で支給する場合は,個別の合意や就業規則,労働協約の定めに明記しておく必要があります。
 書面にはそれらの手当が残業代の趣旨で支給されるものであることは全く書かれていない事案について,会社経営者の方の話を聞いてみると,「「当該手当は残業代の趣旨で支給する」と口頭で説明してある」との説明を受けることがよくあります。このような,労働条件通知書や賃金規程等に残業代の趣旨で支給する旨明記されていない場合,裁判所に残業代の支払であると認定してもらうことは難しく,固定残業代の合意等が有効か無効かという論点以前の問題として,固定残業代の合意等が存在しないと判断されてしまう可能性が高くなります。
 また,労働条件通知書や賃金規程等に残業代の趣旨で支給する旨明記されていた場合であっても,当事者(特に会社側)が残業代の趣旨で支給される手当だという認識が希薄な場合には,実質的に見て,当該手当は時間外労働等の対価としての性格を有しないとして,残業代として認められない場合があります。
 他方,「残業手当」「時間外勤務手当」「深夜勤務手当」「休日勤務手当」等,一見して残業代の趣旨を有する手当であることが分かる名目で支給し,給与明細書や賃金台帳にその金額の記載がある場合は,時間外労働などの対価としての性質を有していないと判断されるリスクは低くなります。
 「営業手当」「役職手当」「特殊手当」「配送手当」「長距離手当」等,一見して残業代の支払のための手当であるとは読み取れない手当の「一部」を残業代の趣旨で支給する場合は,残業代に当たる部分を特定して支給しないと,残業代の支払とは認められない可能性が高くなります。たとえば,役職手当として5万円を支給し残業代が含まれているという扱いにしている場合,役職者としての責任等に対する対価が何円で,残業代が何円なのかが分からないと,残業代の支払が全くなされていないことを前提として残業代が算定されるリスクが高くなります。  固定残業代の合意等をする場合は,「含む」という曖昧な言葉は使わず,明確に金額を分けてその金額が残業代であることを明示するようにしましょう。

6 個人事業主や取締役の場合
 個人事業主や取締役であっても,労基法が予定する程度の指揮命令下で仕事をさせると,労基法上の労働者と認定され,残業させた場合には残業代の支払が必要となることがあります。
 労基法上の労働者に該当するかどうかは,労基法上の労働者性に関する裁判例のほか,昭和60年12月19日付け労働基準法研究会報告「労働基準法の『労働者』の判断基準について」を参考に判断することが多いです。

7 管理職≠管理監督者
 労基法上の管理監督者に該当する場合は,労働時間規制の対象から除外されるため,時間外・休日に労働させても時間外・休日割増賃金を支払う義務はなく,深夜労働時間を把握して,深夜割増賃金を支払えば足ります。
 ただし,管理監督者は残業代請求対策のための制度ではありません。単なる管理職というだけでは管理監督者には該当せず,厳格な要件を満たして初めて管理監督者として認められるのが裁判実務での運用です。
 管理監督者は,一般に,「労働条件の決定その他労務管理について,経営者と一体的な立場にある者」をいうとされ,管理監督者であるかどうかは,
① 職務の内容,権限及び責任の程度
② 実際の勤務態様における労働時間の裁量の有無,労働時間管理の程度
③ 待遇の内容,程度
等の要素を考慮して,総合的に判断されることになります。

時間単価の抑制 Menu

1 基本的発想
 残業代の時間単価は,「通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価×割増率」で算定されます。
 したがって,残業代の時間単価を抑制するためには,通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価を抑制し,割増率を念頭に置いた労働時間管理を行う必要があります。

2 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価の抑制
 通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価は基礎賃金の時間単価であるから,分子の基礎賃金を抑制するか,分母の所定労働時間数等を増やせば,通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価は下がることになります。
 しかし,単に基礎賃金を抑制したり,所定労働時間数等を増やしただけでは,労働条件が悪くなり,優秀な人材を採用することが難しくなってしまいます。
 基礎賃金に含まれない除外賃金や,時間単価が低い歩合給を支給することによって,会社に対する貢献に見合った賃金が支給されるよう工夫することをお勧めします。

3 除外賃金の支給
 除外賃金である家族手当,通勤手当,別居手当,子女教育手当,住宅手当,臨時に支払われた賃金,1か月を超える期間ごとに支払われる賃金は,残業代算定の基礎賃金に含まれません。  たとえば,月々の賃金の一部を家族手当等の除外賃金として支払ったり,月々の賃金額を抑制して賞与として支給する賃金の比率を高める等の工夫が考えられます。
 なお,除外賃金に該当するかどうかは,名称ではなく実質で判断されますので,「家族手当」や「通勤手当」といった名目で支給したとしても,除外賃金にあたるとは限りません。

4 定額残業代の支給
 残業代は基礎賃金には含まれませんので,定額残業代を採用することなどにより基礎賃金を抑制することも考えられます。  定額残業代は,残業代(残業の対価)としての実質を有していないと基礎賃金に算入されますので,定額残業代で不足額がある場合には精算する等の配慮が必要です。

5 所定労働時間数
 所定労働時間数が多ければ分母が大きくなるので,残業代の時間単価が下がることになります。
 月給制では,1日の所定労働時間数や所定労働日数が少ないと所定労働時間数が少なくなることなどを念頭に置いて,1日の所定労働時間や所定労働日数を設定するようにしましょう。
 また,所定労働日に休暇を取得したとしても,所定労働日数に変更があったわけではありませんので,所定労働時間数には影響しません。休日が労働日ではないのに対し,休暇は労働日ではあるが権利として労働から離れることができる日をいいます。「休暇」という名称を付して休みを取らせたとしても,労働日でない日は休日であって休暇ではありません。

