問題社員116 SNSで会社や上司を誹謗中傷する。

動画解説

 

1. SNSでの誹謗中傷が会社に与える深刻な影響

 社員がSNS上で会社や上司を誹謗中傷する投稿を行った場合、その影響は想像以上に大きなものになります。会社経営者としてまず認識すべきなのは、これは単なる「社員個人の不満表明」ではなく、会社全体に波及する重大な経営リスクだという点です。

 第一に、社内の雰囲気が著しく悪化します。SNS上の投稿は真実かどうかにかかわらず目に触れやすく、「会社の中で何か問題が起きているのではないか」という疑念を社員に抱かせます。その結果、職場の士気が下がり、協力関係が崩れ、良い仕事が生まれにくくなるおそれがあります。

 第二に、対外的な信用への影響も深刻です。取引先や顧客がSNS上の情報を目にすれば、その内容を真に受け、「この会社と取引して大丈夫だろうか」と不安を感じることもあり得ます。特に根拠のない誹謗中傷であっても、一度広まった印象を完全に払拭することは容易ではありません。

 さらに、採用活動への悪影響も無視できません。応募を検討している求職者が会社名を検索した際、SNS上に否定的な投稿が並んでいれば、「この会社はやめておこう」と判断される可能性があります。これは将来の人材確保に直結する問題です。

 SNSの特徴は、情報が短時間で拡散する点にあります。放置すれば被害は拡大し続け、後から対応しようとしても手遅れになることがあります。会社経営者としては、SNSでの誹謗中傷は企業秩序と信用を揺るがす問題であり、軽視してはならないという認識を持つことが、適切な初動対応の出発点となります。

2. 誹謗中傷投稿を見つけた直後に最優先すべきこと

 SNS上で会社や上司に対する誹謗中傷の投稿を見つけた場合、会社経営者が最初に意識すべきなのは、「誰がやったのか」「どう処分するか」ではありません。最優先すべきは、被害の拡大を止めることです。初動対応を誤ると、問題は一気に深刻化します。

 SNSの誹謗中傷は、放置すれば短時間で拡散します。投稿が真実かどうかにかかわらず、「会社について悪いことが書かれている」という事実だけが独り歩きし、社内外に悪影響を及ぼします。したがって、まず考えるべきは、これ以上同様の投稿をさせないこと、すでに投稿されているものを削除させることです。

 懲戒処分や損害賠償請求といった対応は、その後に検討すべき問題です。初動の段階でいきなり処分の話を持ち出してしまうと、相手が身構え、投稿を消さずに意地になったり、証拠を隠そうとしたりするおそれがあります。結果として、被害が長期化するリスクが高まります。

 そのため、誹謗中傷と思われる投稿を発見したら、まずは画面の保存などを行い、証拠を確保した上で、できるだけ早く動くことが重要です。時間を置けば置くほど、投稿は広まり、会社がコントロールできる余地は小さくなります。

 会社経営者としては、「正しさを争う前に、被害を止める」という発想を持つことが不可欠です。この優先順位を誤らないことが、その後の事情聴取や処分判断を有利に進めるための土台となります。

3. 投稿をやめさせるための初動対応の考え方

 誹謗中傷と思われるSNS投稿を確認した場合、会社経営者としての初動対応の目的は明確です。それは、できるだけ早く投稿をやめさせ、可能であれば削除させることにより、被害の拡大を防ぐことです。この目的を見失うと、対応は簡単に空回りします。

 まず行うべきは、当該投稿の画面を保存するなどして、証拠を確保することです。削除されてしまえば意味がないと考える方もいますが、証拠確保と削除要請は両立します。後の判断材料として最低限の証拠を押さえた上で、次の行動に移ることが重要です。

 その上で、投稿者が特定できている場合には、できるだけ早く面談の場を設けます。この段階では、いきなり非難したり、処分の話を持ち出したりする必要はありません。まずは「なぜこのような投稿をしたのか」「どのような認識で行ったのか」を落ち着いて確認することが重要です。軽い気持ちで投稿している社員も少なくなく、話をするだけで投稿をやめるケースも多くあります。

 同時に、なぜその投稿が問題なのかを、会社としてきちんと説明する必要があります。会社や上司の名誉・信用を害する可能性があること、社内外に悪影響を及ぼすこと、社員として守るべき義務に反することなどを、感情論ではなく、理屈として伝えることが大切です。

