労働審判手続の概要

労働審判制度の目的と特徴

 労働審判制度は,個別の労働関係の民事紛争を,裁判所において,原則として3回以内の期日で,迅速,適正かつ実効的に解決することを目的として設けられた制度で,平成18年4月に始まりました。
 労働審判手続とは,裁判官である労働審判官1名と,労働関係に関する専門的な知識経験を有する労働審判員2名で組織する労働審判委員会が,当事者の申立てにより事件を審理し,調停の成立による解決の見込みがある場合にはこれを試みつつ,当事者の権利関係を踏まえて事案の実情に即した解決をするために必要な労働審判を行うという制度です。つまり,個別労使紛争を,通常の民事裁判ではなく,労使の専門家と裁判官が一緒になって審理し,迅速で柔軟な解決をすることができるという司法制度ということです。

労働審判手続
参考元:裁判所ホームページ(http://www.courts.go.jp/saiban/wadai/2203/

労働審判手続の対象

 労働審判手続の対象となるのは,「個別労働関係民事紛争」です。したがって,集団的労使紛争,すなわち労働組合と使用者との間の紛争は対象となりません。
 募集及び採用に関する紛争は,労働契約成立前の段階ですから,労働契約上の地位を争う紛争は対象となりませんが,募集・採用をめぐる損害賠償請求は対象となります。ただし,男女雇用機会均等法違反や,不当労働行為を理由とする募集・採用差別については,法律の定めによると考えられますので,契約上の地位を争う紛争も対象になると考えます。
 また,対象は「民事紛争」でなければならないため,公務員の懲戒処分や配転に関する紛争・非常勤公務員の雇い止め等,公務員の任用関係については対象となりません。

労働審判事件の管轄

 労働審判事件の管轄は,次の①~③のいずれかです。
①相手方の住所,居所,営業所もしくは事務所の所在地を管轄する地方裁判所
②紛争が生じた労働者と事業主との間の労働関係に基づいて,当該労働者が現に就業し,もしくは最後に就業した当該事業主の事業所の所在地を管轄する地方裁判所
③当事者が合意で定める地方裁判所

 ①の「営業所」,「事務所」は,ある程度独立して業務が行われる場所を指します。一方,②の「事業所」は,①の「営業所」,「事業所」のように独立している必要は無く,現に就業していた場所であれば,支店登記がされていなかったり,他の営業所等の一画であっても良いと考えます。
 また,労働審判事件は,各地方裁判所の本庁で取扱うことになっていましたが,平成22年4月から,東京地方裁判所立川支部,福岡地方裁判所小倉支部でも取扱いが開始され,平成29年4月からは,長野地方裁判所松本支部,静岡地方裁判所浜松支部,広島地方裁判所福山支部でも取扱いが開始されることになりました。

労働審判事件の移送

 労働審判事件の移送は,管轄違いを理由とする移送と,裁量移送の2種類があります。

1 管轄違いを理由とする移送
 管轄ではない裁判所に労働審判手続の申立てがされたとしても,裁判所は,その申立てを却下することができません。このような場合,裁判所は,その申立てを管轄裁判所に移送することになります。

2 裁量移送
 管轄の裁判所に労働審判手続が申立てられ受理されたとしても,移送した方が当事者に便宜であったり,事件を処理するために適当と認められるときは,他の裁判所に事件を移送することができます。
 この「事件を処理するために適当と認められるとき」とは,事件の関係人の住所等の関係から,事件処理のために多くの時間と費用を要する場合などが考えられます。

労働審判員とは

 労働審判員は,労働関係に関する専門的な知識経験を有する者の中から,最高裁判所が任命します。この「労働関係に関する専門的な知識経験」とは,労働者又は使用者の立場で紛争の処理などに実際に携わった経験や,その経験を通じて身に付けた労働紛争についての実情や慣行,制度等の知識をいいます。
 労働審判員は,労働審判委員会の一員として,事件関係書類を閲覧し,労働審判手続の期日に出席し,当事者の話を聴き,争点整理や証拠調べを行い,調停成立による解決の見込みがある場合にはこれを試み,調停成立に至らない場合は労働審判を行うなど,労働審判事件の審理全般に関与します。

