問題社員124 誹謗中傷メールを会社内外に送信する。

動画解説

 

1. 誹謗中傷メール問題で最優先すべき初動対応

 社長に対する誹謗中傷メールが社内外に送信されていることが判明した場合、会社経営者として最初に行うべきことは、過去の責任追及よりも「これ以上被害を拡大させないこと」です。

 感情的には直ちに懲戒処分を検討したくなるかもしれません。しかし、まず優先すべきは送信行為の停止です。被害が継続すれば、社内の士気低下、取引先との信頼関係悪化、企業信用の毀損へと波及していきます。

 初動として必ず行うべきなのは、証拠の確保です。送信されたメールのデータを保存し、ヘッダー情報も含めて記録化します。可能であればプリントアウトし、送信日時、送信先、内容を整理しておきます。後の懲戒判断や損害賠償請求の場面では、「誹謗中傷があった」という抽象的主張ではなく、「具体的に何が書かれていたのか」が決定的に重要になります。

 その上で、できる限り速やかに本人との面談を実施します。メールの内容を示した上で、まず事情を確認します。なぜこのような行為に至ったのか、不満や背景事情は何かを冷静に聴取することが重要です。

 ここで大切なのは、感情的に叱責することではありません。経営者として冷静に対応し、「これ以上の送信はやめるように」と明確に指示を出すことです。そして、不満があるのであれば社内の正式なルートで申し出るように指導します。

 誹謗中傷メールは、場合によっては名誉毀損や信用毀損に発展し得る重大な問題です。しかし初動を誤れば、かえって対立を深め、行為がエスカレートすることもあります。

 会社経営者としては、まず被害拡大を止める。そのための証拠確保と冷静な面談。この二つを最優先で行うことが、適切な対応の出発点となります。

2. 面談による送信停止と不満の適切な受け止め方

 誹謗中傷メールの送信を止めるための最も現実的で迅速な方法は、やはり本人との面談です。メールの文面を示しながら、事実関係を確認し、これ以上の送信を明確に禁止する意思表示を行います。

 もっとも、ここで重要なのは一方的な叱責ではありません。社長に対して社内外へ誹謗中傷メールを送るという行為は通常では考えにくいものです。本人なりに何らかの不満や背景事情がある可能性が高いと考えるべきです。

 もちろん、その不満が客観的に合理的であるとは限りません。しかし、主観的には強い動機を持っていることが多いため、まずは話を聞く姿勢を示すことが、行為の停止につながる場合があります。

 実務上、メールでは強い言葉を並べる方でも、対面で冷静に話をすると態度が軟化するケースは少なくありません。感情の発散手段としてメールを利用している場合、面談によって出口を与えることで収束することもあります。

 その上で、「不満があるのであれば正式な社内ルートで申し出てください」と明確に伝えます。ただし、この言葉に説得力を持たせるためには、会社側が実際に意見を受け止める体制を整えていることが前提になります。

 会社経営者としては、「言いたいことがあるなら言え」という姿勢だけでなく、「言われたことを真摯に検討する」という姿勢も示す必要があります。結果として採用しない結論になるとしても、検討したという事実は極めて重要です。

 誹謗中傷メール問題は、単なる規律違反ではなく、組織内の不満が外部に噴出した現象でもあります。面談は単なる注意の場ではなく、問題の根を探る機会でもあります。

 冷静に話を聞き、明確に禁止し、正式なルートを示す。この三点を押さえた面談が、次の段階に進む前の重要なステップとなります。

3. 「会社に言っても無駄」と主張された場合の対応

 面談の場でしばしば出てくるのが、「会社に言ったって聞いてくれない」「社長に言ってももみ消されるに決まっているから外部に送った」という主張です。

 このように言われた場合、会社経営者として感情的に反論するのは得策ではありません。重要なのは、「会社として意見を受け止める体制が本当に機能しているか」を自ら点検することです。

 もちろん、すべての主張が合理的とは限りません。中には客観的根拠に乏しいものや、個人的不満に過ぎないものもあります。しかし、会社としては、申し出があった場合に真摯に検討する姿勢を示しているかどうかが問われます。