6 割増率
 割増率が最も高いのは,中小企業以外については月60時間を超える時間外労働時間の50%なのですから,中小企業以外については月60時間を超える時間外労働を抑制することが最も重要です。
 次に割増率が高いのは,休日労働時間の35%なのですから,休日労働を抑制する必要性も高いといえます。
 深夜労働については,25%の深夜割増賃金を加算することになるのですから,深夜労働はできる限り抑制すべきです。
 時間外労働の割増率は原則として25%ですが,通常の労働時間の賃金よりも時間単価が高くなりますので,月60時間以内の時間外労働であっても,抑制することが望ましいと考えます。

7 歩合給の支給
 歩合給の通常の労働時間・労働日の時間単価は,当該賃金計算期間の残業時間を含めた「総労働時間数」を分母として計算されるため,割増部分だけ支払えば足り,歩合給は固定給と比べて残業代額を抑制しやすいと考えます。
 たとえば,一月平均所定労働時間数が160時間で,総労働時間数が200時間の賃金計算期間に関し2万円の歩合給を支給する場合は,歩合給部分に関する通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価は,次のとおりとなります。
 2万円÷200時間=100円/時
 歩合給部分に関する割増賃金の時間単価は割増部分だけなので,歩合給部分に関する時間外・休日・深夜割増賃金の時間単価は次のとおりとなります。
 時間外割増賃金の時間単価  100円/時×0.25=25円/時
 60時間を超える時間外労働時間については,中小企業を除き 100円/時×0.5=50円/時
 休日割増賃金の時間単価 100円/時×0.35=35円/時
 深夜割増賃金の時間単価 100円/時×0.25=25円/時

残業時間の抑制 Menu

1 基本的発想
 残業代請求対策では,残業時間数の抑制が最も重要ですので,会社は,無駄な残業をさせないようにしましょう。
 部下に残業させて残業代を支払うのか,残業させずに帰すのかを決めるのは会社の責任であり,上司の管理能力が問われる問題です。残業の必要性をよく調べてみたところ,残業の必要性がないことが判明することは珍しくありません。

2 労働時間の管理
 労働時間を管理しないことには,無駄な残業をしているかどうかを判断することができません。
 会社は,タイムカード,ICカード,日報等を基礎として労働時間を管理し,本人から残業が必要な理由を聴くなどして,無駄な残業をしていないかを確認するようにしましょう。
 残業代請求の訴訟では,タイムカードに打刻された出社時刻と退社時刻との間の時間から休憩時間を差し引いた時間が,その日の実労働時間と認定されることがよくあります。タイムカードの打刻時間が,実際の労働時間の始期や終期と食い違っている場合は,それを敢えて容認してタイムカードに基づいて残業代を支払うか,働き始める直前,働き終わった直後にタイムカードを打刻させるようにするかを選択する必要があります。
 残業時間数の水増し申告は,無駄な残業をしていないかの確認が適切になされていない会社においてなされることがほとんどです。タイムカード,日報等の記載からは残業しているように読めるにもかかわらず,残業代を支払うことも,本人から残業が必要な理由を聴くこともせずに放置していたところ,残業代請求を受けて残業代の支払を余儀なくされるといった事案が散見されます。

3 残業命令が存在しない旨の主張
 残業命令を出していなくても,残業していることを上司が知りながら放置していた場合は,想定外の時間にまで残業していたような例外を除き,黙示の残業命令があったと認定されるのが通常です。どれだけ残業していたのかはよく分からなくても,残業していたこと自体は上司が認識しつつ放置しているケースが散見されます。
  残業していることを知りつつ「早く帰れよ。」と声をかけたくらいでは,黙示の残業命令がなかったと認めてもらえません。
 上司が残業に気付いたら,残業を辞めさせて帰宅させるか,残業代の支払を覚悟の上で仕事を続けさせるか,どちらかを選択する必要があります。
 残業代請求を受けたのに対し,残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払を拒むことはあり得ますが,事前の制度設計としては,残業時間数の抑制は無駄な残業をさせないことにより達成すべきものであり,残業命令に基づかない残業であることを理由として残業代の支払義務を免れることができることを期待すべきではありません。

4 不必要な残業を禁止する
 在社時間と労働時間は異なる概念であり,在社していたからといってそれが直ちに労働時間と評価されるものではありません。
 しかし,現実には,終業時刻後も社員が社内の仕事をするスペースに残っている場合,事実上,使用者の指揮命令下に置かれているものと推定され,有効な反証ができない限り,残業していると評価される可能性が高くなります。したがって,終業時刻後は,残業する必要がないのに会社に残り続けることを禁止することが望ましいと考えます。
 終業時刻後,仕事をせずに会社に残っている時間については,タイムカードを打刻させてからの在社であれば認めるとか,仕事をしていない時間を除外して自己申告させるといった対応も考えられなくはありませんが,あとになって「タイムカード打刻後もサービス残業させられていた」とか,「実際の残業時間よりも短い残業時間の申告を強制された」等と主張されて残業代請求を受けるリスクが生じることになります。
 社員が不必要な残業をしていることに気づいたら,上司は,残業を止めさせて帰宅させるか,残業代の支払を覚悟の上で仕事を続けさせるか,どちらかを選択する必要があります。

5 自己申告制
 自己申告制を採用した場合,基本的には申告どおりの労働時間が認定されますが,自己申告された労働時間が,実際の労働時間に満たない場合は,実際の労働時間に基づいて残業代が算定されます。
 自己申告制は,適切に運用しないと,隠れ残業時間(残業代不払い)が生じるリスクを負うことになりかねません。パソコンのオンオフのログで在社時間をチェックし,自己申告の労働時間との齟齬が大きい場合には当該社員から事情説明を求める等の工夫をすべきだと考えます。