 この初動対応の段階では、「厳しく処分する」ことよりも、「これ以上続けさせない」ことを最優先に考えるべきです。会社経営者として、目的と手段を取り違えず、冷静かつ迅速に動くことが、その後の対応全体を左右することになります。

4. 事情聴取で確認すべきポイント

 初動対応として投稿をやめさせる動きを進めつつ、会社経営者として次に行うべきなのが、事情聴取です。事情聴取の目的は、感情的に非を認めさせることではなく、事実関係を正確に把握し、その後の対応判断に耐えうる材料を集めることにあります。

 まず確認すべきなのは、その投稿がいつ、どのアカウントから、どのような内容で行われたのかという基本的な事実です。本人が投稿を認めている場合でも、「どの投稿を」「どの意図で」行ったのかを具体的に確認しておく必要があります。後から認識のずれが生じることは珍しくありません。

 次に重要なのが、投稿の動機や背景です。強い恨みを持って意図的に行ったのか、軽い不満や冗談のつもりだったのかによって、その後の対応は大きく変わります。事情聴取の場では、「なぜ投稿したのか」「会社や上司にどのような不満があったのか」を丁寧に聞き取ることが重要です。

 この段階で注意すべきなのは、最初から決めつけた態度を取らないことです。強く責め立てると、防御的になり、事実を隠したり歪めたりする原因になります。淡々と事実確認に徹する姿勢の方が、結果的に多くの情報を引き出せます。

 会社経営者としては、事情聴取は「処分の場」ではなく、「判断材料を集める場」だと位置づけることが重要です。ここで得られた事実と背景が、懲戒処分の要否や重さ、さらには損害賠償請求を検討するかどうかといった、その後の経営判断の基礎になります。

5. なぜSNS投稿が問題行為となるのかの説明

 事情聴取を行う中で、会社経営者が必ず行うべきなのが、「なぜそのSNS投稿が問題なのか」を本人にきちんと説明することです。投稿した社員自身が、必ずしも違法性や問題性を自覚しているとは限りません。「本当のことを書いただけ」「個人の意見を言っただけ」と考えているケースも多いためです。

 まず説明すべきなのは、会社や上司を誹謗中傷する投稿は、会社の名誉や信用を毀損する可能性があるという点です。内容が真実かどうかにかかわらず、否定的な情報が拡散すれば、社内の雰囲気が悪化し、取引先や顧客、求職者に悪影響を与えるおそれがあります。これは会社経営に直接影響する問題です。

 また、労働契約上、社員には会社に不必要な損害を与えないよう配慮する義務があります。SNSでの誹謗中傷的な投稿は、この義務に反する行為と評価される可能性があります。特に、勤務時間中に投稿された場合は、内容にかかわらず、職務専念義務に違反する問題も生じます。

 重要なのは、「気持ちは分かるが、やってはいけない行為である」という線引きを明確に伝えることです。不満や意見を持つこと自体を否定する必要はありませんが、その表現方法としてSNSを選ぶことが許されない理由を、冷静に説明する必要があります。

 会社経営者としては、単に「ダメだ」と叱るのではなく、なぜ問題なのかを言語化して伝えることが重要です。この説明を尽くすことで、再発防止につながるだけでなく、後に懲戒処分などを検討する場合にも、会社としての対応の正当性を支えることになります。

6. 不満のはけ口をSNSに向けさせないための工夫

 社員がSNSで会社や上司を誹謗中傷する背景には、多くの場合、会社や上司に対する何らかの不満があります。軽い気持ちで投稿するケースもあれば、強い不信感や怒りを抱えて行うケースもありますが、いずれにしても「不満を表に出す適切な場所がない」ことが一因になっていることは少なくありません。

 会社経営者として重要なのは、「不満を持つこと自体」を問題視しないことです。不満や意見が生まれるのは自然なことであり、それを抑え込もうとすれば、かえって歪んだ形で噴き出します。問題なのは、その不満の表現方法として、SNSという不適切な手段が選ばれてしまう点です。

 そのため、会社としては、「不満があるときは、誰に、どのように伝えればよいのか」を明確に示しておく必要があります。上司への相談、人事への申し出、あるいは会社経営者自身が話を聞く窓口になるなど、自社の規模や体制に応じた相談ルートを用意し、社員に周知しておくことが有効です。