 ここでいう「真摯な対応」とは、必ずしも相手の要求を受け入れることではありません。意見を受け止め、事実関係を確認し、必要であれば調査し、最終的にどう判断したのかを説明することです。

 結果として却下することもあり得ます。しかし、検討を経た却下と、初めから取り合わない態度とでは、外部からの評価は大きく異なります。

 会社経営者としては、自らが舞台の上に立ち、多くの従業員や取引先から見られているという意識を持つことが重要です。感情的に対抗するのではなく、「会社としてやるべきことをやっている」と客観的に評価される行動を取ることが求められます。

 仮に本人が最後まで納得しなかったとしても、周囲の大多数が「会社は適切に対応した」と評価する状態を作ることができれば、企業統治としては成功です。

 誹謗中傷メールへの対応は、単なる個人対応ではありません。会社の姿勢そのものが試される局面であることを、会社経営者は強く意識すべきです。

4. 職務専念義務・名誉毀損・信用毀損の法的整理

 誹謗中傷メールを「なぜ送ってはいけないのか」と問われた場合、会社経営者としては感情ではなく、法的根拠に基づいて説明できることが重要です。

 まず、勤務時間中にメールを作成・送信していた場合には、職務専念義務の問題があります。労働者は労働時間中、職務に専念する義務を負っています。仕事時間中に私的な誹謗中傷メールを作成・送信する行為は、この義務に違反する可能性があります。

 また、会社業務を通じて知り得たメールアドレスや取引先情報を利用して送信している場合には、業務情報の不適切利用という問題も生じ得ます。会社から付与された情報や立場を使って個人的な不満を外部に発信することは、企業秩序の観点から重大な問題です。

 さらに重要なのが、名誉毀損や信用毀損の問題です。メールの内容が、社長や会社の社会的評価を低下させるものであれば、不法行為が成立する可能性があります。ただし、ここで注意すべきなのは、「腹が立つ内容=違法」という単純な構図ではないということです。

 法的に問題となるかどうかは、具体的な記載内容、事実摘示か意見論評か、真実性の有無、真実と信じる相当理由の有無など、複数の要素によって判断されます。

 したがって、会社経営者としては、「誹謗中傷だからダメだ」という抽象論ではなく、「この文言は社会的評価を低下させる可能性がある」「この行為は職務専念義務に反する」といった具体的な整理を行うことが必要です。

 面談においても、感情的に「許さない」と伝えるのではなく、なぜ問題なのかを法的観点から説明することが、再発防止の観点でも有効です。

 誹謗中傷メール問題は、単なるモラルの問題ではありません。企業秩序と法的責任が交錯する問題であることを、会社経営者として冷静に整理しておくことが重要です。

5. 懲戒処分の可否と重さの判断基準

 誹謗中傷メールの送信が確認された場合、会社経営者として次に検討するのは懲戒処分の可否と、その重さです。

 しかし、ここで最も注意すべきなのは、「腹が立ったから重くする」という発想に陥らないことです。懲戒処分は制裁感情の発露ではなく、企業秩序維持のための法的措置です。

 まず確認すべきは、実際に送信されたメールの具体的内容です。「誹謗中傷」という評価語で判断するのではなく、どのような日本語表現が用いられているのか、事実摘示なのか、単なる意見なのか、誰に送られたのかを丁寧に整理します。

 次に、就業規則上の懲戒事由に該当するかを検討します。例えば、「会社の名誉・信用を毀損したとき」「職場秩序を乱したとき」などの条項がある場合、今回の行為がどの条項に該当するのかを明確に位置付ける必要があります。

 この作業を曖昧にすると、後に処分無効と判断されるリスクが高まります。懲戒処分は、就業規則というルールに基づくものでなければなりません。

 そして処分の重さについては、メールの内容、送信先の範囲、影響の大きさ、動機、過去の勤務態度、反省の有無などを総合的に考慮します。本当に軽微な内容であれば厳重注意にとどめる場合もありますし、重大な信用毀損に至っている場合には重い処分が検討されることもあります。

 重要なのは、行為の程度と処分の重さとのバランスです。この均衡を欠くと、懲戒権濫用と評価され、処分が無効となる可能性があります。

 会社経営者としては、感情と評価を切り分け、事実と規程に基づいて判断する姿勢が求められます。迷いがある場合には、第三者的視点を持つ専門家と協議しながら、冷静に重さを決定することが安全な対応といえます。

