Q1 協調性がない。

1 「協調性がない。」の具体的意味
 「協調性がない。」といっても程度問題です。通常許される個性の範囲内に収まっているのか,それとも,社員や管理職としての適格性が問われたり,企業秩序を阻害したりする程度にまで至っているものなのかを見極める必要があります。

2 客観的な事実確認
 周囲の社員に問題があることもありますので,周囲の社員の言うことを鵜呑みにして,裏付けを取らずに協調性がないと決めつけるべきではありません。客観的証拠と照らし合わせたり,本人の言い分を聴取したりして,できるだけ客観的に事実確認を行う必要があります。

3 口頭での注意指導
 社員として必要な協調性が欠けている社員については,注意指導して,周囲と協調性を保つことの重要性を理解させることが何よりも重要です。まずは口頭で十分に注意指導して問題点を改めさせる努力をして下さい。
 電子メールを送信して改善を促しつつ注意指導した証拠を確保することも考えられますが,メールでの注意指導は,口頭での注意指導を十分に行うことが前提です。面と向かっては何も言わずにメールだけで注意指導した場合,コミュニケーションが不足して誤解が生じやすいため注意指導の効果が上がらず,かえってパワハラであるなどと反発を受け,問題がこじれることも珍しくありません。
 口頭で十分に注意指導せずに書面で注意指導することもお勧めできません。社員の言い分を聴きながら口頭で教え諭して正しい方向に導いていく努力なしに,協調性のない社員の態度を改めさせることは困難です。口頭での注意指導が不十分なまま,書面での注意や懲戒処分を行った場合,単に「証拠作り」をしているだけのように見えてしまうことがあります。

4 書面での注意指導
 口頭でいくら注意指導しても協調性のなさが改まらず,業務に支障を来している場合は,「注意書」「厳重注意書」等の書面に具体的事実(5W1Hを意識して書いて下さい。)を記載して交付し,注意指導しましょう。具体的事実を記載した「注意書」「厳重注意書」等の書面で注意指導することにより,本人の改善をより強く促すことができますし,反論の機会を与えることもできます。
 労働審判や訴訟,団体交渉では,誰もが協調性がないと評価するような社員であっても,上司から十分な注意指導を受けたことはない,懲戒処分や解雇は相当性を欠き無効だ,といった主張がなされるのが通常です。5W1Hを意識した具体的事実を記載した「注意書」「厳重注意書」といった書面を交付して注意指導することにより,当該社員がどういった言動をしたのかや,上司により書面で注意指導をした事実を立証することができるようになります。
 「注意書」「厳重注意書」といった書面を受け取ったことがないと言われないようにするため,受領書にサインを取った方がいいのかとか,配達証明郵便で郵送した方がいいのかといった質問を受けることがよくあります。確かに,万全を期すのであれば,そういった配慮が必要なこともあるでしょう。しかし,実際の事案では,「注意書」「厳重注意書」といった書面を交付したにもかかわらず,受け取っていないと言われることはほとんどありません。確かにそのような書面を受け取ったが,内容が事実に反するといった主張がなされることがほとんどです。せいぜい,受け取ったが中身を読んでいないといったことが問題となる程度でしょうか。したがって,ほとんどの事案では,押印済みの「注意書」「厳重注意書」といった書面の写しを取り,PDFに取った上で,本人に「注意書」等を交付し,何月何日何時頃どこで誰が当該社員に注意書等を交付したのか,その際,どのような言葉のやり取りがなされたのかを記録し,上司や顧問弁護士にメールで報告しておけば十分です。極端な虚言癖のある社員についてのみ,それと合わせてPDFを本人宛メールしたり,書留郵便やレターパックで書面を郵送することを検討すれば足りると思います。

5 配置転換・降格
 配置転換の余地があるのであれば,協調性がないとされている社員を別の部署に配置転換してみてもいいでしょう。配置転換先でもやはり協調性がないのか確かめてみて下さい。周囲の社員に問題があることもありますので,配置転換先では協調性がないとは評価されないかもしれませんし,それほど共同作業が必要のない業務であれば,協調性のなさがそれほど目立たなくなるかもしれません。「配置転換しても協調性がないままに決まっており,受け入れてもいいという配置転換先もないから配置転換しない。」と考えるのではなく,それなりの受入体制を整備した上で,実際に配置転換してみることをお勧めします。配置転換先でも協調性がないために周囲との軋轢が生じるようであれば,通常は本人に問題がある可能性が高いと言えるでしょう。
 管理職の協調性がなく,管理職としての適格性に欠くような場合は,人事権を行使して,管理職から外す等の対応をするとよいでしょう。