6 居眠りやおしゃべり等をしていた場合
 仕事の合間に,居眠りしたり,おしゃべりしたり,食事したり,仕事とは関係のない本を読んだりした場合であっても,まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらえないのが通常です。居眠り等が目に余る場合は,その都度,上司が注意指導して仕事をさせるのが本筋です。上司が部下の注意指導を怠っていたのでは,無駄な残業はなくならなりません。
 本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことが残業の原因であった場合であっても,現実に残業している場合は,残業時間として残業代の支払義務が生じます。本人の能力が低いことや,所定労働時間内に真面目に仕事をしていなかったことは,注意指導,教育等で改善させるとともに,人事考課で考慮すべき問題であって,残業時間に対し残業代を支払わなくてもよくなるわけではありません。

7 残業禁止命令
 残業をしないよう強く注意指導しても指示に従わない場合は,書面で残業禁止命令を出さなければならないこともあります。書面で残業禁止命令を出したにもかかわらず,命令に反して残業した場合は,残業時間として認められないのが原則です。
 残業禁止命令を出したにもかかわらず,残業時間として認められてしまう事案としては,事実上,残業を容認していたような場合や,不当労働行為に当たるような場合くらいです。書面で残業禁止命令を出すくらいのことまでしていれば,無駄な残業は解消することがほとんどです。

8 残業の事前許可制
 残業する場合には,上司に申告してその決裁を受けなければならない旨就業規則等に定め,実際に,残業の事前許可なく残業することを許さない運用がなされているのであれば,不必要な残業時間の抑制になります。
 しかし,就業規則に残業の事前許可制を定めて周知させたとしても,実際には事前許可なく残業しているのを上司が知りつつ放置しているような職場の場合は,黙示の残業命令により残業させたと認定され,残業代の支払を余儀なくされることになります。
 残業の事前許可制を採用した場合,事前許可なく残業している従業員を見つけたら,現実に残業を止めさせて帰らせるか,許可申請させて残業を許可するかを判断しなければなりません。  就業規則を整備しても,実態を伴わなければ,残業代請求対策として不十分であり,不必要な残業時間の抑制にも想定外の残業代請求対策にもなりません。
 残業の事前許可制を採用した場合における典型的な失敗事例は,残業の事前許可なく残業しているのを見かけたものの,事前許可がない残業だから残業代を支払わなくてもいいと思い込んで残業を放置していたところ,残業代請求を受けるケースです。事前許可なく残業していることを上司が知りながら放置しているような場合は,黙示の残業命令があったと認定され,残業時間と評価される可能性が高くなります。

9 定額残業代
 「残業すれば残業代がもらえて給料が増える仕組みだから,従業員に対し残業するモチベーションを与えることになってしまっている。定額残業代を導入して,残業しても現実に支払われる残業代が増えない仕組みにすれば,残業を抑制することができる。」という考えが存在します。
 確かに,定額残業代の導入により無駄な残業をする従業員が減った職場もあるようですが,残業しても定額残業代以外の残業代が支払われていないような場合には,会社の残業を抑制するモチベーションが希薄となり,かえって残業時間数が増えることは珍しくありません。そういった事案で,残業代請求がなされ,定額残業代が残業代と認められなかった場合は,予想外の残業代の支払を命じられる可能性があります。
 残業させるかさせないかは,会社が決めるべき問題であって,従業員が決めることではないのですから,残業時間数を抑制したければ残業させずに帰せば足りるはずです。定額残業代を導入する目的として,残業時間数の抑制を強調することは適切でありません。

10 変形労働時間制
 労基法32条の法定労働時間よりも労働時間が多い週・日もあれば,少ない週・日もある場合には,変形労働時間制を採用することによって,時間外労働時間数を抑制することができます。
 他方,恒常的に法定労働時間を超える残業がある場合には,変形労働時間制を採用しても残業時間数を抑制することはできません。
 変形労働時間制を採用する場合には,労使協定の締結・届出等や,各日の所定労働時間の特定が必要となります。所定の手続を怠った場合は,変形労働時間制は無効となり,原則どおり労基法32条の法定労働時間が適用されることになります。

11 事業場外労働のみなし労働時間制
 営業社員等については,事業場外労働のみなし労働時間制の適用も考えられますが,「労働時間を算定し難いとき」という要件が厳しいため,みなしが認められるかどうかの予測が立てにくいことがよくあります。
 また,事業場外労働のみなし労働時間制が適用される場合であっても,所定労働時間労働したものとみなされるのは,通常は所定労働時間内で仕事が終わる場合のみです。通常は所定労働時間を超えて労働することが必要となる場合については,当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなされます。営業手当は支払っているものの,所定労働時間労働したものとみなして時間外勤務手当を支払っていなかったところ,当該業務の遂行に通常必要とされる時間は10時間と認定されて,1日あたり2時間分の時間外割増賃金を支払わされるといったリスクもあります。事業場外労働のみなし労働時間制が適用されたとしても,残業時間数の抑制にならないことがほとんどです。
 事業場外労働のみなし労働時間制を採用するのであれば,所定労働時間労働したものとみなすのではなく,当該業務の遂行に通常必要とされる時間労働したものとみなして,残業時間に応じた残業代を支払うようにしましょう。当該業務の遂行に通常必要とされる時間の認定は困難を伴うことが多いので,過半数労働組合や労働者代表との間で,1日何時間労働したものとみなすのか,労使協定を締結し,労基署に届け出ておくことが望ましいところです。

