Q4 注意するとパワハラだなどと言って,上司の指導を聞こうとしない。

1 パワハラとは
 パワーハラスメントは法律上の用語ではなく,統一的な定義はありません。
 平成22年1月8日付け人事院の通知では,パワーハラスメントは,一般に「職権などのパワーを背景にして,本来の業務の範疇を超えて,継続的に人格と尊厳を侵害する言動を行い,それを受けた就業者の働く環境を悪化させ,あるいは雇用について不安を与えること」を指すとされています。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』(平成24年1月30日)は,「職場のパワーハラスメントとは,同じ職場で働く者に対して,職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に,業務の適正な範囲を超えて,精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為をいう。」としています。

2 パワハラの行為類型
 「職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告」では,以下のようなものを挙げています。
 ① 暴行・傷害(身体的な攻撃)
 ② 脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言(精神的な攻撃)
 ③ 隔離・仲間外し・無視(人間関係からの切り離し)
 ④ 業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制,仕事の妨害(過大な要求)
 ⑤ 業務上の合理性なく,能力や経験とかけ離れた仕事を命じることや仕事を与えないこと(過小な要求)
 ⑥ 私的なことに過度に立ち入ること(個の侵害)

3 パワハラを巡る紛争の実態
 パワハラを不満に思い,公的機関などに相談している労働者の数は多いが,パワハラを理由とした損害賠償請求がメインの訴訟,労働審判はあまり多くなく,解雇無効を理由とした地位確認請求,残業代請求等に付随して,損害賠償請求がなされることが多いです。解雇無効を理由とした地位確認請求,残業代請求等に付随して,パワハラを理由とする損害賠償請求がなされた場合は,業務指導に必要のない不合理な言動をしているような場合でない限り請求棄却になりやすく,仮に不法行為責任等が認められたとしても慰謝料の金額は低額になりやすい傾向にあります。

4 適法性と適切性
 パワハラが問題とされる言動には,
 ① 違法な言動
 ② 適法だが不適切な言動
 ③ 適切な言動
の3段階があります。
 ②適法だが不適切な言動は数多く見られますが,①違法な言動とまで評価される言動はごく一部に過ぎません。「パワハラかどうか?」という問題設定がなされることが多いですが,程度の問題として考えた方が実態を正確にイメージすることができます。不適切な言動であっても違法と評価されるとは限りませんが,違法と評価されなかったからといって直ちに適切な言動というわけではありません。