 特に中小規模の会社では、「何かあれば話を聞く」という姿勢を会社経営者が明確に示すだけでも、抑止効果は大きくなります。不満を正面から受け止めてもらえると分かれば、わざわざSNSで発信する必要性は低下します。

 会社経営者としては、SNS対策を「処罰の問題」としてだけ捉えるのではなく、社内コミュニケーションの設計という観点から考えることが重要です。不満を適切なルートで吸い上げる仕組みを整えることが、誹謗中傷の予防につながり、結果として会社を守ることになります。

7. 投稿者を特定できない場合の対応

 SNS上の誹謗中傷について、内容から「おそらくこの社員ではないか」と疑いは持てるものの、決定的に特定できないケースは少なくありません。投稿内容を知り得る社員が複数いる場合や、匿名アカウントで発信されている場合など、断定できない状況は現実に多くあります。

 このような場合でも、「特定できないから何もしない」という対応は避けるべきです。会社が問題として認識していない、あるいは本気で対応するつもりがないと受け取られれば、同様の投稿が繰り返されるおそれがあります。会社経営者としては、犯人特定と被害拡大防止を切り分けて考える必要があります。

 有効な対応の一つが、関与している可能性のある社員に対して面談を行うことです。必ずしも「あなたがやったのか」と断定的に問い詰める必要はありません。「会社として問題のある投稿が確認されており、調査している」という事実を伝えるだけでも、強い抑止効果があります。実務上、このような対応を行った結果、投稿が自発的に削除されるケースも珍しくありません。

 また、朝礼や社内通知などで、「会社や上司を誹謗中傷するSNS投稿は許されない」「問題となる投稿が確認されている」と注意喚起を行うことも、被害拡大防止という点では有効です。犯人が特定できなくても、会社としての姿勢を明確に示すことで、さらなる投稿を止める効果が期待できます。

 会社経営者として重要なのは、完璧な特定にこだわりすぎないことです。結果として誰が投稿したか分からなかったとしても、問題のある投稿が止まり、会社の名誉や信用への被害拡大を防げたのであれば、初動対応としては一定の成果があったといえます。まずは被害を止めるという視点を最優先に行動することが重要です。

8. 懲戒処分を検討する際の判断基準

 SNSでの誹謗中傷行為が確認された場合、会社経営者としては、懲戒処分を行うべきか、行うとすればどの程度の処分が相当かという判断を迫られます。この判断は非常に難しく、感情や印象だけで決めてしまうと、後に大きなリスクを抱えることになります。

 懲戒処分の前提として重要なのは、その投稿が会社の名誉・信用や企業秩序にどの程度の悪影響を与えたのかという点です。投稿内容が虚偽で悪質なものであればあるほど、また拡散の範囲が広ければ広いほど、重い処分が検討対象となります。一方で、限定的な表現や影響が軽微な場合には、厳重注意など比較的軽い対応が相当とされることもあります。

 また、投稿の経緯や態様も重要な判断要素です。感情的に一時的な不満を吐露したものなのか、継続的・執拗に会社や上司を攻撃していたのかによって、評価は大きく変わります。過去に同様の注意や処分を受けているにもかかわらず繰り返した場合には、処分を重くする方向で考えざるを得ません。

 懲戒処分を行う際には、就業規則の定めとの整合性も不可欠です。SNS投稿に関する規律や、名誉・信用を害する行為についての懲戒事由が、就業規則上どのように定められているかを必ず確認する必要があります。ルールを超えた処分は、内容が相当であっても無効と判断されるリスクがあります。

 会社経営者としては、「腹立たしいから厳しく処分する」のではなく、行為の内容と影響に見合った、客観的に合理的な処分かどうかを冷静に見極めることが求められます。判断に迷う場合には、弁護士に相談しながら処分の重さを検討することが、結果的に会社を守る対応となります。

9. 損害賠償請求の可否と現実的な限界

 SNSでの誹謗中傷について相談を受ける中で、「会社として損害賠償請求はできないのか」という質問は非常に多くあります。確かに、投稿内容や影響の程度によっては、損害賠償請求を検討すべき場面もありますが、会社経営者としては、その現実的な限界も理解しておく必要があります。

 法的には、SNS上の投稿が会社や上司の名誉・信用を侵害すると評価されれば、不法行為として損害賠償請求が認められる可能性があります。ただし、その前提として、投稿内容が社会的評価を低下させるものであることや、違法性が否定されないことなど、いくつものハードルをクリアしなければなりません。

