労働時間

労働時間とは

 労働時間とは,労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間をいい(労基法32条),労働時間に該当するか否かは,労働者の行為が使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができるか否かにより客観的に定まるものであって,労働契約,就業規則,労働協約等の定めの如何により決定されるべきものではありません。

 労働者が,就業を命じられた業務の準備行為等を事業所内において行うことを使用者から義務付けられ,又はこれを余儀なくされたときは,当該行為を所定労働時間外において行うものとされている場合であっても,当該行為は,特段の事情のない限り,使用者の指揮命令下に置かれたものと評価することができ,当該行為に要した時間は,それが社会通念上必要と認められるものである限り,労働基準法上の労働時間に該当します。

労働時間数の認定

 労働時間数は原則として,「一日の労働時間の開始時刻から終了時刻までの拘束時間-休憩時間」で,一日ごとに認定されることになります。

 タイムカード,ICカード等の客観的な記録がある場合は,原則としてタイムカード,ICカード等の客観的な記録を基礎として,一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間が認定されます。自己申告制を採用し,日報等が存在する場合も,原則として日報等を基礎として一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間が認定されることになります。

 ただし,タイムカード,ICカード等の客観的な記録や,自己申告の内容が,実際の一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間と大きく乖離している場合には,これらを基礎として一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間を認定することはできません。必要に応じて実態調査を実施し,所要の労働時間の補正をするなどして,適正に実際の一日の労働時間の開始時刻・終了時刻・休憩時間を管理する必要があります。

 タイムカード,ICカード等の客観的な記録も,自己申告された日報等も存在しない場合については,日記等により一応の労働時間の立証がなされたのに対し会社側が有効な反証ができないと,日記等の証明力の低い証拠だけで労働時間が認定されることがあります。労働時間を水増しした残業代請求がなされても反論できるよう,タイムカード,ICカード等の客観的な記録や日報等を基礎として,労働時間を管理しておくようにしましょう。

通勤時間・直行直帰の移動時間の労働時間性

1.通勤時間

 通勤は,労働者が,労働力を使用者のもとへ持参するための債務の履行の準備行為であって,使用者の指揮命令下に入っていない労務提供以前の段階に過ぎないことから,通勤時間は労働時間に該当しません。

 高栄建設事件(東京地裁平10.11.16判決)では,労働者が会社の提供するバスに乗って寮と就業場所を往復していた時間について,「寮から各工事現場までの往復の時間はいわゆる通勤の延長ないしは拘束時間中の自由時間ともいうべきものである以上,これについては原則として賃金を発生させる労働時間にあたらないものというべきである」と述べており,単に通勤方法について一定の拘束を受けていたというだけでは,使用者の指揮命令下におかれているとは認めていません。

 このように,通勤時間の性質,使用者の指揮命令,労働者に対する拘束の程度のいずれの点からも,通勤時間は,原則として労働時間には該当しないということになります。

 

2.直行・直帰の移動時間

 直行・直帰とは,いったん会社に出勤し,そこから使用者の業務命令により作業現場や得意先などの目的地に移動すべきところを,会社を経由することによる無駄を省くため,直接自宅から目的地に移動し,また,目的地から直接自宅に移動することをいいます。

 実際の労務提供は目的地で開始されるものであり,目的地までの移動は準備行為と考えることができ,且つ,労働者は移動時間中の過ごし方を自由に決めることができることから,使用者の指揮命令が全く及んでいない状態にあるため,原則として労働時間性は認められません。

手待ち時間の労働時間性

 休憩時間とは,使用者の指揮監督から離脱し,労働者が自由に利用できる時間をいいます。一方,手待時間は,使用者の指示があれば直ちに作業をしなければならず,使用者の指揮監督下に置かれている時間といえますので,手待時間は労働時間に該当します。労基法でも,作業時間と手待時間が交互に繰り返される断続的労働について,労働時間規制の例外としていますので,手待時間も労働時間に含まれることを前提としているのは明らかです。

 休憩時間と手待時間の区別については,場所的拘束の有無や程度,使用者の指揮命令の具体的内容,実作業の必要性から生じる頻度や実作業に要する時間等の判断要素を踏まえて,個別具体的に判断していくことになります。