5 違法性の判断基準
(1) 違法なパワハラに該当するかどうかの一般的な判断基準
 「行為のなされた状況,行為者の意図・目的,行為の態様,侵害された権利・利益の内容,程度,行為者の職務上の地位,権限,両者のそれまでの関係,反復・継続性の有無,程度等の要素を総合考慮し,社会通念上,許容される範囲を超えているかどうか」により,不法行為法上違法と評価されるかどうかを検討するのが通常です。
 単純化して説明すると,
 ① 業務遂行上必要な言動か(目的)
 ② 社会通念上,許容される範囲を超える言動か(程度)
を検討することになります。
 ①指導教育目的等の業務遂行上必要な言動であれば,やり過ぎない限り,②社会通念上,許容される範囲を超えていないと評価されることになります。他方,①業務上必要のない言動の場合は,②社会通念上,許容される範囲を超えると評価されやすくなります。
 セクハラの対象となる性的言動は業務を遂行する上で不要なものであるのに対し,パワハラの対象となる指導教育,業務命令等は業務を遂行する上で必要なものであるため,業務を遂行する上で必要のない性的言動と比較して,違法とまでは評価されにくい傾向にありますが,業務遂行上必要のない言動については,違法と評価されやすくなります。
(2) 参考裁判例
 ア ザ・ウィンザー・ホテルズインターナショナル(自然退職)事件東京地裁平成24年3月9日判決
 「この点,世上一般にいわれるパワーハラスメントは極めて抽象的な概念で,内包外延とも明確ではない。そうだとするとパワーハラスメントといわれるものが不法行為を構成するためには,質的にも量的にも一定の違法性を具備していることが必要である。したがって,パワーハラスメントを行った者とされた者の人間関係,当該行為の動機・目的,時間・場所,態様等を総合考慮の上,『企業組織もしくは職務上の指揮命令関係にある上司等が,職務を遂行する過程において,部下に対して,職務上の地位・権限を逸脱・濫用し,社会通念に照らし客観的な見地からみて,通常人が許容し得る範囲を著しく超えるような有形・無形の圧力を加える行為』をしたと評価される場合に限り,被害者の人格権を侵害するものとして民法709条所定の不法行為を構成するものと解するのが相当である。」
 イ 海上自衛隊事件福岡高裁平成20年8月25日判決
 「一般に,人に疲労や心理的負荷等が過度に蓄積した場合には,心身の健康を損なう危険があると考えられるから,他人に心理的負荷を過度に蓄積させるような行為は,原則として違法であるというべきであり,国家公務員が,職務上,そのような行為を行った場合には,原則として国家賠償法上違法であり,例外的に,その行為が合理的理由に基づいて,一般的に妥当な方法と程度で行われた場合には,正当な職務行為として,違法性が阻却される場合があるものというべきである。」
(3) 労災認定において心理的負荷が強いとされている言動
 パワハラとの関係では,以下のようなものについて,客観的に対象疾病を発病させるおそれのある強い心理的負荷であるとされています。
 ① 部下に対する上司の言動が,業務指導の範囲を逸脱しており,その中に人格や人間性を否定するような言動が含まれ,かつ,これが執拗に行われた
 ② 同僚等による多人数が結託しての人格や人間性を否定するような言動が執拗に行われた
 ③ 治療を要する程度の暴行を受けた
 ④ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が上司との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑤ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の同僚との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑥ 業務をめぐる方針等において,周囲からも客観的に認識されるような大きな対立が多数の部下との間に生じ,その後の業務に大きな支障を来した
 ⑦ 業務に関連し,重大な違法行為(人の生命に関わる違法行為,発覚した場合に会社の信用を著しく傷つける違法行為)を命じられた
 ⑧ 業務に関連し,反対したにもかかわらず,違法行為を執拗に命じられ,やむなくそれに従った
 ⑨ 業務に関連し,重大な違法行為を命じられ,何度もそれに従った
 ⑩ 業務に関連し,強要された違法行為が発覚し,事後対応に多大な労力を費やした(重いペナルティを課された等を含む)
 ⑪ 客観的に,相当な努力があっても達成困難なノルマが課され,達成できない場合には重いペナルティがあると予告された
 ⑫ 退職の意思のないことを表明しているにもかかわらず,執拗に退職を求められた
 ⑬ 恐怖感を抱かせる方法を用いて退職勧奨された
 ⑭ 突然解雇の通告を受け,何ら理由が説明されることなく,説明を求めても応じられず,撤回されることもなかった
 ⑮ 非正規社員であるとの理由等により仕事上の差別,不利益取扱いを受け,仕事上の差別,不利益取扱いの程度が著しく大きく,人格を否定するようなものであって,かつこれが継続した

6 業務指導の重要性
 近年では,上司の言動が気にくわないと,何でも「パワハラ」だと言い出す社員が増えています。そのような社員は,勤務態度等に問題があることが多く,むしろ,注意,指導,教育の必要性が高いことが多い印象です。部下にとって不快な上司の言動が何でもパワハラに該当するわけではありません。上司の部下に対する注意,指導,教育は必要不可欠なものであり,上司に部下の人材育成を放棄されても困ります。パワハラにならないよう神経質になるあまり,上司が部下に対して何も指導できないようなことがあっては本末転倒です。
 『職場のいじめ・嫌がらせ問題に関する円卓会議ワーキング・グループ報告』は,
 「個人の受け取り方によっては,業務上必要な指示や注意・指導を不満に感じたりする場合でも,これらが業務上の適正な範囲で行われている場合には,パワーハラスメントには当たらないものとなる。」
 「なお,取組を始めるにあたって留意すべきことは,職場のパワーハラスメント対策が上司の適正な指導を妨げるものにならないようにするということである。上司は自らの職位・職能に応じて権限を発揮し,上司としての役割を遂行することが求められる。」
としています。

7 コミュニケーションの重要性
 パワハラ紛争の原因には様々なものがありますが,コミュニケーション不足又はコミュニケーションの取り方が下手なことが主な原因となっているものが多い印象です。コミュニケーションが不足していたり,コミュニケーションの取り方が下手だったりすると,パワハラだと受け取られやすくなります。コミュニケーション能力を向上させるとともに,十分なコミュニケーションを取ることができるよう努力して下さい。
 コミュニケーション能力が不足しているためにパワハラだと言われてしまう場合は,懲戒処分を行うよりも,研修,降職,配置転換等により対処した方が有効な場合もあります。

8 無断録音
 パワハラの状況は,部下により無断録音されて,証拠として提出されることが多いです。訴訟では,無断録音したものが証拠として認められてしまうのが通常です。
 部下が上司をわざと挑発して,不相当な発言を引き出そうとすることもあります。無断録音されていても問題が生じないよう指導の仕方に気をつけて下さい。

9 違法なパワハラと評価されないための心構え
 自分の言動が録音されていて,社長,上司,裁判官等に聞かれても問題ないような言動を心がければ,通常は違法なパワハラと判断されるようなことはしないのが通常です。

文責:藤田 進太郎


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