その他

労働審判手続の申立ての取下げ

 労働審判手続の申立ての取下げは,申立人が労働審判手続の期日で行うか,取下書を裁判所に提出する方法で行います。

 申立人が労働審判手続の申立てを取り下げた場合の効力は,労働審判手続の期日において口頭により申立てを取り下げたとき又は裁判所に取下書が到達した時に生じ,相手方の同意は不要です。

 申立人が労働審判手続の申立てを取り下げたら,裁判所から相手方に対しその旨が通知されます。

 ただし,次の3つの事項のいずれかに該当する場合には,通知されません。

①相手方が出頭した労働審判手続の期日において労働審判手続の申立てが取り下げられたとき

②労働審判手続の申立書の写しが相手方に送付される前に労働審判手続の申立てが取下げられたとき

③相手方が所在不明のときや外国にいるとき

 また,労働審判手続の申立ての取下げができるのは次のとおりです。

①調停の成立まで

②労働審判に対する適法な異議の申立て,労働審判の取消決定の確定,労働審判の事件の終了により訴えの提起があったとみなされるまで

 なお,労働審判が訴訟へ移行した後は,労働審判手続の申立ての取下げはできないものと考えられますので,その場合は,訴えの取下げを検討することになります。

労働審判手続の申立ての却下

 裁判所は,労働審判手続の申立てが不適法であると認める場合には,その申立てを却下します。

 労働審判手続の申立てが却下されるケースは,例えば,その申立ての紛争が個別労働関係民事紛争に当たらない場合や,当事者に当事者能力又は労働審判手続に係る行為能力が無い場合などが考えられます。

 なお,労働審判手続の申立てが不適法であると認められる場合であっても,それを補正することが可能なときは,裁判所は直ちにその申立てを却下せず,申立人に対して相当期間を定め補正を命じた上で,それでも申立人が補正に応じない場合に申立てを却下するのが通常と考えます。

 また,申立書に不備がある場合や,申立手数料の納付が無い場合には,裁判官は申立人に対して相当期間を定めて補正や納付を命じ,それでも申立人が応じない場合には,申立書が却下されるものと考えます。

 労働審判手続の申立書を却下する命令に対しては,即時抗告(不服の申立て)をすることができ,即時抗告期間は1週間とされています。

労働審判の取消し

 労働審判は,審判書の送達を受けた日又は労働審判手続の期日において労働審判の口頭告知を受けた日から2週間以内に裁判所に対して異議の申立てがないときは,その効力が確定することになります。

 しかし,審判書を送達すべき場合において次に掲げる事由があるときは,裁判所の決定で労働審判が取り下げられます(労働審判法23条1項)。

①当事者の住所,居所その他送達すべき場所が知れないこと

②民事訴訟法第107条1項(書留郵便等に付する送達)の規定による送達ができないこと

③外国において送達すべき場所について,民事訴訟法第108条(外国における送達)の規定によることができず,又はこれによっても送達をすることができないと認められること

 なお,労働審判手続は,審理を終結してから労働審判を行うまでの間は極めて短いのが通常であり,審理の終結から審判書を送達するまでの間に,労働審判法23条の事由が発生するとは考えにくいため,事実上,労働審判を取り下げることは少ないといえます。

 また,審理の終結前に,上記労働審判法23条の事項に該当する事由のあることが判明したときは,労働審判を行ったとしても裁判所が結局は取り消すことになるため,労働審判委員会が労働審判法24条1項により労働審判事件を終了させることになるものと考えます。

 労働審判を口頭で告知した場合は,審判書を送達することがないため,労働審判を取り消すことはないと考えます。

労働審判法24条による終了

 労働審判手続は,紛争を迅速かつ適正に解決するため,原則として3回以内の期日において審理を終了します。

 もっとも,事案の性質が,迅速かつ適正な解決を目的とする労働審判手続に適当でない場合や,労働審判や調停による解決に適さない場合には,労働審判委員会は,当該労働審判事件を終了させることができます。