緊急対応のための待機時間の労働時間性

 緊急対応のための待機時間は,それが使用者の指揮命令下に置かれているか否かにより,労働時間に該当するか否かを判断することになります。

 大星ビル管理事件(最高裁一小平14.2.28判決)では,「本件仮眠時間中,労働契約に基づく義務として,仮眠室における待機と警報や電話等に対して直ちに相当の対応をすることを義務付けられている」こと,「(作業)の必要が生じることが皆無に等しいなど実質的に上記のような義務付けがされていないと認めることができるような事情も存しない」ことから,仮眠時間を労働時間と認めています。

 一方,大道工業事件(東京地裁平20.3.27判決)では,ガス管からガスが漏出した際に復旧工事を担当する会社が,修理依頼がある場合に備えて雇用する労働者に対し,シフト制により工事対応を義務付けていたところ,シフト担当の労働時間制が争われ,シフト担当時間に比較して実稼働時間が極めて少なかったこと,労働者はシフト担当時間に寮の自室でテレビを見たりパソコンを操作したりするなどし,外出の規制もなかったことなどの事実を認め,「原告ら従業員は高度に労働から解放されていたとみるのが相当である」と判示し,労働時間性が否定されています。

 自宅での待機時間については,待機場所が自宅であることからすれば,待機中も制服の着用を求めたり,仮眠を禁止したりするなど,待機中の過ごし方を強く拘束されている場合や,頻繁に緊急対応しなければならないような場合でなければ,労働時間には該当しないと考えます。

研修や勉強会の時間の労働時間性

 就業規則や労働契約において,就業時間外に行われる研修,講習,自主活動等の時間について,残業代を支払う旨定められているなどして,残業代を支払うことが労働契約の内容となっている場合には,当然,残業代を支払う必要があります。

 このような定めでが無い場合でも,
①使用者が研修への参加を義務付ける場合
②使用者が参加を義務付けないとしても不参加の場合に賃金や人事考課等で不利益を受けたりする場合
③使用者の義務付けや不利益を受けることがなくても研修の内容が業務と密接な場合
④研修を受けないと業務に支障が生じる場合
には,参加を余儀なくされたと評価されるため,使用者の指揮命令下に置かれているものと評価することができ,研修の時間を労働時間として取り扱わなければならないと考えます。

 純然たる自由参加で,社員が参加しなくても何の不利益も課されず,業務に具体的な支障が生じないような場合は,研修等に要した時間は労働時間には該当しません。

健康診断の労働時間性

 通達では,一般健康診断に関し,「健康診断の受診に要した時間についての賃金の支払については,労働者一般に対して行われるいわゆる一般健康診断は,一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり,業務遂行との関連において行われるものではないので,その受診のために要した時間については,当然には事業者の負担すべきものではなく,労使協議して定めるべきものであるが,労働者の健康の確保は,事業の円滑な運営の不可欠な条件であることを考えると,その受診に要した時間の賃金を事業者が支払うことが望ましい」としています。

 同通達は,一般健康診断は,労働者の一般的な健康の確保をはかることを目的として事業者にその実施義務を課したものであり,業務遂行との関連において行われるものではないため,一般健康診断を受診しなくても本人の業務に具体的な支障が生じないことから,実質的に受診の義務付けがないものとして,その受診に要した時間の賃金を使用者が「当然には」負担する義務がないとしているものと考えられ,一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間には該当しないという理解を前提としているものと考えられます。同通達の理解を前提とすれば,一般健康診断に要する時間を労基法上の労働時間と考える必要はないことになります。

 もっとも,懲戒処分の威嚇の下,業務命令により一般健康診断の受診を命じたような場合は,労働者が一般健康診断の受診を使用者から義務付けられたと言わざるを得ず,労基法上の労働時間に該当するとも考えられます。

 一般健康診断に要する時間が労基法上の労働時間に該当するかどうかは,事案ごとに判断していくほかないものと思われます。

 なお,労働者が,使用者が行う健康診断の受診を希望せず,他の医師等の行う健康診断を受診した場合は,労働者は使用者の指揮監督下に置かれていないのが通常ですので,その受診時間は労基法上の労働時間には該当しないものと考えます。