6. 懲戒解雇・普通解雇を選択する際の注意点

 誹謗中傷メールの内容や影響が重大である場合、会社経営者としては懲戒解雇や普通解雇を検討する場面も出てきます。しかし、解雇は最も重い処分であり、法的リスクも極めて高い判断です。

 まず、懲戒解雇を行うのであれば、就業規則に明確な懲戒解雇事由が定められ、その規程が適切に周知されていることが前提となります。そして今回の行為が、その条文に具体的に該当するかを慎重に検討しなければなりません。

 また、懲戒解雇は懲戒権濫用と評価されれば無効になります。客観的合理性があり、社会通念上相当といえるかどうかが厳しく問われます。メールの内容がどの程度悪質か、送信先の範囲はどこまでか、実際にどの程度の影響があったのかなど、具体的事情を丁寧に積み上げる必要があります。

 一方で、懲戒解雇ではなく普通解雇を選択するケースもあり得ます。例えば、信頼関係が回復困難であることを理由とする場合などです。この場合も、解雇権濫用法理が適用されますので、やはり合理性と相当性が必要です。

 さらに実務上見落とされがちなのが、手続の適正です。弁明の機会を与えているか、懲戒委員会の開催が必要な場合はその手続を踏んでいるかなど、形式面の不備があると、内容が相当でも無効となる可能性があります。

 会社経営者としては、「解雇できるか」ではなく、「解雇して勝てるか」という視点を持つことが重要です。裁判で争われた場合に耐えられる証拠と手続が整っているかを冷静に判断しなければなりません。

 解雇は強いメッセージを発しますが、その分リスクも伴います。感情に基づく決断ではなく、事実・規程・手続の三点を踏まえた慎重な判断が求められます。

7. 自主退職を申し出てきた場合の対応戦略

 誹謗中傷メールを送信した社員が、「もう辞めます」と自主退職を申し出てくることがあります。中には、覚悟を決めて最後に言いたいことを言ってから退職しようと考えているケースもあります。

 この場合、会社経営者として悩ましいのは、「懲戒処分にこだわるのか、それとも退職を認めて収束させるのか」という判断です。

 懲戒解雇に踏み切れば、企業秩序維持の姿勢を明確に示すことができます。しかし、調査が不十分な状態で急いで処分を行えば、後に無効と判断されるリスクがあります。特に、退職の意思表示から短期間しかない場合、証拠整理や手続が間に合うのかを慎重に見極める必要があります。

 一方で、退職届を受理し、合意退職として処理することで紛争を早期に終結させるという選択肢もあります。この方法であれば、解雇の有効性を巡る争いを回避できる可能性があります。

 もっとも、退職を安易に認めることで、社内に誤ったメッセージが伝わらないかという点も考慮しなければなりません。会社としての統治方針や社風との整合性が重要です。

 会社経営者としては、「懲戒解雇が可能か」という法律論だけでなく、「自社にとってどの選択が最も合理的か」という経営判断を行う必要があります。

 勝算の見込み、調査に要する時間、社内外への影響、将来の紛争リスクなどを総合的に検討し、冷静に選択することが求められます。

 懲戒にこだわることが常に最善とは限りません。感情ではなく戦略で判断する姿勢が、会社経営者には不可欠です。

8. 損害賠償請求を検討する際の重要ポイント

 誹謗中傷メールの内容や送信範囲によっては、会社経営者として損害賠償請求を検討する場面もあります。もっとも、「腹が立つから請求する」という発想では危険です。法的に成立するかどうかを慎重に見極めなければなりません。

 まず重要なのは、具体的に何が書かれていたのかという事実の確定です。「誹謗中傷された」という評価的表現では足りません。どの文言が、どのように社会的評価を低下させたのかを明確にする必要があります。

 名誉毀損が成立するためには、具体的事実の摘示があり、その内容が社会的評価を低下させるものであることが必要です。また、信用毀損が問題となる場合には、企業の経済的信用に影響を与える内容であるかが検討対象になります。

