労働審判事件の終了

労働審判手続の終結

 労働審判手続は,次のいずれかにより終結します。
①調停の成立
②労働審判の言渡し
③労働審判法24条1項による終了
④取下

 ②労働審判の言い渡しは,審判書を作成して当事者に送達する方法を原則としていますが,実務上は,全ての当事者が出頭している場合は審理を終結する期日において口頭で主文及び理由の要旨を告知する方法により労働審判が言い渡される場合がほとんどです。審判書の場合は,審判書が送達された時,口頭の場合は告知された時に労働審判の効力が生じます。
 ③について,労働審判法24条1項は「労働審判委員会は、事案の性質に照らし、労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは、労働審判事件を終了させることができる。」と定めています。労働審判法24条1項により事件が終了した場合は,労働審判事件が終了した際に係属していた地方裁判所に訴え提起があったものとみなされます。

労働審判の内容

 労働審判の内容は,労働審判委員会が提示した調停案に近い内容の労働審判が出されることがほとんどです。
 理由の要旨は,「提出された関係証拠及び審理の結果認められる当事者間の権利関係並びに労働審判手続の経過を踏まえると,本件紛争を解決するためには,主文のとおり労働審判することが相当である。」というような定型的な理由のみが記載されることが多いです。

労働審判が確定した場合の効力

 労働審判は,裁判上の和解と同一の効力を有します。
 その内容によっては,形成力,執行力が認められ,給付を命じる主文を含むものは債務名義となります。

労働審判に対する異議申立て

 労働審判に不服のある当事者は,審判書を受け取った日又は期日において労働審判の告知を受けた日から2週間以内に,裁判所に異議の申立てをすることができます。
 異議の申立てがあると,異議を申し立てた当事者に有利な部分を含め,労働審判はその効力を失い,申立ての時に遡って,事件が継続している地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。
 異議申立てを取り下げることはできません。
 なお,口頭により労働審判の告知を受けた日から2週間が経過すれば,審判書に代わる調書の送達を受けていなくても異議申立て期間は進行します。

労働審判に対し異議を申し立てるかどうかの判断

 労働審判に異議を申立て訴訟で戦った結果,労働審判で支払いを命じられた金額よりも多額の金銭の支払を命じられることは珍しくありませんので,労働審判に異議を申し立てるか否かは慎重に検討しなければなりません。労働審判に異議を申し立てるか否かは,当該労働審判が妥当かどうか,また,他の労働者への波及効果等も考慮して決定すべきものです。
 労働審判の内容に若干の疑問があったり,納得できないと感じる部分があったとしても,問題の程度が大きくない場合や,他の労働者への波及効果が低い場合は,労働審判に異議を申し立てる必要性は低いと考えます。
 また,代理人の弁護士が異議を申し立てるべきだという意見の場合は,異議を申し立てて訴訟で争うことも検討に値します。しかし,代理人の弁護士が労働審判手続で調停をまとめるべきだとか,労働審判に対し異議を申し立てずに解決した方がいいという意見を述べている場合は,異議を申し立てて訴訟で争っても良い結果に終わることは稀ではないかと思います。

労働審判に対する異議申立てを取下げることはできるのか

 労働審判に対する異議申立ては,申立人,相手方いずれからもできます。しかし,申立人から労働審判に対し異議が申し立てられた場合,労働審判は訴訟へ移行し,その旨の通知が相手方にいくことから,相手方が改めて異議を申し立てるということは考えにくく,申立人が労働審判の異議の申立てを取り下げるとなると,相手方の異議の申立ての機会を奪うことにもなりかねません。
 したがって,労働審判に異議が申し立てられ,労働審判が失効した後は,労働審判の異議申立てを取り下げることはできないものと考えます。

労働審判手続の申立ての取下げ

 労働審判手続の申立ての取下げは,申立人が労働審判手続の期日で行うか,取下書を裁判所に提出する方法で行います。
 申立人が労働審判手続の申立てを取り下げた場合の効力は,労働審判手続の期日において口頭により申立てを取り下げたとき又は裁判所に取下書が到達した時に生じ,相手方の同意は不要です。
 申立人が労働審判手続の申立てを取り下げたら,裁判所から相手方に対しその旨が通知されます。
 ただし,次の3つの事項のいずれかに該当する場合には,通知されません。
①相手方が出頭した労働審判手続の期日において労働審判手続の申立てが取り下げられたとき
②労働審判手続の申立書の写しが相手方に送付される前に労働審判手続の申立てが取下げられたとき
③相手方が所在不明のときや外国にいるとき

 また,労働審判手続の申立ての取下げができるのは次のとおりです。
①調停の成立まで
②審判に対する適法な異議の申立て,審判の取消決定の確定,労働審判事件の終了により訴えの提起があったとみなされるまで
 なお,労働審判が訴訟へ移行した後は,労働審判手続の申立ての取下げはできないものと考えられますので,その場合は,訴えの取下げを検討することになります。

労働審判手続の申立ての却下

 裁判所は,労働審判手続の申立てが不適法であると認める場合は,その申立てを却下します。
 労働審判手続の申立てが却下されるケースは,例えば,その申立ての紛争が個別労働関係民事紛争に当たらない場合や,当事者に当事者能力又は労働審判手続に係る行為能力が無い場合などが考えられます。
 なお,労働審判手続の申立てが不適法であると認められる場合であっても,それを補正することが可能なときは,裁判所は直ちにその申立てを却下せず,申立人に対して相当期間を定め補正を命じた上で,それでも申立人が補正に応じない場合に申立てを却下するのが通常と考えます。
 申立書に不備がある場合や,申立手数料の納付が無い場合についても,裁判所は申立人に対して相当期間を定めて補正や納付を命じ,それでも申立人が応じない場合には,申立てが却下されるものと考えます。
 労働審判手続の申立書を却下する命令に対しては,即時抗告(不服の申立て)をすることができ,即時抗告期間は1週間とされています。