12 裁量労働制
 労基法上の裁量労働制には専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制の2種類があります。いずれも要件を満たせば,1日の労働時間数がみなされるため,運用次第では残業時間数の抑制につながることがあります。
 いずれも適用対象業務が限定されていること,労基法所定の手続を行わないと効力が生じないことに注意する必要があります。労基法所定の手続を踏まずに,どれだけ残業するかを従業員本人の裁量に任せているというだけの勤務形態を「裁量労働」と呼んでいる事例が散見されますが,労基法の要件を満たさないものについては何の法的効力も生じません。

残業代の支払等 Menu

1 各給料日における残業代の支払
 各給料日に残業代全額を支払っていれば,未払残業代が存在しない以上,遅延損害金も発生しません。未払残業代をなくすためには,残業代の計算を正確に行い,各給料日に残業代全額を支払うことが最も重要です。
 定額残業代を採用することなどにより一定額の残業代を支払っておくことも考えられますが,定額残業代が残業代(残業の対価)としての実質を有していないと判断されると,残業代の支払があったとは認められませんので,定額残業代で不足額があれば清算する等の配慮が必要です。

2 残業代の存在を争う「合理的理由」の主張立証
 退職後の遅延損害金の利率は,年14.6%という高い利率になる可能性がありますが,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」等の厚生労働省令で定める事由に該当することを主張立証できた場合には,その事由の存する期間については年14.6%という高い利率の適用はなく,原則の年6%とか年5%の利率が適用されますので,残業代の存在を争う「合理的理由」があることを立証できるよう準備しておき,訴訟においても主張立証するようにしましょう。

3 係争中における未払残業代の支払
 残業代請求が係争中であっても,会社見解に沿った未払残業代や一審判決で支払を命じられた未払残業代を支払うことがあります。
 未払残業代を減らすことにより,以後の遅延損害金の発生を抑制したり,付加金の支払を命じられるリスクを減らしたりすることができます。

定額残業代(固定残業代)

最近の定額残業代(固定残業代)をめぐる状況 Menu

 最近の定額残業代(固定残業代)をめぐる状況として,形式的には通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とが判別できるように見える事案であっても,定額残業代が割増賃金としての実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有するとは認められない場合は,割増賃金の支払がなされているとは認めない裁判例が増えてきています。定額残業代を導入している会社は,単に判別可能性があればよしとするのではなく,定額残業代が割増賃金としての実質を有しているのか,もう一度よく確認しておく必要性が高まっているといえるでしょう。
 また,求人段階における定額残業代のトラブルも増えている印象です。「求人情報にはそれなりの金額の給料がもらえるかように記載されていたので応募して就職してみたら,残業代込みの給料であり,実際の給料は求人情報から読み取れるものよりもはるかに安いことが後から判明した。残業代込みの給料であることが事前に分かっていたら,ほかの企業に就職していたのに。だまされた。」といったトラブルが起きないよう十分に配慮しなければなりません。こうしたトラブルをなくすため,最近,どのような規制がなされているのかという点についても以下で解説していきます。

定額残業代(固定残業代)の特徴 Menu

(1) 割増賃金の計算(原則)
 割増賃金の計算方法は労基法37条・労基則19条で定められており,「通常の労働時間・労働日の賃金の時間単価×時間外・休日・深夜労働時間数×割増率」です。
 要約すると,各割増賃金の計算式は以下のとおりとなります。
  時間外割増賃金=時間外割増賃金の時間単価×時間外労働時間数
  休日割増賃金=休日割増賃金の時間単価×休日労働時間数
  深夜割増賃金=深夜割増賃金の時間単価×深夜労働時間数
 割増賃金の計算式からは,割増賃金額は,時間外・休日・深夜労働時間数と比例する関係にあることが分かります。

(2) 定額残業代を導入した場合の割増賃金の計算
 (1)で述べたとおり,時間外・休日・深夜割増賃金は,原則として,時間外・休日・深夜労働時間数に比例して支払われることが想定されています。定額残業代を導入した場合,定額残業代額に達するまでは,現実に支払われる割増賃金額と時間外・休日・深夜労働時間数との間の比例関係が切断され,支払われるべき割増賃金額が定額残業代額を超えた時点で比例関係が復活することになります。
 定額残業代は労基法37条5項,労基則21条各号に限定列挙された除外賃金には該当しませんが,残業代を基礎に残業代を計算しなければならないのはおかしいですから,割増賃金の実質を有する定額残業代は,割増賃金の算定基礎から除外されることになります。
 また,定額残業代が割増賃金と認められた場合,割増賃金の支払がなされたという弁済の効果も生じます。
 定額残業代の特徴としては,割増賃金算定の基礎賃金から除外されることや,割増賃金の弁済として認められることが強調されるのが一般的ですが,定額残業代が割増賃金の支払として認められるかの判断に当たっては,時間外・休日・深夜割増賃金は,原則として,時間外・休日・深夜労働時間数に比例して支払われることが想定されているのに対し,定額残業代を導入した場合,定額残業代額に達するまでは,現実に支払われる割増賃金額と時間外・休日・深夜労働時間数との間の比例関係が切断され,支払われるべき割増賃金額が定額残業代額を超えた時点で初めて比例関係が復活することになるという定額残業代の特徴の理解が重要となってきます。原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が小さい定額残業代であれば割増賃金の支払として認められやすいですが,乖離の程度,比例関係切断の程度が大きければ大きいほど,割増賃金の支払とは認められにくくなります。

定額残業代(固定残業代)に関する最高裁判例 Menu

 高知県観光事件最高裁判決とテックジャパン事件最高裁判決の法廷意見の趣旨からは,以下のようにいえると考えています。
① 時間外・休日・深夜労働が行われたことのみを理由として賃金が増額された場合は,増額された賃金の増額部分については,労基法37条の割増賃金の支払として認められる可能性が高い。
② 時間外・休日・深夜労働がされた場合でも賃金が増額されることはなく,通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することもできない場合には,定額残業代の支払によって,労基法37条の割増賃金が支払われたとは認められない。

