未払残業代(割増賃金)の算定

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未払残業代の算定式

 未払残業代の算定式は、次のとおりです。
  未払残業代=①残業代額-②賃金支払日に支払った残業代額+③遅延損害金-④賃金支払日後に支払った残業代額

①残業代(労基法37条の時間外・休日・深夜割増賃金)の算定式

 残業代(労基法37条の時間外・休日・深夜割増賃金)の算定式は、次のとおりです。
  労基法施行規則19条1項各号に定める通常の賃金の時間単価×時間外・休日・深夜労働時間数×割増率
 実務上は、次のとおり、時間外・休日・深夜割増賃金の時間単価を計算してから、これに時間外・休日・深夜労働時間数を乗じて残業代を算定するのが通常です。
  ① 労基法施行規則19条1項各号に定める通常の賃金の時間単価を計算(円未満四捨五入)
  ② 通常の賃金の時間単価に割増率を乗じて残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の時間単価を計算(円未満四捨五入)
  ③ 残業代(時間外・休日・深夜割増賃金)の時間単価に時間外・休日・深夜労働時間数を乗じて時間外・休日・深夜割増賃金を計算

【昭和63年3月14日基発150号】
 次の方法は、常に労働者の不利となるものではなく、事務簡便を目的としたものと認められるから、法第24条及び第37条違反としては取り扱わない。
 (一) (省略)
 (二) 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。
 (三) 1か月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額1円未満の端数が生じた場合、(二)と同様に処理すること。

【きょうとソフト(判タ1436号17頁)】
 「賃金単価は小数点以下を四捨五入することとしている。」
 「割増賃金の計算については、賃金単価は整数値で入力し、各区分の割増賃金を計算する段階で小数点以下を四捨五入することとしている。」
 「歩合給の割増賃金の計算については、歩合給月額を総労働時間で除した賃金単価を計算する段階で小数点以下を四捨五入し、さらに各区分の割増賃金を計算する段階でも小数点以下を四捨五入することとしている。」

通常の賃金の時間単価

1 通常の賃金の時間単価の計算方法(労基法施行規則19条)
 通常の賃金の時間単価の計算方法は次のとおりです。「固定給」「歩合給」といった大雑把な分類で考えるのではなく、それが「時間によって定められた賃金」なのか、「日によって定められた賃金」なのか、「月によって定められた賃金」なのか、「出来高払制その他の請負制によって定められた賃金」なのかを明確に区別して計算することが重要です。

(1) 時間によって定められた賃金
 時給が、通常の賃金の時間単価となります。
 時給1000円であれば、通常の賃金の時間単価は1000円/時となります。

(2) 日によって定められた賃金
 所定労働時間数が日によって異ならない場合、日給を一日の所定労働時間数で除した金額が、通常の賃金の時間単価となります。
 日給1万円で一日の所定労働時間数が8時間であれば、通常の賃金の時間単価は1万円÷8時間=1250円/時となります。

(3) 月によって定められた賃金
 月によって所定労働時間数が異なる場合、月給を一月平均所定労働時間数で除した金額が、通常の賃金の時間単価となります。
 月給が24万円で一月平均所定労働時間数が160時間であれば、通常の賃金の時間単価は24万円÷160時間=1500円/時となります。

(4) 出来高払制その他の請負制によって定められた賃金
 その賃金計算期間における歩合給額を総労働時間で除した金額が、通常の賃金の時間単価となります。
 歩合給が10万円で総労働時間数が200時間の場合、通常の賃金の時間単価は10万円÷200時間=500円/時となります。

(5) 定め方が異なる賃金が複数ある場合
 それぞれ算定した金額の合計額が、通常の賃金の時間単価となります。
 日によって定められた賃金の時間単価が1250円/時で月によって定められた賃金の時間単価が250円/時であれば、通常の賃金の時間単価は1250円/時+250円/時=1500円/時となります。
 ただし、歩合給に関する時間外・休日割増賃金は、時給・日給・月給等の場合と異なり、割増部分(25%部分等)のみを支払うものであること等から、時給・日給・月給等とは別枠で通常の賃金を計算するのが一般的です。