6 懲戒処分
 「厳重注意書」等の書面で注意指導し,配置転換や降格等で対応しても協調性のなさが改まらず,業務に支障が生じている場合は,懲戒処分を検討せざるを得ません。よほど問題のある言動があった場合でない限り,まずは,譴責,減給といった軽い懲戒処分を行い,それでも改善しない場合に出勤停止等のより重い処分をしていくことになります。
 有効に懲戒処分を行う前提として,懲戒の種類と事由を就業規則に明記し,周知(社員が見ようと思えば見られる状態にしておくこと。)させておいて下さい。就業規則が周知されていないと,業務に重大な支障が生じていても懲戒処分は無効となります。小規模な会社では,懲戒処分の相当性以前の問題として,就業規則が周知されていないというだけの理由で懲戒処分が無効と判断されることも珍しくありません。
 「懲戒処分なんてしたら,職場の雰囲気が悪くなる。」などと言って,懲戒処分を行わずにいきなり辞めてもらおうとする会社経営者は珍しくありません。しかし,懲戒処分歴のない社員の解雇が有効となるためには,協調性のなさの程度が著しく,業務に重大な支障が生じているなどの事情が必要となります。有効な解雇を行うためにも,まずは懲戒処分を行うべきでしょう。
 解雇すると,解雇が無効と判断されるリスクがあることから,解雇せずに退職勧奨して退職届を提出させようとする会社経営者も大勢いらっしゃいます。確かに,協調性のない社員が退職勧奨に応じて退職届を提出してくれれば,懲戒処分を行っていなくても目的は達成できるかもしれません。しかし,懲戒処分を行っておらず,解雇しても無効と判断されるリスクが高い事案において,社員から退職勧奨には応じないと回答されてしまったら,打つ手がなくなってしまいます。解決金を支払って辞めてもらおうにも,社員は解雇されても無効であることが分かっていて怖くないわけですから,解決金の相場は高くなることでしょう。勢い,強引な退職勧奨を行って,不法行為が成立するようなことにもなりかねません。他方,解雇が有効となる可能性がそれなりに高い場合であれば,社員の側としても無理に争って解雇が有効と判断されては困りますから,ほどほどの金額の解決金で合意退職に応じることが合理的な選択となります。したがって,退職勧奨で辞めてもらう場合であっても,懲戒処分を繰り返し行ったにもかかわらず協調性のなさが改まらなかったのでやむなく退職勧奨をして辞めてもらったという流れになるよう準備していく必要があります(懲戒処分の結果,協調性のなさが改善された場合は,当面は勤務を継続させて様子を見ることになります。)。

7 退職勧奨・諭旨解雇(退職)・普通解雇・懲戒解雇
 懲戒処分を繰り返しても協調性が著しく欠如したままで業務に著しい支障が生じている場合は,退職勧奨・諭旨解雇(退職)・普通解雇・懲戒解雇等を検討せざるを得ません。
 退職勧奨を行って辞めてもらう場合であっても,懲戒処分を繰り返すなどして,解雇しても有効となる可能性がそれなりに高い状態になるよう準備すべきことは先に説明したとおりです。退職に当たり一定額の金銭の支払等を要求された場合は,それが過度の要求でないのかを検討し,折り合いをつけるよう交渉するのが原則です。双方折り合いがついた場合は,退職合意書を交わすなどして権利義務関係を明確にし,退職してもらいましょう。折り合いがつかない場合は,解雇するのか,懲戒処分を行うのか等について,検討していくことになります。
 諭旨解雇(退職)・懲戒解雇等の懲戒処分を行う場合に,懲戒の種類と事由が記載された就業規則が周知されていることが前提として必要なことは既に説明したとおりです。就業規則が周知されていないと「門前払い」となり,懲戒解雇等の懲戒処分は無効となってしまいます。就業規則が周知されておらず懲戒解雇等の懲戒処分ができない場合は,普通解雇で対処することになります。諭旨退職処分をした場合は,退職願が提出されていたとしても,合意退職扱いとはされず,諭旨退職処分の有効性が問題となることにも注意して下さい。
 普通解雇や懲戒解雇等の退職の効果を伴う懲戒処分を行う場合は,職場から排除しなければならないほど協調性のなさの程度が甚だしく,業務に重大な支障が生じていることを証拠により立証できるようにしておく必要があります。立証できるだけの客観的証拠がそろっているのか,十分に検討してから普通解雇や懲戒解雇等に踏み切って下さい。協調性がないことを理由とする普通解雇や懲戒解雇等が有効かを判断するにあたっては,協調性が特に必要とされる業務内容,職場環境かどうか,チームワークが重視される共同作業が多い業務内容なのか,少人数の職場なのか等を検討する必要があります。 

弁護士法人四谷麹町法律事務所
代表弁護士 藤田 進太郎
平成29年8月12日改訂
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