喫煙時間の労働時間性

 仕事の合間に喫煙をしていたとしても,まとまった時間,仕事から離脱したような場合でない限り,所定の休憩時間を超えて労働時間から差し引いてもらえないのが通常です。

 仮に,喫煙時間を休憩時間と考えた場合は,喫煙者は,使用者の指揮命令下から完全に解放されたことになり,使用者は,喫煙中の労働者に業務上の指示が行えなくなり,労務管理上の支障が大きくなります。

 喫煙時間の管理として,例えば,喫煙に立つ際は必ずその旨及び行き先を明示することを労働者に義務付けたり,1日当たりの回数や時間の上限を定め,これに大きく逸脱した場合には,職務専念義務違反として注意指導や懲戒処分などのペナルティを課すなど,喫煙のルールを設定することが考えられます。

接待ゴルフの労働時間性

 日本では,ゴルフを通じた社交が企業文化として根付いているため,使用者が労働者に対してゴルフ代や旅費を負担し,参加を奨励することが多く行われています。

 もっとも,接待ゴルフといっても主な目的はゴルフのプレーであることから,仮に,使用者から参加を義務付けられていたり,会社が費用を負担していたとしても,プレー中に労働者が使用者の指揮命令下に置かれているとはいえません。ゴルフのプレー中に具体的な商談が予定されていて特定の労働者が必ず参加しなければいけないような場合でない限り,接待ゴルフの時間は労働時間に該当しないものと考えます。

2暦日にわたって残業した場合

1 通常の労働日に2暦日にわたって残業した場合

 通常の労働日に2暦日にわたって残業した場合,午前0時をもって労働時間を分断するのではなく,前日の労働として通算するのが適当と考えます。

 例えば,A社(所定労働時間8時間,始業時刻午前11時,終業時刻午後8時,休憩1時間)において,午前11時から翌午前6時まで働いた場合の時間外労働時間は10時間(拘束時間19時間(午前11時~翌午前6時)-所定労働時間8時間-休憩1時間),深夜労働時間は7時間(午後10時~翌午前5時)になります。

 では,A社で午前11時~翌午後2時まで働いた場合の時間外労働時間はどのように計算するのかというと,残業が翌日の始業時刻まで及んだ場合,翌日の始業時刻以降は通常の賃金を支払うことで足りるため,1日目の時間外労働時間は午前11時~翌午前11時として計算します。この場合の時間外労働時間は15時間(拘束時間24時間(午前11時~翌午前11時)-所定労働時間8時間-休憩1時間),深夜労働時間は7時間(午後10時~翌午前5時)になります。そして,翌午前11時~翌午後2時の労働時間は,翌日の通常の労働時間として扱います。

 

2 翌日が法定休日の通常の労働日に2暦日にわたって残業した場合

 労基法上の「休日」とは暦日を指し,午前0時から午後12時までをいいます。

 したがって,法定休日の前日の勤務が延長され,午前0時を過ぎて労働した場合,午前0時以降の労働は,法定休日労働として扱うことになります。

 たとえば上記A社で午前11時~翌午前6時まで働いた場合,前日の時間外労働時間は4時間(拘束時間13時間(午前11時~午後12時(午前0時))-所定労働時間8時間-休憩1時間)となり,前日の深夜時間外労働時間は2時間(午後10時~午後12時)となります。そして午前0時以降は,法定休日労働時間6時間(午前0時~午前6時),深夜労働時間5時間(午前0時~午前5時)となります。

 

3 法定休日に2暦日にわたって残業した場合

  たとえば上記A社で,法定休日に午後9時~翌午前7時まで働いた場合(休憩は午前1時~2時までの1時間),休日労働時間は午後9時~午後12時(午前0時)の3時間となり,深夜労働時間は6時間((午後10時~翌午前5時)-休憩1時間)となります。そして,午前6時以降は勤務時間が所定労働時間の8時間を超えるため,午前6時~午前7時の1時間は時間外労働時間となります。

Return to Top ▲Return to Top ▲