2 除外賃金
 原則として全ての賃金が残業代(労基法37条の定める割増賃金)計算の基礎となりますが、次の(1)除外賃金、(2)残業代は例外的に残業代計算の基礎から除外されます。

(1) 労基法37条5項・労基法施行規則21条で限定列挙されている家族手当、通勤手当、別居手当、子女教育手当、住宅手当、臨時に支払われた賃金、1か月を超える期間ごとに支払われる賃金等の労働の内容や量と無関係な労働者の個人的事情で変わってくる賃金手当(除外賃金)
 (1)除外賃金に該当するかは、名目のみにとらわれず、その実質に着目して判断されます(昭和22年9月13日発基17号)。名称が「家族手当」「通勤手当」「住宅手当」といった名目で支給されていたとしても、除外賃金に当たるとは限りません。
 除外賃金としての性質を有する「家族手当」とは、「扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出する手当」のことをいい、たとえその名称が物価手当、生活手当等であっても「扶養家族数又はこれを基礎とする家族手当額を基準として算出する手当」であれば「家族手当」として取り扱われます。他方で、「家族手当」という名称であっても扶養家族数に関係なく一律に支給される手当や一家を扶養する者に対し基本給に応じて支払われる手当等は除外賃金としての性質を有する「家族手当」とは認められず、残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に入れるべきこととなります。
 除外賃金としての性質を有する「通勤手当」とは、「労働者の通勤距離又は通勤に要する実際費用に応じて算定される手当」をいい、通勤に必要な実費に対応して支給される通勤手当であれば除外賃金に該当しますが、通勤距離や通勤に要する実費とは関係なく一律に支給される通勤手当等は、除外賃金には該当せず、残業代(割増賃金)の基礎となる賃金に算入することになります。
 除外賃金としての性質を有する「住宅手当」とは、住宅に要する費用に応じて算定される手当のことをいいます。したがって、全社員に一律に定額で支給することとされているようなものは、除外賃金としての性質を有する「住宅手当」には該当せず、残業代(割増賃金)計算の基礎賃金に入れるべきこととなります。
 労基法で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約はその部分については無効となり、無効となった部分は労基法で定める基準によることになりますので(労基法13条)、除外賃金に当たらない手当が存在するにもかかわらず、労働契約書で基本給のみを残業代(割増賃金)算定の基礎賃金とする旨定めて合意するなどしても当該合意は無効となり、基本給以外の除外賃金に当たらない手当についても残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に加える必要があります。
 労基法違反の就業規則はその部分に関しては労働契約の内容とはならず(労契法13条)労基法が適用されますので、除外賃金に当たらない手当が存在するにもかかわらず、賃金規程で基本給のみを残業代(割増賃金)算定の基礎賃金とする旨定めて周知させるなどしても当該規定は労働契約の内容とはならず、基本給以外の除外賃金に当たらない手当についても残業代(割増賃金)算定の基礎賃金に加える必要があることになります。

【小里機材事件東京高裁昭和60年11月30日判決(上告棄却)】
 「右の割増賃金の目的は、労基法が規定する労働時間及び週休制の原則を定めた趣旨を維持し、同時に、過重な労働に対する労働者への補償を行わせようとするところにあるのであるから、右の6項目の除外賃金は制限的に列挙されているものと解するのが相当であり(もとより、実際に支払われる賃金がこれらに当たるか否かは、名目のみにとらわれず、その実質に着目して判断すべきである。)…記載の被告の主張は採用の限りではない。」