 また、仮に裁判で一定額の賠償が認められたとしても、会社が実際に被った損害を完全に回復できるケースは多くありません。SNSで低下した信用や評判を、金銭で元通りにすることは困難です。時間やコストをかけて裁判を行った結果、得られるものが限定的であることも珍しくありません。

 さらに注意すべきなのは、安易に訴訟を起こすことで、かえって注目を集め、誹謗中傷の内容が再拡散してしまうリスクです。裁判で請求が棄却されれば、「会社が負けた」という印象が広がり、名誉や信用をさらに害する結果にもなりかねません。

 会社経営者としては、損害賠償請求を「感情のはけ口」として選ぶのではなく、抑止効果や経営への影響まで含めて冷静に判断することが重要です。多くのケースでは、早期に投稿を止めさせ、再発防止策を講じることの方が、実務的にも経営的にも合理的な対応となります。

10. 名誉毀損・信用毀損の法的評価の基本

 SNS上の投稿について、懲戒処分や損害賠償請求を検討する際には、その内容が法的に名誉毀損や信用毀損に当たるのかを冷静に整理する必要があります。感覚的に「ひどい」「許せない」と感じる内容であっても、直ちに違法と評価されるわけではありません。

 名誉毀損や信用毀損に当たるかどうかは、その投稿が、会社や上司の社会的評価を低下させるものかどうかという観点から判断されます。この判断は、特別な知識を持つ人の見方ではなく、一般の人が通常の注意力で読んだ場合にどう受け取るかを基準として行われます。「よく読めば誤解だと分かる」という程度では、違法性が否定されないこともあります。

 また、事実の指摘なのか、意見や論評なのかによっても評価は変わります。事実を摘示する投稿の場合、その事実が真実であるか、あるいは真実と信じるについて相当な理由があるかが問題となります。意見や論評の場合でも、前提となる事実が主要な点において真実であるか、表現が人身攻撃に及んでいないかといった点が検討されます。

 重要なのは、違法性の判断が非常に複雑で、個別事情に大きく左右されるという点です。「誹謗中傷だと思うから訴える」という単純な発想で進めると、想定外の結論に至るリスクがあります。

 会社経営者としては、法的評価を正確に見極めた上で対応を決める姿勢が不可欠です。名誉毀損や信用毀損に当たるかどうかの判断に迷う場合には、早い段階で弁護士に相談し、無用なリスクを負わない形で方針を定めることが、結果として会社を守ることにつながります。

11. 日常的なルール整備と教育による予防の重要性

 SNSでの誹謗中傷問題について、会社経営者が最も力を入れるべきなのは、実は事後対応ではなく予防です。どれだけ迅速かつ適切に対応したとしても、いったん拡散してしまった情報によるダメージを完全に回復することは困難です。そのため、日常的なルール整備と教育によって、問題行為そのものを起こさせない環境を作ることが極めて重要になります。

 まず基本となるのが、就業規則や社内ガイドラインへの明確な位置づけです。SNS上で会社や上司、同僚を誹謗中傷する行為は許されないこと、名誉・信用を害する投稿は懲戒の対象となり得ることを、明確な言葉で定めておく必要があります。これは後に処分を行うためだけでなく、社員に「何がダメなのか」を事前に理解させるためのものです。

 しかし、ルールを作るだけでは十分ではありません。重要なのは、日常的にその内容を伝え続けることです。研修やミーティングの場で繰り返し注意喚起を行い、「SNSは気軽に使えるが、社員としての立場を忘れてはいけない」という意識を浸透させることが抑止力になります。多くの問題投稿は、強い悪意よりも「うっかり」や「軽い気持ち」から生じているため、教育の効果は決して小さくありません。

 また、会社としてSNS問題に真剣に向き合っている姿勢を示すこと自体が、予防策となります。「問題があれば会社はきちんと動く」という認識が共有されていれば、安易な投稿は減っていきます。

 会社経営者としては、SNS対策を一過性のトラブル対応として終わらせるのではなく、企業文化や組織運営の一部として位置づけることが求められます。日常的なルール整備と教育こそが、会社の名誉と信用を守る最も確実な方法であり、長期的に見て経営リスクを最小化する取り組みだといえるでしょう。

 

最終更新日2026/2/13


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