 

定額残業代(固定残業代)の支払が残業代(割増賃金)の支払と認められるための要件の検討 Menu

(1) 定額残業代(固定残業代)が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有していること
 定額残業代が実質的にも割増賃金の性質を有することを要求する裁判例は以前から存在していました。その代表例は,以下の徳島南海タクシー(割増賃金)事件高松高裁平成11年7月19日判決(労判775号15頁)です。本高裁判決に対し,会社側は上告及び上告受理申立をしましたが,最高裁平成11年12月14日第三小法廷決定(労判775号14頁)は上告を棄却し,上告不受理としています。
 「そこで,右賃金体系における時間外・深夜割増賃金に係る合意の有無について検討するに,本件協定書においては,基本給8万5000円,乗務給1万3000円,皆精勤手当5000円及び超勤深夜手当(歩合割増含)5万0600円の合計15万3600円は,固定給である旨が記載され,定額の超勤深夜手当が固定給に含まれることとされている。」
 「そして,控訴人は,右超勤深夜手当は,労働基準法37条の時間外・深夜割増賃金であると主張するところ,文言上は,そのように解するのが自然であり,労使間で,時間外・深夜割増賃金を,定額として支給することに合意したものであれば,その合意は,定額である点で労働基準法37条の趣旨にそぐわないことは否定できないものの,直ちに無効と解すべきものではなく,通常の賃金部分と時間外・深夜割増賃金部分が明確に区別でき,通常の賃金部分から計算した時間外・深夜割増賃金との過不足額が計算できるのであれば,その不足分を使用者は支払えば足りると解する余地がある。」
 「しかしながら,被控訴人らは,本件協定等による賃金には,名目上は定額の超勤深夜手当を含むこととされているが,控訴人の賃金体系は,水揚額に対する歩合制であって,実質的に時間外・深夜割増賃金を含むものとはいえないと主張するところ,なるほど,名目的に定額の割増賃金を固定給に含ませる形の賃金体系がとられているにすぎない場合に,そのことのみをもって,前記のような時間外・深夜割増賃金の計算が可能であるとし,その部分について使用者が割増賃金の支払を免れるとすれば,労働基準法37条の趣旨を没却することとなる。したがって,右のような超勤深夜手当に係る定めは,実質的にも同条の時間外・深夜割増賃金を含める趣旨で合意されたことを要するというべきである。」
 最後の段落の判断内容は,よく認識しておく必要があると思います。判別可能性だけを考えて定額残業代の制度設計をすると,当該定額残業代は割増賃金としての実質を有しないと判断されかねません。
 北港観光バス(賃金減額)事件大阪地裁平成25年4月19日判決は,「ある手当が時間外労働に対する手当として基礎賃金から除外されるか否かは,名称の如何を問わず,実質的に判断されるべきであると解される。」とした上で,「無苦情・無事故手当及び職務手当は,実際に時間外業務を行ったか否かに関わらず支給されること,バス乗務を行った場合にのみ支給され,側乗業務,下車勤務を行った場合には支払われないことからすると,バス乗務という責任ある専門的な職務に従事することの対価として支給される手当であって,時間外労働の対価としての実質を有しないものと認めるのが相当である。」と結論付けています。バス乗務をした時だけ支給される手当であれば,実質的にはバス乗務の対価として払われる賃金であって,割増賃金の実質を有しないと認定されてしまいます。
 労基法37条5項,労基則21条各号に限定列挙された除外賃金に該当するかどうかは,名目ではなく実質で判断されることは周知の通りです。定額残業代は労基法37条5項,労基則21条各号に限定列挙された除外賃金には該当しませんが,割増賃金の実質を有する定額残業代は,割増賃金の算定基礎から除外されることになります。とすれば,定額残業代が割増賃金として認められるかどうかについても,実質的に判断すべきと考えるのが自然だと考えます。
 定額残業代の時間数の明示,清算合意(実態)等は定額残業代が除外賃金とされその支払が割増賃金の弁済として認められるために必須の「要件」ではなく,定額残業代が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有しているかを判断する際に考慮する「要素」と考えるべきではないでしょうか。
 例えば,時間外割増賃金の時間単価が1500円の労働者の労働契約書に「定額時間外勤務手当として4万5000円支払う。」とだけ書いてあり,それが何時間の時間外労働の対価かは書かれておらず,差額支払の合意の記載もなかったとします。しかし,時間外割増賃金の時間単価が1500円の労働者であれば,4万5000円が30時間分の時間外割増賃金であり,30時間を超えて時間外労働を行えば追加で時間外割増賃金の支払を受けられることは明らかです。
 毎月,「時間外勤務手当」名目で4万5000円を払っていたとしても,何時間分の定額残業代かの明示がなく,差額清算の合意がなければ,時間外割増賃金の支払があったとは認められないのでしょうか。このような場合であっても,時間数を明示してもらわないと労働者が過不足を計算するのは大変だとか,不足が生じた場合は不足額を追加で支払う旨規定させないと事実上追加額の支払を受けられなくなりかねないといった懸念が生じ得ることは承知しています。しかし,「時間外勤務手当」のように時間外割増賃金の趣旨であることが明らかな名目で金額が明示されて支給され,客観的に割増賃金の過不足が計算できる定額残業代のすべてが定額残業代の支払として認められないという見解は取りにくいと考えます。
 もちろん,定額残業代が何時間分か,差額清算の合意や実態があるかといった事情を軽視しているわけではありません。これらは独立の「要件」ではなく,定額残業代が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有しているかを判断するための重要な「要素」と考えているというに過ぎません。時間外割増賃金は,「時間外割増賃金の時間単価×時間外労働時間数」で計算されるのですから,想定される時間外労働時間数に対応した金額となっているか,想定される時間外労働時間数を超えたら差額が清算されているかは,当該定額残業代が時間外割増賃金としての実質を有するかを判断する上で重要な考慮要素だと考えます。
 定額残業代の時間数の明示,清算合意(実態)等を「要件」と考えるから,判断が硬直的になり,その法的根拠の説明に苦慮することになるのです。ちょうど,以前は整理解雇が認められるための「要件」(「整理解雇の四要件」)と考えられていたものが,解雇権濫用(労契法16条)の有無を判断する際に考慮する「要素」(「整理解雇の四要素」)と考えられるようになったのと同じように,定額残業代の時間数の明示,清算合意(実態)等を,定額残業代が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有しているかを判断する際に考慮する「要素」と考えるべきだと思います。
 そして,原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が小さい定額残業代であれば割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有していると認められやすく,乖離の程度,比例関係切断の程度が大きければ大きいほど,割増賃金の実質を有しているとは認められにくくなると考えています。