(2) 残業代
 残業代として基礎賃金から除外されるかについても、名目のみにとらわれず、その実質に着目して判断すべきと考えるのが素直であり、残業代として基礎賃金から除外されるためには、残業代としての実質を有している必要があります。残業代の名目で、あるいは賃金規程等で残業代の趣旨で支給する旨規定した上で賃金を支払ったとしても、残業代としての実質を有していなければ、残業代として基礎賃金から除外されませんが、このことは、残業代として基礎賃金から除外されるかどうかと残業代の名目が関係ないということを意味するわけではありません。「営業手当」等、その名目から残業代とは推認できないものについては、賃金規程に当該手当が残業代である旨明記して周知させたり労働契約書にその旨明示して合意したりしておかなければ残業代として基礎賃金から除外されないのが通常ですし、残業代の実質を有しないと判断されるリスクが高くなりやすいので、残業代の名目は「時間外勤務手当」等、名称自体から残業代であることを推認させる名目とすることが望ましいところです。
 労基法37条の定める割増賃金として残業代計算の基礎賃金から除外されるためには、通常の賃金に当たる部分と労基法37条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができることが必要です。

【名古屋地裁平成28年3月30日判決】
 「(2) 基礎賃金から除外される賃金(以下「除外賃金」という。)は、労基法37条5項、労基則21条各号に限定列挙されており、除外賃金に該当するか否かは、名称にかかわらず、実質的に判断すべきところ、長距離手当は、上記限定された除外賃金に当たらない。
 しかし、上記(1)のとおり、労基法所定の計算方法による割増賃金に代えて、一定額の手当を支払ったり、労基法と異なる計算方法による手当を支払ったりすることも、同法所定の割増賃金を下回らない限りは適法であるから、長距離手当が、労基法で支払うべきと規定された割増賃金と同じ性質をもつといえれば、長距離手当は基礎賃金から除外された上、同手当の支払をもって割増賃金の弁済として有効となる(仮に、これを基礎賃金に算入すると、「割増の割増」を認めることとなり、相当でない。)
 (3) そこで検討するに、長距離手当が、労基法で支払うべきと規定された割増賃金と同じ性質をもつといえるためには、① 当該手当(長距離手当)が割増賃金としての実質を有すること、② 当該手当(長距離手当)内に割増賃金としての実質を有する部分とそれ以外の部分(通常の労働時間の賃金に当たる部分)が混在する場合には、割増賃金としての実質を有する部分と、それ以外の部分とを判別でき、労働者において割増賃金として支払われる額が労基法所定の割増賃金の額を下回らないかを判断しうることという要件を満たす必要がある。」

【国際自動車事件最高裁平成29年2月28日判決】
 「そして、使用者が、労働者に対し、時間外労働等の対価として労働基準法37条の定める割増賃金を支払ったとすることができるか否かを判断するには、労働契約における賃金の定めにつき、それが通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とに判別することができるか否かを検討した上で、そのような判別をすることができる場合に、割増賃金として支払われた金額が、通常の労働時間の賃金に相当する部分の金額を基礎として、労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回らないか否かを検討すべきであり(最高裁平成3年(オ)第63号同6年6月13日第二小法廷判決・裁判集民事172号673頁、最高裁平成21年(受)第1186号同24年3月8日第一小法廷判決・裁判集民事240号121頁参照)、上記割増賃金として支払われた金額が労働基準法37条等に定められた方法により算定した割増賃金の額を下回るときは、使用者がその差額を労働者に支払う義務を負うというべきである。」

残業代(労基法37条の時間外・休日・深夜割増賃金)の時間単価

1 時間外割増賃金
(1) 原則
 割増率は25%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば、時間外割増賃金の時間単価は、次のとおりとなります。
  1500円/時×1.25=1875円/時
 ただし、歩合給については、割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため、歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば、歩合給に関する時間外割増賃金の時間単価は、次のとおりとなります。
  500円/時×0.25=125円/時
(2) 60時間を超える時間外労働時間(中小企業は2023年4月施行)
 割増率は50%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば、時間外割増賃金の時間単価は、次のとおりとなります。
  1500円/時×1.5=2250円/時
 ただし、歩合給については、割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため、歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば、歩合給に関する時間外割増賃金の時間単価は、次のとおりとなります。
  500円/時×0.5=250円/時