 しかし、ここでさらに難しいのは、違法性が否定される可能性がある点です。記載内容が真実である場合、あるいは真実と信じるについて相当な理由がある場合、名誉毀損が成立しないことがあります。また、意見や論評にとどまる場合にも、一定の要件の下で違法性が否定されることがあります。

 つまり、社会的評価が下がる内容であっても、必ずしも損害賠償責任を問えるとは限りません。

 さらに実務上注意すべきなのは、請求が棄却された場合の影響です。裁判で敗訴すれば、かえって会社や会社経営者の信用を損なう結果になることもあります。請求を行うことで問題が拡散するリスクも考慮しなければなりません。

 会社経営者としては、「請求できる可能性があるか」だけでなく、「請求すべきか」という観点で判断することが重要です。損害額の立証可能性、社会的影響、費用対効果などを総合的に検討する必要があります。

 損害賠償請求は、制裁ではなく権利回復の手段です。冷静に証拠と法的構造を整理した上で、戦略的に判断することが求められます。

9. 「誹謗中傷」の中身を事実ベースで確定する重要性

 誹謗中傷メール問題に対応するうえで、会社経営者が最も注意しなければならないのは、「誹謗中傷」という評価語に引きずられないことです。

 自分に対する否定的な記載を見れば、誰しも強い怒りを感じます。しかし、法的判断の場面では、「誹謗中傷かどうか」という抽象的評価はほとんど意味を持ちません。問われるのは、「具体的にどのような文言が書かれていたのか」という事実です。

 たとえば、「経営判断が誤っている」という表現と、「横領をしている」といった具体的犯罪事実の摘示とでは、法的評価は全く異なります。前者は意見・論評にとどまる可能性がありますが、後者は事実摘示として名誉毀損に該当する可能性があります。

 また、たとえ不快な表現であっても、社会的評価を低下させる程度に至らない場合もあります。感情的評価と法的評価は必ずしも一致しません。

 さらに、内容が真実である場合や、真実と信じるについて相当な理由がある場合には、違法性が否定されることもあります。この点を誤ると、損害賠償請求や懲戒処分が後に否定されるリスクが高まります。

 したがって、会社経営者としては、まずメールの文面を冷静に精査し、「どの文言が問題なのか」「その文言は社会的評価を低下させるのか」「事実か意見か」という観点で整理することが不可欠です。

 感情に基づく過大評価は、過重処分や不適切な訴訟提起につながりかねません。冷静な第三者的視点を持つ専門家と協議しながら、事実を基礎に判断することが安全です。

 「誹謗中傷」という言葉を一度脇に置き、具体的事実から出発する。この姿勢こそが、誤った判断を防ぐための第一歩となります。

10. 裁判リスクを見据えた会社経営者の最終判断

 誹謗中傷メール問題への対応は、最終的には会社経営者の判断に委ねられます。懲戒処分、解雇、退職の受理、損害賠償請求――いずれの選択肢にもリスクがあります。

 特に意識すべきなのは、裁判になった場合に耐えられる判断かどうかという視点です。懲戒処分や解雇が無効とされれば、企業統治の信頼性は大きく損なわれます。損害賠償請求が棄却されれば、かえって会社や会社経営者の名誉が傷つくこともあります。

 だからこそ、「感情的に許せない」という理由だけで動くことは避けなければなりません。

 重要なのは、①事実を確定し、②就業規則との整合性を確認し、③処分の重さとの均衡を取り、④手続の適正を確保するという基本を徹底することです。

 そのうえで、自社の規模、社風、対外的影響、今後の統治方針を踏まえて、どの選択肢が最も合理的かを決断します。

 誹謗中傷メール問題は、会社経営者の統治姿勢が試される局面です。舞台の上に立ち、多くの従業員や取引先から見られているという意識を持ち、説明可能な判断を下すことが重要です。

 結果として全員が納得するとは限りません。しかし、合理的根拠に基づく一貫した判断であれば、企業統治は揺らぎません。

 うっかり誤った対応をして裁判で敗訴することこそ、最も避けるべき事態です。冷静に、戦略的に、そして法的に整った判断を行うことが、会社経営者に求められる責任といえます。

 

最終更新日2026/2/16


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