(2) 通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができること
 高知県観光事件最高裁判決やテックジャパン事件最高裁判決からすれば,通常の労働時間・労働日の賃金に当たる部分と割増賃金に当たる部分とを判別することができることは,定額残業代が除外賃金とされ,割増賃金の支払として認められるための最低限の要件といえると思います。この要件を満たさないようでは,(1)で述べた割増賃金の実質を有するとはいえないと考えることもできるかもしれません。実務上問題となるのは,何をもって判別可能性があるといえるかということです。
 ファニメディック事件東京地裁平成25年7月23日判決のように,「基本給に時間外労働手当が含まれると認められるためには,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が判別出来ることが必要であるところ(最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決,裁判集民事172号673頁参照),その趣旨は,時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分が労基法所定の方法で計算した額を上回っているか否かについて,労働者が確認できるようにすることにあると解される。」と考えれば,割増賃金の過不足を「労働者」が確認できなければならないのですから,判別可能性が認められるためには厳格な要件を満たす必要があるという結論に傾きがちです。
 テックジャパン事件最高裁判決櫻井補足意見は,「このように,使用者が割増の残業手当を支払ったか否かは,罰則が適用されるか否かを判断する根拠となるものであるため,時間外労働の時間数及びそれに対して支払われた残業手当の額が明確に示されていることを法は要請しているといわなければならない。そのような法の規定を踏まえ,法廷意見が引用する最高裁平成6年6月13日判決は,通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別し得ることが必要である旨を判示したものである。」「便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが,その場合は,その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならないと解すべきと思われる。」と述べています。
 しかし,ファニメディック事件判決や櫻井補足意見のように判別可能性の要件を厳格に考えなければならない理由はないのではないでしょうか。何時間分の定額残業代なのかとか,清算合意(実態)があるのかといった実質的な事情は,(1)の定額残業代が割増賃金の実質(時間外・休日・深夜労働の対価としての性格)を有しているかを検討するに当たって考慮すれば足りると考えます。
 ことぶき事件最高裁平成21年12月18日第二小法廷判決(裁判集民232号825頁,裁判所ウェブサイト,労判1000号5頁)においても,「管理監督者に該当する労働者の所定賃金が労働協約,就業規則その他によって一定額の深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合には,その額の限度では当該労働者が深夜割増賃金の支払を受けることを認める必要はない」とされており,深夜割増賃金の支払があったと認められるための「要件」として,深夜労働時間数の明示や差額清算の合意を要求していません。主戦場は「深夜割増賃金を含める趣旨で定められていることが明らかな場合」該当するかどうかであって,判別可能性との関係では,「一定額の」というだけで十分と考えているように思われます。
 判別可能性との関係では,労基法37条の趣旨を医療法人一心会事件大阪地裁平成27年1月29日判決のように「労基法37条の趣旨は,割増賃金等を確実に使用者に支払わせることによって超過労働を制限することにある」と考え,「割増賃金部分が法定の額を下回っているか否かが具体的に後から計算によって確認できないような方法による賃金の支払方法は,同法同条に違反するものとして,無効と解するのが相当である。」と結論付けたり,「通常の労働時間の賃金に当たる部分から当該手当の額が労基法所定の時間外割増賃金の額を下回らないかどうかが判断し得ることが必要であると解される。」(泉レストラン事件東京地裁平成26年8月26日判決)という扱いにすれば十分と考えます。

(3) その他の検討事項
 定額残業代の名目が「時間外勤務手当」等,割増賃金であることを推認させるものであればいいのですが,「営業手当」等,その名目から割増賃金あるとは推認できないものについては,賃金規程に当該手当が割増賃金である旨明記して周知させたり,労働契約書にその旨明示して合意したりしておかなければ,定額残業代が割増賃金であると認めてもらえないのが通常です。
 中小企業などでは,定額残業代について「口頭」で説明したというだけで十分な客観的証拠が存在しない事例が散見されます。また,定額残業代について定めた賃金規程を労働者が確認できるようになっていない(周知させていない)事案も珍しくありません。これらの場合は,上記(1)や(2)の要件を検討するまでもなく,会社側の主張は門前払いとなってしまいます。
 労働協約で定額残業代を定めている場合は,組合員についてはその内容が労働契約の内容になります。労働協約で定めていれば個別合意などと比べて定額残業代と認められやすいかという論点があります。労使自治で決めたことですから,裁判所にも労使合意の内容を尊重して欲しいところですが,労基法37条は強行法規ですから,労基法37条に違反するような内容であればその効力は否定されざるを得ないと思います。