2 休日割増賃金
 割増率は35%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば、休日割増賃金の時間単価は、次のとおりとなります。
  1500円/時×1.35=2025円/時
 ただし、歩合給については、割増部分のみが割増賃金の時間単価となるため、歩合給に関する通常の賃金の時間単価が500円/時であれば、歩合給に関する休日割増賃金の時間単価は、次のとおりとなります。
  500円/時×0.35=175円/時

3 深夜割増賃金
 割増率は25%
 通常の賃金の時間単価が1500円/時であれば、深夜割増賃金の時間単価は、次のとおりとなります。
  1500円/時×0.25=375円/時

4 労基法を超える割増率
 労基法を超える割増率が就業規則等で定められている場合には、その割増率のとおり算定します。

残業時間数(時間外・休日・深夜労働・法内残業時間数)

1 時間外労働時間数
(1) 原則
 時間外労働時間とは、労基法32条の規制を超えて労働させた時間のことをいい、週40時間、1日8時間を超えて労働させた時間は、原則として時間外労働時間に該当します。
 1日8時間超の時間外労働時間としてカウントした時間については、週40時間超の時間外労働時間には重複してカウントしません。
 例えば、日曜日が法定休日の事業場において、月曜日~土曜日に9時間ずつ労働させた場合、月~木に9時間×4日=36時間労働させているから金曜日に4時間を超えて労働した時間から週40時間超の時間外労働になると考えるのではなく、月~金に1時間×5日=5時間の時間外労働のほか8時間×5日=40時間労働させているから土曜日の勤務を開始した時点から週40時間超の時間外労働となると考えることになります。
 日曜日 法定休日
 月曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 火曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 水曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 木曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 金曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 土曜日 9時間(時間外労働9時間)←週40時間超
(2) 特例措置対象事業場
 ① 物品の販売、配給、保管若しくは賃貸又は理容の事業
 ② 映画の映写、演劇その他興行の事業
 ③ 病者又は虚弱者の治療、看護その他保健衛生の事業
 ④ 旅館、料理店、飲食店、接客業又は娯楽場の事業
のうち、常時10人未満の労働者を使用するもの(特例措置対象事業場)については、1週間については44時間、1日については8時間まで労働させることができます。特例措置対象事業場についても1日8時間を超えて労働させた場合には時間外労働となりますが、1週間については44時間を超えて労働させて初めて時間外労働となります。
 例えば、日曜日を法定休日として月~土に1日9時間ずつ労働させた場合、土曜日に4時間を超えて労働し始めた時点から週44時間超の時間外労働時間となります。
 日曜日 法定休日
 月曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 火曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 水曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 木曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 金曜日 9時間(時間外労働1時間)←1日8時間超
 土曜日 9時間(時間外労働5時間)←週44時間超

2 休日労働時間数
 休日労働時間とは、労基法35条の法定休日(原則として1週1休以上)に労働させた時間をいいます。
 日曜日が法定休日の場合、法定休日ではない土曜日や祝祭日に労働させても、ここでいう休日労働には該当しません(週40時間を超えて労働させれば、時間外労働に該当します。)。

3 深夜労働時間数
 深夜労働とは、深夜(22時~5時)に労働させた時間をいいます。

4 法内残業時間数
 所定労働時間を超えて労働させた時間のうち、時間外労働ではない労働時間をいいます。例えば、所定労働時間7時間の会社において、1日7時間を超えて8時間労働した場合の1時間がこれに当たります。
 法内残業時間は、労基法37条の規制対象外ですが、就業規則等に別段の定めがない場合、労働契約上、割増ししない通常の時間単価の賃金を支払う義務があると解釈されるのが通常です。

【大星ビル管理事件最高裁平成14年2月28日第一小法廷判決】
 「労働契約は労働者の労務提供と使用者の賃金支払に基礎を置く有償双務契約であり、労働と賃金の対価関係は労働契約の本質的部分を構成しているというべきであるから、労働契約の合理的解釈としては、労基法上の労働時間に該当すれば、通常は労働契約上の賃金支払の対象となる時間としているものと解するのが相当である。」