労働審判手続の流れ

 労働審判手続の全体像については,次の図が分かりやすいです。

労働審判手続の全体像
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引用元:裁判所ホームページの労働審判手続に関するページ

労働審判事件の審理の流れ

①第1回期日前
 労働審判申立書が会社に届いたら,有効な証拠を集め,答弁書を作成していきます。労働審判手続は,充実した答弁書を作成し,第1回期日に備えることが最も重要で,そのためには,法律知識や主張立証の技術が必要になってきますので,早い段階で,使用者側の労働専門の弁護士に依頼することをお勧めします。第1回期日は原則変更してもらえませんので,特定の弁護士に依頼する場合は,急いで弁護士のスケジュールを確保してもらう必要があります。
 また,労働審判期日では,緊張して事実を正確に伝えることができなりがちですので,事前に提出する答弁書に言いたいことをしっかり盛り込んでおき,言いたいことが言えないまま終わってしまうことがないようにしましょう。

②第1回期日
 労働審判期日は,当事者が本音を率直に話せるよう口頭で主張することが原則となっており,労働審判委員会から事実関係について質問されますので,期日当日は,問題となる事実関係について直接体験した人物が出頭する必要があります。
 第1回期日は,通常2時間程度かかり,争点及び証拠の整理,証拠調べを行います。
 なお,平成27年までの統計では,労働審判事件全体の約30%が,第1回期日で事実審理を終えており,第2回が開催されないことも珍しくありません。
 第2回期日を行うことになった場合には,当事者間で第2回期日に行う手続及び準備すべきことを確認し,準備に必要な期間を考慮した上で,第2回期日の日程調整を行います。

③第2回期日
 第2回期日では,第1回期日で,当事者間で第2回期日に行うこととして確認した証拠調べを実施することになります。
 また,労働審判委員会から調停案が提示された場合には検討し,直ちに結論が出ない場合は調停案を持ち帰り,第3回期日までに検討することになります。
 平成27年までの統計では,労働審判事件全体の約71%が,第2回期日以内に事実審理を終えています。

④第3回期日
 第3回期日では,労働審判委員会が今までの審理を基に調停成立による解決を試み,それが難しい場合には,審理を終結する宣言をし,労働審判を行います。

労働審判事件の新受件数

 平成24年~平成28年の全国の労働審判事件新受件数は次のとおりで,年間概ね3400件~3700件(東京は1000件~1100件)を推移しています。

平成24年 3719件(東京1053件)
平成25年 3678件(東京1046件)
平成26年 3416件(東京1053件)
平成27年 3679件(東京1129件)
平成28年 3414件(東京1035件)

労働審判事件の平均審理期間

 平成24年~平成28年の労働審判事件の審理期間は次のとおりで,平均審理期間は78.1日です。

1か月以内   510件   2.8%
2か月以内  5547件  31.0%
3か月以内  6449件  36.0%
6か月以内  5229件  29.2%
1年以内    175件   1.0%
1年を超える    5件   0.0%
合計    17915件 100.0%

労働審判事件の期日実施回数

 平成24年~平成28年の労働審判事件の期日実施回数は次のとおりで,全体の約72%が第2回期日までで事実審理を終えています。

0回    962件   5.4%
1回   4956件  27.7%
2回   6993件  39.0%
3回   4698件  26.2%
4回以上  306件   1.7%
合計  17915件 100.0%

労働審判手続での解決率

 平成24年~平成28年の労働審判手続での解決率は,次のとおりです。④取下げのケースには,手続外で和解が成立したため取り下げられたケースも含まれると考えられますので,全体の解決率は80%前後(①労働審判で意義が申し立てられなかったケース約7%+②調停成立約69.8%+取下げのうち手続外での和解4%前後=約80.8%)と思われます。

①労働審判   3042件  17.0%
(内,異議が申し立てられたケースが1781件,異議が申し立てられなかったケースが1261件。)
②調停成立  12499件  69.8%
③24条終了   794件   4.4%
④取下げ    1453件   8.1%
⑤却下・移送等  127件   0.7%
合計     17915件 100.0%

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