定額残業代(固定残業代)の適切な運用の検討 Menu

(1) 定額残業代を導入する目的の検討
 定額残業代の導入する前に,まず,「何のために定額残業代を導入するのか」を検討する必要があります。
 一般的に,定額残業代を導入すればいちいち残業代を計算する事務処理の手間を省くことができるかのようなことが言われることがあります。しかし,定額残業代を導入したところで労働時間の把握はしっかりしなければなりませんし,定額残業代で支払うべき割増賃金が足りてるのかどうかを毎月計算して確認しなければなりません。定額残業代を支払うだけでその過不足を確認せずに放置して追及を受けたら不足額を追加で支払えばいいや,というのなら楽かもしれませんが,真面目に過不足の確認をした場合,残業代計算の手間を省くという目的を達成することはできません。定額残業代を導入する目的として,残業代を計算する事務処理の手間を省くことができることを期待できる場面は,限定的なのではないかと思います。
 「残業すれば残業代がもらえて給料が増える仕組みだから,労働者に対し残業するモチベーションを与えることになってしまっている。定額残業代を導入して,残業しても現実に支払われる残業代が増えない仕組みにすれば,残業を抑制することができる。」という考えが存在します。確かに,定額残業代の導入により無駄な残業をする労働者が減った職場もあるようですが,必ずしも良い結果につながるとはいえません。残業させるかどうかを決めるのは使用者の権限なのですから,残業時間を抑制したければ残業させずに帰せば足りるはずです。定額残業代を導入する目的として,残業抑制を強調することは適切でないと思います。
 残業時間の長さにかかわらず一定額の残業代を保証することにより労働者の賃金額を魅力あるものとし,労働者を惹きつけることで労働力を確保するという目的で定額残業代が導入されることがあります。「基本給20万円で,残業時間に応じて1分単位で残業代を支払う」という労働条件と「基本給20万円と定額残業代5万円の合計25万円は残業の有無・長さにかかわらず保証し,残業代の額が5万円を超えた場合は不足額を追加で支払う」という労働条件が提示された場合,労働者にとってどちらが魅力的でしょうか。残業の有無・長さにかかわらず5万円の定額残業代が保証される分,後者のほうが魅力的だと思います。後者の労働条件の労働者に関し定額残業代を廃止し,基本給20万円だけが保証されることとし,現実の残業時間に応じて1分単位で残業代を支給することにした場合,当該労働者にとっては労働条件の不利益変更となります。定額残業代をけしからんと言っている人でも,定額残業代を廃止するにあたり,単に定額残業代5万円をなくして基本給20万円を基礎賃金として実労働時間に応じて1分単位で残業代を支払えとは言ってきません。定額残業代相当額5万円を基本給20万円に加算して,基本給を25万に増額してくれと要求してくるケースがほとんどです。
 求人・採用に当たり,使用者が労働者に対して十分な説明を行い,納得した上で求人に応募した労働者が就職を決めたのであれば,一概に定額残業代が問題であるとはいえないと思います。しかし,求人情報の内容とその後合意された労働契約書等に記載された労働条件が相違する場合,原則として労働契約書等に記載された労働条件が労働契約の内容となることを悪用し,定額残業代込みで25万円なのに,基本給等の残業代以外の賃金が25万円と受け取られかねない求人情報を出して人を集める会社が出てきたら,どうなってしまうでしょうか。労働者が安心して就職活動ができなくなってしまうことは明らかです。
 こうしたトラブルを防止するため,厚労省は平成26年4月14日付けで「求人票における固定残業代等の適切な記入の徹底について」という文書を出し,求人票に定額残業代に関し不適切な記載がなされないよう注意を促しています。
 また,「青少年の雇用機会の確保及び職場への定着に関して事業主,職業紹介事業者等その他の関係者が適切に対処するための指針」(平成二十七年厚生労働省告示第四百六号)においても,「募集に当たって遵守すべき事項」の一つとして,固定残業代に関し,「青少年が応募する可能性のある募集又は求人について,一定時間分の時間外労働,休日労働及び深夜労働に対する割増賃金を定額で支払うこととする労働契約を締結する仕組みを採用する場合は,名称のいかんにかかわらず,一定時間分の時間外労働,休日労働及び深夜労働に対して定額で支払われる割増賃金(以下このヘにおいて「固定残業代」という。)に係る計算方法(固定残業代の算定の基礎として設定する労働時間数(以下このヘにおいて「固定残業時間」という。)及び金額を明らかにするものに限る。),固定残業代を除外した基本給の額,固定残業時間を超える時間外労働,休日労働及び深夜労働分についての割増賃金を追加で支払うこと等を明示すること。」と規定しています。
 公益法人全国求人情報協会は,加盟している企業に対し,①固定残業代の額,②その金額に充当する労働時間数,③固定残業代を超える労働を行った場合は追加支給する旨の記載を要請しています。
 平成28年6月3日付けで「雇用仲介事業等の在り方に関する検討会報告書」が公表され,厚生労働省のウェブサイトにアップされています。同報告書の「求人に際して明示される労働条件等の適正化」の項目において,「労働条件等明示等のルールについて,固定残業代の明示等指針の充実,虚偽の条件を職業紹介事業者等に対し呈示した求人者に係る罰則の整備など,必要な強化を図ることが適当である。」と述べられています。
 残業時間の長さにかかわらず一定額の残業代を保証することにより労働者の賃金額を魅力あるものとし,労働者を惹きつけることで労働力を確保するという目的で定額残業代をすることが問題というわけではないと考えます。ただ,現在,求人の場面における定額残業代に関するトラブル防止が重要な課題となっていますので,この点に対する十分な配慮が必要であることに留意する必要があります。