残業代の消滅時効期間

 残業代の消滅時効期間は、当面の間は3年(2020年3月31日までの給料日に支払われるべき残業代は2年)です。
 2022年3月31日までに残業代請求を受けた場合は、過去の残業代の消滅時効期間が2年であることを前提とした対応をすれば足りますが、2022年4月1日以降に残業代請求を受けた場合は、2020年4月1日以降の給料日に支払われるべき残業代の消滅時効期間は3年に延長されていることを理解した上で対応することが必要となります。
 消滅時効期間の起算点は、各賃金支払日の翌日です(「類型別 労働関係訴訟の実務 改訂版 Ⅰ」262頁参照)。
 消滅時効期間を経過している残業代については、消滅時効を援用します。消滅時効の援用が認められた残業代については、支払義務がなくなります。
 内容証明郵便等で残業代の支払を催告された場合、その時から6か月を経過するまでの間は、消滅時効の完成が猶予されます。残業代の支払を催告された場合であっても、催告から6か月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起等がなされなかった場合は、消滅時効完成猶予の効力が消失することになります。したがって、内容証明郵便等で残業代の支払を催告された場合、通常は催告から6か月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起等がなされることになります。仮に、催告から6か月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起等がなされなかった場合は、消滅時効が完成している残業代があるかもしれませんので、消滅時効の援用を検討して下さい。
 未払残業代の存在を承認した場合は、消滅時効の進行がリセットされます。消滅時効期間は、承認したときから3年(2020年3月31日までの給料日に支払われるべき残業代は2年)となります。どういった事情があれば、未払残業代の存在を承認したといえるかは問題となり得ます。事案ごとに丁寧に検討して下さい。
 従来は、残業代の消滅時効期間が2年、不法行為に基づく損害賠償請求権の消滅時効期間が3年だったことから、3年分の未払残業代相当額について不法行為に基づく損害賠償請求が行われることがありましたが、特別な事情がない限り請求が認められないこともあり、件数としてはそれほど多くはありませんでした。2020年4月1日以降の給料日に支払われるべき残業代の消滅時効期間が3年に延長されたのに伴い、不法行為に基づく損害賠償請求はさらに減ることが予想されます。

②賃金支払日における残業代の支払

 各賃金支払日に支払われた残業代は既払金として控除され、不足額がある場合に、不足額部分が各賃金支払日の時点の未払残業代となります。
 労基法37条の割増賃金が支払われたというためには、当該賃金が時間外労働等の対価として支払われたことが必要です。残業代として賃金を支払ったとしても、時間外労働等の対価として支払われたといえなければ、労基法37条の割増賃金が支払われたとは認められません。
 残業代の賃金項目は、「時間外勤務手当」等、名称自体から残業代であることが分かるものとすることをお勧めします。名称自体から残業代であることが分かるようにすることは、時間外労働等の対価として支払われた賃金と評価する方向に作用するプラスの考慮要素となります。もちろん、「営業手当」等、その名称自体からは残業代と分からない賃金項目だったとしても、賃金規程に当該手当が残業代である旨明記して周知させたり労働契約書にその旨明示して合意したりしておけば、残業代の支払として認めてもらえることもあります。しかし、他の事情が全く同じであれば、「時間外勤務手当」等、名称自体から残業代であることが分かる賃金項目とした方が、時間外労働等の対価として支払われた賃金と評価されやすくなります。
 労働基準法37条の割増賃金を支払ったとすることができるというためには、通常の労働時間の賃金に当たる部分と同条の定める割増賃金に当たる部分とを判別することができる必要があります。労基法37条の割増賃金を支払う際には、支払われた「金額」が何円なのか、一目見ただけで分かるようにしておいて下さい。
 時給制のパート・アルバイト等に関しては、時間外・休日・深夜労働の対価として時給が支払われており、未払となっているのは割増部分のみであることは珍しくありません。残業代のうち時給部分は支払済みでないかの確認をするようにして下さい。
 日給制のトラック運転手等に関しては、休日労働・週40時間超の時間外労働の対価(休日・時間外割増賃金)として日給が支払われていることが多いです。休日労働・週40時間超の時間外労働が行われた日の対価(休日・時間外割増賃金)として、日給が支払われていないかを確認して下さい。

