問題社員34 退職勧奨しても退職しない。

 退職勧奨の法的性格は、通常は、使用者が労働者に対し合意退職の申込みを促す行為(申込みの誘引)と評価することができます。
 労働者が退職勧奨に応じて退職を申し込み、使用者が労働者の退職を承諾した時点で退職の合意が成立することになります。

 退職勧奨を行うにあたっては、担当者の選定が極めて重要となります。
 退職勧奨が紛争の契機となることが多いこともあり、相手の気持ちを理解する能力を持っている、コミュニケーション能力の高い社員が退職勧奨を担当する必要があります。
 退職勧奨を受ける社員と仲の悪い上司が退職勧奨を行うとトラブルが多いので、できるだけ避けることが望ましいところです。
 同じようなケースであっても、退職勧奨の担当者が誰かにより、紛争が全く起きなかったり、紛争が多発したりします。

 解雇の要件を充たしていなくても退職勧奨を行うことができますが、有効に解雇できる可能性が高い事案であればあるほど、退職勧奨に応じてもらえる可能性が高くなります。
 退職勧奨に先立ち、問題点を記録に残し、十分な注意、指導、教育を行い、懲戒処分を積み重ねるなどして、解雇する際と同じような準備をしておく必要があります。

 退職勧奨のやり取りは、無断録音されていることが多く、録音記録が訴訟で証拠として提出された場合は、証拠として認められてしまいます。
 退職勧奨を行う場合は、感情的にならないよう普段以上に心掛け、無断録音されていても不都合がないようにして下さい。

 「事業主から退職するよう勧奨を受けたこと。」(雇用保険法施行規則36条9号)は、「特定受給資格者」(雇用保険法23条1項)に該当するため(雇用保険法23条2項2号)、退職勧奨による退職は会社都合の解雇等の場合と同様の扱いとなり、労働者が失業手当を受給する上で不利益を受けることにはなりません。
 失業手当の受給条件を良くするために解雇する必要はありません。
 退職届を出してしまうと失業手当の受給条件が不利になると誤解されていることがありますので、丁寧に説明し、誤解を解くよう努力して下さい。
 なお、助成金との関係でも、会社都合の解雇をしたのと同様の取り扱いとなることには注意して下さい。

 退職届等の客観的証拠がないと、口頭での合意退職が成立したと会社が主張しても認められず、解雇したと認定されたり、職場復帰の受入れを余儀なくされたりすることがあります。
 退職の申出があった場合は漫然と放置せず、退職届を提出させて証拠を残しておいて下さい。
 印鑑を持ち合わせていない場合は、差し当たり、署名したものを提出させれば足ります。
 押印は、後から印鑑を持参させて面前でさせれば十分です。

 退職勧奨を受けた労働者が退職届を提出して合意退職を申し込んだとしても、社員の退職に関する決裁権限のある人事部長や経営者が退職を承諾するまでの間は退職の合意が成立しておらず、労働者は信義則に反するような特段の事情がない限り合意退職の申込みを撤回することができます。
 退職勧奨に応じた労働者から退職届の提出があったら、退職を承認する権限のある上司が速やかに退職承認通知書を作成して当該労働者に交付して下さい。
 退職承認通知書は事前に写しを取って保管しておくとよいでしょう。

 後日、錯誤(民法95条)、強迫(民法96条)等を理由として、合意退職の効力が争われることがありますが、退職届が提出されていれば、合意退職の効力が否定されるケースはそれほど多くはありません。
 錯誤、強迫の主張が認められ、退職の効力が否定される典型的事例は、「このままだと懲戒解雇は避けられず、懲戒解雇だと退職金は出ない。ただ、退職届を提出するのであれば、温情で受理し、退職金も支給する。」等と社員に告知して退職届を提出させたところ、実際には懲戒解雇できる事案であることを主張立証できなかったケースです。
 退職勧奨するにあたり、「懲戒解雇」という言葉は使うべきではありません。
 同様の話は、普通解雇についても当てはまります。

 退職勧奨を行うことは、不当労働行為に該当する場合や、不当な差別に該当する場合などを除き、労働者の任意の意思を尊重し、社会通念上相当と認められる範囲内で行われる限りにおいて違法性を有するものではありませんが、その説得のための手段、方法がその範囲を逸脱するような場合には違法性を有し、使用者は当該労働者に対し、不法行為等に基づく損害賠償義務を負うことになります。

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎


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