(2) 時間外・休日・深夜労働時間数の実態調査
 定額残業代を導入する目的を検討した結果,定額残業代の導入が決まった場合,時間外・休日・深夜労働時間数の実態調査を行います。時間外・休日・深夜労働時間数の実態と定額残業代の時間数のかい離が大きいと,定額残業代が割増賃金の実質を有するかという論点において,これを否定する方向に働く一要素となります。他方,実態調査を行い,その結果に基づいて定額残業代の時間数を設定した場合,時間外・休日・深夜労働時間数に応じて金額が定まるという割増賃金の性質に合致しますので,割増賃金の実質を有すると判断されやすい方向に作用します。

(3) 定額残業代として支払う時間外・休日・深夜労働時間数の決定
 実態調査が終わったら,調査結果に基いて定額残業代として支払う時間外・休日・深夜労働時間数を決定します。
 定額残業代の時間数の設定に関し,「何時間分の定額残業代までなら安全ですか。」という質問を受けることがあります。裁判例の中には限度基準を参照して,1か月45時間を基準にしているかのようなものも見受けられますが,理論的には何時間分の定額残業代までなら安全といえる基準は存在しません。
 時間外・休日・深夜割増賃金は,原則として,時間外・休日・深夜労働時間数に比例して支払われることが想定されているのに対し,定額残業代を導入した場合,定額残業代額に達するまでは,現実に支払われる割増賃金額と時間外・休日・深夜労働時間数との間の比例関係が切断され,支払われるべき割増賃金額が定額残業代額を超えた時点で比例関係が復活することになります。定額残業代が割増賃金の実質を有するかは,原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が大きく影響してきます。原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が小さい定額残業代であれば割増賃金の支払として認められやすいですが,乖離の程度,比例関係切断の程度が大きければ大きいほど,割増賃金の支払とは認められにくくなります。定額残業代の時間数が長時間になればなるほど,原則的な計算方法との乖離の程度,比例関係切断の程度が大きくなりますので,割増賃金の実質を有しないと判断されるリスクが次第に高まっていくことになります。

(4) 定額残業代として支払う金額の計算
 定額残業代として支払う時間外・休日・深夜労働時間数を決定したら,定額残業代として支払う金額を計算します。
 仮に,時間外割増賃金の時間単価が1937円の労働者に関し,30時間分の時間外割増賃金を定額残業代とするのであれば,1937円×30時間=5万8110円を「時間外勤務手当」等の名目で定額残業代として支給します。
 上記事例では,定額残業代の金額に端数が生じていますが,敢えて,端数を残したままの定額残業代とすることが多いです。なぜなら,労基法・労基法施行規則に基づいて計算した時間外割増賃金の時間単価に,実態調査を踏まえて決定した時間外労働時間数を乗じて計算した金額に1円単位まで一致している「時間外勤務手当」であれば,時間外割増賃金の実質を有していると推認できるからです。計算式を示すなどすれば,端数処理して切りのいい金額にしたら直ちにダメというわけではないのですが,端数を残したままの定額残業代の方が時間外割増賃金の実質を有していることの立証がしやすいことは明らかです。
 このような定額残業代の設定方法とは逆に,まずは定額残業代の金額を決めてから,何時間分の割増賃金に相当するのかを後から計算して,時間数を明示するやり方がよく見られます。例えば,時間外割増賃金の時間単価が1937円の労働者に関し,定額残業代の金額を6万円に決めてから時間単価の1937円で除し,6万円が約30.98時間分の時間外割増賃金相当額であることを確認します。そして,6万円の定額残業代を「労働者に有利に」30時間分の定額残業代である旨,明記するわけです。このやり方は,直ちに労基法37条に違反するとはいえないかもしれませんが,いかにも「残業代請求対策」を行っているように見えがちです。また,定額残業代の金額が,時間外割増賃金の時間単価に想定される時間外労働時間を乗じた金額と一致しませんから,時間外割増賃金の実質を有しないと認められやすくなる方向に作用することになります。このように,定額残業代を切りの良い金額とする場合は,最低限,計算式を明示する等して,あくまでも時間外割増賃金の時間単価に想定される時間外労働時間を乗じて計算したものの端数を調整したに過ぎないことが客観的証拠から分かるようにしておくことをお勧めします。

(5) 就業規則(賃金規程)の整備
 実施しようとする定額残業代の内容が確定したら,定額残業代導入の経緯や決定した事項を反映する就業規則(賃金規程)を整備します。定額残業代で不足がある場合に不足額を追加で支払うのは当然のことですから,定額残業代が割増賃金の実質を有することを明らかにするためにも,就業 規則にもその旨,明記するようにして下さい。
 就業規則変更の際の労働者代表の選出方法に瑕疵があったり,就業規則の周知がなされていなかったりする事例が散見されます。特に,就業規則の周知を欠いている場合は,就業規則の規定を根拠として定額残業代の支払により割増賃金の支払がなされたとは認められなくなることには注意が必要です。

(6) 求人情報,労働条件通知書,給与明細書における定額残業代の明示
 求人情報,労働条件通知書には,定額残業代の金額,時間数,不足額がある場合には不足額を追加で支払うことなどを可能な範囲で記載します。
 給与明細書には,「時間外勤務手当」等,名称自体から時間外・休日・深夜割増賃金の支払であることが推認できる名称で,定額残業代の金額が明確に分かる形で定額残業代を記載します。時間外・休日・深夜労働時間数も明記し,定額残業代で不足額がある場合には不足額についても金額を明示して記載します。

(7) 不足額の清算
 定額残業代で不足額がある場合には,定額残業代が割増賃金の実質を有することを明らかにするためにも,不足額について忘れずに支給して下さい。

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