③未払残業代の遅延損害金

 各賃金支払日の時点の未払残業代に関し、各賃金支払日の翌日から遅延損害金が発生します。利率は、株式会社、有限会社等の営利を目的とした法人は年6%、社会福祉法人、信用金庫等の営利を目的としない法人は年5%です。
 退職後の遅延損害金の利率は、年14.6%になる可能性があります。ただし、「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っていること。」等、賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条各号の事由に該当することを主張立証できた場合は、その事由の存する期間については、原則どおり年6%または年5%の利率が適用されます。
 退職後の遅延損害金の利率として年14.6%の割合による金員の請求を受けている場合で、未払残業代存在を争う合理的な理由があると考えられる場合等は、「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争っていること。」等の主張立証を忘れないようにして下さい。

付加金

 裁判所は、労基法37条の割増賃金を支払わなかった使用者に対して、労働者の請求により、未払割増賃金に加え、これと同一額の付加金の支払を判決で命じることができます。未払割増賃金と同額の付加金の支払が命じられることが多いですが、付加金の支払を命じるかどうか、付加金を減額するかどうかは、裁判所の裁量に委ねられていますので、付加金の支払を命じるのが相当でない事情があるのであれば、その事情を主張立証しておくようにしましょう。
 付加金の請求期間は、当分の間は3年(2020年3月31日までの給料日に支払われるべき残業代の付加金は2年)です。
 付加金の請求期間は除斥期間であって消滅時効期間ではないため、付加金を請求しようとする労働者は、内容証明郵便等で請求するだけでは足りず、期間内に労働審判を申し立てたり訴訟を提起したりする必要があります。
 労働審判委員会は「裁判所」ではありませんので、労働審判において付加金の支払が命じられる余地はありませんが、訴訟に移行した場合に備えて、除斥期間を遵守する目的で、労働審判手続申立書に付加金の支払を請求する旨記載されているのが通常です。
 訴訟において、事実審の口頭弁論終結時までに未払割増賃金全額を支払い、その旨の主張立証をした場合は、判決で付加金の支払を命じられることはありません(甲野堂薬局事件最高裁平成26年3月6日第一小法廷判決参照)。他方、事実審の口頭弁論終結「後」に未払割増賃金全額を支払ったというだけでは、判決で支払を命じられた付加金の支払義務を免れることはできません(損保ジャパン日本興亜(付加金支払請求異議)事件東京地裁平成28年10月14日判決参照)。
 第一審判決で付加金の支払を命じられた場合であっても、控訴して判決で支払を命じられた未払割増賃金全額を確定的に支払い、控訴審の口頭弁論終結時(多くの場合、第1回口頭弁論期日終結時)までにその旨主張立証すれば、控訴審判決が第一審判決より増額された未払割増賃金を認定しない限り、付加金の支払を回避することができます(控訴審判決が第一審判決より増額された未払割増賃金を認定した場合は、増額部分について付加金の支払を命じられる可能性はあります。)。

④賃金支払日後における残業代の支払

 係争中であっても、存在する蓋然性が高い未払残業代の額を給与振込先口座に振り込むなどして支払うことがあります。未払残業代の額が減れば、以後の遅延損害金の発生を防止することができますし、労基法37条の割増賃金の未払額が減れば、判決で支払を命じられる付加金の額を減らすことができます。
 特に、第一審判決で付加金の支払を命じられた場合は、付加金の支払を余儀なくされるリスクが高まっていると言わざるを得ません。付加金の支払義務を免れるため、控訴して判決で支払を命じられた未払割増賃金全額を確定的に支払い、控訴理由書にその旨を記載するとともに支払を立証する証拠を提出するなどの対応を検討するとよいでしょう(検討した結果、何を選択するかは別の話です。)。


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