 たとえば,次のケースが考えられます。

①差別や人事評価に関する事件

②事業主の雇用状況に関する全体的な審理を要する事件

③就業規則の不利益変更に関する事件

④労働審判手続の結果が他の従業員に影響を及ぼすおそれがある事件

⑤職務発明の対価に関する事件など高度な専門的知識を要する事件

 もっとも,これらに該当する場合であっても,当事者双方に労働審判手続で紛争を解決する意向があり,準備も十分になされている場合には,労働審判手続を行うことも考えられます。

 他方で,労働審判手続による解決が適当であると考えられる事件であっても,当事者双方が共に非協力的な態度をとる場合などは,3回以内の期日で審理を終えることが困難だと判断されることも考えられます。

 したがって,労働審判法24条により労働審判事件を終了するか否かの判断は,労働審判委員会が,個別に判断していくことになります。

当事者の死亡等により当事者が労働審判手続を続行することができない場合

 労働審判手続は,当事者の死亡等により手続を続行することができない場合でも,中断することはありません。当事者に承継人がいれば当然に承継され,承継人は実質的に当事者の地位に就くことになります。

 なお,当事者の死亡による承継の場合は,当然に手続が承継されると考えられますが,相続放棄の申述期間中は承継人が確定的に明らかでないことから,事実上,手続を進めることはできないものと考えられます。

労働審判員に支障が生じた場合

 労働審判手続は,労働審判官と労働審判員2名で組織する労働審判委員会で行われますので,労働審判員のどちらか一方に支障が生じた場合,労働審判官と1名の労働審判員だけで労働審判手続を行うことはできません。労働審判員の支障が一時的なものであれば,期日を変更も考えられますが,長期的な場合は,労働審判員の指定を取り消した上で,新たな労働審判員が指定されるものと考えます。

労働審判手続の分離や合併

 労働審判委員会は,労働審判手続の分離や合併を命じたり,その命令を取り消すことができます。これは労働審判委員会の裁量により行われるため,当事者はこれに対して不服を申し立てることはできません。

 労働審判事件の分離とは,1つの労働審判事件において複数の申立てが併合されている場合に,申立てごとに個別の手続に分けることをいいます。

 労働審判手続の合併とは,同一の裁判所に係属されている複数の労働審判事件を,同じ1つの手続で行うことをいいます。

調停又は労働審判前の措置

 労働審判委員会は,調停又は労働審判のために特に必要であると認める場合には,当事者の申立てにより,調停又は労働審判前の措置として,相手方その他事件関係人に対し,現状の変更又は物の処分の禁止その他調停又は労働審判の内容である事項の実現を不能にし又は著しく困難にさせる行為の排除を命じることができるとされています。

 この措置をとるためには,次の4つの要件が必要と考えられています。

①労働審判事件が係属中であること

②調停又は労働審判のために特に必要であること

③当事者から措置の申立てがあること

④相手方その他労働審判事件の関係人に対するものであること

 調停又は労働審判前の措置は,執行力がありませんが,裁判所は,この措置に従わない者に対し,過料の制裁を科すことができます。ただし,調停又は労働審判前の措置は,当事者及び参加人以外の事件の関係人に対しても命じることができますが,手続に参加していない事件の関係人に対しては,過料の制裁を科すことはできないものと考えられます。また,調停又は労働審判前の措置に対して,相手方その他の事件の関係人が不服を申し立てることはできず,調停又は労働審判前の措置の申立ての却下に対しても,不服を申し立てることはできないと考えられます。

当事者以外による記録の閲覧又は謄写

 労働審判事件において,当事者及び利害関係のある第三者は,裁判所書記官に対し,労働審判事件の記録を閲覧又は謄写等を請求することができるとされています。労働審判手続は原則として非公開ですが,訴訟的性格が強く,当事者のみならず利害関係のある第三者も,労働審判事件の記録の内容を把握する必要性があることから,このような規定が置かれたものと考えられます。ただし,労働審判手続において閲覧等の制限がされている場合には,当事者以外は,制限されている部分の閲覧等を請求することができません。

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