労働問題783 定額残業代が適法となる要件について教えてください。

 定額残業代制とは、法律に明文規定はありませんが、法定時間外労働、法定休日労働、深夜労働に対する割増賃金を、あらかじめ定額の手当等の名目で支給する制度で、「固定残業代」、「みなし割増賃金」ということもあります。
 労働基準法上、使用者が義務付けられているのは、法定時間外労働・法定休日労働・深夜労働に対し、一定額以上の割増賃金を支払うことなので、一定額に相当する割増賃金が支払われる限りは、法所定の計算方法をそのまま用いていなくても、割増賃金の不払いにはなりません。このような定額残業代制が認められれば、定額残業代として支払った金額が割増賃金の基礎金額から除外され、かつ当該金額は弁済済みになります。これに対し、この主張が認められないと割増賃金の基礎金額に含まれ、かつ、弁済未了となるため、実務上この主張の当否は重要な争点となります。
 高知県観光事件最高裁平成6年6月13日第二小法廷判決は、タクシー乗務員の歩合給について、当該歩合給が「時間外及び深夜の労働を行った場合においても増額されるものでもなく、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外及び深夜の割増賃金に当たる部分とを判別することもできないものであったこと」を理由として、歩合給の一部が割増賃金(残業代)として支払われたものとは認めませんでした。
 さらに、テックジャパン事件最高裁平成24年3月8日第一小法廷判決では、月間180時間以内の時間外労働に対する割増賃金(残業代)が基本給に含まれるかが争われ、月間180時間以内の労働時間中の時間外労働がされても基本給自体の金額が増額されることはないこと、月額41万円全体が基本給とされており、その一部が他の部分と区別されて労働基準法37条1項の規定する時間外の割増賃金とされていたなどの事情はうかがわれないこと、時間外労働の時間が月によって相当大きく変動し得るものであること、労働者が自由な意思に基づく時間外手当の請求権を放棄する旨の意思表示をしたとはいえないことを理由として、割増賃金の支払義務を認めました。なお、同事件における裁判官の補足意見は、「便宜的に毎月の給与の中にあらかじめ一定時間(例えば10時間分)の残業手当が算入されているものとして給与が支払われている事例もみられるが、その場合は、その旨が雇用契約上も明確にされていなければならないと同時に支給時に支給対象の時間外労働の時間数と残業手当の額が労働者に明示されていなければならないであろう。さらには10時間を超えて残業が行われた場合には当然その所定の支給日に別途上乗せして残業手当を支給する旨もあらかじめ明らかにされていなければならない」としました。
 また、小里機材事件において、「仮に、月15時間の時間外労働に対する割増賃金を基本給に含める旨の合意がされたとしても、その基本給のうち割増賃金に当たる部分が明確に区分されて合意され、かつ労基法所定の計算方法による額がその額を上回るときは、その差額を当該賃金の支払期に支払うことが合意されている場合にのみ、その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部又は全部とすることができる場合にのみ、その予定割増賃金分を当該月の割増賃金の一部又は全部とすることができる」との地裁、高裁の判断を、最高裁昭和63年7月14日第一小法廷判決は認めています。
 関西ソニー販売事件大阪地裁昭和63年10月26日判決は、法所定の割増賃金に代えて一定額の手当を支払うことも、その手当が法所定の計算による割増賃金額を下回らない限り適法であるとしています。ただし、その定額手当が時間外手当に該当するか自体が争われることも多く、当該手当が時間外手当である旨の合意の成立が認められず、通常の労働時間の賃金に当たる部分と時間外割増賃金(残業代)に当たる部分とを明確に区別することはできない等として、時間外手当の支払とみとめない事例(前掲三好屋商店事件、共立メンテナンス事件大阪地裁平成8年10月2日判決)も複数あるため、当該手当を割増賃金の支払に代えて支払うという趣旨を明確にすることが重要です。

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