答弁書の作成

答弁書の記載事項

 答弁書の記載事項は,以下のとおりです。
 ① 申立書の趣旨に対する答弁
 ② 労働審判手続の申立書に記載された事実に対する認否
 ③ 答弁を理由づける具体的な事実
 ④ 予想される争点及び当該争点に関連する重要な事実
 ⑤ 予想される争点ごとの証拠
 ⑥ 当事者間においてされた交渉その他申立てに至る経緯の概要

 通常,裁判所から労働審判申立書とともに答弁書記載例が届きますので,それを参考にするといいと思います。
 もっとも,労働事件が業務のほとんどを占める経営側弁護士に依頼するのであれば,何をどのように記載するかは弁護士に任せれば足ります。

「答弁書でほとんど勝負が決まる」

 労働審判手続は第1回期日で審理を終えることが多いため,第1回期日まででほぼ勝負が決まります。
 そして,第1回期日の審理は,申立書と答弁書を前提として行われます。
 第1回期日までに会社側から提出する主張書面は,通常は答弁書のみですので,会社側の視点からすれば,「答弁書でほとんど勝負が決まる」と言ってもいいくらいかもしれません。
 労働審判の対応としては,答弁書の作成にエネルギーの90%を注ぐくらいのつもりで充実した答弁書を作成し提出する必要があります。

 労働審判手続は,第1回期日で事実審理を終えることがほとんどであり,第1回期日まででほぼ勝負が決まるのですから,訴訟の答弁書のような「追って答弁する。」などの形式的な答弁のみが記載された答弁書を提出したのでは足りないことは明らかです。
 このような答弁書を提出した場合,労働審判制度を理解していないことを自白するようなものであり,裁判所や弁護士会で噂のネタにされることはほぼ確実です。

重要な証拠の記載内容を読み取ることができる答弁書

 答弁書を裁判所に提出する際は,証拠の写しも提出するのが通常ですが,東京地方裁判所の運用では,労働審判員には答弁書のみが事前に送付され,証拠の写しについては送付されない扱いとなっています。大阪地方裁判所等,証拠の写しを労働審判員に送付しない運用の裁判所は,東京地方裁判所以外にも数多く存在します。
 東京地方裁判所や大阪地方裁判所等,労働審判員に証拠の写しを送付しない運用の裁判所の労働審判員は,自宅等で証拠と照らし合わせながら答弁書を検討することができません。裁判所に来た際などに証拠を閲覧し,詳細な手控えを取ったりすることはできるかもしれませんが,答弁書を読んだだけで重要な証拠の記載内容が分かるようにしておいた方が,労働審判員が会社側の主張を理解しやすいことは明らかです。
 したがって,労働審判事件の争点の行方を左右するような重要な証拠については,証拠と照らし合わせなくても証拠の記載内容が分かるように答弁書に書き込んでおくとよいでしょう。

 証拠と照らし合わせなくても答弁書の記載から重要な証拠の記載内容が分かるようにしておくことは,裁判所で証拠と照らし合わせながら答弁書を検討することができる労働審判官(裁判官)に会社側の主張を理解してもらう上でも有益です。証拠の写しが手元にない労働審判員との関係では,その必要性が特に高いということに過ぎません。
 したがって,労働審判員に証拠の写しを発送する運用の裁判所であっても,重要な証拠の記載内容を読み取ることができる答弁書を作成することにはやはり意味があるといえるでしょう。

労働審判期日で失敗するリスクを減らすための答弁書作成

 労働審判期日に出頭する会社関係者は,労働審判に不慣れなことが多いため,労働審判期日では,緊張して事実を正確に伝えることができなくなりがちです。
 労働審判期日で言いたいことが言えないまま終わってしまったり,事実とは違うことを間違えて話してしまうなどの失敗を減らすためには,事前に提出する答弁書に言いたいことをしっかり盛り込んでおいて,労働審判の期日に話さなければならないことをできるだけ減らしておくのが効果的です。

答弁書のページ数

 労働審判の対応において答弁書の果たす役割は極めて重要であり,答弁書を読んだだけで会社側の主張が分かるようにしておく必要がありますが,ページ数が不必要に多くなっていないかについて十分に検討する必要があります。
 プレゼンをイメージすれば分かることですが,同じ価値の情報を伝えるのであれば,ページ数の少ない答弁書の方が労働審判官,労働審判員に言いたいことが伝わりやすく,優れていることは明らかです。
 伝える情報の価値が同じであれば,文章力が高い人物によって書かれたものであるほど,推敲が重ねられたものであればあるほど,答弁書のページ数は少なくなります。
 答弁書本文のページ数は,事案の内容により変わってきますが,労働審判手続での解決になじむ事件であれば,長くて30頁以内,できたら20頁以内でまとめておきたいところです。文章作成能力が高ければ,もっと短いページ数で十分に言いたいことが伝えられるかもしれません。
 どうしても必要なため答弁書のページ数が多くなるのであればやむを得ないのかもしれませんが,文章作成能力が低いとか,推敲が不十分であることが原因で,答弁書のページ数が多くなることがないようにして下さい。

答弁書の提出期限

 答弁書の提出期限は,裁判所によって異なりますが,概ね第1回期日の1週間前から10日前に設定されています。
 答弁書の提出期限までに答弁書を提出することができず,第1回期日間際になって答弁書を提出した場合,第1回期日までに労働審判官(裁判官)・労働審判員が答弁書の主張内容を検討する時間が十分に取れませんから,会社側の主張を理解してもらいにくくなってしまいます。
 ほとんどの労働審判事件では,第1回期日で審理を終え,調停が試みられますので,第1回期日までに会社側の主張を理解してもらえないと,会社側に不利な事実認定と法的評価を前提とした調停が試みられ,会社側に不利な結果に終わるリスクが高くなります。
 したがって,会社側としては,答弁書の提出期限までに答弁書を完成させて提出できるよう,全力を尽くすべきこととなります。
 仮に,答弁書の提出期限が遵守できなかったとしても,1日も早く提出できるよう全力を尽くすべきだと思います。
 もっとも,労働審判の対応を弁護士に依頼したのが答弁書提出期限の直前または提出期限経過後の場合で,そのまま第1回期日を開催しても期日が空転してしまうような事案では,労働審判第1回期日の変更と合わせて答弁書提出期限を変更後の第1回期日の1週間前などに延期してもらうことも考えられると思います。

答弁書の作成に十分な時間が取れない場合の対応

 労働審判手続の第1回期日は,特別の事由がある場合を除き,労働審判手続の申立てがされた日から40日以内の日に指定されます。「特別の事由」とは,やむを得ず期日の指定が遅れた場合,事案が複雑で答弁書作成に時間を要することが見込まれる場合等,申立ての日から40日以内に第1回期日が指定されたのでは十分な準備ができないと見込まれる場合等です。

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