残業代の消滅時効・遅延損害金・付加金

残業代の消滅時効期間

 残業代の消滅時効期間は各給料日から2年です。
 給料日から2年を経過している残業代についてまで請求を受けた場合は,消滅時効の援用を検討します。内容証明郵便等で残業代の請求を受けた場合であっても,6か月以内に労働審判の申立てや訴訟の提起等がなされない場合は,内容証明郵便等による請求は時効中断の効力を生じませんので,6か月経過の有無を確認していくことになります。
 2年以上勤務していた労働者からの残業代請求においては,通常は,直近2年分の残業代について請求されます。理屈では,最後の給料日から2年間は残業代の請求を受けるリスクがあるのですが,実際には退職してから間もない時期に残業代請求がなされる事案がほとんどです。退職後数か月経過してから突然,残業代請求がなされることもありますが,退職後1年以上経過してから残業代請求がなされることは滅多にありません。

遅延損害金の利率

(1) 株式会社,有限会社等の営利を目的とした法人
 賃金支払日の翌日から年6%。

(2) 社会福祉法人,信用金庫等の営利を目的としない法人
 賃金支払日の翌日から年5%。

(3) 退職後の期間の遅延損害金
 退職後の遅延損害金の利率は,年14.6%(民法419条1項・賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・同施行令1条)という高い利率になる可能性があります。
 ただし,「支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し,合理的な理由により,裁判所又は労働委員会で争っていること。」(賃金の支払の確保等に関する法律施行規則6条4号)等の厚生労働省令で定める事由に該当することを主張立証できた場合には,その事由の存する期間については賃金の支払の確保等に関する法律6条1項・同施行令1条の適用はなく(賃金の支払の確保等に関する法律6条2項),原則どおり,年6%とか年5%の利率が適用されます。

残業代請求訴訟における付加金請求

 使用者が,
 ① 解雇予告手当(労基法20条)
 ② 休業手当(労基法26条)
 ③ 残業代(割増賃金)(労基法37条)
 ④ 年次有給休暇取得時の賃金(労基法39条7項)
のいずれかの支払を怠り,労働者から訴訟を提起された場合,裁判所は,これらの未払金に加え,これと同一額の付加金の支払を命じることができるとされています(労基法114条)。
 残業代請求訴訟においては,付加金の請求もなされるのが通常で,例えば,未払残業代の額が300万円の場合,さらに最大300万円の付加金(合計600万円+遅延損害金)の支払が判決で命じられる可能性があります。

 

基本給等の未払があった場合,判決で付加金の支払を命じられることはありますか。

 判決で付加金の支払が命じられる可能性があるのは,
 ① 解雇予告手当(労基法20条)
 ② 休業手当(労基法26条)
 ③ 残業代(割増賃金)(労基法37条)
 ④ 年次有給休暇取得時の賃金(労基法39条7項)
の未払があったときのみです。
 ①~④以外の基本給等の未払があったとしても,判決で付加金の支払を命じられることはありません。

判決で付加金の支払を命じるのが相当でない場合の対応

 残業代の支払を怠っていると判決で認定された場合,付加金の支払も命じられることが多いですが,付加金の支払を命じるかどうかは裁判所の裁量に委ねられており,全く付加金の支払が命じられないこともないわけではありませんし,未払残業代の50%とか80%といった金額の付加金の支払が命じられることもあります。
 付加金の支払を命じるのが相当でない事情,付加金を減額すべき事情があるのであれば,その事情を主張立証しておくべきでしょう。

労働審判で付加金の支払を命じられることがありますか。

 労働審判は「判決」ではありませんので,労働審判で付加金の支払を命じられることはありません。

労働者代理人弁護士との間の任意交渉で,未払残業代のほか付加金も払えと要求されて困っています。任意交渉で付加金の支払要求に応じる必要はありますか。

 付加金の支払義務は,「判決」で付加金の支払を命じられて初めて,発生するものです。未払残業代があるというだけでは,付加金を支払う法的根拠が存在しません。
 付加金の支払を命じる確定判決が存在しているのであれば別ですが,労働者代理人弁護士との間の任意交渉で未払残業代のほか付加金も払えと要求されたとしても,その付加金の請求には法的根拠がありませんので,付加金の支払要求に応じる必要はありません。

合同労組(ユニオン)との団体交渉で,未払残業代だけでなく付加金も払えと要求されて困っています。応じる必要はありますか。

 付加金の支払義務は,「判決」で付加金の支払を命じられて初めて,発生するものです。未払残業代があるというだけでは,付加金を支払う法的根拠が存在しません
 付加金の支払を命じる確定判決が存在しているのであれば別ですが,合同労組(ユニオン)との団体交渉で,未払残業代だけでなく付加金も支払えと要求されたとしても,その付加金の請求には法的根拠がありませんので,付加金の支払要求に応じる必要はありません。

訴え提起まで2年の除斥期間を経過している未払残業代の付加金

 付加金の請求は,違反のあったときから2年以内にしなければならないとされていますが(労基法114条),この期間はいわゆる除斥期間であって時効期間ではありません。裁判所が付加金の支払を命じる判決を出すためには,残業代の未払があった日から2年以内に「訴え」が提起されている必要があります。
 各給料日から2年以内に内容証明郵便等で残業代の請求がなされ,それから6か月以内に訴訟提起されているため,残業代の消滅時効は中断している場合であっても,付加金の除斥期間は内容証明郵便での請求を受けても影響を受けないため,各給料日から訴え提起まで2年を経過している未払残業代の付加金については,除斥期間を経過しているため支払を命じることができません。

係争中における未払残業代の支払と付加金の関係

 未払残業代請求訴訟において,付加金は事実審の口頭弁論終結時において労基法37条に定める未払残業代が存在する場合にのみ,判決で支払を命じられる可能性があるものです。
 事実審の口頭弁論終結時前に未払残業代全額を支払い,その旨の主張立証をした場合は,判決で付加金の支払を命じることはできません。

 

第一審判決で付加金の支払を命じられた場合に付加金の支払義務を免れる方法

 第一審判決で付加金の支払を命じられた場合であっても,控訴して判決で支払を命じられた未払残業代全額を確定的に支払い,控訴審の口頭弁論終結時(多くの場合,第1回口頭弁論期日終結時)までにその旨主張立証すれば,控訴審判決が第一審判決より増額された未払残業代を認定しない限り,付加金の支払を回避することができます(控訴審判決が第一審判決より増額された未払残業代を認定した場合は,増額部分について付加金の支払を命じられる可能性はあります。)。
 第一審判決を覆すことが難しいと判断された未払残業代については,控訴した上で,遅延損害金を含めて弁済してしまい,付加金の支払を命じた部分を取り消す判決を得ることを検討すべきでしょう。


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