労働審判の取消し

 労働審判は,審判書の送達を受けた日又は労働審判手続の期日において労働審判の口頭告知を受けた日から2週間以内に裁判所に対して異議の申立てがないときは,その効力が確定します。
 しかし,審判書を送達すべき場合において次に掲げる事由があるときは,裁判所の決定で労働審判が取り下げられます(労働審判法23条1項)。
①当事者の住所,居所その他送達すべき場所が知れないこと
②民事訴訟法第107条1項(書留郵便等に付する送達)の規定による送達ができないこと
③外国において送達すべき場所について,民事訴訟法第108条(外国における送達)の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認められること
 なお,労働審判手続は,審理を終結してから労働審判を行うまでの間は極めて短いのが通常であり,審理の終結から審判書を送達するまでの間に,労働審判法23条の事由が発生するとは考えにくいため,事実上は,労働審判を取り下げることは少ないといえます。
 また,審理の終結前に,上記労働審判法23条の事項に該当する事由のあることが判明したときは,労働審判を行ったとしても裁判所が結局は取り消すことになるため,労働審判委員会が労働審判法24条1項により労働審判事件を終了させることになるものと考えます。
 労働審判を口頭で告知した場合は,審判書を送達することがないため,労働審判を取り消すことはないと考えます。

労働審判法24条による終了

 労働審判手続は,紛争を迅速かつ適正に解決するため,原則として3回以内の期日において審理を終了します。
 もっとも,事案の性質が,迅速かつ適正な解決を目的とする労働審判手続に適当でない場合や,労働審判や調停による解決に適さない場合には,労働審判委員会は,当該労働審判事件を終了させることができます。
 たとえば,次のケースが考えられます。
①差別や人事評価に関する事件
②事業主の雇用状況に関する全体的な審理を要する事件
③就業規則の不利益変更に関する事件
④労働審判手続の結果が他の従業員に影響を及ぼすおそれがある事件
⑤職務発明の対価に関する事件など高度な専門的知識を要する事件
 もっとも,これらに該当する場合であっても,当事者双方に労働審判手続で紛争を解決する意向があり,準備も十分になされている場合には,労働審判手続を行うことも考えられます。
 他方で,労働審判手続による解決が適当であると考えられる事件であっても,当事者双方が共に非協力的な態度をとる場合などは,3回以内の期日で審理を終えることが困難だと判断される可能性があります。
 したがって,労働審判法24条により労働審判事件を終了するか否かの判断は,労働審判委員会が,個別に判断していくものと考えます。

労働審判事件が訴訟に移行するケース

 労働審判事件が訴訟に移行するのは,①労働審判に対する異議の申立て,②労働審判の取消し,③労働審判をしない場合の労働審判事件の終了(24条終了)の3種類のケースがあります。

① 労働審判に対する異議の申立て
 労働審判について当事者から異議の申立てがなされたら,労働審判は失効し,当該労働審判事件を行っていた地方裁判所に訴えの提起があったものとみなされます。

② 労働審判の取消し
 労働審判の審判書を送達する際に,民事訴訟では公示送達によることとなるようなときには,裁判所は,決定により労働審判を取り消します。労働審判を取り消す決定が確定した場合,訴えの提起があったものとみなされます。

③ 労働審判をしない場合の労働審判事件の終了(24条終了)
 労働審判委員会が,事案の性質に照らし,労働審判手続を行うことが紛争の迅速かつ適正な解決のために適当でないと認めるときは,労働審判事件を終了させることができます。この場合,訴えの提起があったものとみなされます。

労働審判事件が訴訟に移行した場合の流れ

 労働審判事件が訴訟に移行すると,地方裁判所に労働審判事件記録が引き継がれます。そして,裁判長が,労働審判手続の申立書等の書面について審査を行い,不備があれば原告(労働審判事件の申立人)に補正を命じます。原告が補正に応じない場合には,裁判所は,訴状とみなされた労働審判手続の申立書等の書面を却下することになります。
 労働審判事件が訴訟に移行したとき,原告は,訴え提起の手数料を裁判所に納付することになります。この場合の手数料は,通常の訴え提起の手数料の額から,労働審判事件の申立て時に納付した手数料を控除した額になります。原告が訴え提起の手数料を支払わなかった場合には,訴状とみなされた労働審判事件の申立書等は却下されます。

労働審判事件が訴訟に移行した場合の訴状について

 労働審判事件が訴訟に移行した場合に訴状とみなされるものは,労働審判手続の申立書,申立ての趣旨又は理由が変更された場合にはその期日の調書を指すものと考えられます。
 申立ての趣旨又は理由の変更が認められなかった場合,当該変更申立書は訴状とはみなされません。

労働審判手続で提出した資料は訴訟でも利用できるのか

 労働審判事件が訴訟に移行した場合に,訴訟においても利用できる書面は,訴状とみなされる労働審判の申立書と,申立ての趣旨又は変更申立書のみです。
 これは,労働審判手続で提出した資料をそのまま移行後の訴訟で資料とすることが当事者の意思に反する場合が少なくないこと,また,労働審判手続と民事訴訟手続とでは手続の原則が異なり,資料を引き継ぐことが適当ではないことから定められたものと考えられます。
 したがって,当事者が,訴状とみなされる労働審判の申立書及び申立ての趣旨又は変更申立書以外の主張書面等を,移行後の訴訟における資料とするためには,改めて裁判所に提出する必要があります。 

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